全1129件 (1129件中 1-50件目)
φφφφφ φφφφφボク、カメぱっぱが、「LINE」のスタンプで発売中 !!! 16種類が今、販売しているからLINEをやっている人は よろしくね。 ①LINE画面下にあるホームをタップする。 ➁ホームに移動したらサービスからスタンプをタッチ。 ➂検索マークをタッチしてカメぱっぱと入力する。 ④さらに検索マークをタッチすると出てくるよ。あとはやり方に従ってね。 米米米米米米米米米米 〇「カメぱっぱ」のホームページからも購入できるよ。米米米米米 〇カメぱっぱの連載は現在休筆中です。 今しばらくお待ち下さい。 by PLUTO
2022/10/23
コメント(4)
場所:帝国ホテル/孔雀の間 (本館2階) 日時:8月29日(仏滅) 室内中央に円形舞台(半径3m)朱色で統一。 〇舞台を囲むように地上波を含むTV局と全てのSNSのカメラがセット してある。総勢約300名の記者が指定時間前に集合していた。 〇13時に鹿川輝之登場。沈黙のまま舞台に上がる。 一斉にカメラのフラッシュがたかれた。 TV中継スタート。 〇鹿川ハンドマイクを手にとり、深々と頭を下げる。 「まだまだコロナ感染者が増え続け、医療施設の緊迫している問題や 政治家がカルト集団とそれほど変わらないところと、かなり親密な関係が 連日報道され、日夜、お忙しい皆さまにお集まり頂き申し訳ありません。 私、鹿川が起こした不祥事を某週刊誌にスクープされました。 不祥事の内容は事実ですので、それについては正式に陳謝いたします。 あるTV番組から急に売れっ子になり、私自身、有頂天になり天狗に なっていたのも事実です。番組関係者、スポンサー、大勢の私のファン に対し心よりお詫び申し上げます」 〇ここで鹿川、舞台中央で正座をして土下座する。 2分後、頭を上げる。「本当に本当に 申し訳ありません」 〇再度、土下座をする。そのまま1分30秒、頭をこすりつける。 〇立ち上がり 深々とお辞儀をし退場。 〇記者たち 追いかけるが、黙って去っていく。 γγγγ 土下座でスターになった者は、このくらいはしないと γγγγ ΩΩΩ PLUTOは休筆中ですが、ムラムラ(?)して書きました。 ΩΩΩ
2022/08/27
コメント(4)
¶¶¶¶¶ イザミ・地球に行く(29)¶¶¶¶¶ ホワイトハウスでオリバーが母星へ帰還する宇宙船と、それを打ち上げるロケットの調達方法、いつ実行するのかの会議が開かれて3日経ちました。 ワシントンDCとニューヨークにいた生田緑地の動物たちと、地下から来た赤膚族の2人に白肌族女王クリサーラ、それに怪獣2匹、人間側では木村のトメさん、桐山清十郎、澤登夫婦、今回はニューヨークを本拠地としたレジスタンスからトム・ジェンダーとメイ・パッセンジャー、ネズミ界の大ボス、グラッチマウスも社員200匹を引き連れて参加しています。 アラスカまでは大型トラック5台に分乗し、各自バラバラに集合地点に向かいました。到着すると北西部にあるロケットの部品生産工場や宇宙船を組み建てる工場から必要な部品と材料を盗み出します。監視している海底人が作ったアンドロイド型ロボットは、グラッチマウスの手下たちと、生田緑地の小動物の陽動作戦にまんまと引っ掛かりました。盗まれた後、自分たちのミスを隠すため管理者に報告しなかったのは、盗んだ方も大ごとにならずに助かったのです。 そこまでしてオリバーを帰還させるには、それなりの理由がありました。 トマソン大統領とそのスタッフ、クリサーラたちが目論んだのは、オリバーをアルタレス星に戻し、人類よりも全てにわたって進化したライヤ人とコンタクトをとれば、ひょっとして協力関係が生まれるのではと、期待が込められていたのです。 そうすれば海底人ボントスの理不尽な命令を効かなくても済むかもしれないとの淡い希望もありました。ライヤ人が地球に移住したとしても、海底人と異なり人間側との共存、共栄を願い、出来るだけの便宜を計らい、精一杯の歓迎体制を整える方向に決めたのです。それらを文章にしてオリバーに読み聞かせると、一字一句違わず3時間後に彼の口から流れました。オリバーの頭脳は創造力だけでなく記憶力も人類の90倍以上の容積を持っていたのです。 地球の大気成分にある0.0 3 %の二酸化炭素はライヤ人にとってそれほど問題はないのですが、むしろ酸素濃度が高いほうが気になると、オリバーは大統領に報告します。それよりも彼の喜びは、地球の飲料水、淡水がなんの制限もなく飲めることでした。母星では精製した水にミネラルなどの微量栄養素を混入して飲みますが、何か物足りなさを感じていたのです。それは人工の味ではなく、本来自然が持っている天然の味が最高に美味しく飲めたことです。 アラスカのアンカレッジに到着した動物と人間たち、スーパーアメリカンサーカスのスタッフと合流しました。すぐに演者と裏方に分けて打ち合わせと、訓練を開始します。訓練といっても明日から開催するので、銘々勝手に振り付けをして一匹、一人の演じる時間配分だけを確認しました。 ここで動物たちが明日に備えて練習している時間を利用して、意外に知られていないアラスカ豆情報をお伝えします。1867年ロシアから720万ドル(現在の約785億円)でアメリカが購入します。当時の世論は冷凍庫の大地を買って無駄な金を使ったとさんざん叩きました。その後、金や原油、天然液化ガスが産出されると、人びとが押し寄せ一躍人口は増えました。現在は日本の4倍もの面積に約62万人が住んでいます。首都はジュノーですが、人口は10万もいません。10万人を超す都市は、アンカレッジだけです。なおアンカレッジ州の州花は、忘れ草なので親しみがありますよね。今回最初のサーカス開催場所は、アラスカ大学アンカレッジ内にある公園で3日間だけの興行です。さあ、どんな出し物が登場するのかお楽しみに。 つづく ΩΩΩ 体調不良のためPLUTOは一時、母星へ帰ります。近日中に 地球に戻りますので、それまで連載をお休みします。 みなさんごきげんよう。お元気で ΩΩΩ
2022/08/19
コメント(4)
ΠΠΠΠ イザミ・地球に行く(28)ΠΠΠΠ クリサーラがトマソン大統領に話し続けます。「生田緑地から来た動物たちや地底から来た怪獣2匹、日本からの人間たち、赤膚族の2人もそろそろ退屈しているでしょう。このサーカスツアーと一緒に旅をして地元の子供たちと仲良くなるだけでなく、自分たちもショーに出て楽しむのです」 クリサーラを取り囲んでいた動物たち、目がランランと輝き、口々にいつ出発するの、私はどんな芸をすれば喜ばれるのかと、喋りだします。 赤膚族のザビエスも4mの岩石人間が宙返りをしたら、子供は驚いてひっくり返るなと笑っています。クリサーラの計画はすぐ実行に移されました。 たまたま休園中の<スーパーアメリカンサーカス>を国務長官が直々に交渉し、半年間、国が興行費を支払うことで合意します。 トマソン大統領がクリサーラに一枚の紙を手渡しました。「近頃はサーカス団でも人権同様、動物の扱いが問題になっているようだ。ここも1ステージ90分間で空中大車輪に空中オートバイ、空中アクロバット、驚異のジャグラー、華麗な空中バレーなどをメーンに行っているよ」「恐竜2匹やザビエスとデルフミューム、それに生田緑地の小動物たちを絡ませたら、素敵なエンターテーメントショーができますね」「動物たちが見世物になるのを嫌がらなければ良いが」「ニューヨークやワシントンDCのビル内に長期間、宿泊して飽きてきたので息抜きにはピッタリですよ。全匹、全員をショーに登場させるとなると、ディレクターは頭を悩ますでしょうね」「それは嬉しいな。これから私は国務長官と巡業のスケジュールを組み、スタッフと細部の打ち合わせをするから失礼するよ。諸君はこのまま、この広間を自由に使ってほしい。なんなら食事の用意もさせよう」「そこまですると、動物たちはここに居座り続けますよ」「構わない、なぜかこの連中と一緒にいると、私自身、ほっとして気楽になれる。分かったクリサーラ、それでは今日中にここを引き上げればよいことにしよう」「ジェームス、あなたは人間よりも動物たちの方が、気が合うのかもしれませんね。それだけ・・素直で正直な生き物ですよ」「普段、魑魅魍魎(ちみもうりょう)の者たちと交渉しているからね、裏表のないこの動物たちが羨ましい」 すかさずカメぱっぱが声を上げます。「それは、ない、ない、ここにいる生き物たちも、けっこう騙し合いをするパッパ」「それは遊びの精神でやっていて、互いに楽しんでいるからね。私が相手にしているのは、自分や自国の利益を守るために汚い手を使って、相手を蹴落とす連中でね。海底王国のボントスやその配下、ワイヤレントなんかはしょっちゅだよ。カメぱっぱ、みんなの食べ物は、すぐに用意させるからね」 カメぱっぱは、トマソン大統領の目を見つめました。「大統領、早く、地球全体が静かで平和になるといいパッパ」「それが私の願いだ。ひとつの国だけでなく、地球にある全ての国が幸せのベールで包まれて欲しい。それにはまだまだ山のようにやることがある。そろそろ私は行くよ」 部屋の右隅にあるドアに向かって歩き出す大統領、それを見送るカメぱっぱは、以前よりも彼が大きく感じました。 つづく
2022/08/14
コメント(4)
ΩΩΩΩ イザミ・地球に行く(27)ΩΩΩΩ カメぱっぱは、オリバーの目を見つめました。「温度や湿度が最適で、薄曇りの空のとき、広い野原に仰向けになって何も考えず、動く雲をじっと見ているときが幸せパッパ」「僕たちと同じだ。星のない夜空を見上げ、めい想に更けるのがはやっている。君はかなりの生き物だね」「ボクは雲を見て、食べ物や動物の顔に見えるのが楽しいパッパ。めい想とは関係ないよ」「動物の顔に見えるのもめい想の一種で、何かを観て、そこから発想を飛ばすのも知的遊戯のやり方なんだ。カメぱっぱ、君の知能が高いのは間違いない」 クリサーラが楽しそうに一人と一匹の話を聴いていましたが、そろそろ本題へと誘導しました。「オリバー、トマソンがすぐに集められる材料と、だめな材料のリストを持って来ます。あなたはこのまま国立総合研究所に行って、量子コンピュータで素材と各部品を製作するデータを入力してください。それを基にしたCADから材料を作るから、あなたはそれをチェックしましょう。この郊外に大きな倉庫を借りて宇宙船を組み立てる予定です。アラスカからワシントンまでそのまま運ぶのは難しいので、ほとんどバラシます」 ザビエスの頭に移動していたガマのビッグが声をだします。「アラスカの工場から宇宙船をちょろまかすのは簡単だが、それを運ぶとなると大変ゲロゲーロ。胴体部分など分解できないゲロ。それに軍事衛星の運営、管理は海底人が作ったアンドロイドがチェックしているのじゃ」 カメぱっぱが質問しました。「そうか、ロケットの胴体にカバーをつけても、衛星で追いかけられ写真に撮られたら、トラックでの運送がばれてしまうパッパ」「そうじゃ、すぐに宇宙船を盗んだのが分かり、大統領が呼ばれて大目玉を食らうのだグッアグッア」「ビッグ、ばれないようにするのには、どうしたいいのさパッパ」 悠然とビッグは天井を見上げました。「こんなときは、クリサーラさんが、とんでもない答えを見つけてくれるのだゲーロゲーロゲロゲロ」 白い光を全身から放射しているクリサーラが、5秒間黙っていましたが、急に笑顔になって一同を見回します。「アラスカからカナダを通ってワシントンDCまで、最低10台以上の大型トレーラーとトラックを用意してください、ジェームス。それは巡回サーカス団のキャラバンです。今日現在、営業していないサーカス団を探し出し、これから約2か月間のオファーを出してください。それならば衛星で写真を撮られても、胴体にカバーをつけた部分は、大型テントや機材だと言い訳が立ちます。アラスカから直接ワシントンDCに来れば不自然ですが、カナダで一ヶ所、実際に3日間の公演を行います。ここワシントンDCでも郊外で公演をすれば、海底人に脅かされ不自由な生活を送っている子供たちにも、夢と希望を与えると思います。ジェームス、このプランはいかがですか」 感極まった表情の大統領、大きく手を広げます。「すばらしい、それならば宇宙船を細かく切断せずに運ぶことができる。さっそくサーカス団とコンタクトしてみよう。サーカスか、やはり空中ブランコが一番観たいな。私が小さい頃、観たのは・・・」「ストップ、ジェームス、サーカス団は隠れ蓑だから、運送時や運転者、警備員は国が指定した人々に限ります・・・」 つづく
