のぽねこミステリ館

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2007.11.08
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~講談社ノベルス、1998年~

 浦賀和宏さんのデビュー作です。第5回メフィスト賞受賞作でもあります。巻末の新刊一覧(1998年2月)を見ると、第4回メフィスト賞受賞作である乾くるみ『Jの神話』、第6回受賞作の積木鏡介『歪んだ創世記』も同時に発売されたのですね。
 本書をはじめて読んだとき、かなり衝撃を受けたのを覚えています。それ以来、浦賀さんの作品を追いかけています。
 それでは、内容紹介と感想を。

ーーー

 3月5日。親父が死んだ。自殺だった。
 いつものように目覚めた俺―安藤直樹に、母親は父の死を告げた。父は、書斎で首を吊っていたという。
 父親の通夜、葬儀。棺桶にいれる思い出の品に、俺は書斎にある、父が好きだったマンガを選ぶことにした。書斎に戻った俺は、どこのメーカーのものか分からないコンピュータを見つけ、電源をつけた。起動の後、表示された〔あなたは誰〕の文字。俺が名前を入力すると、「彼女」は、安藤裕子と名乗った。

 その後、俺は裕子と会話した。…そこで、俺は、彼女を友人の金田忠志に紹介しようと思った。弁の立つ彼なら、なにかしらの見解を述べてくれるのではないかと思ったのだ。
 しかし、俺はどんどん裕子にひかれていった。朝倉のことを思い出し、朝倉のかわりに…という部分もあったが、代用の気持ちは薄らいでいく。
 朝倉幸恵―。彼女とは、高校三年生のときに行われたコンクールで知り合った。彼女は、自分のグループにキーボードがいないため、俺にお願いしてきた。そして俺は彼女のグループに混じり、最高に楽しく演奏できた。朝倉に惹かれ、後日、彼女を映画に誘った。しかし、朝倉は、冷たく俺の誘いを断ったのだった。
 裕子という話し相手ができたが、俺は疑問を母親にぶつけた。安藤裕子とは何者なのか、と。
 金田と、共通の友人の飯島鉄雄が裕子を見に俺のもとへ訪れたのは、安藤裕子という名前の姉が、18年前に自殺したという事実を知った後だった。

ーーー

 本書の大きな主題は、安藤裕子という「人工知能」(?)です。はたして、コンピュータである安藤裕子は、意識を持っているのか―。そこから、いろいろな要素がうまれます。意識とはなにか。他者の意識を確認することはできるのか。脳。ロボット。科学。哲学…。
 たとえば、本書の裏表紙には内容紹介ではなく、京極夏彦さんによる推薦文が掲載されていますが、京極さんのデビュー作も脳を大きな主題としていました。脳による世界の認識(構築)といったことは、『姑獲鳥の夏』での描かれていたように思います。
 といって、もちろん話はまったく違いますし、はじめて読んだとき―おそらくまだ高校生だった私には、『記憶の果て』が大きな影響を与えたのだろうと、思いました。高校生くらいからもっている世界観というか、考え方というか、その多くが本書の中に描かれていたのです。そういうことを確認できた意味でも、今回再読できて良かったです。
 話が混乱していますが、本書のもう一つの主題―安藤裕子はどういう人間だったのか。彼女はなぜ自殺したのか。父親はなぜ自殺したのか。こういった、いわゆるミステリ的な要素も、とても魅力的です。
 作中の金田さんは本格推理小説が大好きなのですが、安藤直樹さんはそういうジャンルとしては推理小説を好きになれない。というんで、二人が推理小説観とでもいうべきものをぶつけあうシーンがあるのですが、本書は、ある意味では名探偵を否定しているように思います。それでいて、ミステリとしても読めるあたりが、なんともじわじわとしみてくる感じがします。


 安藤直樹さんは子供の頃からピアノを弾いていて、音楽にとても詳しいのですが(テクノが好き)、本書で、私はヴァンゲリスを知りました。その他、YMOや、私の知らないその他のアーティストの名前も多々出てきます。私は音楽にはとても疎いので、曲名を聞いても分からない曲が多かったのですが、ジョージ・ウィンストンの『Longing/Love』は、音楽と曲名が一致していたので、さーっと流れてきました。なんだか嬉しかったです。
 本書で紹介される、ジョン・ケージの『四分三十三秒』も、物語の中でとても深い役割を果たしていました。

 フィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』にも言及があり、最近ある方の記事を拝読して気になっていたのですが、あらためて興味をもちました。

 あらためて、今回は再読ですが、とても良い読書体験になりました。おすすめです。
 最近は八木剛士シリーズが続いていますが、安藤直樹シリーズも素敵です。





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Last updated  2007.11.08 06:31:12
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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