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森博嗣『キウイγは時計仕掛け』~講談社ノベルス、2013年~ Gシリーズ第9弾。 前作『ジグβは神ですか』の1年後。県庁職員の加部谷恵美さんは、山吹さんと共同名義で提出した論文について、建築学会で発表することになります。TVレポータの雨宮純さんも、学会の取材に参加。犀川先生、国枝先生、西之園さんたちも勢ぞろいと、登場人物が豪華な物語です。 加部谷恵美さんは、学会発表のため日本科学大学に雨宮純さんとともに訪れます。 一方、学会準備に追われていた同大学の本部に、差出人不詳の荷物が届きます。箱の中には、γと書かれたキウイが入っていました。さらにその夜、学長が銃殺されるという事件が起きます。 そんな中で始まる学会。イレギュラーな事態にも冷静に対応する加部谷さんや犀川先生たちですが、落ち着くと、事件について考察を始めます。 はたしてキウイの意味とは。学長殺害の犯人は、そしてさらに続く事件の謎とは…。 …というのが大きな流れです。 加部谷さんが発表した後の海月さんの質疑のシーンや、質疑応答や司会を冷静につとめる山吹さん、そして海月さんへの加部谷さんの思いなど、印象的なシーンが多いです。なにより、就職して公務員になりながら、仕事の関係もあって参加した学会という場で、研究の面白さや貴重さをかみしめる加部谷さんの思いに感慨深くなりました。 事件の謎もさることながら、加部谷さんたちのかけあいを味わいながら読んだ1冊です。(2026.06.02読了) ・ま行の作家一覧へ
2026.07.26
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森博嗣『ジグβは神ですか』~講談社ノベルス、2012年~ Gシリーズ第8弾。 前作『目薬αで殺菌します』から2年の時が流れ、加部谷恵美さんは県庁職員、雨宮純さんはTVレポータになっています。海月さんは別の大学に移り、山吹さんは別の大学で助教をつとめています。 山吹さんが知っている格安バンガローに、加部谷さん、雨宮さん、山吹さんが訪れます。そこは、芸術家たちが自給自足の生活をする宗教施設に併設するバンガローで、山吹さんは調査で何度か訪れたことがある施設です。 一方、ある依頼人により、宗教施設から娘を出してきてほしいと依頼を受けた作家の水野涼子さん(実はあの人)も、同じタイミングでそこを訪れ、4人は懐かしい再会を果たします。 …が、またもや事件が発生します。施設の中で最も若い芸術家が、棺の中から発見されます。彼女は全裸で、ラッピングされた状態でした。 はたして、犯人は施設の中の芸術家なのか…。 水野さんたちが調査を進める中、棺の中で眠っているという芸術家の存在が明らかになりますが…。 という物語です。 また、W大学准教授の西之園さん、瀬在丸紅子さんも登場し、豪華です。 事件の謎もさることながら、一連のギリシャ文字の事件の背後に見え隠れする真賀田四季さんへの関心がますますクローズアップされていく物語でした。 本作の中では、加部谷さんと海月さんの再会のシーン―そこでの加部谷さんの思い―に胸を打たれました。(2026.05.28読了)・ま行の作家一覧へ
2026.07.25
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森博嗣『目薬αで殺菌します』~講談社ノベルス、2008年~ Gシリーズ第7弾。―――西之園萌絵、W大学准教授 劇薬入りの目薬が発見された。その目薬のパッケージには「α」の文字があったが、はたして一連の事件と関係があるのか…。 一方で、その目薬の製造をしている製薬会社の社員が殺された。第一発見者となった加部谷恵美と雨宮純は、男が目薬を持っているのを確認する。 さらに、雨宮純のバイト先の大学教員は、その製薬会社につとめていた人物で…。 はたして目薬事件と殺人事件の関係とは…。――― 今回は、事件もさることながら、海月さんをめぐる物語が興味深いです。 進路に思うところがあるという海月さん。それを聞いた加部谷さんの思いと行動は…。 というんで、今回もまた、シリーズとしての転機を予感させる物語です。(2026.05.20再読) ・ま行の作家一覧へ
2026.07.20
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森博嗣『ηなのに夢のよう』~講談社ノベルス、2007年~ Gシリーズ第6弾。 冒頭の登場人物表から明らかですが、今回はVシリーズとXシリーズとのリンクが楽しめます。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。―――西之園萌絵、N大学大学院D2 10メートルを超える木の枝でぶらさがっている死体が発見される。 同級生の雨宮純に事件のことを聞いた加部谷恵美は、二人で現場を見に行った。すると、現場のそばに、「ηなのに夢のよう」と書かれたハチマキのようなものが落ちているのを発見する。 山吹たちとも現場を見に行くと、現場近くに「ηなのに夢のよう」と書かれた絵馬も発見された。 一連の事件との関係を気にしていた矢先、ボートでしか行けない島での首吊り、さらには反町愛のアパートのベランダでの首吊りと、事件は続き…。――― 以下、文字色反転しておきます。(ここから)これまでのGシリーズ作品でも、事件の謎がすっきりしないまま終わる作品がありましたが、本作はいよいよすっきりしないまま終わってしまいます。 が、物語は転換点を迎えます。 公安の沓掛さんから真賀田博士の研究施設の見学に誘われる瀬在丸紅子さん。 椙田さんと赤柳さんの再会(?)。 そして西之園さんは、W大学に助手として声をかけられたため、国枝先生から博士論文を仕上げるよう指導を受けます。(ここまで) こうして、Vシリーズ、Xシリーズともリンクし、これからの物語の行方がますます気になる1冊です。(2026.05.17再読) ・ま行の作家一覧へ
2026.07.19
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森博嗣『λに歯がない』~講談社ノベルス、2006年~ Gシリーズ第5弾。 今回は、山吹さんたちが実験で訪れていた企業の実験施設の建物で起きた密室状況での事件です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。―――西之園萌絵、N大学大学院D2 T建設技術研究所の建物で実験をしていた山吹たち。翌朝、敷地内の建物にパトカーや救急車が集まっていた。 構造系実験棟で、4人の男が、頭部を銃で撃たれて死んでいた。さらに、彼らは歯を抜かれていたという。 その建物は、システムでドアの開閉が全て記録されていて、設置されていたビデオカメラにも不審な動きは記録されていないという、密室状況だった。――― 今回も面白かったです。 一連のギリシャ文字の事件との関係の考察もさることながら、今回は犀川先生と西之園さん、加部谷さんと海月さんがかわす自殺をめぐる議論を興味深く読みました。西之園さんがご両親の事件を思い出してしまうこともあり、そのあたりを察する犀川先生のことばが素敵です。 前3作よりは、事件の大体の真相が明らかになるのでミステリとしての安心感(?)が高いだけでなく、シリーズ全体としての動きもあって、今後の展開がさらに楽しみになる1冊です。(2026.05.15再読) ・ま行の作家一覧へ
2026.07.18
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森博嗣『εに誓って』~講談社ノベルス、2006年~ Gシリーズ第4弾。 今回は山吹さんと加部谷さんが乗った高速バスがバスジャックされるという事件です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。―――西之園萌絵、N大学大学院D2 高速バス運転手が何者かに殺害された。隣室の同僚が、急遽代理で出勤したが…。 * 別々の用事で東京を訪れていた山吹と加部谷は、予定のバスに乗り遅れた…と思ったが、出発が遅れていてなんとか間に合う。 ところが、バスが出発してしばらくして、前方に座っていた男が、バスジャックを宣言する。銃を手にしていること。各地に爆弾を設置していること。男が爆弾を操作できること…などが説明されるが、男は乗客に危害を加えるつもりはないという。話し方も丁寧で、乗客が携帯電話で外部と連絡することも許していた。 山吹と加部谷は海月や西之園たちに状況を伝えながら、恐怖に耐えるが…。 * そして、高速バスを予約していた団体「εに誓って」の正体とは。――― これは手に汗握る展開です。 冒頭の穏やかな加部谷さんと山吹さんのやりとりから、バスジャックにより一気に緊張へと展開。事件を知った西之園さんたちの動きも緊迫感があります。 そんな中でも、山吹さんのお姉さんをめぐる話題など、思わず笑ってしまう会話もあって、とにかく飽きません。 物語に挿入される、乗客たちの思いがどのように事件とつながっていくのか、というのも読みどころです。 前作『τになるまで待って』同様、すべてが明らかにされるわけではありませんが、驚きも味わえます。これは面白かったです。(2026.05.13読了) ・ま行の作家一覧へ
2026.07.12
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森博嗣『τになるまで待って』~講談社ノベルス、2005年~ Gシリーズ第3弾。 今回は、陸の孤島のような場所にある不思議な館が舞台です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。―――西之園萌絵、N大学大学院D2 探偵・赤柳からバイトをもちかけられ、彼とともに、山吹、海月、加部谷は「伽羅離館」を訪れた。館の書庫にある文献の調査という仕事だった。 館には、超能力者・神居と、彼の二人の信者が住んでいた。神居の取材のため、新聞記者とカメラマンも同じ日に訪れていた。 加部谷は、神居の「超能力」の被験者となり、海月以外の人々は、不思議な体験をすることになる。 その夜―。館の玄関と、裏口のドアが開かなくなっていた。一階の窓枠には、全て鉄格子がはめられている。外に出られない状況で、神居の部屋からうめき声が聞こえた。その部屋は、内側から鍵がかかっていた。ドアを無理やり開けると、神居は死んでいた。 密室状況の中で起きた事件の真相とは…。――― 本作でも、西之園さんと犀川先生も活躍するのが嬉しいです。 超能力体験の謎、そして密室殺人の謎という二つの大きな謎が提示されます。 これらは解決されますが、本シリーズはこのあたりから、全てがすっきり、というわけにはいかなくなっていきます。 後続の作品でどのように回収されていくのか、あらためて楽しみです。(2026.05.10再読) ・ま行の作家一覧へ
2026.07.11
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森博嗣『θは遊んでくれたよ』~講談社ノベルス、2005年~ Gシリーズ第2弾。 西之園さんの学生時代からの友人、反町愛さんが登場するのが嬉しいですね。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。―――西之園萌絵、N大学大学院D2 反町愛が勤務するN大病院で検死した、転落死した人物にθの文字が書かれていた。 その後も続く自殺者(?)に描かれるθの文字が意味するのは。 第一の被害者―早川のことを調べていた探偵の赤柳初朗は、早川がシータに関わるインターネット上のチャットを利用していたことをつきとめる。 θの文字は、ある宗教集団の信者たちによる集団自殺を意味するのか、それとも連続殺人なのか。 反町たちの情報から、西之園萌絵や海月及介たちがたどりつく真相とは。――― 前作『φは壊れたね』が奇妙な密室殺人事件だったのに対して、今回は集団自殺か連続殺人か、死者たちに描かれたθの意味とは、といった謎がテーマです。 事件そのものの謎解きの妙もさることながら、犀川先生と西之園さんとのやりとり、反町さんと西之園さんの会話、そして国枝先生の素敵さと、主要登場人物たちのふるまいや言葉を楽しく、また味わい深く読みました。(2026.05.06再読) ・ま行の作家一覧へ