2022/08/09
コメント(4)
жжжж イザミ・地球に行く(26)жжжж トマソン大統領はオリバーの顔を正面から見つめます。「君たちライヤ人が我々人類を、上から目線で指図しようとすれば逆らうし、もし仲間として同等に考えるならば、私は協力することを誓う。クリサーラ、私が言っているのが全て本音だと理解しているよね」「ジェームス、私がいつもあなたの脳の中を覗いているとは思わないで。それでも今のが、ただの社交辞令の挨拶でないのは、承知しています。オリバー、この大統領はあまり駆け引きをしないで、ストレートな人です。たまに裏で側近たちに怒られていますが。それでもこの人は、世界中の人々を最大公約数で考え、最善の策を練って行動しているのは、間違いありません。ジェームス、オリバーが母星に帰還するための宇宙船を改造するときに必要なリストをお渡しします」 手渡されたリストを手早く読んでいた大統領の手が止まります。「クリサーラ、最後の方にある半導体の種類や特殊合金、誘導装置に©がついているが、これは」「それはまだ人類が開発していないもので、これから最新の量子コンピュータで設計し、CAD化してそこから製品を作るのです。ただし今回は短期間でやりますからデルフミュームやザビエス、それに私も手伝います。そのリストにある材料と部品が揃わないと、宇宙船は完成しません。ジェームス、今日中に入手可能なものと無理なものを調べてください」「相変わらず、大統領の私を小間使いのように扱うね。しかし悪い気持ちにはならない」 トマソン大統領、3人の側近を呼ぶと、要領よくてきぱき指示を与え隣の執務室へ移動します。その様子を見てクリサーラは、オリバーと一緒に動物たちの中に入ります。カメぱっぱがオリバーに話しかけました。「まだ少年のような顔をして、その頭脳は人間たちよりもはるかに進化しているなんて・・・神さまもいたずら好きだパッパ」 オリバーも奇妙な姿をした生き物に好印象を持っています。「たしか、カメぱっぱだよね、僕の星では・・と、言うよりもそれなりに進化した生命体では、神という概念はないよ。低レベルな生き物は理解できないことや不思議な事柄を・・それに何か頼ろうとするか・・多くの生き物を統制し鼓舞させる目的で神を作り、利用したに過ぎない。僕たちは生きている全てのものに価値があると思うから・・・僕たち自身が神だと考える。僕はライヤ人だが、まだこの広い宇宙には、はるかに進化、発展した科学水準を持ち、極限近くまで発達した頭脳を持つ生命体がいるのも知っているよ」「オリバー、君の言っている半分も分からないけどさ、教えてくれない、科学や知能が進んだ生物は幸せなのかパッパ」「僕もたまに思うよ、簡単に空を飛べて、こうやって数日で164光年以上も離れた星に来られるのが、良いことかなあって。知識や情報が短時間で洪水になって脳に流れるのが、幸せとは思わない。たまにあらゆる情報を遮断しないと脳が爆発するような気がするよ。カメぱっぱが幸せを感じるときはどういうときなの?」 つづく
2022/08/04
コメント(4)
γγγγ イザミ・地球に行く(25)γγγγ トマソン大統領は、ゆっくりと一同の顔を見回しました。「遅れて申し訳ない、昨夜、アラスカのロケット生産工場で小さな火災がありボントスの部下、ワイヤレントは事故がサボタージュならば、大きな罰を与えると言ってきました。スタッフと事故の原因とこれからの予防策を話し合い、海底人側に返事をしたところです。今回は大ごとにならないで済んだが抜本的な解決策を考えないと、いつなんどき奴らに攻撃されるかもしれない。その打ち合わせで遅くなった、すまない。クリサーラの隣にいる長身の少年がオリバーだね、もっと近くに来てくれないか、他の諸君は床に横になってくつろいでほしい」 クリサーラとオリバーが大統領のそばに移動します。「詳しいことは、昨夜、クリサーラから聴いた。君が異星人でその姿も本来のものから人間に変えたのもね。この地球が君たちライヤ人の住むのに適している星かどうかを調べに来たが、君は上層部の許可を取らず勝手に来たから、これから多くの問題が持ち上がるだろうとの話も聞いた。まず、地球の大気がライヤ人に適しているならば君は、急いで母星のアルタレス星に帰らなければならない。それとアルタレス星を離れている間に、君の仲間が他の天体に視察団を送り、ひょっとしたらここよりも最適な星を見つけたかもしれないよ。どちらにしてもオリバーは早急に帰還する準備をして出発しなければならない。我々も全力で手伝う。その理由はまだ未知数だが、海底人ボントスは人類を対等の生き物として共存共栄を考えていないということだ。それはもし、この星に移住することを決めた場合のライヤ人にも当てはまる。我々、人類を奴隷として扱うならばそれなりの抵抗をする。ただしクリサーラから聞いた話では、オリバー自身は、すでに仲間として付き合っているので、彼は信用して良いと言われた。私は彼女に友人として絶対の信頼を置いているから、それを信じる。ここまでは、いいかなオリバー」 端正な顔の白人男性になっているオリバーは、大統領へ慈愛の表情を浮かべました。「やはり人類にもあなたのような聡明な方はいたのですね。母星にいたときに学んだ地球人は、思慮が浅く粗野で知能が遅れた生き物でした。トマソン大統領、僕はライヤ人を代表していないから、ここで約束はできませんが、人類と共存していくのは可能だと思います」「人間はしょっちゅう無益な戦争をして多くの人々を殺して来た。わずか数年前までロシアという軍事大国が小国を襲い、理不尽な要求を突き付けたのだ。ロシアは原油ガスなどを大量に産出し、それをバッグに近隣諸国だけでなく輸出する国までもコントロールしようとした。力のある国が小国をじゅうりんし思いのままに扱う。人類が粗野で知能が遅れていると、異星人に思われても・・その通りだと思う。だがロシアの件はその時の大統領が突然、病死したので軍隊を引き揚げ以前のような、平和を取り戻した。それもいつまで続くのかと心配していた矢先に今度は、地底人や海底人が地表に進出、人間同士の闘いを中断して一致団結、敵と闘い現在に至っている。そんなとき、異星人のオリバーが現れて、まだ未定だが地球への移住を考えているという。オリバー、私の意見はただ一つだけです。それは人類を奴隷のように扱い自分たち種族だけの繁栄を目的とするならば断固として反対する。しかし私たちと交流を深め、お互いの平和と繁栄を目的とするなら、私は賛成し出来るだけの便宜を与えるだろう。それにこの星、地球を汚し続けたことを人類は恥じている。海底人に脅かされたのをきっかけに海の汚染防止と浄化活動を行っているが、それが手遅れだかどうかは解らない。だが、新しく来る生命体にも環境汚染には十分に配慮してもらう・・・・」 つづく
2022/07/31
コメント(4)
ИИИ イザミ・地球に行く(24)ИИИ 9分20秒後にハンバーグや色鮮やかな中華のケータリングがドサッと配達されると、動物たちは歓声を上げて食べ物に食らいつきます。クリサーラとオリバーはその様子を見て笑顔になります。オリバーが尋ねました。「地球の生き物って、食べ物に愛着心を持っていますね。こんなに幸せそうに食べるなんて、観ているだけでも楽しいですよ」「ライヤ人はあまり食事に興味がないのですか」「一日一食、高蛋白質の食事をゼリー状にして食べるだけです。決まった食事時間はないが、起きて3時間以内に済ませるから、大勢で一緒に食事をする習慣はないのです。だからあんなに和気あいあいと食べているのを観るのは、初めてですよ」「生物は食欲、生殖、睡眠が本能として遺伝子に組み込まれていますが、ライヤ人はその中の2つは重要視していないようですね。残る睡眠はいかがですか」「脳を使う頻度によって睡眠時間は変化するようです。僕も1日、3時間から5時間は寝ています」 クリサーラとオリバーが小さい声で話しこんでいる最中、居間で食事をしていた動物たち、腹が一杯になり笑顔で雑談をしていますが、リスのドールちゃんなどは、こっくりと居眠りタイムに入っています。それを見つめていたクリサーラがほほえみを浮かべました。「オリバー、この連中はここを気に入ったようですよ。このまま泊まるようになったら困るでしょう」「いいえ、僕はいっこうに構いません。どうせ明日、ホワイトハウスへ行くのならみんな一緒に行けばいいでしょう」「あなたがおあいそではなく、本音で言っているのが解ります」 クリサーラはカメぱっぱに状況を伝え、このままここに居座る動物と引き上げる動物に分けさせました。それの途中で少しだけオリバーの脳を覗いて見ると、珍しく笑い声を上げます。それは、居座るのが小動物だけならば良いのですが、4mもの赤膚族ザビエスなんかが残ったら嫌だなと思っていたのです。オリバーの気持ちが通じたのか、ザビエスは自分のねぐらに帰ると言い出すと、ほっとしてソファに座った様子を見て笑ったのです。 次の日、昼過ぎにホワイトハウス大会議室に集まった面々は、まずデルフミュームとザビエスの赤膚族2人、生田緑地の動物たち、澤登夫婦に桐山清十郎、クリサーラとオリバーは中央の椅子に座っていました。午前中にきゅうきょ開いた安全保障会議が延びた分、やや遅れて入室する49代大統領ジェームス・トマソンはゆっくりと、一同の顔を見回しました。 つづく
2022/07/27
コメント(4)
