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2008.08.29
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大久保朝憲「フランス語の性差別的言語構造について」


 国立情報学研究所がウェブ上で提供している論文検索サービスCiNii(サイニイ)で知った論文です。CiNiiでは、いくつかの雑誌の論文がPDF形式で無料で公開されているのですが、この論文も無料公開されていました。
 まず全体の印象ですが、私にとってまったく専門外の話ではありますが、ものすごく読みやすく、分かりやすかったです。
 まずは章立てを紹介した上で、簡単に整理して、若干のコメントも書きたいと思います。

ーーー
1.はじめに
2.CDAの意義
3.改革主義的言語観の正当性

 4-1.フランス語における「人間=男」
 4-2.職業名詞問題
5.名詞の性の解消
6.おわりに
ーーー

(整理)

 狭義の言語学では、言語の「ありさま」をそのまま記述することで、言語研究を「科学」として確立することを使命としていた、といいます。これに対して、言語を批判的にみつめなおそうという動き、「言語とイデオロギーの問題を正面からとらえなおそう」という動きが、ひとつの潮流を生みます。それが、「批判的ディスコース分析Critical Discourse Analysis(CDA)」です。この分析法によって、「われわれの発話の連鎖によって生み出されるディスコースが、いかに中立ではありえず、イデオロギーを構築してゆくものであるか」が明らかにされるといいます。そして、言語を批判的に見つめ直すという態度は(この論文のタイトルにも如実に表れていると思いますが)、本質的に政治的な意図を持っている、ということになります。

 具体的には? 第3章では、このような「改革主義的言語観」に対してよくある批判と、それに対する再批判があるので、第3章の4つの項目(批判の4類型)を紹介します。
(1)反言語変化
 たとえば、「ら抜き言葉」。これへの抵抗の論拠は、「そんなの美しい日本語じゃない!」の一点につきます。ところが、それは言語の変化をとめる正当な論拠ではありえません。そもそも、今日あるその「美しい日本語」自体が、歴史的変化の結果なのですから、「ら抜き言葉」への抵抗には、現在の言葉自体も歴史的変化の過程にあるという視点が欠如しているといえます。
(2)言語末梢論
 たとえば、「スチュワーデスを客室乗務員と呼びかえないといけないなんて馬鹿馬鹿しい」という態度。著者は、このような態度には、「言語使用のもつ暴力性についての意識の低さが露呈している」といいます。馬鹿馬鹿しいかどうかは社会的な問題であり、社会における特定の人々にとってそれが抑圧的なものであれば、決して放置できない問題だというのです。

 (2)に関連して。たとえば、「そんなつもりで言ったんじゃないよ」という反論。これには、差別に苦しめられる人々の視点が欠如しているとしか言えないと、きつく論じられます。
(4)言語徴候論
 「言語を変えて、世の中よくなるのかい?」という批判です。これには、社会の話し手たちの意識が変わったとしても(そうすると、たとえば「女はだまって男に従え」なんて言い方はなくなるでしょう)、言語構造レベルの性差別は解決できないと著者は反論します。それが、本稿の中心テーマである、フランス語における男性名詞・女性名詞の厳格な区別が引き起こすもろもろの問題ということになります。

 というんで、話を第4章に移します。第1節では、homme(人間、男)とfemme(女)や、人間集団を示す男性(代)名詞、女性(代)名詞が問題となります。
 たとえば、日本人の集団がいます。フランス語では、Japonais(男性形)といいます。99人女性で男性は1人しかいなくても、男性形です。一方、100人の集団で100人とも女性なら、Japoneises(女性形)となります。こうした事実から、総称的に使われる「男性形」は、基本的には「一般形」を示し、必要に応じて「男性形」の意味をもつ一方で、「女性形」はその名詞の特殊なケースを示すための形式だ、ということが指摘されます。



 5章では、名詞の性をなくしていこうと提案し、活動している研究者の試みを紹介しています。

(感想)

 私はろくにフランス語は話せませんが、読むために勉強をはじめた当初は、男性名詞と女性名詞の区別や、形容詞もそれにあわせて性が変化するなどといったところで苦労した覚えがあります。が、言葉のことだから仕方ないと思っていました(上の批判の立場でいえば、(1)といえるでしょうか)。
 日本語についても、ら抜き言葉は場合によってはむしろ自然に感じてきていますが、とつぜん出てくる新しい言葉には抵抗を覚える方です(あんまりな言葉は一時の流行が終われば消えていくようですが…)。
 一方で、言語構造それ自体の矛盾や問題点をしっかり見つめ直して、批判していく態度というのは望ましいとも思います。日本語については、島田荘司さんがその敬語がもつ問題点を指摘しておられますが、たしかにその点が改善されれば、いびつな威張り屋さんたちが生まれにくくなるのでは、と思います。
 …が、実際にそうした改革がどんどん行われると、私自身も抵抗も感じてしまうのかな、と想像します。
 言葉の変化について、少し話はずれますが、たとえば、ある種の差別語(とされてしまっている言葉)。筒井康隆さんや高田崇史さんのある種の作品を読むと、ある言葉に差別的な意味を与えるのはあくまでその時代その時代の社会に生きる人間で、「差別語だから使わないようにしよう」といろんな言葉を消していくのはそら恐ろしくもあります。同時に、それまで中立的だった言葉が差別語になる可能性もあります(筒井さんがおっしゃっている例を挙げればサラリーマン)。
 一方で、本稿でも論じられていますが、言葉には圧倒的な力があります。たとえ、以前は差別的意図をもたなかった言葉でも、それが差別語となり、その言葉で苦しむ方々が生まれる以上は、その言葉をただ擁護するのも身勝手なようで…。(もっとも、筒井さんや高田さんの作品では、その裏付けがあるので説得力があります)。とにもかくにも、難しい問題ですね。

 はじめにも書きましたように、私にはなじみのない分野の論文でしたが、とても興味深かったです。CDAという研究があるということを知ることができただけでも有意義でした。
(2008/08/26読了)





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Last updated  2008.08.29 06:37:29
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のぽねこ @ Re:銀色夏生『流星の人』(05/16) スパイシーチューリップさんへ コメント…
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