2026.07.05
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森博嗣『φは壊れたね』~講談社ノベルス、2004年~ C大学2年生の加部谷恵美さん、海月及介さん、同大学大学院M1の山吹早月さん、そしてN大学大学院D2の西之園萌絵さん、C大学助教授国枝桃子先生、N大学助教授の犀川創平先生が活躍するGシリーズ第1弾です。 主に、加部谷さん、山吹さんの視点で物語は進みます。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。―――西之園萌絵、N大学大学院D2 山吹早月が友人の舟元のマンションを訪れた夜、上の階で事件が起こっていた。 管理人代理をしている舟元が持っている鍵を借りに、女性2人が舟元の部屋を訪れる。留守番をしていた山吹が女性2人とともに問題の部屋を訪れ、鍵を開けると、奇妙に飾りたてられた部屋の中、1人の男がYの字のような形で宙づりになって死んでいた。 事件前後を撮影したカメラ映像をみても、密室殺人事件の謎は深まるばかり。 さらに、カメラに書かれた「φは壊れたね」という言葉の意味とは…。――― Gシリーズが完結し、手元に揃えられたので、久々にシリーズを最初から読んでみようと、20年ぶりくらいの再読です。 普段は無口ながら、鋭い指摘を行う海月さんが一応の探偵役…といったところでしょうか。 西之園さん、犀川先生、国枝先生の活躍も嬉しいです。 Gシリーズはこの後、次第に複雑になっていく覚えがありますが、本作はスタンダードな密室殺人事件がテーマで、分かりやすいです。(2026.05.04再読) ・ま行の作家一覧へ
2026.07.04
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森博嗣『アイソパラメトリック』~2001年、講談社~ 2001年に限定発売された作品。 ノベルス版の写真&ショートショート集と、オリジナルピンズがセットになった1冊(税抜き4300円だったようですね)。 本書成立の経緯を描く「まえがき」から面白いです。編集者の、「ありがち」の反対の意味の「ありがたい」は秀逸。これは印象に残っています。 本編は、大きく5部に分かれていて、それぞれショートショートが5編ずつと、写真が収録されています。 写真は主に白黒ですが、その世界観を表すタイトルが付けられているのが素敵です。 ショートショートのほうはミステリとは言えない物語が多いです。 特に好みなのは「大陸間弾道弾」。インタビュアーと学者のやりとりが全くかみ合わないのが秀逸です。楽しい作品として「対決」も好みです。「突飛なもの出しやっこ選手権」で果たして優勝するのは誰なのか。 新入生と、教科書をもった新しい担任の先生が重さ比べをする「天秤」というショートショートも印象的です。 購入から幾度か読み返しているはずですが、あらためて読み返したのは10年以上ぶりでしょうか。 あらためて楽しめる作品集でした。※現在は文庫版も刊行されているようですね。(2026.05.02再読) ・ま行の作家一覧へ
2026.06.28
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森博嗣『堕ちていく僕たち』~集英社、2001年~ 森博嗣さんによるノンシリーズの短編集です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。―――「堕ちていく僕たち」大学生の僕のもとに、お腹を空かせた先輩がやってきます。身に覚えのないインスタントラーメンを調理して食べると二人は女性に変わっていて…。その後の二人の生き方は。「舞い上がる俺たち」同人誌の締め切りのため執筆をがんばっていた私のもとに、友人のモッチャンがやってきた。お腹が空いた二人のためにモッチャンがインスタントラーメンを作ってくれたが、それを食べると二人は男性に変わっていて…。その後モッチャンが選ぶ選択とは。「どうしようもない私たち」社長と部長、さらに同窓会で再会した男とも付き合っていた私は、同窓生とインスタントラーメンを食べた後に死んでしまった。警察の捜査を眺めながら、生きていた頃を回想するが…。「どうしたの、君たち」カメラが趣味の私は、絶好の被写体を見つける。その人物を尾行し、同じアパートに住むまでして、被写体の様子を観察していたが、ある日から、男と思っていたその人物が女らしくなっていき…。姉妹とは思えず、その秘密を探ろうとするが…。「そこはかとなく怪しい人たち」ピークを過ぎたバンドTACk-BOCKのライブに行くため、必死に原稿を執筆した大島真由子は、メイクをばっちり決めて、もはや人ではなくエイドリアン・スティーヴとなってライブ会場に出陣。その夜、憧れの亜紀陛下に声をかけられて…。――― インスタントラーメンを食べると性別が変わってしまう…というのがテーマに、それぞれのお話が少しずつリンクしている連絡短編集です。 20年以上前に読んだときはただ面白く読みました(といって、切ない物語もあります)が、その後の時代情勢の変化を踏まえるとかなり深みもある物語と感じました。 この中ではなんといっても最終話が好みです。悪魔に変身する大島さんの心の声が楽しいのはもちろん、それまでの4話があってこその結末に良い意味で裏切られます。 いわゆるミステリとはいえないですし、好みも分かれるかもしれませんが、私は割と好きなタイプの作品です。 刊行当初に読んで以来、何度かめの再読ですが、あらためて楽しめました。(2026.04.29再読) ・ま行の作家一覧へ
2026.06.21
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北山猛邦『オルゴーリェンヌ』~創元推理文庫、2022年~『少年検閲官』に続く、シリーズ第2弾です。 舞台は、海面上昇で終わりを迎えつつある世界。そこでは、書物、そして歌詞ありの音楽も、検閲され、焼き尽くされていきます。 形見のガジェット(宝石の形をした『ミステリ』の結晶。もちろんこれも禁止されています)を持つ主人公のクリスは、そんな世界でミステリ作家になることを夢見ています。 本作は、海面上昇で島となり、終わりをまつだけの「海墟」と呼ばれるある島で、オルゴールの作成で名声のあるカリヨン邸にまつわるエピソードから始まります。スラム出身の「私」が、すぐれた技術であるオルゴールを修復するのですが、それを認められてカリヨン邸に住み込みで働くようになります。主人の盲目の娘に心引かれつつ、彼女には婚約者がいるからと思いを断ち切ろうとしますが、やがて事件が起こり…。 * 一方舞台はかわり、クリスはある町で、お世話になったキリイ先生が自分を探していることを知り、彼を訪ねて旅を続けます。そんな中、検閲官に追われる少女―ユユに出会います。彼女を救おうと逃げる中、絶体絶命の中で、少年検閲官エノと再会を果たしますが…。 * ユユの秘密を探るべき訪れる島では、オルゴール職人たちが不可能状況での死を遂げていきます。島にいるもう一人の少年検閲官よりも先に、エノたちはガジェットと、連続殺人の真相に辿り着けるのか…。 という物語です。 幻想的な序奏、緊迫した少女との逃走劇、エノとの再会と揺れるエノの思い、そして不可能状況での連続殺人事件と、好みの物語でした。 文庫本で約570頁と、北山さんの作品の中では最長の物語ですが、読みやすく、展開も手に汗握り、長さを感じさせません。 これは面白かったです。(2026.04.26読了) ・か行の作家一覧へ
2026.06.20
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知念実希人『祈りのカルテ』~角川文庫、2021年~ 研修医の諏訪野良太さんが活躍する、5編の短編とエピローグからなる連作短編集です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。―――「彼女が瞳を閉じる理由」定期的に大量の睡眠薬を飲んだと救急搬送される女性。多くの自傷や火傷を負った彼女が入院する理由とは。「悪性の境界線」内視鏡によって癌の手術を受けようとしていた老人が、彼を訪ねてきた男と話してから態度を一変し、切開による手術を希望し始める。男の正体と、老人が意向を変えた理由とは。「冷めない傷痕」脚に火傷を負ってきた女性を診察していた諏訪野は、ある日、彼女の火傷が広がっていることに気付く。彼女が火傷をした理由にも違和感を覚える諏訪野だが…。「シンデレラの吐息」喘息発作で入院した少女に、適切な処置を行っていたはずが、ある日、大きな発作が起きてしまう。少女が薬をきちんと飲んでいなかった理由は。「胸に嘘を秘めて」海外での心臓移植を待つ間、特別病棟に入院している有名女優がいたが、ある日、誰もが秘密にしていたはずなのに彼女が重病で入院していることが報道される。果たしてリークしたのは誰なのか。また、彼女の家族への態度の理由とは…。――― これは面白かったです。 2022年、本書を原作としたドラマを家族が見ていて、私も何度か見たので大筋は知っている話もありましたが、新鮮に楽しめました。 諏訪野さんがどこの科でも活躍しつつ、ある意味ではどこにも向かないという中、どの進路を選ぶのか、そこも読みどころです。 良い読書体験でした。(2026.04.18読了) ・た行の作家一覧へ
2026.06.14
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大塚滋『食の文化史』~中公新書、1975年~ 著者の大塚滋先生(1928-2023)は、東洋食品工業短期大学教授、武庫川女子大学教授などを歴任され、食文化や食品生化学を専門とされていたようです。 本書の構成は次のとおりです。―――肉食の文化史豚肉考現学鶏肉ものがたり魚と日本人菜食民族野菜と欧米人―サラダ小史米食の歴史めん類文化パンを食べる人牛乳と文明バターの話醤油文化おせち料理手作りへの回帰日本の味と香り洋風化のままごと人類の食生活―あとがきに代えて――― 主に日本の食の歴史を中心としつつ、古代エジプトや『旧約聖書』も含めて、世界も含めた食の歴史にも目配りをされている興味深い1冊です(なので、便宜的に「西洋史関連(邦語文献)」のリストに本書を載せています。) もともと『栄養と料理』や『食生活』などの雑誌に掲載されていた文章をまとめなおした1冊なので、語り口も軽妙な、読みやすいエッセイ集といった趣があります。 上に掲げた構成でも分かるように、その内容は多岐に渡っていますので、印象に残った点だけ簡単にメモしておきます。「鶏肉ものがたり」では、「最近、ドーナツ、ハンバーガーなどと並んでアメリカ資本のフライドチキン店が「上陸」して来て、ファーストフード…の一つとして人気を得ている」(35頁)とあります。本書刊行が1975年、ケンタッキー・フライド・チキンの「上陸」が1970年のようですので、時代を感じられます。 サラダが日本で発明されなかったことについては、「米食のそえものとしての使命を担わされてきた野菜は、なによりもまず塩味で強く調味されねばならなかったであろう」(52頁)と分析されています。 またサラダについては、それを「生野菜の配合料理」とはじめて定義したのがジョン・イーブリンという日記作家であると指摘されています(59頁)。「牛乳と文明」では、牛乳を飲む習慣がなかった日本に来たハリスが、なんとか牛乳を飲もうと陳情していたというのが興味深かったです(95-98頁)。 などなど、どの章も興味深く読みました。 今から50年ほど前の著作ですが、上にも書いたとおり軽妙な語り口で、とても読みやすい1冊でした。(2026.04.17読了) ・西洋史関連(邦語文献)一覧へ
2026.06.13