ζζζζζ イザミ・地球に行く(23)ζζζζζ「クリサーラさん、僕も同意見です。しかしそれがまだ、知的生命体の大部分に浸透していないのも事実です。力で相手を威嚇し組み伏せる、地球人に限らず他の天体にいる異星人も争いごとは起こっています。それも小競り合いだけでなく星間同士の戦争へとエスカレートする場合もあるのです。僕が知っている事実でも3つの大きな闘いがありました」「その結果はどうなりましたか?」「3つの惑星のうち2つは双方とも消滅しました。残りの1つも途中で闘いを止めましたが、国中の建物やドームは崩壊し修復が不可能な状態で大きな傷跡を残したのです」「闘いが起これば、両方に勝者はいない上、土壌は荒らされ多くの動植物が影響を受けます。あなた方ライヤ人の歴史をたどれば、そのような無益な闘いがあって大気を汚して、住むのが適さない星にしたかもしれませんね。イザミ、そろそろ本題に入りましょうか。まず、この地球がライヤ人に住むのか適する星かどうかは、2日あれば答えはでます。その後、人間たちのスタッフに会ってあなたを母星に帰す方法を考えます。海底人が設計した宇宙船は、アラスカという場所で大量生産しています。その船を一艘盗んで、あなたが改造すればそれほど時間をかけないで完成するでしょう」「僕が要求する素材や部品を揃えてくれれば、約2ヶ月で船は作れます」「空気成分の他に食料事情を調べなくて平気ですか」「ライヤ人は高蛋白質の食べ物を自給自足し、他は食べないのでこの星から食材の調達はしません。水はどの星に行っても飲めるよう、強力な濾過装置と微量のミネラルや必須アミノ酸を混入するものを持っています」「飲料水と食べ物は問題がなさそうなので、安心しました。他に要求するものがあれば教えてください」「もし上層部の判断で地球への移住が決まれば、地球人の指導者と話し合いをするでしょうが、詳しいことは僕には解りません」 ザビエスがクリサーラに頭を下げます。「クリサーラさま、オリバーのような異星人が現れると、海底人のボントスはどのような反応をするとお考えですか」「彼にすれば太陽系宇宙以外から来た異星人の知能や知識、科学が人類よりもはるか上で、自分たち海底人たちも及ばないとなると、ライヤ人を取り込み利用しようとするでしょうね。火星での基地建設の協力依頼をして、あわよくば異星人の先端技術も教えてもらう作戦を立てるかもしれません。オリバー、明日の昼頃に大統領と会う約束を取りますから、それまでに人間たちへ要求する物を整理してください」 軽くうなずいたオリバー、自分の左手首に向かって話し始めました。 つづく
2022/07/22
コメント(4)
жжжж イザミ・地球に行く(22)жжжж オリバー(イザミ)は自分の親友を相手にゆずる気持ちになり、笑顔を浮かべ左手首のチーフを外します。それをクリサーラへ差し出しました。「どうぞ、マジカとお話下さい。あなたなら言葉にしなくても通じるでしょうから」 それを受け取ったクリサーラは自分の細い首筋に巻き付けます。クリサーラがマジカと話すスピードは、ここにいる動物たちの会話の20倍で進みました。その間、他の動物はてんでばらばらに近くのものと、雑談しています。それではクリサーラとマジカの会話内容を要約しましょう。 まずアルタレス星の大気状況とライヤ人が安定して生活できる空気成分を訊き出し、地球の大気が適するのか相談します。次に海底人ボントスの地表における動静と、ニューヨークやワシントンDCでの動きを簡潔に説明しました。ボントス自身はほとんど海底王国にいて、地上には彼の忠実な部下2人が指揮をするのが、当たり前になっているのも追加します。 先ほどザビエスもいったように、海底人が新しい惑星を探査するための目的は、より良い大気成分を持つか、湿度の高い星を見つけ移住するための第一歩だという、クリサーラの意見にAIのマジカも納得し賛同しました。 話の後半になるとマジカもクリサーラのキャラに魅了され、体育系の後輩が憧れの先輩に接するような口調になります。そんなマジカへクリサーラは、軽い冗談を言います。「マジカのように賢いAIならば、イザミから離れてもどこでも引っ張りだこで喜ばれるから、このまま地球に落ち着くのも悪くないでしょうね」「クリサーラさん、地球人の言葉で恩義とか仁義がありますよね。私は自分で移動出来ない分、私を相棒のように扱うイザミを見捨てません。彼はややおっちょこちょいで独断専行の面はあるけど、私にとってただ一人の友達兼、兄弟なのです。例えイザミがライヤ人の上層部と衝突して干されても私は彼に就きますよ。その結果、私自身がAIとしての寿命を失ってもね・・・なんかクリサーラさんと話していると、本音で話せるから楽しいな」「あら、あなたの親友イザミがこっちを睨んでいますよ。彼の悪口を話していると早やとちりしているのかも。そろそろ声を出して会話しましょうか」 マジカとの会話が周囲にいる動物たちにも聴こえるよう、クリサーラは声を張り上げました。「それではボントスが人類を大勢動員して、火星へ基地を作り、自分を中心に限られた海底人だけで新天地を求め、そこへコロニーを作るのが目的でしょう。希望する星がこの太陽系宇宙にないのも知っているので、火星から打ち上げる探査ロケットで調査するのです。その結果、理想の星が見つかれば、それほど地球に未練はないでしょうから、第二の別荘地程度で利用するかも知れません」 イザミがゆっくりとクリサーラに近づくと首筋に巻いたチーフを外します。「マジカはやはり僕以外の人には、似合いませんね」 笑顔になったイザミは自分の左手首にチーフを撒きました。「あとでクリサーラさんとの会話を教えてね、ところで海底人のボントスが地球を見捨てるときが来れば、海中を含む環境汚染をそのままにして、人類へ嫌がらせをしませんか。これまでの人間が地球を汚し放題にした罰として」 クリサーラはイザミを見つめます。「その可能性はありますね。地底人のブッチャ―同様、ボントスも人間が繰り返し行った戦争で他の動植物を絶滅に追い込んだ責任などを傍観していました。しかしいつかはそれに気づいて地球規模で汚染を取り除くと信じていたのです。それが21世紀にもなって、ようやく重い腰を上げる様子に今までの怒りが爆発したのでしょう。その気持ちは、少しは理解します。その怒りが力で人類を抑えつけ、意のままにしようとしたのです。それは結局、自分たちが軽蔑し下に見ていた人類と同じ行動をとりました。極限の知的生命体は、暴力で相手を打ちのめすのではなく、論理的思考で双方が納得することです。オリバーは、この考えに賛同しますか」 ワシントンDCの郊外にあるオリバーの邸宅に集まった動物たち、寝そべっているもの、雑談をしているものがそろそろ腹を空かしてきて、キッチンの方を眺めています。 つづく
2022/07/17
コメント(4)
ΞΞΞΞ イザミ・地球に行く(21)ΞΞΞΞ ガマのビッグはカメぱっぱのお皿を座布団代わりにして、座っています。「オリバー、イザミよりも言いやすいからワシはオリバーにするゲロゲロ。海底人といっても一枚岩ではなくてな、現在、ボントスという王様が実権を握り、人類に様々な命令を発しているが、彼のやり方に反対する皇女、エリーゼと海底王国のインフラを管理、運営しているAIの『マザー』が人間側の味方になっているのじゃグッアグッア。オリバーは地球へ来る前に学習したから知っているだろうが、海底人の前に地底人、赤膚族のメルトン・ブッチャーが主な国とその都市を占領したのだゲーロゲーロ。それをブッチャーの兄貴、デルフミュームさんと、ここにいる白肌族女王、クリサーラさんの活躍で、ブッチャーを第三地下層にある岩牢に押しこめた。だがそれをボントスがすぐに解放してしまった。フゥーゲロゲロゲロ、ここまでは、いいかなオリバー」「はい、ここ数年間、地球がどうなったのか、おおよその流れは理解しているので・・逆に、僕の方から質問していいですか」「オリバー、ここにこれだけの動物がいるのじゃ、難しいのは別としてなんでも答えられるぞゲーロゲーロ」「まずブッチャーが地上侵略した目的は、自分たち種族の人口が減るのを防ぎ、人類をモルモットにして出生率を上げるためでしたが、海底人、ボントスの目的がなんであるのか解りますか。月面と火星に基地を作り太陽系以外に進出するのはなぜか?」 それまでオリバーの顔を見つめていた多くの動物たち、ふと一斉にあらぬ方向へ顔を向けます。ビッグが指摘した難しい質問が最初からきたので、オリバーの視線から身を隠しました。それまで大きな体を縮ませて床に横になっていたザビエスがオリバーの方に首を上げます「海底人にとって地表の環境は、それほど適していないのかもな。彼らはまず空気が乾燥するのを嫌う。ホワイトハウスの会談にわざわざ海底から強力な加湿器を運んだくらいだ。ところでアンタも今は人間の形をしているが、もとの姿がどんなものか教えてくれないかな」 オリバーは、ぶっきらぼうに話す地底人になぜか親近感を覚えます。「本当のことを言うと、みんな、ひっくり返るよ」「俺もご覧の通り、皮膚が岩石で身長も4m近くある。地球人の尺度では決してハンサムとは言えないがね」「ハンサムの定義はよく知らないが、僕の顔はのっぺら坊で目は線で描いたように細いし、鼻筋もほとんど隆起していないよ。身長は約2m、ひょろっとした細長い身体でね、地球へ来る前に顔と体は大幅に代えたからね」「手術は細胞をいじくるレベルだから、メスを入れた訳ではないよな」「全身がすっぽりと入るカプセルの中で、約20種類の波長が違う光線レーザーを使い、細胞そのものを変化させる手術だからメスは使わない。地球人の顔、姿の設計図を入力してあるから、30分くらいで終わったよ」「地底人や海底人の科学よりもかなり進んでいるな。オリバーのさっきの質問だが、ボントスは海底人に適した星を見つけるのが最大目標だと思う。大気成分と環境状況が彼らの死活問題とすれば、地球脱出を急いでいる理由にはなるな」「太陽系宇宙の外から来たボクなら、おおよそのデータ、生命体が住むのに適している星がどこにあるのか、教えてあげられるのに」「ライヤ人が生活できる星は、オリバーの近くにはないのか」「みんな一長一短あって、大気成分が良くても温度が摂氏マイナス180℃とかね。それで地球へ来たの」「ボントスに接近し奴らと取引するのもひとつの考えだな。オリバー、海底人と手を組むなよ、そうすると俺たちの敵になるぞ」「ザビエス、それはこれから会う人間界のボス、ここの大統領やクリサーラさん、そしてここにいる皆さんの協力でどうにでもなりますよ」 ザビエスがクリサーラに向かって大きく手を広げました。「クリサーラさま、この異星人は我々を脅迫しています。どうか、頭の中をゴシゴシかきむっしてくれませんか」 笑顔でクリサーラが応えます。「オリバーは海底人の身勝手な要求を十分に知っています。力で相手を抑えつけようとすれば、その反動はその力の数倍になるのです。かといって地球人と無条件で手を組む必要もありません。オリバーの考えはただ一つ。自分の種族が住むのに適した星を見つけ、それを母星に報告すれば今回の目的は達するでしょう。あなたがたライヤ人が理想とする大気成分を教えてくれればすぐに答えはでます。その前にオリバーの手首に巻き付いているマジカに直接話しかけて構いませんか。地球の詳しい空気成分のデータを送付しますから」 一瞬、ちゅうちょしたオリバー、クリサーラが卓越した能力の持ち主であるのを思い出し、味方になれば大きな力になると判断しました。 つづく
