おしゃれ手紙

2010.04.26
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テーマ: 愛しき人へ(899)
カテゴリ: 父の麦わら帽子

銀の滴(しずく)降る降るまわりに、金の滴降る降るまわりに・・・。

そう歌いながら、文字を持たないアイヌは、口伝えに伝説や神話を残した。

右手の不自由だった父も、書くということはしないで、もっぱら、しゃべって、いろんなことを伝えた。

「ワシのお父(とう)は男ばかりの3人兄弟じゃった。
お父(とう)には、弟がいて、名前は健三郎と言ったんじゃ」
と父は話し始めた。

父が生まれるずーっと前の明治も30年代か40年代の頃の話である

健三郎の妻・タマノは、二人目の子供が生まれると産後の肥立ちが悪く、寝付いてしまい、とうとう命が危ないというところまで衰弱してしまった。

父の叔父、健三郎は「タマノが病気。すぐ来て欲しい」とタマノの実家にハガキを書いた。

タマノの実家は、同じ岡山県内とはいえ、嫁ぎ先から、歩いて半日の、「あらがたに」というにあった。


しかし タマノの父親は、文字を読むことが出来なかった。

誰かに読んでもらおう・・・。
タマノの父親は、そう思って、ハガキを懐に入れていた。
そして、一週間ほどが過ぎていた。

タマノの父親は、近所にもらい湯に行った。
着物を脱ごうとして、はらりとハガキが落ちた。


その場にいた人が、拾って読んで、ビックリして言った。

「おじい、タマノが病気じゃあ。
早よう、見舞いに、行かにゃあ!!」

タマノの父親はビックリして、翌朝、すぐ、タマノの元へと出発した。

しかし、駆けつけた時には、すでにタマノの死んでいて葬式も終わっていた。




あるときは、楽しく、あるときは、悲しく、父の話は続いた。

父の父、私にとっての祖父は、明治10年生まれ。
健三郎が若い頃、明治45年生まれの父は、まだ生まれていなかった。
しかし、その場に居合わせたかのようにしゃべった。

先日、娘たちと母の見舞いに行った時、ふと、タマノとその父親のことを思い出した。


生きている間にタマノに会えただろうにとタマノの父親の、無念を思った。
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◎自然と人間が仲良く暮らしていたころの話です。
★2020年4月日 **
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Last updated  2010.06.27 10:01:21
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Re:昔語:文字が読めたら・・・。(04/26)  
七詩  さん
銀のしずく、金のしずく…というのも素敵な言葉ですね。

ユーカラも口頭で聴いていた人は眼前に神話の情景をみるような思いで聴いていたことでしょう。
口伝えといえば、祖母が天明の飢饉の話をしていたのを覚えています。木の皮までも食べたという…それだって考えてみれば祖母が生まれるはるか昔のことですね。
(2010.04.29 05:49:46)

Re[1]:昔語:文字が読めたら・・・。(04/26)  
七詩さん

読むよりも聞く方が、情感が伝わりますね。
口伝という言葉もあるし・・・。

今よりも言葉が豊かに語られていたと思います。
飲み物、切符・・・今では、全てが自動になっています。

今や、無言でも生活できるのでしょうが、それはやはりさびしいです。

(2010.04.29 19:49:26)

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