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Frances Andrews, The Other Friars. The Carmelite, Augustinian, Sack and Pied Friars in the Middle Ages, Woodbridge, The Boydell Press, 2006 著者のF・アンドリューズは、セントアンドリューズ大学の中世史教授。 本ブログでは、次の著作を紹介したことがあります。・Frances Andrews, The Early Humiliati, Cambridge University Press, 1999 本書は、ドミニコ会、フランシスコ会と並んで四大托鉢修道会といわれるカルメル会、アウグスティノ隠修士会に加えて、1274年の第二回リヨン公会議で禁止された2つの托鉢修道会の4つを紹介します。 本書の構成は次のとおりです。―――謝辞略号一覧序論第1部 カルメル会士 1.起源と初期の歴史 2.修道会の地理的分布 3.日常生活 4.後期の歴史と歴史記述伝統の発展第2部 アウグスティノ隠修士会士 1.隠修士から托鉢修道士へ 2.世俗のなかで 3.修道院内部の共同体 4.修道院を越えて 5.学問 6.改革と厳格派第3部 1274年リヨン公会議以後に持続しなかった修道会 1.イエスの贖い会士あるいはSack Friars 2.The Friars of Blessed Mary of Areno, or Pied Friarsエピローグ―後期中世教会の成功と失敗文献案内索引――― 序論では、本書の目的を、本書で扱う4つの修道会が、なぜ・いかにそうした形態をとったか、またいかにその他の修道会や社会とかかわったかを説明することだと述べます。 第1部はカルメル会について、上の構成のとおり、通史的な紹介だけでなく、地域性、日常生活や社会の関わりなど、幅広い観点で紹介します。 アウグスティノ隠修士会を紹介する第2部は全260頁の本書中、100頁以上と、大きなウェイトを占めます。第1部同様に、通史的概観、地域性、日常生活などを論じます。 第3部で扱われる2つの修道会は、邦語ではほぼ扱われていないかと思われます。なお、「イエスの贖い会士」の訳語は、M.D.ノウルズほか(上智大学中世思想研究所編訳/監修)『キリスト教史4 中世キリスト教の発展』講談社、1981年、284頁注12の「イエススの贖い会」の訳語と、同箇所での「サック=Sack…という袋状の修道服を着ていた男女の修道会」以下の説明を参照しました。管見の限りですが、この修道会に言及するその他の邦語文献に辿り着けませんでした。また、Pied Friars(本書226頁の説明では、白い服と黒い肩衣の組み合わせという彼らの服装からつけられたあだ名のようです。あえて日本語にすれば「まだらの托鉢修道会士」といったところでしょうか)については、手元では、言及する邦語文献を見つけられませんでした。 いずれの托鉢修道会も、公会議や教皇の立場により状況が変化していることが見て取れます。 また、特に第1部・第2部は、それぞれの修道会による起源の主張自体が興味深く、それによって1274年の公会議で存続を認められたという歴史的経緯も面白いです。というのも、1215年の第四回ラテラノ公会議で、それ以降の修道会の新設を禁止しました。カルメル会、アウグスティノ隠修士会は、それ以前を起源と主張し、認められたのに対して、第3部で扱われる2者は、1215年以前の起源を示すことができなかったため、第四回ラテラノ公会議の規定をあらためて厳格に適用しようとした1274年第二回リヨン公会議で認められなかった、というのです。 大した紹介はできませんでしたが、ドミニコ会やフランシスコ会に比べると研究の少ない托鉢修道会についての概観が得られる重要な1冊です。たとえば、『西洋中世研究』9所収の赤江雄一「托鉢修道会―中世後期の信仰世界」、鈴木喜晴「14世紀におけるカルメル会の正統性と普遍的戒律観―ヒルデスハイムのヨハネス『擁護者と誹謗者の対話』をめぐって―」でも本書が挙げられていますので、紹介しておきます。(2026.04.17読了) ・西洋史関連(洋書)一覧へ
2026.06.07
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井上真偽『引きこもり姉ちゃんのアルゴリズム推理』~朝日新聞出版、2024年~ 『恋と禁忌の述語論理』で第51回メフィスト賞を受賞してデビューした井上真偽さんによる児童書です(絵はくろでこさん)。 主人公は、小学6年生の綿引真守さん。探偵役は、何年も引きこもっている綿引古文里(こもり)さんです。「第1話 ストリーム・アルゴリズム」は、町で噂の「赤手の呪い」に、真守さんの同級生、ねねさんがかかってしまった―というところから始まります。赤い紙に呪いたい人の名前を書いて、赤手神社に一晩おいておくと、相手の体に赤いあざが浮かびあがる、という伝説があるのですが、同級生の一人―キレイさんが、神社で、ねねさんの名前が書かれた赤い紙を見つけたといいます。教室に入ってきて、その紙を見て倒れてしまったねねさんの腕には、赤い手のあとが浮かんでいたのでした…。呪いを信じない古文里さんが明かす真相とは。「第2話 サーチ・アルゴリズム」は、町に現れ始めた「終わりの絵」をめぐる物語。赤いペンキで、人が不気味に笑っているように見える絵が描かれた人の家では、不幸なことが起きるという噂があふれていました。キレイさんの家にも、その絵が描かれて、天敵のような古文里さんに相談に来ます。果たして、噂の真相は…。「第3話 ダイクストラ・アルゴリズム」は、古文里さんの誘いで、真守さんと幼馴染のソータさんがキャンプに行くところから始まります。しかし、そこに陽キャで古文里さんが苦手としているアンリさんがやってきます。キャンプ場で新しい友達も作っていたアンリさんですが、翌日、事件が起こります。穴にはまったタヌキを助けに行こうと約束していたアンリさんたちですが、タヌキがいなくなっていて、最初に現場へ着いたと思われるアンリさんが犯人扱いされてしまうのでした。古文里さんのアルゴリズムで明かされる真相とは。 という大きな3つの物語に加えて、エピローグとして「開かずの部屋、再び」という短い物語が収録されています。 冒頭に紹介した『恋と禁忌の述語論理』が様々な述語論理を駆使して真相を暴いていくのと同様、本作では古文里さんが様々なアルゴリズムを援用して真相を明らかにしていきます。 どれも興味深く、特に第3話のアルゴリズムはカーナビの仕組みでもあるという勉強にもなりました。 これは面白かったです。(2026.04.16読了) ・あ行の作家一覧へ
2026.06.06
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歌野晶午『首切り島の一夜』~講談社文庫、2025年~ 歌野晶午さんによるノンシリーズの長編作品です。 高校同窓会の有志で、修学旅行の再現で、同じ離島に向かいます。 メンバーの一人―久我さんが、高校時代に小説の中で先生たちを殺した、と告白。面白がるメンバーや教師ですが、その夜、久我さんは浴場で殺されているのを発見されます。 息子のトラブルで急遽島から帰ろうとする女。 堅苦しい家で育った後、自由に生き、ウェブ上でも多くの友人がいる男。「いい子」でいることが苦しく、酒に逃げた男。 文化祭の準備の夜、久我に出会ったことを思い出す女。 ビートルズ研究部を立ち上げようとしていた教え子を思い出す教師。 人のものを欲しがる女。 そして、助けた老人につきまとわれることになる男。 それぞれの回想が描かれ、まるで短編集のようです。 そして、物語はいろんな意味で意外なかたちで幕を閉じます。 ミステリ的な要素はふんだんにありますが、とはいえ、円堂都司昭さんによる解説の言葉を借りれば、まさに「困惑する幕切れ」です。 かなり好みが分かれてしまいそうな作品です。(2026.04.13読了) ・あ行の作家一覧へ
2026.05.31
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米澤穂信『栞と嘘の季節』~集英社文庫、2025年~ 図書委員シリーズ第2弾。前作『本と鍵の季節』の続編にあたる長編作品です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。――― 返却された本の点検をしていた図書委員の僕―堀川は、ある一冊の中に、押し花が使われた栞を発見する。 一緒に作業していた図書委員の松倉は、その花を見て思うところがあったらしく、事典を調べる。…そして、その花がトリカブトと知る。 栞を使った人物を突き止め、危険性を知らせるため、図書室に案内を掲示する2人だが…。 一方その頃、写真コンテストで金賞をとった生徒の写真が掲示されていた。その写真の背景に写っていたいたのはトリカブトで…。 2人の図書委員は、さらにトリカブトの栞の謎を突き止めるべく調査を進めるが、ついに学校でトリカブト中毒のような事件(事故)が発生してしまう。――― 若林踏さんによる解説にもありますが、「ハードボイルド」のように、探偵役の2人が地道な調査を進めながら、あることが解決したと思えばさらなる謎が現れて…と、どのような展開になるのか、わくわくしながら読み進められる1冊です。 書名にあるように、栞とともに本書を貫くもうひとつのテーマは「嘘」です。それぞれの人物がそれぞれの思惑から「嘘」をついている。誰の言葉がどこまで本当なのか…。 探偵役の2人だけでなく、何か思惑のありそうな図書委員長、栞の謎の鍵を握る女子生徒と、主要な登場人物の役回りも魅力的です。 これは面白かったです。(2026.04.03読了) ・や・ら・わ行の作家一覧へ
2026.05.30
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甚野尚志『隠喩のなかの中世―西洋中世における政治表徴の研究―』~弘文堂、1992年~ 甚野尚志先生は早稲田大学文学学術院・文学部教授で、西洋中世史がご専門です。 本ブログでは、以下の編著を紹介したことがあります。・甚野尚志/堀越宏一編『中世ヨーロッパを生きる』東京大学出版会、2004年・甚野尚志/踊共二(編)『キリスト教から読み解くヨーロッパ史』ミネルヴァ書房、2025年・堀越宏一/甚野尚志編『15のテーマで学ぶ中世ヨーロッパ史』ミネルヴァ書房、2013年 本書は、甚野先生最初の単著で、表題のとおり、「中世ヨーロッパの社会論の中核をなす隠喩による社会の理解について見て」いくことで、「中世ヨーロッパの人々がみずから考え、感じていた自身の社会のイメージを、より正確に再現する」(21頁)ことを目的とします。 本書の構成は次のとおりです。―――序章 中世ヨーロッパの社会像第1章 蜜蜂と人間の社会第2章 建造物としてのキリスト教社会第3章 人体としての国家第4章 チェス盤上の諸身分終章 コスモスの崩壊あとがき図版出典一覧注索引――― 序章は、中世ヨーロッパの社会像―主に身分観―を表現する様々な隠喩を紹介し、本論各章の導入となっています。 第1章は、人間の社会を蜜蜂の社会になぞらえる隠喩について論じます。人間社会の正当化・意味付けを行う様々な史料を読み解きながら王蜂の存在による王制を正当化や、分業による義務の遂行など、具体的な意味付けの諸相を見ていきます。興味深かった点を2点メモ。ひとつは、メロヴィング朝キルデリック1世の墓から見つかった蜜蜂と思われていた副葬品の昆虫の模型が、セミだと明らかにされており、これは中国にあった副葬品として蝉を墓の中に入れる慣習が伝わったものだろうと推定されているという指摘。もうひとつは、ドミニコ会士トマ・ド・カンタンプレによる『蜜蜂の普遍的善』について詳細な紹介がなされていることです。後者は私が関心を寄せる「例話」exemplum研究でしばしば取り上げられており、あらためて勉強になります。 第2章は、建築物による社会の隠喩について論じます。教会のあり方、国家のあり方が、教会堂や館などになぞらえられます。支柱の重要性、建物だけでなく船―さらに具体的にはノアの箱舟―による隠喩など、興味深い事例が多いです。ここでは、神学者ホノリウス・アウグストドゥネンシスによる、教会が説教者を示すとの考え(79-80頁)や、ベーダによる、館の4つの支柱が4つの人間の身分(祈る者、戦う者、商人、働く者)に対応するとの議論(92-93頁)など、自身の関心に照らして重要な指摘があり、勉強になりました。 第3章は、国家を人体になぞらえる隠喩について論じます。