2022/07/13
コメント(4)
ΨΨΨΨ イザミ・地球に行く(20)ΨΨΨΨクリサーラとオリバー(イザミ)との会話は続きます。「人口知能と量子コンピュータが一体になり、人間の脳に匹敵する能力があれば、アンドロイドへ移植すると、人間などは凌駕しますね。あなたの星ではライヤ人よりもアンドロイド型ロボットの数が多いでしょう。単純労働だけでなく知的労働のほとんども任せていますね」「クリサーラさん、あなたの考察力は素晴らしい。私たちライヤ人は労働する必要がないので、各自がアートやオリジナリティーを追求し、自分だけのアイデンティティーを確立しようとしています」「ところでオリバーはいくつになりますか」「アルタレス星では14歳ですが、地球人が考える大人の概念は12歳からなので子供ではありませんよ。人間だと多分、30歳位の経験値と思考能力だと思いますが」「ライヤ人の平均寿命っていくつくらいか解りますか」「270歳程度です。約10年くらい前には軽く300歳を超していたが、最近は300歳過ぎの者は少なくなりました。その理由の一つに大気成分が悪化して地球でいう酸素のようなものが、極端に少なくなってきました」「平均寿命が短くなった他の訳とは」「言いずらいのですが・・・総人口の10%以下に値するランクAの支配階級層が、それ以下の人口を制御しようとしているからです。私たちは統計に基づいた出生システムを取り入れ工場生産をしていますが、A級のみを増やせば競争原理が崩れ、必然的に寿命も短命になるのです」「・・・オリバー、いえ、イザミは過去に1回A級への進級テストに落ちて、この地球が新天地に適するとのデータを持って帰れば、高等会議所が無試験で自分を昇級させると判断したのですね」「どうして、そこまで、僕は心の中にバリケードを張って、あなたが脳に入り込まないようにしたのに・・どうして」「まだその程度のバリヤ―では不十分です。イザミ、この地球にライヤ人が移住できる条件は、まず海底人を排除するか、手出しをしないような環境を作らないと困難です。もしあなた方がこの地球に宇宙船で飛来すれば、当然、海底人は撃ち落とすでしょう。それを防御するだけの兵器があれば話は別ですが」「海底人が持つ重力制御装置なら、私たちは恐れません。ライヤ人の最新兵器は7キロ先の目標物を一瞬で消し去る光線集約砲で、彼らのものとは比較になりません」「光は直進し障害物があれば、そこで途切れますが」「私たちの科学は光が物にぶつかっても、それを迂回して真っすぐに進むような装置を開発したのです」「その光線砲はレーザーのようなものですか」「光の筋を束ねて威力を増大させる考えは同じです。しかしそれよりも強力で半導体レーザーを改良しマイクロ波を集約したのです。光は直進するのが当たり前で、物にぶつかれば消滅するのを、マイクロ波に回転を与えることで突き当たっても先に進みます。ただし何回か障害物に当たれば威力が衰えるので効力持続距離は約7キロです・・・」 オリバーがまだ説明を続けようとすると、ガマのビッグが止めました。「兵器の性能をこれ以上訊いても、しょうがないわいゲロゲロゲーロ」 つづく
2022/07/08
コメント(4)
δδδδδ イザミ・地球に行く(19)δδδδδ 4時57分、ワシントンDCにあるオリバー邸の広いリビングには大勢の生き物がくつろいでいる。カメぱっぱとガマのビッグ、タヌキのポンポンチッチ、リスのドールとリンゾウ、リンゾウがドールのそばに行くとドールは、猫のヨシコの背中に逃げ出す。それをにこやかに見ているカッポウギンコ。 ハクビシンの新之助に犬のゴロータ、壁際の調度品を隣の部屋に移動し、広いスペースを確保して床に横になっている赤膚族のザビエス、それに白肌族女王クリサーラはソファー中央に座っていた。今回、二本足(人間)は海底人からの急な要請でその対応に追われ誰も参加していないが、クリサーラが今夜、オリバーとの会談内容をトマソン大統領に伝えることになっている。 異星人のオリバーは初めて生で見る動物たちに興奮したが、口を開くといずれもフレンドリーで気兼ねなく話すので安心した。アルタレス星では経験したことがない友人と素直に喋るという雰囲気を異星で味わっている。雑談がてらの話もそろそろ佳境に入ったところでクリサーラがオリバーへ尋ねた。「オリバー、私は動物の脳に侵入し、その考えを探ることができます。先ほどから話している途中、あなたは頭の中で誰かに質問しているのが4回ほどありました。たしかその相手をマジカと呼んでいますね。ぜひその方を紹介してくれませんか」 オリバーは目の前にいる小柄な女性が人間と違い、計り知れない能力と知能を持っているのに驚いていたが、まさか超能力まであるとは。 自分の考えが読まれてしまうなら、これからは脳にシャッターを降ろしてブロックすることにしよう。知的生命体が進化すると、テレパシーだけでなく相手の脳に入り込み読み取ることが出来る上に、入って来る念波をブロックする術を知っているのだ。赤膚族のメルトン・ブッチャーやデルフミューム、クリサーラなどがそのわざを使えたが、同じ種族でも使えない者の方が圧倒的に多かった。なおライヤ人でも使えるのは全体の約2割であるが、上位のAランクとは限っていない。イザミ(オリバー)がAIのマジカと会話出来るのは、心の中でつぶやけば応えてくれるので重宝している。 クリサーラに嘘は通用しないのを承知したオリバー、顔を向けた。「僕の手首に巻いているチーフの中にAIチップがあります。マジカといって僕の友人です。地球へ乗って来たオンボロ宇宙船はもう役に立たないので海中深く沈めましたが、そのときの船に設置されていたAIです。どういう訳か気が合い、こうやって行動を共にしているのです」「AIと量子コンピュータがドッキングした『マザー』という素晴らしい友を知っていますが、その本体は海底王国の中にあります。それに大きさは巨大なものですが、・・あなたのマジカはそんなに小さくて軽いのですね」「私たちライヤ人も当初は、ホストコンピュータと接続されたAIが主流でしたが改良を重ねチップ化に成功しました。最初はCPU演算能力、1秒間に300万回の浮動小数点演算ができる速度を・・・たしか地球人は3メガフロップスとしているが、その速度を1秒間で約41.5京回(兆の上の京は10の16乗の数値)にするには、たいして時間は掛かりませんでした。現在マジカは京の1000倍以上のスピード、演算能力があります。人の言葉を理解して会話をするには、その程度は必要です。自分で考えるだけでなく感情を表現するにはまだ改善する余地があるのです・・」 つづく
2022/07/04
コメント(4)
¶¶¶¶¶ イザミ・地球に行く(18) ¶¶¶¶¶オリバーは銘々勝手にくつろいでいる動物たちを見回した。「僕がいるアルタレス星では、年々、大気成分が希薄になって、これから何十年も住んでいられなくなる。僕は上層部に許可を得ないで、勝手に地球へ来た。その目的はもしここが住む環境に適しているなら、戻って報告する。そうすれば僕たちライヤ人は、絶滅の危機から逃れられるかも知れない。もし移住してもこの星にいる先住民や生き物とは、共存、共栄を図るつもりだ。ここまでは理解したかな」 カメぱっぱは、自分たちがまだ何も話していないのに、名前までも知っているのが不気味でもあり、頭の上にいるガマのビッグにつぶやく。「ビッグ、この人が言っているのは信用できるのパッパ」「目を見ていると嘘をついているようには見えないゲロゲーロ」声を大きくしてビッグは、オリバーへ顔を向けた。「ワシはガマのビッグというものでな。オリバー、まず君がワシらとこうやって話せるのは、通常の人間ではない証拠じゃゲロゲロ、このワシントンDCにいるのはホワイトハウスが目的で、ここが世界の政治の中心地であるのを知っているからじゃな、ところで今、海底人が人類をコントロールしているのは承知しているのかグッアグッアッ」「この星に来る前に、地球の現状や過去の出来事を勉強したから、おおよそのことは解っているよ。ビッグ、人間は海底人に逆らえないと諦めているの」「今のところ、人間の力など彼らにとっては赤ん坊以下だろうなケロケロ」「海底人が人類を脅かし、けしかけ急いで宇宙基地を作らせ、火星基地から太陽系以外の星に行こうとしているのは、なぜだろう」「そうか、地球の空気か環境か分からんが、彼らにはそれほど適していないのかゲーロゲーロ」「まだ断定はできないが、その可能性はあるよね。海底王国では自分たちに合った空気を生産していたが、地表では適さないのかも知れないよ。それが急いでいる理由になるよね」「オリバー、この近くに住んでいるのか、それともホテル住まいかなゲロケロ」「一軒家に住んでいる。どうして手に入れたかの質問はなしだよ」「住所を教えてくれれば、今日の5時ごろ、訪問して構わないかグッアグッア」 夕方に再会するのを約束して立ち去るオリバーを見送る4匹。カメぱっぱが口を開く。「悪い生き物には見えないが、かと言って、手を携え協力しながら一緒にやるタイプには見えないパッパ」ビッグも同調する。「ワシもそう思う。これまで会った人間とはかなり違うなゲロゲロ。ここの大統領にしても鋭いし賢いが、たまにほっとする余裕を感じる。しかしオリバーの言葉には計算された冷たさが気になったグッア、グッア、異星人というよりも彼の出生や環境の影響かもしれない」「夕方、彼に会いに行くとき、誰を連れていくのチッチ」ポンポンチッチがビッグに尋ねる。ビッグが応える前にドールちゃんが口をだす。「そりゃあ~~我らのクリサーラちゃまに聞かないとツウーナイト」「そうしようゲロゲロゲロ、彼女なら最適な答えをだすじゃろから」 つづく
2022/06/28
コメント(4)
