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2007.09.14
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Michel Pastoureau, "Une fleur pour le roi. Jalons pour une histoire medievale de fleur de lis"
dans Michel Pastoureau, Une histoire symbolique du Moyen Age occidental , Seuil, 2004, pp. 99-110.

 今回は、ミシェル・パストゥローの論文集『西洋中世の象徴の歴史』(目次は こちら )から、「王のための花―百合の花の中世史のための道しるべ」を紹介します。
 以下、小見出しに沿って、簡単に内容紹介を。

[序]
 百合の花は、従来、中立的な研究対象とはいえず、イデオロギー的な意味をもつ研究もなされてきました。それに対して、中世史家がより真摯な研究をする必要があるといいます。

マリアの花
 百合の花は、処女性、豊穣性、君主的性格という、三つの意味をもちます。また、宗教的な領域でも意味をもち、たとえば雅歌2章1-2節には、百合が現れます。聖書や、その注解によれば、百合は、純潔、処女性の象徴です。
 11世紀頃、百合を手にもつマリアの図像が、ノートルダム聖堂の司教により発行された貨幣に描かれました。その後、百合に囲まれたマリアを描いた図像は増加し、13世紀は、マリアのアトリビュート[象徴的なもちもの、属性]としての百合の絶頂期であるといいます。


王の花
 フランス王は、その紋章として、百合の花を採用しました。その起源を説く13世紀の詩によれば、キリスト教に改宗した初のフランク人の王、クロヴィス(位482-511)に天使が現れ、それまで彼が盾に描いていた三匹のヒキガエルの紋章を削り落とし、かわりに天使が送る(三つの)百合の花をおくように言ったとのこと。ところが、現実の紋章としてフランス王が百合の花をもつ図像は、1211年にはじめて現れます。有名なフィリップ・オーギュストの息子、後のルイ8世が、百合の花を描いた盾をもっている図像が、ある印章に描かれています。こちらでは、その色までは分からないのですが、 13世紀には、「青地に金色の百合の花の散らし模様」が定着することになります。

天の装飾
 百合の花は、先の伝説でみたように、天から送られたものと考えられました。これは、フランス王が、民衆を救済する責任をもち、神から使命を受けたことを示します。
 ところで、散らし模様は、紋章的かつ象徴的な意味をもちました。紋章レベルの意味でいえば、散らし模様は相対的に少なく、百合の花で飾られた他の紋章との相違を示します。また、象徴的側面についていえば、ちりばめ模様(=天にちらばる星のイメージ)は、その紋章の起源が天にあることを強調します。
 以上のような性格をもつ百合の花という仏王の紋章は、普通の紋章との違いが鮮明です。こうして、百合の花は、フランス王を比類なき君主としたといいます(なお、イングランドの紋章はライオン[フランスはそれをレオパールと呼びますが、このあたりの事情は こちら の論文などを参照]、ドイツはワシですね)。
 ところが、13世紀末頃から、フランス王の紋章に転機が訪れます。従来のような散らし模様から、三つの百合の花という図像に移行していきます。なお、百合の花の散らし模様と、三つの百合の花という区分も生まれ、前者は王自身あるいは王家を、後者は政府などを示したとのこと。このような区分はイングランドにも見られ、三匹のレオパールは王、あるいはプランタジネット家の紋章であり、一匹あるいは二匹のレオパールは、政府、役人を示したそうです。
 さて、百合の花の散らしから、三つの百合の花への移行ですが、これは、三位一体の象徴と関係があるといいます。自分の紋章として三つの百合の花を採用した最初の王は、シャルル6世。1380年のことでした。

共有された花
 百合の花を紋章にもったのは、フランス王に限りませんでした。王家以外の家系が百合の花を紋章としている起源について、資料に基づくことなく、王家に譲渡されたのだ、なんて説を唱えるを人もいるそうですが、パストゥローによれば、王家から百合の花を譲渡された例はきわめて稀とのこと。その他の個人あるいは家系の百合の花は、単なる図像的モチーフといいます。また、百合の花は「語る」図像(figure 《parlante》; 松村剛さんは、「洒落」図柄としています)の役割も持っていて、リールLilleの紋章となります(百合=仏語でlis、ラテン語でlilium)。
 さて、フランス革命では、いわば「紋章への恐怖政治」が行われました。たとえば、パリでは、百合lisのLで飾られた矢が壊されたとか。一方、反動として、王党派は、軍事的紋章として百合の花を採用しました。また、lysという綴りの方が一般に使われているlisという綴りよりも古く、高貴だとして、lysという綴りを採用します。こうして、百合の花はその綴りも中立的ではなく、 lisの花とlysの花がある、とパストゥローはいいます。

君主の植物
 フランス王は、紋章として動物を採用せず、植物を採用した希有な王です。植物は、(他の紋章と異なり)より純粋、より正当、より高貴、より神聖である―ということで、本論は結ばれます。

ーーー

Histoire 誌の1995年1月号に掲載されていたようですね。この抄訳された論文の内容が、今回紹介した論文の中でも繰り返されているので、意味をとる作業は楽でした。
 最近は動物の歴史に関心があり、本稿も、読む前まではあんまり期待していなかったのですが、割合、面白く読めました。以前紹介した、材木の歴史についての論文は、実際の材木あるいは樹木、それに関わる職業にまで言及していたのに対して、こちらの百合の花の歴史についての論文は、紋章の歴史のレベルにとどまっているようには思いました。どちらかといえば、材木の歴史に関するような、具体的な人々の生活がうかがえるような話の方が好きではあるのですが、本稿も、(上の内容紹介では省略しましたが)他の文明に見られる百合の紋章に言及しているなど、綿密な調査が背景にあって、興味深かったです。





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Last updated  2008.07.12 18:18:04
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のぽねこ @ Re:銀色夏生『流星の人』(05/16) スパイシーチューリップさんへ コメント…
スパイシーチューリップ @ Re:銀色夏生『流星の人』(05/16) 流行りましたね!キラキラ系、あまり知ら…
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