たとえば、ソールズベリのジョンは、魂=聖職者、頭=君主、武装した手=戦士、足=農民と手工業者などのように、人体の部分と社会の身分を結びつけ、それぞれの意義を述べていますが、ほかの著作家による議論も含めて、その対応関係を表にして整理してあるので、たいへん理解しやすいです。ここで特に印象的だったのは、キケロによる愚痴のことばです。「もし一つ一つの四肢が、自分だけが健康であろうとして、隣の四肢の活力を自身に奪うとすれば、体全体は弱り死んでしまうだろう。そのように、我々の一人一人の者が、他人の利益を我が物にし、それぞれがみずからの権利によって得たものを略奪するとすれば、人間の社会や共同体は必ず崩壊する」(125-126頁)。2000年以上も前の言葉が、こんにちにも(特に昨今はより鮮明に)通用していると感じます。 チェスによる人間社会の隠喩について論じた第4章は、最も興味深く読みました。とりわけ、ドミニコ会士チェソーレのヤコブスによる『人間の習俗と高貴な人々の職務、またはチェスの遊びについて』という史料は、著者によれば「さまざまな身分の者に向けた説教範例集」(202頁)とのことで、私自身の勉強のテーマに直結する非常に興味深い史料です。この史料について、後世への影響も含めて詳細に論じられており、勉強になりました。 終章は、以上のような隠喩による社会の理解は、中世的な世界が崩壊した後は、「主として詩や社会風刺のなかでの寓意的表現として、作家や詩人の想像力のなかにのみ見いだされるものとなった」(244頁)と総括し、隠喩による社会の理解が中世に特徴的だったということを強調します。 こんなにも自身の勉強につながるテーマと知らず、読むのが遅くなったのが悔やまれますが、大変勉強になる1冊でした。 なお本書は『中世ヨーロッパの社会観』講談社学術文庫、2007年として改訂版が刊行されています(私は未見)。いろんな事情があるのでしょうが、タイトルは原著の『隠喩のなかの中世』がずっと素敵だと思っています。(2026.04.03読了) ・西洋史関連(邦語文献)一覧へ
2026.05.24
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加納朋子『カーテンコール!』~新潮文庫、2020年~ 加納朋子さんによるノンシリーズの連作短編集です。 舞台は、閉校が決まっていた萌木女学園。本当なら3月末で閉校…だったはずなのですが、様々な事情で卒業ができなかったメンバーに、理事長の角田先生は特別補講を行うことを決定し、彼女たちは寮での生活を送ります。「砂糖壺は空っぽ」は、萌木女学園付属高校を目指していた生徒と、自分に自信がなかった「僕」の、塾での交流を描く物語。「萌木の山の眠り姫」は、朝起きられず、卒業を逃した「私」と、相部屋になった夕美さんの物語。夕美さんも「私」に負けず劣らず、補講中に眠っていて、少し安心していた「私」ですが、ある日、夕美さんが突然倒れてから、二人の関係に変化が起こり始めます。「永遠のピエタ」は、創作活動に夢中で卒業を逃した「私」が、寮のメンバーで様々な想像をふくらませていく…という物語。ある日から、「私」の体調に異変が起こり始めて…。「鏡のジェイミ」は、拒食症でやせ細ったルームメイトをもつこととなった「私」が語り手です。理事長の助言で、ルームメイトを助けようとしますが…。「プリマドンナの休日」は、4年生のときに休学をして(当然)卒業を逃した「私」が、寮一番のしっかり者がなぜ卒業を逃したのかを追う物語。フリーライターを目指す「私」が到達する真相とは…。 最終章「ワンダフル・フラワーズ」は、角田理事長の昔話。理事長の学園への、そして寮の学生たちへの思いとは…。 それぞれの学生が抱える事情はときに重く、また「家族」のあり方についても考えさせられる物語です。 冒頭の「砂糖壺は空っぽ」で、物語に引き込まれ、その他の作品も味わい深く、また上の内容紹介ではあまり書きませんでしたが、ミステリ的要素もあって、好みの作品集でした。 素敵な読書体験でした。(2026.03.27読了) ・か行の作家一覧へ
2026.05.23
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クラウディア・ブリンカー・フォン・デア・ハイデ(一條麻美子訳)『写本の文化誌―ヨーロッパ中世の写本とメディア―』~白水社、2017年~(Claudia Brinker-von der Heyde, Die literarische Welt des Mittelalters, Darmstadt, 2007) 著者のブリンカー・フォン・デア・ハイデ(1950-)はカッセル大学教授で、中世からバロックのドイツ文学や中近世の書物・図書館の歴史がご専門のようです。 訳者の一條麻美子先生は東京大学大学院総合文化研究科准教授で、中世ドイツ文学などがご専門です。このブログでは、次の雑誌論文を紹介したことがあります。・一條麻美子「「愛の洞窟」の3つの窓―ゴットフリート・フォン・シュトラースブルク『トリスタン』における名誉の問題―」『西洋中世研究』2、2010年、83-98頁 さて、本書の構成は次のとおりです。―――序第1章 本ができあがるまで第2章 注文製作第3章 本と読者第4章 作者とテキスト訳者あとがき参考文献書名・人名リスト注と典拠索引――― 第1章は、以前紹介したクリストファー・デ・ハメル(加藤磨珠枝監修/立石光子訳)『中世の写本ができるまで』白水社、2021年と同様、写本製作の流れを紹介します。特に興味深かった点をいくつかメモしておきます。・最終的に巻物からコデックス[本]へ中心が移るのが5世紀のことですが、「この変化は古代の終わり、中世の始まりを意味するものとされている」(30頁)と著者は述べます。さらに、「巻物から本への移行が中世という時代の始まりを告げたとすれば、活版印刷はその終わりを宣言したといえる」(85頁)とも述べ、書物の形態変化から時代区分を述べている点は興味深いです。・羊皮紙は「生きている素材」であり、温度や湿度の変化に反応して丸まったり伸びたりするため、写字室には暖房がなかった」(が、暖房室はそばにあった)という指摘も興味深いです(50頁)。実務として写字室に暖房はなかったけれど、かじかんだ手を暖房室であたためる修道士の姿が想像されます。 第2章以下は、宮廷や都市を主な舞台として、特に詩作品に重点を置いた議論となっています。 第2章では、写本盗難という興味深い事例を通して、写本が政治的にも重要な役割を果たしたことを指摘します。 第3章は主に抒情詩(ミンネザング)をとりあげますが、「ミンネザングはまさに、特別な機会がなくてもふと口ずさめる中世のポップスだったといえよう」(170頁)という面白い指摘や、その第2節は「身体としての本」と題して、文字や本に使われる身体のメタファー(頭書き、脚注など)、装飾イニシャルが人文字になっている例を紹介するなど、大変興味深いです。 第4章は著名な中世詩人の生涯が「創作」されていることや、「詩人フェーデ」という、詩人同士の批判の応酬などをとりあげていて、こちらも興味深く読みました。 また、全体を通じて、作品のオリジナル復元よりも、個々の写本の独自性を強調する立場をとられていることがうかがえます。 著者の専門もあり、中世ドイツの、とりわけ抒情詩に重点が置かれていますが、中世の写本の諸相にふれられる興味深い1冊でした。(2026.03.21読了) ・西洋史関連(邦訳書)一覧へ
2026.05.17
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銀色夏生『流星の人』~角川文庫、1994年~ 主に植物を中心とした風景写真と、「ひとつの長い詩か、あるいは手紙のようなもの」(85頁)といった作品です。 表紙とタイトルの美しさだけで味わい深い1冊。実際、本書の着想は表紙の写真にあったそうです。 詩自体は、一人称や場面が急にかわるなどやや難解ですが、しかしそれは「流星の人」があちこちに偏在していることとも関係があるのでしょう。 特に印象的だったのは、ひもでつながって身動きがとれなくなっている人のひもを切るのが仕事だという私の言葉(72-73頁)です。せっかくひもを切っても、いつの間にかその人は別のひもにしばられてしまう、といいます。「認識と選択と納得がいかないと人は変われないものなのよね」(74頁)という言葉は深いと感じました。 30年近く前に知人に紹介されて読んで以来で、あの頃とはまた別の感慨がありました。(2026.03.20再読) ・か行の作家一覧へ
2026.05.16
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今野國雄『ヨーロッパ中世の心』~日本放送出版協会、1997年~ 著者の今野國雄先生(1923-2001)は元青山学院大学教授で、西洋中世研究者。 本ブログでは、昔の記事なのできわめて拙いですが、次の著作を紹介したことがあります。・今野國雄『西欧中世の社会と教会』岩波書店、1973年 さて、本書は、NHKで1996年10がつから1997年3月に放送された「ヨーロッパ中世の心」(ガイドブックは1996年10月発行)をもとにした1冊ということで、読みやすいです。 本書の構成は次のとおりです。―――序章 ヨーロッパ中世を見る目第1章 聖像と偶像~イメージに寄せる思い第2章 正統と異端~始まりを同じくするものの対立第3章 戦争と平和~「神の平和」と十字軍第4章 個と普遍~先立つものは個々のもの第5章 天国と地獄~死者は救われるのか第6章 自然と人間~美しさの再発見第7章 貧困と富裕~貧しい者は幸いである第8章 正者と死者~「死」とどう向き合ったか参考文献あとがき――― 構成からもうかがえるように、中世ヨーロッパの主要な8つのテーマに焦点をあて、その特徴を浮き彫りにします。 やや概説的なので章ごとの紹介は省略しますが、特徴的な点をメモしておきます。 まず、それぞれの章が、現在日本の課題や状況から説き起こされ、比較検討の材料として中世ヨーロッパが取り上げられる、という形式となっています。 たとえば、第4章は、現在日本の個人主義について、「ヨーロッパ的な個人意識は今もって日本には根付いていないような気がする。そこにあるのは形式的な個人の平等主義だけで、そのなかで個人は普遍的全体との対立意識も持たず、あたりかまわぬ粗暴なエゴイズムとなったり、仲間の陰に隠れた責任のがれの利己主義になっている。近代科学の技術や方法は学び取ったかもしれないが、その根底にある創造的な個性意識まではなかなか身に付いていない」(178頁)といいます。そこで、ヨーロッパでも個人主義は変わってきているとしつつ、「ヨーロッパ的な個性の源」を探るため、中世における説教活動、愛のかたち、哲学をみていきます。 次に、印象的なのは、上に書いたように一般向けで読みやすいのですが、史料の引用もふんだんにあり、よりイメージがつかみやすいことです。注はありませんが、引用文献は適宜紹介されます。 学生時分に読んでとても興味深かったのを覚えていますが、今あらためて読み返してみると、自分が勉強しているテーマに関する記述がふんだんにあって、ある種、自分の勉強の出発点の1つだったのかもしれないと思いました。 30年近く前の著作ですが、中世ヨーロッパの主要なテーマの概観を得るのに分かりやすい1冊です。(2026.03.08読了) ・西洋史関連(邦語文献)一覧へ
2026.05.10