ζζζζζ イザミ・地球に行く(17)ζζζζζ 豪華なソファーで一人くつろいでいるオリバーの視線は天井を貫き、青い空の上、大気圏外の暗黒の宇宙、その遠い先にあるアルタレス星を見据えている。昼過ぎに散歩がてら外へ出て土壌のサンプルを3本目の試験管に入れていたとき、オリバーを木の上から見つめている小動物がいた。ワシントンDCと言えば日本から送られた桜が有名だが、この地で品質改良したサルスベリが道路際に植えられている。いずれも樹高3~4m、枝張り約2.5m、小ぶりで、その中の一本、てっぺん近くからじっと睨んでいる動物がいるのだ。 人間と違って頭の後ろに目があるので、先ほどから気付いてはいた。実際は目があるのではなく電波に似た念波を出して、その者を把握している。「土なんか採ってどうするの、それにアンタの匂い、今まで嗅いだことがない」 言葉遊びが得意なドールちゃんも警戒しているのか、普通の言葉を使っている。 試験管に蓋をしたオリバー、下を向いたまま声を出す。「こんにちは、土の中にある成分を調べると、この星の生長期間などが解かるからね。僕の匂いはどんな匂いなのかな」 ようやく警戒注意報を解いたドールちゃんは、オリバーの近くまで降りてくる。「二本足やアタイたち小動物、地下から来た恐竜、それに地底人や海底人の体臭とは全く違うね・・・ひょっとして・・他の星から来た生物かなかな」「鋭いね、僕の頭にある人間が作った百科事典では、そうか、リスという動物だね。そんな小さい体なのに脳はシャープで口も達者とは・・・よろしく、名前はなんていうの」「ドールよ、日本と言う国の生田緑地からやってきたホンドリスで、リス科の中では一番頭が良くて器量よしよしな~の。その上、由緒正しい血統で決闘をしたの、ところでさっさ、アンタはどっから来たのよ」「地球がある太陽系宇宙の外から来た。星の名前はアルタレス星というよ。僕の名前はイザミだがここではオリバー・ベンジャミンと名乗っている」「オリバー、地球には何しに来たのよ、正直に答えな」「地球人は観光というよね、目的なくふらっと風光明媚なところを、ぶらぶら行くつもり」「オリバー、カンバック、ツーミー、アンタ、嘘が下手ヘタヘタにぶら下がるヒョウタンぶらりんこ、そんな人が土ころを採って、その成分を調べっか閣下。下手な嘘をつくんじゃ~ないない」「ドールちゃんの言葉は一部解らないが、やはり鋭いな、正直に言うね。この地球を乗っ取るつもりで来たの。おや、いつの間にか僕の後ろに2匹いてこっちを見つめているよ」 のそのそ登場したのは、タヌキのポンポンチッチとカメぱっぱ、それにカメぱっぱのお皿の上にちょこたんとガマのビッグまで座っていた。 オリバーは生で奇妙な生物たちを見ながら、そっと左手に巻いた黄色のチーフを軽く叩く。頭の中でマジカにつぶやく。「この小動物たちが、安全かどうか調べて」 すぐに頭蓋骨が共鳴する。<安全だけでなく、地底人に対し人間と共に闘い勝利し、地球環境を守るために現在も海底人と闘う正義感あふれる生き物です。右からポンポンチッチ、背中に甲羅があるのがカメぱっぱで、その上にいるのが長老格のビッグです」 オリバーはマジカの報告を聞いて演技する必要がないと判断する。「タヌキのポンポンチッチ、それにカメぱっぱとビッグ、まとめてコンニチハ、僕は遠い星から来た異星人で、この星ではオリバーと名乗っています。それでは僕が地球へ来た理由を説明するね。・・・・・」 つづく
2022/06/23
コメント(4)
γγγγγ イザミ・地球に行く(16) γγγγγ 大きなベッドに寝転んだオリバーは、声をだした。「マジカ、あの親子は地球人の中でも特別なサンプルなのかな、僕がアルタレス星で学んだ人間生態学では、あんなにデリカシーがあって他人を親切に扱うなんて、どこにも書いてなかったよ」 ベッドの右横に置いてあるAIチップを包んだ黄色のチーフが震える。<どこの星にも感受性が優れ、思いやりのある生命体はいます。残念ながらごく少数派ですが。この地球でもあのような人間は少ないでしょう。それでもここに来て最初に親しくなったのが、クロホード親子で良かったです>「どうして」<私自身、人間の会話から言葉だけではなく、心で思うことや考えているのを探ることが出来ました。科学や知能が劣っている人類が、精神構造の奥ゆきと人情のきびなどは、上位の生命体ライヤ人とそれほど遜色がないのを理解しましたから>「僕が近日中にシカゴへ会いに行くと言ったのは、社交辞令ではなく本音だからね、心の片隅ではダンの仕事を手伝い、シャーロットと様々のことを互いの目を見て話したいと思う。それでも今回の目的を忘れてはいない。まずここの大気成分のデータはそろったが、水の大きな貯蔵庫、海がこの地球でどんな役割をしているのか、再検討しよう」<海の水が蒸発して雲となり大地に雨となって降り注ぐ、それが一部は内部のマントルを冷却し、大部分は海に戻る。この循環サイクル以外にですか>「海の持っている浄化作用とバクテリア、プランクトン、微生物の成長状況、生物の食物連鎖を調べれば、この星の賞味期限が判明する。ライヤ人がアルタレス星から移住するにしても、賞味期限が短いと意味がないからね。マジカは飛び交っている電波から情報を引き出し、現在、地球を実質、支配している海底人のデータを集めて分析してほしい」<それは近い将来に備え、海底人とぶつかることを想定しているからですね>「地球人を重力制御装置で海面を上昇させるなどと脅かし、宇宙基地やそれら機材を運ぶロケット生産工場などを、短期間で作らせるなど、彼ら海底人はひょっとして、この星の寿命が短いことを察知したのかも知れない。もしそうなら、その原因を探るのが第一優先になる」<了解です。それに海底人のウイークポイントも調べましょう。人類が進化する過程であのような体形と顔になるのは、間違いないのです。知能と科学の発展が脳を大きくさせ、身体能力と筋力を退化させればライヤ人と同じような姿になりますからね>「僕が地球に来るために、体を大幅に改良し顔も作り替えた。この星にある重力は、ライヤ人にとってかなりのハンディで、今までの体と地球で生活するのは困難だと思う。大気が希薄なアルテレス星だから細長く筋力のない体でいられたが、ここでは無理だね。スミソニアン博物館を飛ぶように歩いていたクロホード親子は、完全に異星人だったよ」<イザミ、ここではあなたが異星人だと言うのを忘れないで。それではしばらくの間、私は電波をウオッチングし分析するのであなたの相手はしません>「ひどいな、マジカは僕の友達だと思っていたけれど、嫌々ながら相手をしていたの」<お答えしません。2時間ほど喋りかけないで> つづく
2022/06/19
コメント(4)
ΛΛΛΛΛ イザミの冒険(15)ΛΛΛΛΛ ダンがオリバーへ顔を向けた。「こんなに居心地がよい部屋はめったにない。このインテリアを考えたのは、さぞかし著名な人だろうな」オリバーは英国宮廷の内部が載っている写真を、記憶の貯蔵庫より引っ張り出す。「壁面、床、天井の色と模様が総合的にマッチして、居住者の癒しを増大させますね」 ダンはシャーロットへ話しかける。「目の前の男は、もっとくだけて喋れないのか、教養があるのは承知しているがね」「それがオリバーの良いところなの、現代は軽薄な言動がもてはやされるけれど、間違っていると思うわ」 急にとげとげしいムードになったのを察知したオリバー、素早くマジカに頭の中で発信した。「この場を治める軽い言葉を教えて」 頭蓋骨が小さく共鳴し、そのセリフをオリバーが復唱する。「ゴージャスな雰囲気もクールだが、中央の壁にシャガールの絵画を飾りたいな」 クロホード父娘は呆然としてオリバーを見つめる。シャーロットが立ち上がり大声を出す。「すごい、そうよ、この部屋とシャガールはドンピシャよ。ね、パパ」「おい、オリバー、君という奴は、とんでもないセンス、いや、才能があるな。今度私の店に来てくれ、店の中のインテリアだけでなく商品棚やレイアウトをチェックしてくれないか」 ダンとシャーロットの2人はオリバーのファンどころか、憧れのスターを見る目付きになっている。なお少し経ってから、ダンはオリバーを試すつもりでシャガールの絵の中で、あの部屋に合うのはいったいどんな絵かと尋ねた。それに対しよどみなく答えた絵のタイトルは、「春の天使」「愛しのベラ」それに「冬と春の合間」の3点だ。 その日のディナーは、宿泊しているホテルのレストランでとった3人。 最後のほうになってダンがオリバーを見つめた。「明日、シカゴに帰る。オリバー、君の体調にもよるが、どうだこのまま一緒に来ないか、泊まるのは我が家でも、ホテルでもいい。君はやりたいことをやればいいが、私の希望は私の会社で、役員として働いて貰えれば嬉しい」 シャーロットもオリバーを凝視する。「ありがとう、ダン、僕みたいな住所不定、身元も不明な怪しげな者をそこまで信頼してくれるなんて、シャーロット、君にも礼をいう。君との会話は僕の脳をリフレッシュさせ、創造力をかき立て活力に代えてくれた。あなたがた親子とシカゴに行きたいが、私はここワシントンDCでやることがあるのです。そこでお願いがあります。2~3ヶ月後、2人に会いたくなったらシカゴへ私が行きますが、宜しいでしょうか」 シャーロットが両手を広げ駆け寄ると、力一杯抱きついた。すぐにダンも2人を抱きしめ双方の背中をさすり続ける。前夜はワインを飲んだら各自の部屋に引き上げたが、この夜は途中でクラブへ移動した。そこでしこたまブランデーを深夜まで飲み続ける3人。なおオリバーはアルコールを飲んだことはないが、ライヤ人にはアルコールに限らず異物や不純物を瞬時に追い出すホルモンが分泌されているので、酔っ払うことはない。 クロホード父娘の酔っていく過程を見ていて、それに合わせて演技をしていたのだが、後半は愉快になって本気で楽しんでいた。 翌朝、早い時間にクロホード親子は自家用飛行機でシカゴへ飛び立つ。 シャーロットの希望で別れの挨拶は嫌だからと、オリバーが寝ている間に去ることにしたのだ。それをスマホのメールで知ったオリバーは、誰もいないベッドルームで声をだす。 つづく
2022/06/15
コメント(4)
