仁志・多喜馬の戯言日記＆戯言通信

トヨタ自動車の豊田章男社長や経団連の中西宏明会長が「終身雇用の限界」を訴えているそうなのだが、中西会長は今年の春闘のテーマの 1 つとして終身雇用や新卒一括採用など、いわゆる「日本型雇用システム」の見直しを議論すべきだという考えを強調しており、日本の雇用制度・慣行の見直しが経済界全体の関心事として急浮上しているという。 50 代を中心としたシニア層の処遇を見直す動きがある一方で、「従来の社会システムが新たな時代に対応できなくなったとき、変革には必ず痛みが伴う。日本は、このまま放っておいたら全てが駄目になるという状況。フェアに考えれば、その時点で会社に貢献している人に高い給料を払うということにならざるを得えない」と改革の必要性を訴えているそうなのだ。

今の雇用情勢は新卒者などの若者の雇用率が高いので世界的に見ると若者の労働参加率が他国に比べて高くなっているが、若者の失業者率を国別に比較したものを見ると日本の若者の失業率は世界で一番低くなっているという。人手不足に代表される構造的な変化を背景に新卒一括採用や年功序列の見直しが急ピッチで進んでいるという。ある雑誌の対談でも立教大学経営学部の中原淳教授は「終身雇用をどう見直すのか、賃金をどうするのか、個人はキャリアをどう築くのか。 2020 年が最大の山場になりそうだ」と話している。またオリックスの宮内義彦シニア・チェアマンは現在の状況を「人事混迷の時代」と表現しているが、今年はいわゆる「日本型雇用」が大きく見直される転換点となるのはほぼ確実だと評している。

雇用の在り方を見直そうという議論が活発になっている背景には社会保障制度を持続的なものに作り替えていかなければならないという事情もあって、人生 100 年時代ともいわれ労働者が希望すれば 70 歳まで働き続けられる雇用制度をつくるよう企業に努力義務を課す「高年齢者雇用安定法」の改正案が通常国会に提出されるのはそうした流れの中にあるという。これは経営側が覚悟を固めて組織にメスを入れ始めたことだが、従来の雇用モデルを続けていては急速なデジタル化の進展や激しさを増すグローバル競争に対応できないとの危機感が背景にあるという。これまでのような業績悪化に伴う雇用調整とは一線を画すで、特にターゲットとされているのが給料に見合った貢献をしていないと言われるシニア層の処遇だという。

　過去 30 年間に日本の組織が活力を失い経済が停滞してきた原因を日本型雇用が内包してきた構造的な問題に求める意見は多いが、既に多くの企業で役職定年が導入されるなどシニア層の処遇は賃金を引き下げる方向で見直されてきている。これがモチベーションを低下させた「働かないおじさん」と揶揄されるシニア層を生み出しているとも言われ、組織の活力を停滞させる副作用も懸念されている。「終身雇用」を前提に入社して頑張って働いてきた人の中には経営側の事情で一方的にお荷物扱いされ、組織が活性化しない原因であるかのように位置付けられるのは納得がいかないという声もあるが、安易に特定の年齢層にレッテルを張るのは組織の中に分断を生み本質的な問題の解決から目を背けることにもなりかねないという。

日本型の雇用システムには良い点もあるが時代に合わないデメリットも多く見られ、日本型の雇用システムでは大抵の場合にトップダウンで物事が進むので、部下の仕事へのやる気が落ちやすく新しいアイデアや意見があっても発言しないようになってしまうという。年功序列では働いた年数で給料が決められるため勤続年数が少ないと良い成果を出しても出世や給料に反映されず、特に若い労働者や出産や育児で一時的に職を離れる女性にとって不利な制度となっている。「何が組織を腐らせるのか」と題して従来の日本型雇用を続けることが難しくなり大企業を中心に閉塞感が漂う中で、組織が活力を取り戻しイノベーションを起こしていくために必要なアクションは何が必要かを考えていく必要があるというのだ。