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西洋中世学会編『西洋中世文化事典』~丸善出版、2024年~ 2009年に発足した西洋中世学会の編による事典です。 編集委員長小澤実先生による「刊行にあたって」では、本書に盛り込まれた4つの視点が示されます。すなわち、(1)分野横断(歴史学、文学、美術史学、音楽など)、(2)西欧の越境(北欧、東欧、中東など)、(3)グローバル化、(4)文化接触と文化創造への着目、です。 総勢203名の執筆者による本事典に収録されている項目数は、296(各章末に置かれた、その章に関連する人物を取り上げる1頁のコラムも含む)で、基本的に見開き2頁(4頁にわたる項目もわずかですがあります)、巻末にはその項目での引用文献と参考文献が紹介されます。見開き2頁ですが、どれも専門家による膨大な研究と知識のエッセンスであるため、読みやすいながらも内容は非常に濃密です。そのため、1年程度で読了したいと思っていましたが、結局1年4カ月くらいかかりました。 さて、本書の構成は次のとおりです(細かい項目名は省略。また以下ではコラムも項目数に含めていません)。―――図版執筆者一覧見出し語五十音索引1章 環境と自然(編集担当:草生久嗣/池上俊一・小澤実)[16項目]2章 国家と支配(編集担当:草生久嗣/加藤玄・田口正樹)[17項目]3章 ことばと文字(編集担当:松田隆美/大黒俊二)[16項目]4章 戦争と騒擾(編集担当:草生久嗣/加藤玄)[19項目]5章 都市と産業(編集担当:山辺規子/大黒俊二・河原温・城戸照子)[16項目]6章 交易ともの(編集担当:山辺規子/大黒俊二・河原温・城戸照子)[16項目]7章 移動と交流(編集担当:山辺規子/大沼由布・草生久嗣)[14項目]8章 身体と衣食住(編集担当:池上俊一/山辺規子)[17項目]9章 信仰と想像(編集担当:池上俊一/青谷秀紀)[17項目]10章 ジェンダーと人生サイクル(編集担当:池上俊一/小澤実・久木田直江)[14項目]11章 書物と文芸(編集担当:松田隆美/小林宜子・横山安由美)[22項目]12章 美術と表象(編集担当:今井澄子/木俣元一)[20項目]13章 建築と場所(編集担当:今井澄子/伊藤喜彦)[18項目]14章 思想と科学(編集担当:辻内宣博/藤崎衛)[18項目]15章 音楽と儀礼(編集担当:辻内宣博/池上俊一・吉川文)[18項目]16章 中世受容と中世研究(編集担当:小澤実/大貫俊夫・草生久嗣・図師宣忠)[22項目]【付録】地図引用・参考文献事項索引人名索引地名索引――― 章題を見るだけで、本事典の幅の広さが分かると思います。 個々の項目を取り上げることはできませんが、幅広い概観を提示する項目もあれば、執筆者の専門に引き寄せた時代・地域で記述される項目もあり、また今後の課題の提示や当該項目で取り上げる内容を研究する意義の指摘など、記述もバラエティに富んでいます。 本事典刊行後、NewsPicksにて、「『西洋中世文化事典』を楽しむ!!」と題して、各章の代表者による連載(担当した章の紹介と次章の興味深い項目を中心に)と関連する記事が掲載されたり、「西洋中世史料の世界:『西洋中世文化事典』の、さらに向こう側へ」と題した公開講演会が開催されたりと、非常に盛り上がっていました。NewsPicksの連載は分かりやすく、本事典の重要さと楽しさが伝わります。 定価26,400円(税込)と決して手に取りやすい金額ではありませんが、西洋中世史について勉強するにあたっては必ず参照すべき文献の1つといえるでしょう。(2026.04.11読了)・西洋史関連(邦語文献)一覧へ
2026.05.09
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大下宇陀児『烙印』~創元推理文庫、2022年~ 大下宇陀児(1896-1966)による、「後に作家自身が「ロマンチック・リアリズム」と名付けた方向性を見出した時期の作品を中心に、自然な語り口に磨きをかけた戦後の短編を収録」(351頁)した、傑作短編集です。探偵小説8編と、エッセイ2編が収録されています。 表題作「烙印」は、亘理子爵による証書を偽造した由比さんが、子爵を陥れようとする物語です。しかし、子爵家に訪れるようになった農学士や、自分のまわりに現れる謎の人物などに翻弄されていき…。犯人がどこでミスをしたのか、という倒叙ものの醍醐味もさることながら、「誰が探偵か」というスリリングな展開も面白い1編です。「爪」は、気弱な文士が友人の殺害を決意し、意外な方法で成し遂げようとする物語。こちらも倒叙もので、文士が何を間違えたのか、謎解きの妙はもちろん、その他の大下作品同様、犯人の心理描写が秀逸です。「決闘街」は、友人たち3人がスキーに訪れるところから物語が始まります。うち1人に嫌な思いをしていた2人は、ある事故をきっかけに、彼の殺害を試みますが…。場面展開後の2人のすれ違い、謎の男性など、必ずしも真相がはっきり示されるわけではありませんが、心理の動きとともに、余韻を残す物語です。「情鬼」は、赤色恐怖症という性質を持ち、さらに女性に裏切られたことから女性不審に陥り、犯罪に手を染めるようになった長尾新六さんの視点で物語が進みます。自殺を試みる女性との出会いから、少しずつ好転するかにみえた彼の人生は果たして…という物語。なんともいえない読後感が残ります。「凧」は、神童と言われながら、母や自分に暴力をふるう父に育てられ、やがて悲惨な運命に翻弄される少年が主人公です。ある日、殺された父。その後に母と再婚した役者は、果たしてあの父を殺した犯人なのか…。疑心暗鬼に陥る主人公の描写とその後の展開が痛ましいです。そして、タイトルの「凧」が秀逸。痛ましくもありますが、好みの物語でした。「不思議な母」は、元夫を事故(事件?)で亡くしたある母親の手記です。急に変わってしまった彼女の態度を、2人の子どもたちが不思議がるところから、夫が亡くなった事件と、自分が犯人と告発した人物の関係、さらには現在の夫を疑い…とめまぐるしく心が揺れ動きます。彼女が変わってしまったその理由とは…。「危険なる姉妹」では、お酒を出す店に訪れた紳士に、女将がある姉妹の話を聞かせます。その姉妹は美貌で有名ながら、その周辺の男性たちに次々と不幸が襲うと悪評もたっていました。後に芸妓となる2人のその後は…。女将の一人語りが意外な展開に進みます。 本書収録の小説の末尾を飾る「蛍」は、弟が誘拐された姉の推理が中心です。無事に身代金を届けたはずが、その後に待ち受ける意外な事件。果たして真相は…。 エッセイ2本「乱歩の脱皮」「探偵小説の中の人間」は、傑作短編集第1弾『偽悪病患者』所収の2編のエッセイと同様、謎解き重視の本格探偵小説に対して、トリックは次第に底を尽いてしまうのではないかと批判的態度を示し、「人間を書く」ことを重視する自身の立場を明確にします。前者では「化人幻戯」を批判しつつ「十字路」を絶賛し、後者では、松本清張さんたち「人間を描く」ことを重視する作家を評価する点を興味深く読みました。 傑作短編集ということで、気になっていた大下宇陀児の主要作品に触れることができ、良い読書体験でした。(2026.03.08読了) ・あ行の作家一覧へ
2026.05.06
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大下宇陀児『偽悪病患者』~創元推理文庫、2022年~ 大下宇陀児さん(1896-1966)による戦前の作品(探偵小説9編、エッセイ2編)を収録した短編傑作選です。 表題作「偽悪病患者」は、兄妹の往復書簡の形式で展開します。妹夫婦のもとを訪れるようになった美男子・佐治さんは、学生の頃、偽悪者ぶることで有名でした。大きな犯罪を成し遂げるようなことを口にしていた彼を近づけないように、兄は助言しますが、やがて妹夫婦のもとに事件が…という展開です。 冒頭から好みの物語でした。「毒」は、幼い兄妹の視点で進みます。前の母が亡くなり、新しい母がやってきました。いつもは優しい母ですが、小父さんがやってくると兄妹のことを構ってくれません。ある日から、兄は、母と小父さんがこっそり話している部屋の覗き見をはじめるのですが…。 一見平和な家に忍び寄る事件ですが、兄妹が幼く、何が起こっていたのか分からないところにどこか救いがあるように感じました。「金色の獏」一見みすぼらしい置物をどうしても欲しがる紳士が店にやってきました。店主は、その置物を紳士と取り合う女性の来店も受け、さらなる依頼には高額な料金を吹っ掛けるのですが…。 これも好みの物語でした。紳士たちが狙う「金色の獏」にどんな秘密が隠されているのか、その興味もあいまって、意外な結末にやられました。「死の倒影」死刑を言い渡された画家が、恩師を殺すに至った経緯を友人に語る告白文の形式です。学生の頃の殺人、同僚の殺人、そして恩師の殺人につながる、その理由とは…。 倒叙スタイルの物語で、犯人の心理描写が胸に迫ります。このことはエッセイの紹介の際に後述します。「情獄」も、殺人を犯した男が逃亡先で友人に残した手記の形式です。主人公の進学を援助してくれた同級生の結婚をきっかけに、主人公はおかしくなってきてしまいます。同級生夫婦とともに訪れていた温泉で、その事件は起きるのですが…。 倒叙スタイルの醍醐味である、犯人がどこでミスをしていたのか、もさることながら、主人公自身、そして周辺の人々の心の動きが印象的です。「決闘介添人」自分の顔を醜いと思い宿に逗留していた画家のもとに、ひそかに心を寄せていた女性の弟子が訪れます。しかし、さらに、その女性をめぐって争う二人の弟子が訪れ、決闘をするというのですが…。 主人公の画家による日記の形式で物語が進みます。人が事件を起こす―いわゆる魔が差すというのでしょうか―心理を巧みに描く作品です。「紅座の庖厨」SF的作品。胃腸が弱く、大食漢の妻と食事をめぐってケンカしがちだった夫が、ある日訪れたレストラン―紅座では、大変においしい料理をいただきます。さらに、紅座では、弱い胃と丈夫な胃を交換してくれるというのですが…。 ブラックユーモアというのか、なかなかに衝撃的な展開の物語です。奥さんの思いを考えるとかなりつらいですね。「魔法街」深夜に走り出す怪電車、殺人の様子を放送する怪ラジオ事件……と、まるで魔法のような事件が相次ぐ街に、真相を明らかにしようとする青年が現れるのですが…。 こちらも、まるでSFかのような、とてもありえないような謎が提示されます。物語がどんな風に進むのか、わくわくしながら読み進めました。「灰人」こちらは、病気をした犬の目線で始まります。彼を救ってくれた校長はよくできた人でしたが、ある日、事故で視力を失います。その頃、彼の妻の行動をきっかけに、家庭に不穏な空気が流れていき…という物語です。 ある事件が起きてからは、若い刑事の視点で展開します。とはいえ、主人公の犬がここでも重要な役割を果たします。 と、バラエティ豊かな探偵小説が並びますが、いわゆる奇抜なトリック(密室やアリバイや)の解明には重きが置かれておらず、むしろいくつか収録された倒叙スタイルの作品に顕著なように、犯人の心理描写に力点があります。 このあたりの事情は、末尾の短いエッセイ「探偵小説の型を破れ」「探偵小説不自然論」で明らかにされます。というのも、甲賀三郎という作家は、勤め先でも探偵作家としても大下宇陀児の先輩に当たりますが、彼が謎解きを重視したのに対して、大下宇陀児は甲賀三郎と真逆の立場で、謎解きだけに集中していると、探偵小説に未来はない、という主張を展開しています。二つ目のエッセイのタイトルにも明らかなように、事件や謎解きに重点を置くと、物語や人間の行動に不自然な点がでてきてしまう、というのですね。 私がミステリを夢中で読みだした時期は、いわゆる新本格ブームの頃で、それこそ「人間が描けていない」という批判があったと聞きますが、すでに1930年代に大下宇陀児がそうした批判を江戸川乱歩や甲賀三郎に向けていたことが大変興味深かったです。 個人的には、大下宇陀児さんのこの作品集には、冒頭の表題作から引き込まれましたし、その他にも子供の目線で語られる「毒」や犬の視点の「灰人」など、視点も面白く、好みの短編集でした。(2026.03.07読了) ・あ行の作家一覧へ
2026.05.05
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銀色夏生『外国風景』~角川文庫、1993年~ 銀色夏生さんによる、写真エッセイ集といったところでしょうか。様々な旅先で撮った写真とともに、その旅のときの思い出や思いが語られます。 なんとなく、旅先で体調を崩されたり、良い思いをしなかったり…という記述が(特に前半のほうで)目につきますが、それでも旅行はお好きな方のようで、そのあたりの思いを興味深く読みました。 スペインの郊外の写真とともに綴られた「好きなもの」(44-45頁)が特に印象的でした。(2026.03.05再読) ・か行の作家一覧へ
2026.05.04