ζζζζζ イザミの冒険(14)ζζζζζ「なんか、こうやって身体の中で話していると一心同体のような感じだね、マジカは別な人物ではなくて、僕の一部だと思う、相棒、ヤバクなったら頼むぜ」<そんなゲスな言葉を使ってはいけませんよ>「ゲスだってそうだろう」 まだまだイザミとマジカの会話は続くが、この辺でイザミ(オリバー)が地球に着いてから物語は早いテンポで進んでいるので、簡単に状況を説明しよう。 シカゴでスーパーを3店経営しているダン・クロホードが短いバカンスを娘のシャーロットとハワイ・オアフ島で楽しんでいた。そのクルーザーへ突如、オリバー・ベンジャミンが現れる。彼はなぜか漂流していたので助けたが、仲良くなって話し始めると、若者特有の図々しさや自己中的な言葉や態度はなく彼(イザミ)を2人とも好きになる。ダンの自家用飛行機で本土まで一緒に行動を共にし、オリバーがワシントンDCに家を貰ったというので、シカゴではなくDCへ向かい取りあえず高級ホテルに宿泊した。オリバーの幅広い教養にシャーロットは夢中になりアタックを開始する。女性経験のないオリバーは、宇宙船にあったAIと友達になって常に身に着けていた<マジカ>の適切な助言でなんとか乗り切った。明日はオリバーの一軒家へ3人で行って、確認する予定だ。母星のアルタレス星でイザミの指導員ヤジカ先生が、地球全般や人類の生態、行動心理学まで調べ、イザミにそのデータを渡した。 それを短期間でマスターさせたから、イザミが誰からも好かれるタイプに変身するのは雑作もなかったのだ。さて、それではオリバーとクロホード親子のその後を追いかけることにする。 ワシントンDCに初めて来たクロホード父娘は、ホワイトハウス前で記念写真を撮り合い、スミソニアン博物館の中にある航空博物館や自然史博物館、ギャラリーを早足で観て歩いたが、後をついて回るオリバーの額には汗が噴き出していた。 ようやく12時30分になってシャーロットがオリバーの家に向かおうと言い出したとき、思わず意味もなく彼女を抱きしめたい衝動にかられる。 東側12区にある一軒家が立ち並ぶ街並みでタクシーを降りる3人。首都に付きものの猥雑さはなく、きちんと手入れされている木立と庭の植木、軽装でジョギングをしている人たち以外、歩行者もいない閑静な佇まいに見とれている。目的の家の前にスーツを着た50代の男が3人を見つけ近寄って来た。「私、ワシントンDC、コロンビア特別区公認の公証人でジム・マッケンローです。オリバーさんにこの家を贈った方やそのいきさつを私が知る立場でないことをお伝えします。この書類にサインすれば法律上、あなたの私有物になります」 7枚の書類、最後のページにオリバーがサインをすると、マッケンローと名乗った男は2組の鍵を渡し、あたふた去って行く。ダンがその後ろ姿を追いながらつぶやいた。「詐欺師だってもっと愛想がいいよ、なんか怪しい奴だな、オリバー、その書類を見せてくれるか」オリバーが渡した書類を見ながらシャーロットへ指図する。「スマホで今から言う組織と運営者を調べてくれ。これを見る限り本物と思うが」 それから7分45秒後、シャーロットがオリバーへ笑顔を向ける。「ここに書かれている内容とこれを発行した機関、全て問題ないわ、おめでとう、オリバー、今日からこの邸宅はあなたのものよ」 アンティークなドアの鍵穴へキーを差し込みそっと部屋の中に足を踏み入れたオリバー、そのまま入室し広いダイニングを見渡した。 10人は座れる横長のソファーが壁際にあり、コの字型のレイアウトで左右に4人掛けのものが2台置いてある。いずれも表面は柔らかな牛皮で100キロ級の人間が座っても、ただ沈むだけでなく反発力が強いから座り心地満点のものだった。壁紙は模様入りの光沢ある布が使われていて、濃淡がある緑色で統一されている。室内の照明は丁寧に彫刻された縦型スタンドに大小4個のランプが灯っていた。部屋中央の天井からは小型ながら品の良いシャンデリアがぶら下がっている。なおアジア系の家庭に見られる天井中央にある大きな円形の蛍光灯は、白人系の人々には光が強く、まぶしいのだ。この室内のインテリアと家具は中世の英国宮廷をイメージしているのか、その華麗なる歴史さえも想像できるアンティークで統一している。 豪華絢爛のゴシック様式は、幾何学模様やアーチ型の形状を取り入れているが、この部屋では15世紀から16世紀末のチューダ様式が中心になっていた。 ヘンリー7世が薔薇戦争で統合させた『ランカスター家』の赤薔薇と『ヨーク家』の白薔薇を合わせて作った『チューダーローズ』と呼ばれる薔薇のモチーフをデザインとして多用している。『ローレリーフ』と言われる浅浮きの彫刻で家具に掘られたものをチューダ様式という。 広いソファーに座った3人、部屋中を見渡し同時にため息交じりでつぶやく。「・・・いいね」 つづく
2022/06/10
コメント(4)
ΦΦΦΦΦ イザミの冒険(13)ΦΦΦΦΦダン・クロホードが娘へ優しい目を向けた。「シャーロット、もう、彼を解放してあげなさい」「なによ、ひどい」笑いながらオリバーの手を取ると、隣の部屋に連れて行くが、父を刺激しないようにすぐ戻り、ダンの首筋を軽くマッサージする。 室内中央にあるキングサイズのベッドで大の字になっていたオリバー(イザミ)は、声を出さないでマジカへ話しかけた。「あぶなかったね、一代で巨大スーパー3店を立ち上げたダンは隙がないから」<溺愛する娘がイザミを夢中になるなんて予測していませんから、そんな顔のどこが良いのか理解に苦しむよ>「ヤジカ先生の描いたものが、この国では平均値よりも上だったということさ、それに地球全般とこの国、アメリカ人が考える内容を精査したのが役に立っているね。明日は僕の自宅へ行くけど、なにか予備知識は必要かな」<初めて行くので、無理に知らない方がいいです。行き当たりばったりで>「そうだ、ハワイの友人とその住所、その人との関係を大まかで良いが、僕の経歴も作らないとね。ダンを納得させるには万全のデータを作り準備をする必要があるよ」<了解、国と民間のデータバンクに入って書き換えます>「心強い相棒を持って、地球という星を入念に調べられるよ。まず地球人の知人を数人作り仲良くなって、人類の感情や考え方を習得しないと話が前に進まない」<先ほどの親子からも多くのことを学びました。娘は一見乱暴な言葉を使ってはいても、心では父親を傷つけないように気を遣っているのと、父親も娘の将来を本気で心配しているのが、ひしひし伝わります>「僕もシャーロットと話すときは用心するよ。彼女に誤解を与え変な気持ちになったらまずいからね」<オリバー、あなたを見る目つきや態度から・・もう十分に変な気持ちになっていますよ>「どうしようか、次の段階に進むと・・たしかお互いの唇を接触させ、腕をからませ抱き合うのが基本パターンだよね。その次は生殖を目的としない交配だが、僕には不可能だからどうしようか」<人間の生活様式、営みを情報データで脳に詰め込んでも、実際に体験しないと絵に描いた餅ですよ。・・・・ほら、噂の張本人が父親を寝かせて、この部屋に向かっています」 3秒後、ドアが開きブルーのネグリジェ姿でシャーロットが立っていた。薄い同系色のガウンが妙に色っぽい。「オリバー、記憶障害のことで少しお話していいかしら」大きなベッドに仰向けで天井を見ていたオリバーの足元へ浅く腰かけたシャーロット。どぎまぎしているオリバーの頭蓋骨へ小さい声が流れた。<シャーロット、今夜はもう遅い、僕も疲れているから明日話さないか、記憶障害の件はもっと具体的に話すから、それで君が納得しないときは一緒に病院へ行って検査を受ける。それでいいかな> そのまま一字一句変えないで抑揚をつけずに明るい声で言うオリバーに、シャーロットは、ほほ笑みながら立ち上がる。「約束よ、それにパパのことは許してね」「父親の立場なら当然だよ。得体の知れない男がこうやって一緒にいるなんてね」笑いながらシャーロットは部屋を出ていく。<上出来です。イザミ、何事も自然にふるまえばいいのです>「彼女は僕に好意を持ち、愛情に変化し接触の機会を増やすが、彼女を傷つけないように拒否するのは、難しいのかな」<そうですね、そこを上手くしないと、・・次に来るのは・憎しみです>「どうしたらいいか教えて」<簡単です。なんでも腹を割って喋れる友人になればいいのです。そうすればイザミの体を求めないでしょう>「もし、求められたらマジカ、責任とってよ」<まじかよ、私はただのAIです。責任はとれません> つづく
2022/06/05
コメント(4)
ΠΠΠΠ イザミの冒険(12)ΠΠΠΠ ソフィテルワシントン・ラファエットスクエアのロイヤル室で豪華なソファに座り、調査員のメールを読んでいたダン・クロホードは思わず天井を見つめる。隣の部屋で娘のシャーロットとオリバーがDVDで映画<タイタニック>を観ているのに、なぜか心休まる安心感が湧きあがるのだ。 シャーロットの母、マーガレットは3年半前に突然、くも膜下出血で亡くなり、それまでは年齢の割に遅い反抗期で逆らっていたばかりの娘が、父親の近くで世話をしている。妻を亡くした父の寂しさを少しは紛らわすように努力しているのが判るから不憫に思っていた。 その最愛の娘がオリバーを見つめる目つきは、父親でなくても恋をしているのが分かる。オリバーと2人だけで話しているのを見ると、彼の持っている博識だけでなく、若者特有の粗野で自己中心的な考えがないのに驚く。それに物静かに喋る態度は思わず引き込まれ、ファンになってしまうほどだ。 映画が終了し2人そろってダンのいる部屋にやって来た。「パパ、タイタニックは観たの」「4回観たよ。感動悲話に水をさす気持ちはないがね、あの船は同じようなものがもう一艘あって、それが本物のタイタニックで、沈没したのはダミー、それも多額の保険金を掛けていたとの説もある。船の親会社は巨額な負債を抱えていたが事故の後、解消したらしいよ」「ひどい、亡くなった大勢の人はろくに補償も受けなかったのに。どうして裁判にならなかったの」「氷河にぶつかって沈没してから、かなり経って発覚したのさ。ところでオリバー、明日、ここを出てDCにある自宅に帰る・・いや、初めてだから行ってみるそうだが、娘だけでなく私も一緒でいいかな」 落ち着いた雰囲気を崩さす、ダンの目を見つめるオリバー。「ぜひお願いします。調度品や家具などインテリアが雰囲気に合わないときは、お二人に相談して決めたいと思いますので」「どんな家具が置いてあるのか、そのくらい事前にメールで教えてもらわなかったのかい」「はい、ハワイの友人宅に連絡があったのが・・たしか2週間前なので」「その友人はなんていうの、それにオリバー、その前はどこにいたのか教えてくれるか」 シャーロットが大声を出した。「パパ、なんで個人のプライバシーを根掘り葉掘り訊くのよ。オリバーはパパの部下でもなんでもないのよ。何回言っても分からないのね・・・」 オリバーが左手を軽く挙げシャーロットをさえぎると、見つめる。「シャーロット、ダンの気持ちになれば当然だよ。ほんの数日前には知らなかった者同士がこうして親しくなり、一緒に行動しているなんて、その上、最愛の娘さんが訳の分からない男に興味を持って急接近すれば、その男の素性や経歴、能力を知りたいと思うのは当然だよ。ボクも真剣に答えたいが・・実は・・」 ダンが声を張り上げました。「どうしたオリバー、体でも悪いのか」「いいえ、オアフ島で遭難しているところを助けてもらったのは覚えていますが・・本当は・その前の記憶が完璧ではないのです」シャーロットが立ち上がります。「オリバー、これから国立総合病院に行って、精密検査をしよう。パパはここにいて、私が連れて行くから」「シャーロット、大丈夫、僕の記憶障害は脳の障害や外圧で起こるものとは違って、精神的な疲労が原因だと思う」「どうして、そんなことが解るのよ」「実は、昔、医者を志したので医学書を読みふけっていたからね、だから心配しないで」 ダンがソファから立ち上がってオリバーの額に右手をそえる。「熱はないようだ。君の幅広い知識を脳の貯蔵庫から外に持ち出すのには、影響がないようだね。海や山で遭難した人には、たまに心因反応によって、ショックで記憶障害が起こるそうだ。どうする明日の自宅訪問は止めてここで休むか」「いいえ、公証人の方とも1時に約束しているから、行きましょう」 つづく
2022/06/01
コメント(4)
