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小学校の飛び込み授業に訪れると、
黒板にチョークや黒板消しが一つも置かれていなかった。
「子どもたちが先生に投げる“凶器”になるから隠している」
のだという――。 そこで起きていたのは、
なんと「小学2年生」による学級崩壊だった。
いったいなぜ、どのようにして、
小さな子どもたちが学級崩壊を引き起こしてしまったのか。
ここでは、菊池省三氏の著書
『 足型をはめられた子どもたち 』
(講談社+α新書)の一部を抜粋。
関西の公立小学校で目の当たりにした事態を紹介する。 ◆◆◆
関西圏のある公立小学校でのことです。
ここでは「2年生が荒れている」という実態を目にしました。
やはり授業をしてみると、
学級崩壊しているクラスに共通する
コミュニケーション不足の実態がありました。
大都市にあるそのエリアは、
けっして土地柄としては荒れている場所ではありません。
しかし、学校自体は
「2年生の様子が市内で噂になる」
「暴言、暴力がはびこって授業が成立しない」
「学級崩壊がかなり厳しい状況」
なのだと聞きました。
事前に事情を聞く機会があるなかで
「各学年が単学級(一学年一クラス)
であることも、荒れている原因」
という話でした。
「幼稚園のころからの持ち上がりの子どもたちも多く、
そのころから暴れる子がいた」
といいます。
想像したのは、
クラス替えがないがためにいい意味での緊張感や
フレッシュさがなくなっているのだろうということです。
実際に学校の中に足を踏み入れた第一印象は「普通」でした。
中学校、高校だと一瞥しただけで
その学校が荒れているかどうかがわかりますが、
小学校はわかりにくいものです。
その学校は校庭も綺麗で、
花壇もコツコツ手入れされている感じがしました。
そんなことを感じつつ学校の中に入っていき、
ふだんの様子を見てみようと、
私が行う飛び込み授業の前の時間の2年生のクラスを
廊下側の窓から眺めていました。
算数の授業でした。
4月に赴任してきて学級担任になった
30代の元気そうな女性の先生に加え、
女性の校長先生、他の数名の先生が教室にいました。
こんな様子が目に飛び込んできました。
野球帽を被ったふたりの男の子が
黒板前の先生の机に座っています。
授業の内容はまったく聞かず、
卓上の先生のノートパソコンをずっと見ています。
何をしているのか?
私は黙って教室の後方からその様子を眺めました。
ふたりは、ネットで野球の動画を見ていたのです。 阪神タイガースの動画のようでした。
なぜ私が教室の後方からそれがわかったかと言うと、
音量が大きかったからです。 女性の校長先生は彼らに話しかけていました。 「教室にいるんだったら、パソコン見ていいよ」 「でもボリュームは0から20のあいだにしなさい」 「他の人に迷惑だから」 要は教室内にいて、
騒ぎさえしなければいいということです。
その子たちは、もともと暴言を吐きまくり、
ときどきクラスメイトに対して手も出ていたと聞きました。
その教室は、
27人クラスでしたが、10人分の席が空いていました。
欠席の子もいたのでしょうが、
学校に来ている子に関しては、
廊下でサッカーをしたり、
運動場で遊んだりしているのです。 教室外にいる子が、
授業補助に来ている校長先生らに連れ戻されます。
ひとりが戻ってくると、
他の仲間の子が
「どこ行ってたん?」
と会話が始まり暴れ出します。
群れているのです。
その子たち同士での仲間意識があって、
教室が悪い方向に向かう。
手がつけられない状況でした。
騒がしいなか、
机に座っている子どもたちは
ワークシートという穴埋め問題のプリントを
黙々と解いていました。
一定の時間が過ぎると無機質なタイマー音が教室に響きます。
教室では、校長先生と授業を受けなかったり、
妨害したりする男の子たちとのやりとりが続いています。
「いま、そういうことをするときじゃないでしょ!」
などと校長先生が叫ぶ声。
また、先生の机で野球の動画を見ている子どもたちに対して、
幾度も注意していました。
「それ音量100くらいでしょ? 下げなさい」
日本では、2018年に文部科学省が教育のICT
(情報通信技術)化に向けた環境整備5か年計画を策定し、
子どもたちにノートパソコンやタブレットを持たせていますが、
ここで目にしたのはそれがおもちゃ化した実態でした。
パソコンの音量を下げる、下げない
のやりとりがエスカレートしたとき、
その子が校長先生の髪を引っ張ろうとしました。
私は「参観者」の立場を超え、
思わず子どもに声をかけました。
「君、それは……」
するとその子はさーっと逃げていきました。
このとき、
彼が私のことを睨みつけてきたのですが、
その表情はとても小学校2年生とは思えないものでした。
パッと見て肌の色から、
ご両親のいずれかが外国の方のようにも見えました。
いまの学校では当たり前のことです。
多様な子どもたちが学び合う場こそが、
公立小学校ですから。
その授業は終了のチャイムが鳴ったあと、