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西尾維新『零崎双識の人間試験』~講談社ノベルス、2004年~ 戯言シリーズのスピンオフのシリーズ「人間シリーズ」の第1作。 このブログの所有作品一覧では「零崎一賊シリーズ」と記載していましたが、正式には「人間シリーズ」のようですね。 さて、本作は『クビシメロマンチスト』に登場し、その後も戯言シリーズの主要人物となる零崎人識さんの「兄」、零崎双識さんが主人公です。「自殺志願」と呼ばれるハサミを主要な武器とする彼は、人々を「試験」していきます。 ある日、ふつうの生活を送っていたはずの女子高生、無桐伊織さんが、同級生に襲われ、彼女はその同級生を殺し(かけ)てしまいます。そこに居合わせた双識さんは、伊織さんの才能を見出し、彼女を零崎一賊に入れようとしていきます。 ところが、そこに現れるのが、零崎一賊壊滅のため動いていた早蕨兄弟。彼らは伊織さんを襲い、双識さんに戦いを挑みますが…。 というのが大きな流れになります。 多少のミステリ的要素もありますが、零崎一賊と早蕨兄弟のたたかいの物語として、そして伊織さんの変化の物語として読みました。 これで、かつて読みながら記事が書けていなかった西尾さん作品を再読し、記事が書けました。 20年以上前、夢中で読んでいたのを思いだす読書体験でした。(2026.03.21)再読 ・な行の作家一覧へ
2026.05.03
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西尾維新『ネコソギラジカル(下)青色サヴァンと戯言遣い』~講談社ノベルス、2005年~ 戯言シリーズ最終作です。 以下、過去の記事をほぼ再録。 友との「別れ」、狐面の男の賭け、橙色と赤色の対決。「ぼく」のまわりでいろんなことがあったわけですし、これからもずっと続いていくようですが、「ぼく」はずいぶんかっこいいと思いました。本名を名乗るときも伏せ字で、結局、本編で「ぼく」の名前は明かされません。 中巻に伏線(?)がでてきて、本書のカバーイラストからもうかがえるのですが、そのあたりの事情がふれられないままの描写というのは、素敵でした。 デビュー作『クビキリサイクル』から『ヒトクイマジカル』までは、ミステリと呼べる要素もありましたが、『ネコソギラジカル』(上・中・下)はそういう枠を超えた物語になっています。 記事を書けていないこともあって20年以上ぶりに、戯言シリーズを読み返してみましたが、あらためて楽しめました。(2026.03.12再読) ・な行の作家一覧へ
2026.05.02
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西尾維新『ネコソギラジカル(中)赤き征裁vs.橙なる種』~講談社ノベルス、2005年~ 戯言シリーズ第6作にして最終作の中巻です。 橙なる種―想影真心さんのとんでもない戦闘能力から物語がスタートします。そして、「ぼく」と真心さんの因縁とは…。 懐かしい舞台での戦闘、別離、そして…と、物語は二転三転します。序盤の激しさ、中盤の静けさ、そして終盤での急展開と、息を飲むような展開です。「ぼく」を「俺の敵」と呼ぶ狐面の男に、「ぼく」がどのように立ち向かうのか、戦略を練っていくところもわくわくしながら読み進めました。 そして、物語は最終巻に続きます。(2026.03.03再読) ・な行の作家一覧へ
2026.04.29
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西尾維新『ネコソギラジカル(上)十三階段』~講談社ノベルス、2005年~ 戯言シリーズ第6作にして最終作の上巻です。 『ヒトクイマジカル』の事件の後、入院している「ぼく」のもとへ、みいこさんたちがお見舞いにきてくれます。そこへ、「十三階段」の一人だと名乗る奇野頼知が現れ、みいこさんを「いーちゃん」と勘違いしたため、みいこさんも事件に巻き込まれることになります。 狐面の男を調べていた「ぼく」は、しばらく続いていた玖渚一家の内紛も終わったところで友さんを訪ねた後、彼と再会します。「十三階段」を集めたという狐面の男は、ハンデとして、「ぼく」に福岡へある人物へ会いに行くよう助言しますが…。 ある人物と再会し、「十三階段」の情報を集めた「ぼく」は、みいこさんを救うため、アパートの崩子さん、萌太さんとともに、狐面の男が指定した場へ向かうことになります。 シリーズ完結編ということで、今までの作品に登場した人々がどんどん登場し、さらに「十三階段」など新しい人物も登場ということで、登場人物表には60人以上の名前が挙がります。 今までのシリーズに登場していた崩子さん、萌太さんの活躍も嬉しい1冊です。(2026.02.26再読) ・な行の作家一覧へ
2026.04.26
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岩波敦子(編)『ことばが紡ぎ出されるとき―声とテクストのあいだ―』~慶應義塾大学言語文化研究所、2026年~ 本書は、岩波敦子先生が研究代表者をつとめた慶應義塾大学言語文化研究所公募研究「精神史における「声」と「テクスト」の創造的営為」の研究成果で、10編の論文が収録されています。 研究代表者の岩波敦子先生の単著として、本ブログでは次の著作を紹介したことがあります。・岩波敦子『変革する12世紀―テクスト/ことばから見た中世ヨーロッパ―』知泉書館、2024年 本書の構成は次のとおりです。―――岩波敦子「はじめに」 第I部 声の刻印とことば山内志朗「声と風と聖霊―中世における聖霊論の一側面―」小野文「声の刻印―E.バンヴェニストの言語思想における声とエクリチュールの接近―」 第II部 神の語りかけとテクスト/表象土橋茂樹「ペルソナ間で対話する紙―神-劇(Theo-drama)における旧約文書の活喩法的読解―」鎌田由美子「偏在する神の声―イスラーム圏の美術・建築を飾るコーランからの銘文―」 第III部 教え導くことばとテクスト松田隆美「アビンドンのエドマンド『教会の鏡』における読者層―活動的生活と観想的生活をめぐって―」大黒俊二「錯綜する声とテクスト―15世紀イタリアの説教記録から―」後藤里菜「聖女伝を書く説教師―トマ・ド・カンタンプレ(1201-72頃)の声をめぐって―」井口篤「神学者レジナルド・ピーコックとテクストの声」 第IV部 響き合うことばと儀礼大月康弘「世界秩序と皇帝理念をよみがえらせる歓呼の記録―10世紀ビザンツ宮廷儀礼に見える「帝国」と諸民族―」岩波敦子「信じることば、裏切ることば―中世ヨーロッパの挙証することば―」あとがき(岩波敦子)索引執筆者紹介――― 山内論文は中世哲学の観点から、トマス・アクィナス『神学大全』を主要史料として、聖霊と声の関係を探ります。 小野論文は、言語学者エミール・バンヴェニストの一つのメモに着目し、その他の著作に見られない孤立したその内容の意味を探る興味深い論稿。 土橋論文は、神学者バルタザールのいう、神の行為・働きに我々自身も応答する形での「神-劇学」の考え方を援用し、旧約文書の解釈を行います。私には難しかったです。 鎌田論文は、キリスト教とイスラームはいずれも偶像崇拝を禁止するのに、前者では聖なる像を作るようになり、後者では一切聖なる像が作られなかったのはなぜかという興味深い問いから出発し、イスラーム美術の観点から、コーランから採られた銘文やお守りとしてのコーランに着目し、美術におけるコーランの意義から冒頭の問いに答える興味深い論稿です。 松田論文はアビンドンのエドマンド(c.1174-1240)による『教会の鏡』の多様なヴァージョンの比較検討から、活動的生活、観想的生活、両方をあわせもつ「ヴィタ・ミクスタ」の強調度合を分析し、その読者層を探ります。 大黒論文は15世紀イタリアの説教記録に着目し、聖職者と俗人による説教の聞き書きの違いを丹念に分析し、俗人筆録では自身の「記憶の奥深く」に垂直に沁み込んでいくことを指摘するほか、「大罪を犯した状態でなされた善行は救済に役立つか」といった興味深い論点や印刷術と説教の関係を分析します。 後藤論文は、私が関心を持っているジャック・ド・ヴィトリ(本稿ではヴィトリのヤコブスと表記)とも交流のあったトマ・ド・カンタンプレの聖女伝を主要史料として、聖女と説教師のかかわりを論じる興味深い論稿です。 井口論文は、聖職者の仲介なしに聖書を読むことを強調した異端ロラード派に反駁する神学者レジナルド・ピーコックの言説に着目し、その両義的に見える態度の意義を論じます。 大月論文はビザンツ宮廷の儀礼書を主要史料として、儀礼における歓呼の意義を分析します。 岩波論文は、誓いや偽りのことばなど、様々なことばに着目し、ことばの挙証する力を分析します。 十分に理解できなかった論稿もありますが、ふだんは触れない言語学など多様な分野に触れられたほか、私自身の関心からは、大黒論文・後藤論文の2本が収録されていることも重要で、興味深い論文集でした。(2026.04.12読了) ・西洋史関連(邦語文献)一覧へ
2026.04.25
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クリストファー・デ・ハメル(加藤磨珠枝監修/立石光子訳)『中世の写本ができるまで』~白水社、2021年~(Christopher de Hamel, Making Medieval Manuscripts, Bodleian Library, University of Oxford, 2018) 著者のクリストファー・デ・ハメルは、2019年以降、ケンブリッジ大学コーパス・クリスティ・カレッジの終身研究員とのこと(カバーそでの略歴を参照)。 邦訳書として、『聖書の歴史図鑑』(朝倉文市監訳、東洋書林、2004年)、『世界で最も美しい12の写本』(加藤磨珠枝・松田和也訳、青土社、2018年)があるようです。 本書の構成は次のとおりです。―――序I 紙と羊皮紙II インクと文字III 彩飾と装丁用語解説謝辞監修者あとがき図版出典精選文献目録索引――― 本論は、中世写本作成の「作業を一段階ずつ順を追って説明」(21頁)する構成となっています。 第1章は、羊皮紙と紙の作り方について。特に興味深かった点をメモしておきます。まず、写本ページからDNAを採取したところ、「一冊の写本内の、見たところ寸分たがわぬ皮紙が、ときには異なる種の動物から作られていることが判明した」(26頁)という指摘。近年の研究はここまで進んでいるのですね。また、紙の作成に関する部分で、パピルスpapyrusが紙paperの語源との指摘はあらためて勉強になりました(44頁)。羊皮紙・紙ができて、折丁ができあがったら、写字生が書く前に罫線を引く作業があります(62-73頁)。なお、羊皮紙については、日本で実際に羊皮紙を作成されている著者による八木健治『羊皮紙のすべて』青土社、2021年も大変面白いです。 さて、第2章は、羽ペンの作り方・使い方、インクの作り方(没食子インクの元となるオークの木の虫こぶの写真があるのがありがたいです。87頁)、そして図像史料も示しながら、どのように写字生が書いていたかを紹介します。「ペンの試し書き」などの試し書きが遊び紙に残されている例もあるようで(99頁)、面白いです。 ここでは、写字生が顧客に提供可能な書体の実例を示した宣伝用ポスターが複数発見されているということ(104頁)や、折丁を正しく並べるための「キャッチワード」(次にくる折丁の最初の言葉を先取りしたもの)の導入(107頁)といった事例を興味深く読みました。 第3章では、写本画家への指示が写本の余白に残っている事例や、装飾イニシャル用に空けておいたスペースに参照用の文字や主題についての指示が書かれたことなど、興味深い事例が豊富に紹介されます。図案集成や見本帳も作成されていたようです(135頁)。着色料の作成方法も紹介されます。 以上のように、興味深い事例が豊富で、また非常に訳文が読みやすいです。カラー図版も豊富で、全ての図版に簡単な説明も付されていて、それだけ眺めても十分に楽しめます。(2026.02.23読了) ・西洋史関連(邦訳書)一覧へ
2026.04.19