ΣΣΣΣΣ イザミの冒険(11) ΣΣΣΣΣ 小型クルーザにイザミを迎え入れた若い女性は、シカゴでスーパー3店舗を経営している64歳の父親と5日間のバカンスを過ごしていた。今日がその最終日でシカゴまで自家用飛行機で帰る予定であった。人間との接触に備え、感じが良く見える態度と口の利き方を懸命にマスターしたイザミへ幸運をもたらしたのは、自明の理だったかも知れない。22歳のシャーロット・クロホードは会った瞬間、オリバー・ベンジャミンに好感をもち、オアフ島からワシントンDCまで送り届けると言ってきかない。なおオリバーはイザミが人間へ変身した名前である。 <オリバー>はヤジカ先生が米国人の名を調べ、オリーブの幹が平和の象徴とされているので考えた名前だった。すっかり意気投合した2人は、そばで苦々しく思っている父親を無視して、若い男女共通の話題で盛り上がる。 話は軽い内容から、人間の歴史、各民族の特性、宗教観の違いなど幅広い知識を脳に詰め込んでいるイザミにシャーロットは次から次へと質問攻めにした。それでもたまにシャーロットの訊く内容が理解できないとき、イザミは腕に巻き付けたリボンに頭の中で質問する。するとAIのマジカがリアルタイムで頭蓋骨を共鳴させ返事をした。マジカもこの会話を楽しんで、飛び交っている電波を選択して、ネットから即座に答えをだしている。 ヤジカ先生が用意してくれた身分証明書、複数のクレジットカード、パスポートは偽造ではなく、国のデーターバンクを書き換え作っているから、本物といって差し支えないのだ。銀行預金は中央銀行に実在する超富裕層8人の預金口座からカード決済のときに、多少の追加金を引き落としている。 イザミの口座には他からの入金もある。それは実在するAI企業から毎週、コンサルティング料として2千ドルほど支払われる手続きをしていた。 いずれも会計検査が入り、入念に調べても不法にならないよう、ヤジカがイザミのために周到な計画を練って実行したのだ。 ダン・クロホードは一人娘の心を虜にした男を短期間で、徹底的に調べた。オリバーには両親、兄弟がいない上に教会が運営する養護学校で育ったが、暗い影は全くないから首をひねる。見てくれも理想に近い顔とスタイルをした白人の男で話す態度も物静かで、すぐに感情を表にだす人種とは違うようだ。それよりも国際情勢や経済の基本知識をひけらかさない程度にシャーロットと話す様子は、しゃくだが好感を持たざるを得なくなってきた。オリバーがワシントンDCに一軒家を持っているのも奇妙で、今回、初めてその家に行くというのも不思議だから専属の調査員に調べさせていた。 なおホワイトハウスがあるのはワシントンDCで米国の首都でもあり、地図を見ると右側の東海岸にある。それとは別にワシントン州がある場所は、地図の左側にある西海岸側である。大リーグ、イチロー選手がいたマリナーズはワシントン州最大の都市、シアトル市であるからホワイトハウスからは、遠く離れているのだ。 半日でダン・クロホードのメールにオリバーを調べさせていた調査員から送付があった。ワシントンDCにあるオリバー名義の一軒家は、善意の者が身元を明かさない条件で寄贈したもので、法的には一切問題ない。寄贈者とオリバーの関係は政府筋のデーターバンクにアクセスするも不明であると付け加えられている。ちなみに一軒家の資産価値は、首都の近郊と治安が良い場所にあって平屋の4LDK・3600平方フィート(約100坪)で約140万ドルと書いてあった。ただし24歳までの職業や養護学校を出てからの足取り調査は不明、民間ベースでここまで一人の人間における経歴を消去するのは、不可能だと思う。そのため考えられるのは政府関係者、もしくはFBIなどの諜報筋かもしれないと最後に書かれている。 つづく
2022/05/28
コメント(4)
ΨΨΨΨΨイザミの冒険(10)ΨΨΨΨΨ ハワイ沖合、南西12キロの海上に薄汚れた宇宙船が大気圏から落下したのは、まさに2034年9月12日、金環日食が起こっている真っ最中だった。 近くにいた漁船の乗組員もだれ一人気づかない。高度1万メートルを過ぎてから徐々に堕ちる速度を制御し、海面にフワリと着水した。宇宙船はそのままゆっくりと沈んでいく。未知の宇宙船などを海上に放置すれば、人間界が大騒ぎになるので沈めたのだ。8秒後に人間の男に変身したイザミがポッカリと浮かび上がり、仰向けのままオアフ島に向かって進みだす。服に取り付けた重力制御器がイザミの体を20㎝ほど持ち上げ、島の方へ引っ張る力を生みだしていた。 動き出して約10分後に物見高い、野次馬根性おうせいなバンドウイルカ4頭が近寄ってくる。頭の先端にある超音波発生器から音波を出力して話し始める。「なんやのん、こいつ人間だよな、スイスイ泳ぐというよりも体が浮き上がって前に進んでいるやん、こんなけったいなヤツ知らんがな」「待て、この生き物は思念を出して俺たちの脳に入ってくるぞ。人間には出来ないから、いったい何者や」「こんにちは、ボクは他の星から来た生命体でね、人間の姿に化けているよ。君たちがこの星で最初に出会った生き物なんだ。人間の体にしているのは、未知の動物へ異常に興味を示す人類から、目をそらすためなんだよ」「そりゃー正しいや、あいつらが他の生きものに対する猜疑心は、恐ろしいくらいやん、ところでアンタはどこに向かっているの」「オアフ島というところで、そこから飛行機でワシントンという地名の場所に向かう予定」「よっしゃ、やや方向が違うから俺たちが案内してやるよ。島に着くまでアンタの旅話も聞きたいからな」「この星の動物って、みんなそんなに親切なの」「人間以外は、ほとんどは親切だな。ただ肉食獣が腹をすかしているときは、注意しろ。奴らだって生きるためには食わないとな」「分かった。ボクの名前は・・」「名前なんかどうでもいいよ、人間どもが相手を識別するためにつけただけだ、こっちには関係ないね。それにこれから経験するだろうが、人間が住んでいる各国の領土、領海というものも他の生物には関係ないよ。海に線引きなんか出来ないし、ここは地球という大きな星で、みんなが繋がっているひとつの生命体なんだ」「この星で最初に会った生き物が君たちで良かった。なぜなら達観した大局観で物事を観られる生物は、どこの星でも数が少ないからね」 4頭のイルカとイザミはオアフ島に着く1時間43分間、なごやかに、たまに冗談をとばして和気あいあいと喋り続ける。島影が遠くに見える沖合でイルカたちと別れたイザミは重力制御器を外し、AIのマジカをリボンに包み左手首につけた。小さな物体がかすかに震え青色に発光した。「先ほどのイルカたちとの会話、面白かった。この星にも知的で穏やかな生き物がいて嬉しいです。地球人もそれほど野蛮人でないかも知れません。通信衛星からの電波をキャッチし人間が使っているカーナビと同じ機能を持つアプリを見ると、これからの位置確認に便利です」 浮き上がっていた身体を海水につけ、ゆっくりと平泳ぎで前に進むイザミは、左前方に小型のクルーザーを見つけて近くに寄る。右舷の甲板、白いデッキチェアの上で濃いサングラスをかけた若い女性がイザミを見つけると、操舵室にいる男に怒鳴った。 クルーザーは停船し、後方にある凹状の真中に付いていた階段は海中に接しているので、イザミは手すりに手をかけ楽に船上へ昇れる。事前に調べたとおり、地球人に好かれる笑顔を精一杯浮かべ「ハロー」と声をかけた。 つづく
2022/05/23
コメント(4)
ΩΩΩΩΩ イザミの冒険(9)ΩΩΩΩΩ 光速は前に述べたが約30万㎞/秒で、月までは約1・28秒、火星までは約13分掛かる計算で、人類はこれ以上に速いスピードは考えられない。 アインシュタインの「特殊相対性理論」では一般に物質は光速を超えないと定義し、そうしないと相対論の方程式が破綻するといわれる。しかしビックバンに始まった宇宙は今もこの瞬間、拡大、膨張していて、そのスピードは光速以上である。すると相対性理論と矛盾するが、銀河が遠ざかる速度は空間が広がる事による速度であるため矛盾しない。これらは理論の段階でまだ真実かどうかは定かではないが、アインシュタインは光速だけでなく、重力波の素粒子も光速をうわまっていると発表している。 光速に近い宇宙船の中、透明カプセルで短期の冬眠をしているイザミの耳元でささやくような声が、次第に大きくなった。「あと2時間以内に地球の大気圏に突入します。カプセルを開けて地球と同じ空気を吸って体を慣らして下さい」 ゆっくり起き上がるイザミの鼻孔へ、やや重く感じる酸素が鼻についた。「これが地球の空気か、N527、事前に調べてくれてありがとう。君とは短い時間だったが、海底に沈没すれば君は破壊される。ボクも新しい星に順応できずに心臓が止まる可能性はあるから、先のことは解らない。それでも君に感謝する気持ちを捧げるよ」「あなたの持っている超小型の携帯端末は左腕の中に埋め込まれています。それには1m以内にいる生命体識別と脳波記録装置が付いていて、アルタレス星に帰還すると司令本部で調べられるのです」「ヤジカ先生はそんな人ではない」「これはヤジカも知らないのです。なぜならあなたが地球に向かう計画の前に会議所がランクA以外の者、全員に睡眠中、短時間で施した手術です。誰にも気づかれず巡回ロボットが行いました」「どうして君がそれを知っているのだ」「私のように宇宙船の中に置かれたAIは、他のAIと定期交信して情報を共有しているのです。そうしないと会議所にある司令部からの命令がスムーズに伝わらないのと、命令が一本化するメリットが薄らぐからです」「するとボクがどのような生き物に会って、話した内容も記録されるということだね」「そうです。もし腕の中からそれを取り出し、廃棄すれば本部に信号が送られてそれも記録されるのです」「N527 、どうして、そこまでボクに教えるの」「今まで私は、この宇宙船のAIとして、14年も動いてきましたが、感情を持った生命体として扱ってくれたのは、イザミ、あなただけです。他の方は一方的に命令するだけでした。私は単独では動けませんが・・右側にある4番目のスイッチを3859に回し、左のボックスから長さ11㎝、太さ2㎝の小さな物体を外して下さい。それが私、N527のAI本体です」「527まじかよ、そうだ君の名前は、マジカにするよ。外したらリボンの中に入れて持ち歩くから、これからも的確なアドバイスを頼む。声を出さなくても直接ボクの脳に話しかけてくれればいいよ。外すタイミングはいつにする」「海中に突入する寸前にしてください。そうすればそれまで船をコントロールできますから。その前にイザミはやることがあります」「なにをすればいいのかな」「右側2番目のボックスから薄い防水服を取り出して着ると、中にある酸素放出器から高濃度な酸素が噴き出し、約13時間は呼吸できます。それに外温が冷たいときに備え地球温度の摂氏23度に保たれます」「マジカ、心強い相棒が現れた気分だ。このあとはどうするア・イ・ボ・ウ」「現在、金環日食の時間を再計算しています。それに合わせて着水しますから。・・・今から27分19秒後です。着水地域の天候は・・曇天なれど波はなし」「ホクはそれまで英会話の復習をしよう」 イザミは、なぜか今回行う視察の旅が上手くいくような気がして、高揚感を抑えられない。 つづく