5分間延びました。
子どもたちはもう、チャイムが鳴る前に
ボールを持って運動場に出ようとします。
そして先生に
「5分延びたのだから、休み時間も5分延ばして」
と要求していました。
一方、この野球帽の男の子たちに対して
学校側がやっている対応は、放課後に
「たとえ6時間外に出ていても、
その日の簡単なプリントの問題を解けばいい」
というものでした。
彼らは10分で問題を解き終えることもあったようです。
算数の引き算の時間に外に出たのなら、
その分だけ「ひとり課外」が実行されているといいます。
これは、根本的なものごとの解決にはつながらない、
対症療法のように見えました。
廊下には杖をついたおばあちゃんの姿がありました。
何をしているのか。
孫娘が教室で怪我をするかもしれないから、
見守りに来ていると言うのです。
なかには弁当まで持って一日中教室を見張っている
という保護者もいるそうです。
横の教室は1年生が使っていました。
廊下にはついたてがあり、こう記されています。
「ここから先は2年生のゾーン」。
つまり、危険だからトラブルを避けるために
入れないようにしているのです。
一方、トイレの出入り口は
「常に開けておくこと」
になっています。
なぜならそこで子どもたちがたむろして、
突発的な事故が起きる可能性が高いとの判断からでした。
個室はもちろん開けっ放しとはいきませんが、
少なくともトイレの様子は廊下からもわかるようにしておく、
ということでした。
次の時間、私はその教室で飛び込み授業をやりました。
まず、最初に発した言葉はこれでした。
「チョーク貸してください」
黒板の下のチョーク入れに置いてなかったのです。
子どもたちが先生に向けて投げる凶器になるからです。
黒板消しもありません。
同じ理由です。
先生が自分で持っておくようになっているというのです。
そんな教室の光景は、
最初は「今風の学級崩壊」にも見えましたが、
じっくり眺めていくと「昔風の崩壊」でした。
一見、「対 先生」という軸がなく、
ただ好き勝手にやりたい子どもが暴れている
「今風」と思われましたが、
じつはベクトルは先生に向けられていました。
先生が子どもたちから追い詰められているのを
私が知ったのは訪問する直前でした。
もともとは先生がターゲットになっていたのです。
この学校への訪問は、
以前から知っていた男性の先生に
招いていただいてのことでした。
その年の3月末、依頼の主旨はこういった内容でした。
「学級崩壊で知られるこの学校に赴任することになった」
「新2年生の学年になる子たちがなかなか厳しい」
「教室での暴言、陰口が続いている」
4月が近づき、
その先生が「教務主任になった」と聞きました。
校長や教頭と同じくクラスを担任せず、
全体のケアをしていく役割です。
実力があるからこそ、
管理職に近い役割を任されるようになったのです。
もともと、その先生の専門は「学級運営」でした。
大都市では教科領域別に研究会があって、
先生たちがそこに属します。
その領域ではエースと見なされている先生でした。
実際に授業を見たこともありますが、
はきはきしていて非常にいい印象でした。
しかし、5月にはもうその先生は学校にいませんでした。
1ヵ月ほどしか耐えられず、
精神的に追い詰められて休職していたのです。
教務主任として、
時折このクラスにも道徳を教えに行ったそうですが、
かなりの暴言を吐かれたと。
「誰? あんた」 「うるさいねん」
そのまま7月に辞職してしまいました。
いまは他市で臨時講師として働いていて、
元気になっているそうです。
飛び込み授業に行くと、
その後はたいがい学校側と研修会やセミナーなどが
セッティングされています。
私はその日だけは
「呼ばれた立場で言うのは
いかがなものかと思いますけど、
だから、こっち向いて言いますと」
くるっと壁のほうを向いて、
こう話しました。
「これはね、学年を2クラスに分けたほうがいいですね。
単学級をやめたほうがいい。
2年1組と2組に分けるのです。
学年の途中であっても。
でないと、この担任の先生は潰れますよ。
いますでにひとり潰れているじゃないですか。
このままだと高学年ではもっと大変になります。
学校自体が崩壊してしまいかねません。
今だったらまだ間に合うと思います」
それから1週間後にこの学年は2クラスに分かれたそうです。
年度の途中にクラス替えがあるというのは異例なことですが、
学校側は私の「アイデア」を実行されたのです。
一方、この日、口にしなかったことがあります。
そもそもいまの授業の進め方がよくない、
ということです。
ただ受け身の授業で、面白くないから、
じっとしていられないのだろうと。
私が飛び込み授業で子どもたち同士の
コミュニケーションを仕向けても、
とても考えを話し合う
というような状況ではなかったのです。
文春オンライン
[YAHOOニュース]

今や、低学年だからと侮れない、
学級崩壊は起きてしまいます。
早めに食い止める、対処する、
学校全体での取り組みが大事ですね。 ☄