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西尾維新『ヒトクイマジカル 殺戮奇術の匂宮兄妹』~講談社ノベルス、2003年~ 戯言シリーズ第5作です。「ぼく」が通う大学でも講義を受け持つ木賀峰助教授から、「ぼく」は声をかけられます。助教授が進める「死なない研究」に関するアルバイトに誘われます。 当時、「ぼく」のアパートにやってきていた春日さんと、哀川さんの助言で同行することとなった一姫さんとともに、「ぼく」は助教授の研究室を訪ねます。 そこには、すでに面識のあった匂宮理澄さんがいました。名探偵の人格の理澄、殺人鬼の人格の出夢、2人で1つの体という匂宮兄妹の存在に構える「ぼく」ですが…。 はたして、研究室では凄惨な殺人事件が起こります。 唯一生き残った「ぼく」がとる行動とは…。 といった物語です。 完結編『ネコソギラジカル』を前に、世界観が次々と明らかになっていきます。 匂宮兄妹のキャラクタを活かして、カバーにも工夫が凝らされていて素敵です。 本作で印象的だったのは、「ぼく」の隣人、みいこさんの活躍です。これまでの作品でも素敵なキャラクタでしたが、今回は特にかっこいいですね。 事件の謎も、謎解きも興味深く、安心して読めるシリーズです。(2026.02.18再読) ・な行の作家一覧へ
2026.04.18
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村上重良『世界の宗教―世界史・日本史の理解に―』~岩波ジュニア新書、1980年~ 著者の村上重良先生(1928-1991)は宗教学者で、岩波ジュニア新書からは本書のほかに『日本の宗教』という著書も刊行されているようです。 まず、本書の構成は以下のとおりです。―――この本の読み方I 宗教のはじまりII 古代の宗教III 仏教IV 儒教と道教V キリスト教VI イスラム教むすび・現代社会と宗教世界のおもな宗教の信者数――― アニミズムから世界の様々な宗教まで、幅広く、また簡潔にして要領を得た叙述で概観する良書だと感じました。 第1章では、アニミズムなど自然に生まれた宗教としての「自然宗教」(その他、原始宗教や民族宗教とも)と、教えを開いた人がいて、布教により広がる「創唱宗教」(世界宗教)の別はあらためて勉強になりました(5-6頁)。 第2章では、ゾロアスター教、ギリシア・ローマ神話、古代アメリカ文明の宗教など、幅広く古代の宗教を概観します。 第3章は仏教の創始と伝播がメインですが、ジャイナ教やヒンドゥー教にもふれています。 第4章は朱子学や陽明学、日本への影響も論じます。 第5章はユダヤ教からはじまり、初期キリスト教、東西分裂、プロテスタントはもちろん、修道院にも簡潔ですが言及があります。3~4章同様、日本への影響も述べられます。 第6章はイスラームの概観。 むすびでは現代の宗教の世界分布の概観や、新興宗教についてもふれられます。 私が学んでいた頃の高校世界史で勉強したような事項・人名が取り上げられていて、副題にあるように世界史・日本史を宗教の観点から概観するにも便利です。 40年以上の前の書籍ですので、研究の進展によりアップデートが必要な部分もあると思われますが、「ジュニア新書」ということで「です・ます体」で大変読みやすく、内容的にも非常に勉強になる1冊です。(2026.02.17読了) ・邦語文献一覧へ
2026.04.12
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ジャック・ル・ゴフ(酒井昌美訳)『[ヨーロッパと中世・近代世界]の歴史―その誕生と老齢化―』~多賀出版、1997年~(Jacques Le Goff (Trans. Tobias Scheffel), Das alte Europa und die Welt der Moderne, München, 1994) 著名な中世史家ジャック・ル・ゴフ(1924-2014)による、古代から現代までのヨーロッパ世界の概観です。 本論100頁程度で、訳者による小見出しも多く、非常に読みやすい小著です。 本書の主張のポイントとしては、初期中世におけるヨーロッパの最初の輪郭として、キリスト教的共同体と様々な王国からなる多文化的伝統を基盤とした共同体の2点を挙げ、ヨーロッパの特徴として「統一が諸民族の多様性から創造される」と指摘している点と思われます(17頁)。 アンリ・オゼールによる近代性の定義の簡潔な整理も含め、中世史研究であまりにも有名なル・ゴフが現代までを簡明に見通している点で興味深い1冊です。 一方、訳書として何点か気になる点がありました。 まず、本書の底本は原著のドイツ語訳(訳者はフランクフルトの書店で購入したそうです)。したがって、フランス語の原著の直接の翻訳ではありません。にもかかわらず、原著情報が本書のどこにも記載されていないのが残念です。インターネット上で調べると、原著はJacques Le Goff, La Vieille Europe et la nôtre, Paris, Le Seuil, 1994のようです。 次に訳語について。「シャムパーニュのメッセ」(40頁)は、「シャンパーニュの大市」のほうが一般的な表記です。「第四回ラテラノ総会議」(58頁)は「第四回ラテラノ公会議」。「英国人ゴシエ・マップ」は、「英国人」の訳語の是非はともかく、英語風に「ウォルター・マップ」と表記するのが一般的では。哲学者ジャン・ボードリヤールの表記は、「ボードリャール」(96頁)とあったり「ポードリヤール」(104頁)とあったり、校正が不十分な印象でした。 ただし、何度も引き合いに出して申し訳ありませんが、鎌田博夫氏の訳(ル・ゴフ編『中世の人間』やル・ゴフ『ル・ゴフ自伝』など。後者はかろうじて再読して記事も書きましたが、前者は読み返そうとして、あまりのひどさに再読を諦めました)に比べるとはるかに読みやすく、内容的にも面白いことは間違いありません。 とはいえ、ドイツ語からの重訳が理由なのか、邦訳書でありながら、ル・ゴフの著作に関してこの訳書が取り上げられることはあまりないように思われます。(2026.02.15再読) ・西洋史関連(邦訳書)一覧へ
2026.04.11
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銀色夏生『光の中の子どもたち』~角川文庫、1992年~ 銀色夏生さんによる写真詩集です。 海辺、原っぱ、道など、いろんな場所で遊び、休む子どもたちの写真に、イラストや、ちょっとした説明のことば、詩のような文章が添えられています。 本作の写真は全て白黒で、味わいがあります。 添えられた文章のほとんどは手書きで、ページ番号さえも手書きというつくりですが、表題作「光の中の子どもたち」とそのプロローグのような文章は活字です。こちらは、詩というよりも、少し不思議な物語です。(2026.02.12再読) ・か行の作家一覧へ
2026.04.05
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銀色夏生『春の野原 満天の空の下』~角川文庫、1992年~ 銀色夏生さんによる写真詩集です。 標題のとおり、風景写真がメインです。 特に印象的だったのは3点。 まず、「よくよく考えてみると どんな成り行きも どんな結果も その人らしい」 という詩は、味わい深いと感じました。 真っ直ぐな道の写真を複数掲げた見開きページに添えられた1行、「あきらかに 希望にみちたもの」 も素敵です(写真とあわせて、ほんの1行ですがぐっと引き込まれるものがありました)。 ものごとの色々な側面を描く詩(142-143頁)も素敵です。その「ほんの少しの明るさ」が感じられないときはとても苦しいですが、それさえあれば、気付けたら…。(2026.02.03読了)・か行の作家一覧へ
2026.04.04
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西尾維新『サイコロジカル(下)曳かれ者の小唄』~講談社ノベルス、2002年~ 戯言シリーズ第4作の後編です。 背表紙や巻末の最新刊案内でも「……」と、内容に全く触れられていないというのが斬新です。 前作で提示された、高度なセキュリティをほこる研究室で起こった密室殺人、そしてなぜ犯人は遺体をそこまでバラバラにしたのか、という謎に、「ぼく」たちが挑みます。 事件を知って半狂乱になる博士ですが、しかし部外者である「ぼく」たちを犯人に仕立て上げ、監禁します。そんな中、大泥棒の石丸小唄さんが僕たちのもとを訪れます。博士たちが、「ぼく」たちが犯人だというストーリーを準備する4時間のあいだに、「ぼく」は真相に辿り着けるのか…。 これは面白かったです。 壮大な謎に、限られた時間の中で真相に辿り着かなければならないという緊張感。小唄さんの思惑や、施設の研究者たちの思いが錯綜し、混迷していく状況という、わくわくする展開です。(2026.01.31再読) ・な行の作家一覧へ
2026.03.29
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西尾維新『サイコロジカル(上)兎吊木垓輔の戯言殺し』~講談社ノベルス、2002年~ 戯言シリーズ第4作の前編です。 玖渚友がリーダーをつとめていた「チーム」の一員、兎吊木垓輔さんを助け出すため、「ぼく」、友さんは、鈴無音々さんは「マッドデモン」の異名をもつ斜道卿壱郎博士の研究機関を訪れます。 三人が訪問する少し前、高度なセキュリティを誇るその施設に、零崎を名乗る外部者が紛れ込んでいたことを知り、警戒する「ぼく」ですが…。 一方、一癖も二癖もある博士に、説得を拒む兎吊木垓輔さんに対してどのように対応していくか検討を進めていく3人。しかし、3人を待っていたのは、密室状況の中のばらばら死体で…。 シリーズ初の上下巻で刊行された1冊。 「ぼく」の隣人、みいこさんのかわりに、保護者として同行してくれる鈴無さんのキャラクターが素敵です。 施設には、「ぼく」のER3時代の先生もいて、先生と「ぼく」の掛け合いも面白いです。 上巻ということで、簡単なメモのみになってしまいました。(2026.01.25再読) ・な行の作家一覧へ
2026.03.28
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近藤和彦『イギリス史10講』~岩波新書、2013年~ 著者の近藤和彦先生は東京大学教授、立正大学教授を歴任され、専門はイギリス近代史です。 その著書、訳書は多く、E・H・カー『歴史とは何か』の新訳も刊行されています(私は未見)。 本書のあとがきによれば、岩波新書の10講シリーズの企画の段階から携わっていらしたようです。 さて、本書の構成は次のとおりです。―――第1講 イギリス史の始まり第2講 ローマの属州から北海の王国へ第3講 海峡をまたぐ王国第4講 長い16世紀第5講 二つの国制革命第6講 財政軍事国家と啓蒙第7講 産業革命と近代世界第8講 大変貌のヴィクトリア時代第9講 帝国と大衆社会第10講 原題のイギリスあとがき索引――― なにぶん通史ですので、章ごとの紹介は省略し、印象に残った点を中心にメモしておきます。 まず、第1講では、「イギリス」という用語の定義が興味深いです。とりわけ、日本語での漢字表記に込められた意味などの考察が印象的です(5-8頁)。 第2講では、「英語を話す人いう意味のイギリス人…の出現を記録」したのが、修道士ベーダ(d.735)であることを指摘する際に、「イングランドあるいはイギリスという「国」が形成されるより前に、複数の要素の交わりから、英語とイギリス人がうまれた。その逆ではない」と論じられている点が印象的でした。 このように英語の展開にも目配りされていて、第3講では、住民の古英語と、ノルマン征服による古フランス語の導入により中期英語が形成されることが指摘されます。たとえば牛は野良ではoxやcowですが、食卓にのぼると古フランス語のbeefとよばれ、「農民のメシは古英語のmealだが、領主のご馳走は古フランス語のdinnerである」などの具体例も面白いです(45頁)。 第4講では、ジェントルマンの定義(88頁、Sirとの違いなど)や、エリザベス女王の称号における「等」の意義を論じる部分(95-96頁)が勉強になりました。 第5講では、トーリ党とホウィグ党について、かつてはそれぞれ王権党、民権党などと訳されましたが、「じつはどちらも王権を尊重し、内戦を忌避する国教徒である」とし、それぞれの特徴を解説している部分(138-139頁)が勉強になりました。 第6講以降も、特に近現代については、日本との関わりにも目配りされていて、不勉強な私には勉強になります。 あらためて、約300頁の新書で「イギリス」の歴史の要点を通史的に描くだけでなく、それぞれの時代の生活や言語・文化、日本との関係まで幅広く手際よくまとめられていて、勉強になる1冊です。(2026.01.27読了) ・西洋史関連(邦語文献)一覧へ
2026.03.22
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銀色夏生『Balance』~角川文庫、1989年~ 銀色夏生さんによる写真詩集・作詞集です。 本書と同年、同題のCDも発売されているようで、歌はオーディションで選ばれた伊藤七美さんが歌われているとのこと(私は持っていません)。 そして本書の写真は風景写真だけでなく、モデルもうつった写真もありますが、表紙見返しにモデルはEMIさんとだけ記載があります。 今まで紹介してきた銀色夏生さんの写真詩集とは少し印象が違って、いくつかの写真・詩の合間に、校正中のような作詞のノートが挿入されています。また、写真も、そのままでなく、イラストや手書き文字を書き添えたかたちとなっていて、詩だけでなく、写真に添えられた言葉も印象的です。 15行×40字ぴったりの文章「曖昧」が、本書の中では特に印象的でした。一部、メモしておきます。「言葉それ自体は、決して伝達手段としては完璧ではない。だからこそおもしろい」(118頁)。 本作も味わいながら読み進めました。(2026.01.21再読)・か行の作家一覧へ
2026.03.21
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西尾維新『クビツリハイスクール 戯言遣いの弟子』~講談社ノベルス、2002年~ 戯言シリーズ第3作。 今回は、「最強の請負人」哀川潤さんに連行(?)され、私立澄百合学園を訪れた「ぼく」は、ある少女を助け出すことを依頼されます。 超エリート校で謎に包まれたその学校は、またの名を「首吊高校」と呼ばれ、生徒たちは様々な能力をもって「ぼく」たちに襲い掛かることになります。 依頼人の紫木一姫さんと「ぼく」に襲い掛かる生徒たちを逃れ、哀川さんと理事長に直談判に訪れることになりますが、理事長は、完全な密室状況の中、体をバラバラにして殺されていました。 真相を考えるどころか、「ぼく」はある思いをもってその部屋を出ますが、さらに他の生徒たちから攻撃を仕掛けられて…。 一姫さんを狙う生徒・学校の狙いとは。そして理事長殺人と密室の謎の真相とは…。 2002年、創刊20周年を記念して講談社ノベルスは「密室本」(本文まるごと袋とじ)という企画本を刊行していて、本書もその1冊です。 久々の再読でしたが、理事長事件のシーンに至り、あまりの謎にあらためて驚きを味わえました。 第1作から、主人公の「ぼく」は登場人物と戦いがちですが、本書に至り、様々な能力や技をもった人物たちがさらに増えてきます。 そんな中、多少の肉体的な戦いも行いつつ、「戯言」でその場を切り抜けていくのがこのシリーズの醍醐味とあらためて感じました。 本作も楽しく読めました。(2026.01.19再読) ・な行の作家一覧へ
2026.03.20
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西尾維新『クビシメロマンチスト 人間失格・零崎人識』~講談社ノベルス、2002年~ 戯言シリーズ第2弾です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。―――「烏の濡れ場島」の事件後、大学生活を始めた「ぼく」に、クラスメートの葵井巫女子が急接近。彼女のことを知らない「ぼく」だが、巫女子は友人の誕生日パーティーに「ぼく」を誘う。 パーティー後、酔いつぶれたような巫女子を自分のアパートに運んだ「ぼく」は、隣人の浅野みいこさんに彼女を泊めてもらう。ところが翌朝、「ぼく」のもとに警察が現れる。パーティーの主役、江本智恵が何者かに首を絞められて殺されているというのだった…。 一方その頃、京都では連続無差別殺人事件が起こっていた。「ぼく」とそっくりの零崎人識と、「ぼく」は知り合いになり、やがて江本事件も一緒に調べることになるが…。――― 前作『クビキリサイクル』が二重密室殺人と首切りの謎というテーマだったのに対して、今回は関係者にアリバイのある連続首絞め事件、そして無差別殺人事件がテーマです。謎解きの主眼となるのは前者の絞殺事件となります。一方、零崎さんと「ぼく」の対話・関係性も、本書の読みどころの1つです。 事件の進展につれ、ますます(読者にとって)事件は混迷を深めていきますが、その不可解さがいかに解決されるのか、興味深く読み進めました。 巫女子さんの元気いっぱいのキャラクターとあいまって、本作はやや重ための読後感となります。色々辛いですね…。(2026.01.14再読) ・な行の作家一覧へ
2026.03.15
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銀色夏生『君のそばで会おう』~角川文庫、1988年~ 銀色夏生さんによる写真詩集です。 本作では、飛行機から撮った写真や海外の風景も含めて、風景写真がメインで、そこに詩や写真の解説(?)が添えられる作品が多いです。 空、雲、海の写真など、今回も味わい深い写真に、印象的な詩が味わえました。 特に印象的だった作品は、「微粒子」と「風車をまわすもの」の2編。 朝、窓をあけて降り注いだ「微粒子」も、「風車をまわるもの」と同様に「私たちの心をまわすもの」も、目に見えないけれど、前向きな気持ちになれるような味わいで、好みでした。(2026.01.10再読)・か行の作家一覧へ
2026.03.14
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鶴見太郎『ユダヤ人の歴史―古代の興亡から離散、ホロコースト、シオニズムまで―』~中公新書、2025年~ 著者の鶴見先生は東京大学大学院総合文化研究科准教授で、ロシア東欧・ユダヤ史・パレスチナ戦争などを専門とされています。 本書は、「アラブ世界」の研究を進める中で、現れてくるユダヤ人やシオニズムの問題に関心をもったことを契機に生まれることとなったといいます。 古代から現代までのユダヤ人の歴史を、「組み合わせ」をキーワードに明解に描く本書の構成は次のとおりです。―――まえがき―ある巡り合わせ序章 組み合わせから見る歴史第1章 古代―王国とディアスポラ第2章 古代末期・中世―異教国家のなかの「法治民族」第3章 近世―スファラディームとアシュケナジーム第4章 近代―改革・暴力・革命第5章 現代―新たな組み合わせを求めてむすびあとがき参考文献図版出典ユダヤ人の歴史 関連年表――― 冒頭にも書きましたし、序章と第5章のタイトルにもありますが、本書はユダヤ人の歴史を「組み合わせ」をキーワードに読み解いていきます。 たとえば、ある国に自分たちの国を征服された場合で、その国の法に従っていれば自分たちの信仰できる(イスラーム諸国による場合)状況であれば、比較的おだやかに彼らは生きて行けます。 以下、印象的だった点をいくつかメモしておきます。 ユダヤ教をめぐって、ときに批判的に用いられる「選民思想」ですが、これは、神の立法をイスラエルの民が守ることによって全人類が救われるということで、「選ばれたので他の民族より優位にあるという意味ではない」(22頁)とのこと。 また、ユダヤ教はキリスト教・イスラームとならび一神教ですが、初期には徹底した一神教ではなかったと指摘されます。聖書は、一神教信仰の観点から「検閲」を受けていて、唯一神信仰が既定路線であったかのように組み立てられていますが、「それでも漏れは見られ、例えば、創世記では神が「我々」と語っている」(33頁)といいます。もちろん、この「我々」については、様々な解釈があるのでしょうが、本書での指摘は私にはわかりやすく思えました。 第1章からの引用が多くなってしまいましたが、現在のイスラエル、ガザ地区の問題などを考えるにあたり、その複雑な歴史背景を知ることもできます。 通史という性格上、全体的な紹介は省略しますが、ユダヤ人の歴史の概観を得るのに非常に便利な1冊だと思います。(2026.01.06読了) ・西洋史関連(邦語文献)一覧へ
2026.03.01
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銀色夏生『あの空は夏の中』~角川文庫、1988年~ 銀色夏生さんによる写真詩集です。 風景写真だけでなく、モデル(ネットで調べたところ、銀色夏生さんの妹さんと弟さんだそうです)のいる写真もあります。 どれも味わい深い写真や詩ですが、写真では白黒写真も素敵で、特に112-113頁の波の写真が印象的でした。 詩は、「夏の宿題」と題した1編が特に印象的でした。 写真詩集という性格上、なかなか紹介しづらいですが、本書も味わい深く楽しめました。(2026.01.03再読) ・か行の作家一覧へ
2026.02.28
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西尾維新『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』~講談社ノベルス、2002年~ 第23回メフィスト賞受賞作。西尾維新さんのデビュー作です。 刊行当初に読んで、とても楽しめたのを覚えていますが、記事は書けていなかったので、このたび久々の再読をしてみました。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。――― 孤島に住む令嬢から招待された天才たち。ぼくは、その中の一人、エンジニアの玖渚友とともに島を訪れた。 心も未来も読める占い師に、僕が所属していた団体でもずば抜けた存在だった学者、3つ子のメイドなど、くせのある人物たちが集まる中、事件が起こる。 ペンキのこぼれた密室状況で、首を切られて死んでいた画家。そして、さらに事件は繰り返され…。 スケジュールどおりに島を出たい友のため、僕たちは「最強の請負人」が島を訪問するまでに、事件の解決を目指すことになるが…。――― 会話の妙。戯言遣いの「ぼく」の独特の思考。密室殺人に首切りと、ミステリの王道の謎が提示され、またその謎解きも鮮やかさも面白いです。そして、大胆な伏線。 本書刊行当時に読んで、それは楽しめたのを覚えています。今回、20年以上経っての再読ですが、あらためて楽しめました。 何のために生きているのか聞かれたとしたら、の「ぼく」の答えは印象に残っていましたが、本書にあったのを再確認したのも収穫でした。(2026.01.01再読) ・な行の作家一覧へ
2026.02.23
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銀色夏生『わかりやすい恋』~角川文庫、1987年~ 銀色夏生さんによる写真詩集です。 前回紹介した『これもすべて同じ一日』は、主に風景写真でしたが、こちらはほぼ全ての写真にモデルの女性がうつっています。調べてみると、デビュー前の森高千里さんなのだそう。初版あたりにはクレジットの掲載がありその旨記載があったそうですが、私の手元には1991年の32版で、クレジットの記載はありません。 写真詩集という性格もあっていつものような感想は書きにくいですが、詩や写真を味わい深く楽しめました。(2025.12.31再読) ・か行の作家一覧へ
2026.02.22
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銀色夏生『これもすべて同じ一日』~角川文庫、1986年~ 銀色夏生さんによる写真詩集です。 20年以上前に銀色夏生さんの作品をいろいろと読んでいましたが、久々の再読です。 写真は主に風景写真で、味わい深いです。詩は恋愛系が多いですが、同じく味わい深く読みました。「大事なことは足跡ではなく むしろ足そのもの」 は、写真も詩も素敵で、特に印象的でした。(2025.12.27再読)・か行の作家一覧へ
2026.02.21
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