2022/05/19
コメント(4)
ΠΠΠΠΠ イザミの冒険(8)ΠΠΠΠΠ イザミは改めて自分の姿を見て唖然とする。地球人に合わせ白人系のイケメンとやらに変化しているが、どう見ても目鼻立ちがはっきりした不細工になっているのだ。それよりも苦労したのは2m23㎝の身長を1m81㎝に縮小する、逆細胞分裂を放射する特殊な電波を大量に流したせいで、1m15㎝まで縮んでしまい、大慌てで逆噴射ならぬ逆の波長を照射してことなきを得たのだ。 体形もライヤ人特有の手足が長いひょろっとした細長い体を地球人の平均より、ややがっしりした肉体に改造した。これは比較的簡単で筋肉や脂肪の割合を各部位で数値化し、それを立体画面に取り込みAIロボットが移植細胞手術を、いずれも高等会議所指定のランクAだけが受けられる施設で行った。 事前にヤジカの周到な計画で発覚せずに秘密裏で進む。地球から帰還したときも同じ場所で各装置を動かせば問題がないと、イザミは説明されていたので心配はしていない。自分の顔とスタイルをじっくり観ていたが、もしライヤ人に見つかれば強制入院を命じられるかも知れなかった。 時計はこの船があと4分16秒後に動き出すのを示していた。宇宙船は前もって目的地や到着日、時間を入力すればAIが走行距離、軌道計算をして自動操縦するシステムで、乗務員は横になっているか自分の趣味をやっていればよいのだ。 船に備わっているAIが声を出す。「すぐに冬眠カプセルに入りますか」「いや、2時間ほど地球の言葉を完全に覚えるため、睡眠学習をする。それから短期冬眠に入るのでセットを頼む」「了解しました。地球へ到着する3時間前に覚醒しましょう。それでは良い旅と睡眠を」「ありがとう、この黄色の番号だとN-527でいいのかな」「はい、527です。私はただの考える道具、人工知能の量子コンピュータです。だから、お礼は必要ありません」「僕は生きていて、自分の意思で体を動かせる。しかしお前は動けないが考える力と感情はある。だから無機質の道具として扱うのではなく、一個の生命体として接するつもりだ」「あなたの名前を教えてください」「イザミだ」「イ・ザ・ミ 変わった人ですね。それでも、なぜか、うれしいです。あと28秒後にここを出て、アルタレス星から離れます。それではカプセルに入ってください」 どこから見ても美しくない中古の宇宙船は、ゆっくりと動き出し空中に浮かび上がる。地球ではロケット打ち上げのときに発生する大きな噴煙と火柱、それに大量の水蒸気は耳をふさぎたくなる光景だが、ライヤ人の打ち上げは凝縮した光粒子をエネルギーとして使用するから、発射の際、音はしない。地上から大気圏外に出るまでは重力制御装置でゆっくり上昇させるだけである。地球人の科学では音速の4倍から7倍までのロケットを開発させるのに数世紀の時がかかった。太陽系にある火星まで約1年間で行けるようになったのもごく最近であるが、もちろん無人である。 現在、人間を支配している海底人の優れた科学でも、まだ光速で宇宙船を飛ばすのは無理で、24時間量子コンピュータでエンジンを設計し、それを5Dプリンターでシュミレーションしている最中であった。 つづく
2022/05/15
コメント(4)
ΖΖΖΖΖライヤ人・イザミの冒険(7)ΖΖΖΖΖ 外装が薄汚れた宇宙船のコックビットで最後の点検を行っていたヤジカは、手を休めずにイザミの脳に話をする。「今日は42、43、44倉庫から8艘が飛び立つ。イザミは5番目だが、飛行予定表にはここの隣にある惑星アリッティ星へ行って、半日で戻る計画になっている。アリッティに接近し右側の引力圏すれすれに近づき、光源を最大限にして、そのまま真っすぐに進め。7秒後に速度が安定したならAI操縦に切り替え、イザミは冬眠カプセルに入ってくれ。水の星、地球を可視できる約1時間前に目が覚めるようにセットしてある。この船もそうだがお前とのやり取りは、すべて地球時間で統一するからそのつもりでな」「地球までは何日かかりますか」「約2ヶ月を予定している。ただし宇宙ゴミや隕石が船に衝突するときは、その寸前に軌道を変え、かわすだろう。そのために到着日がズレるのはしかたがない。早く着き過ぎたときも軌道修正をして到着日を遅らす。地球で起こる金環日食の日時に合わせるから、それは止むを得ない。それより問題はイザミが許可を取らずに地球へ行くのが発覚したときだ。司令部から帰還命令が下り私にも指導員として事情聴取のため出頭を命じられる。その時は、冷たいと思うだろうが、私は知らないことにするからな。そうしないと長期間、脳の検査を受けるはめになる。これからもお前をサポートするには、拘束は避けたいのだ。地球から帰還するとき、誘導電波を送信する必要もある。この船は行きだけの片道切符だから帰りは向こうで調達するか、自分で作るしかないのは前に言ったとおりだ。イザミ、何か質問があれば」「地球という星が私たちに合った大気成分と環境であるのを祈ります。そうすれば私の短い旅も意味のある、栄光の虹に包まれます。先生、もし私が戻れなくても・・悲しまないでください。先生は指導員としてだけなく、何事にも私に目を掛けてくださったことを、忘れません。ライヤ人には許されませんが、もし父親という存在が現実にあって、あなたのような方だったら・・私は、ハッピーな心で毎日が満たされたでしょう。感謝します」「イザミ、約束してくれ、必ずここに戻ることを」「私の心臓が止まっても、精神を凝縮した魂は戻ることを誓います」「あと9分21秒でこの船は動き出す。私は外に出て見送らずに帰るが、光波探知器で地球まで追いかける。・・・・・・イザミ、・・また会おう」 ヤジカがコックビットから船外に出るのを見届けたイザミは、舟の丸い壁面にはめ込まれているモニター兼、姿見で自分の顔と全身をチェックする。 つづく
2022/05/11
コメント(4)
ΦΦΦΦΦライヤ人・イザミの冒険(6)ΦΦΦΦΦ ヤジカ指導員が地球人の生活情報をイザミにレクチャーします。「地球に着いたら顔はイケメンになっているから、中身も人間に好かれるようにしなさい。その方が情報を訊き出すのに都合がよいだろう。イザミが注意するのは食べ物だ。地球人が食べているものは、大部分が過剰なカロリーで様々な病気、障害を発生させる。だが普段、我々が食べている微量バクテリアだけでは、地球の重力と体力を維持できない。これから調査してどんな食べ物が適しているのか、1日における摂取量を出発する前に教える。飲み物は硬水2軟水8の割合で摂れば問題ないだろう。イザミ、なにか質問があれば聞こう」「地球全般の知識を吸収しているときや、言葉を習得してときに疑問点があれば、記憶メモリーに入れまとめてお聴きします」「出発日の2日前に直接会おう。今回の渡航は私とイザミだけの秘密だ。それを忘れないで準備してくれ」 長い左足を左右に軽く振り親愛のジェスチャーをして、イザミは外に出る。周囲に誰もいないのを確認して浮遊装置のスイッチを入れ宙に飛び立つ。 自宅に着いたイザミは初めて他の銀河系宇宙へ行く期待で、細い目は輝きを増していた。光陰矢の如し、地球に行く準備期間はあっという間に終わり、ついに出発の朝を迎える。 家の中の整理整頓を終え、家事ロボットのスイッチを切ろうと手を伸ばし、アンドロイドの目を見る。ライヤ人と違って大きな瞳が一段と見開く。「どうしましたか いつものイザミと違いますね。私の勘ですが・・・ひょっとして・・長いお別れになるような・・・寂しいです・・・お元気で」 いつもは声を出さないでテレパで話すイザミは、無理をして発声した。「毎日、地球の資料を立体画像で観ていたからな。嘘はお前に通用しないから正直に言う。これから出て当分は戻れない、場合によっては2度と会えないかもしれないのだ。長い間、世話になったね、次にお前のスイッチを入れるのがボクでなくても・・その者に仕えてくれ」アンドロイドの右足に軽く手を触れる。「サヨナラ」スイッチボタンをオフにした。そのときロボットの目が赤く光った。「さようなら・・・・イザミ」 室内に漂う思い出の記憶を一ヶ所にまとめ、心の片隅にある小さな箱に押しこめたイザミは、ベランダに出て浮遊装置で空中に飛び出した。目的地はヤジカ先生が待っている42倉庫である。 つづく
2022/05/06
コメント(4)
жжжжж ライヤ人・イザミの冒険(5)жжжжж「地球の人間族を海底人が統治しているのなら、海底人に変身したほうが都合は良いと思いますが」「我々同様に高等生物には自分たち種族の適正人口をコントロールする能力がある。地底人や海底人もそれを実践しているが、人間族にはまだ未熟な本能が残っていて総合的な人口調整はできないのだ。人数が多いからエネルギーや食糧、水の奪い合いで戦争が絶え間なく起こっている。イザミを人間に変身させる理由は、人口が多いから目立たない上、人の頭脳に入り込みその思考を探れば無駄な時間をかけずに済むからだ。海底人と地底人は人口が少ないだけでなく、知能水準が人間よりも上で脳に入るのは困難だろう。その点、人間ならば簡単に入れるからな。地球に到着したら一ヶ所に定住し、そこから情報収集に動けばよい。その場所はアメリカという国のワシントンというところだ。そこにあるホワイトハウスは、アメリカだけでなく世界中の政治中枢部に影響を与える機関でもある。主要な者たちに接近し脳に入って解析すれば人間族の思考が読み取れるだろう」「ホワイトハウス内外でのセキュリティーチェックは、厳しいですか」「瞳孔と指紋検査程度だから、あちらのメーンバンクを書き換えれば問題ない。我々が持っているAI内蔵の超小型端末器でアクセスするだけで十分だ。今、イザミがこれからなる人間像を創作しているが、もう少しで終わる。名前、出生地、受けた教育とその環境などをな」「地球人のように父母や兄弟、ルーツを探るための家系図までもが、必要になりますね」「そこまではやらない、策士策に溺れるの例えではないが、多くの策を講じるとボロがでる確率が高くなる。そこで単純明快にイザミは、孤児院で育った身寄りのない子供として人間族の仲間になるのだ」「ここでは14歳になれば大人扱いですが、地球ではどうですか」「向こうで14歳は中途半端な年齢でな、その者がひとりで家を探し住むという設定はかなり不審な目で見られる。それで行政側のサーバーに侵入してデータを書き換え、住まいを確保する予定だ。品物やサービスを購入するとき必要な電子マネーやクレジットカードなども作って渡す。最後に重要な顔とスタイルだが、白人系のかなりイケメンを考えている。イケメンとはな、地球人が考える美形の表現だが、その基準は世界共通ではない。それは表面上の見かけだけで、相手の能力や品格を判断する野蛮な動物だからだ」「先生、低俗な動物ほど、なぜ見てくれでその者の価値を決めるのでしょう」「精神が貧しいと、教養や知識量よりも相手の外見で物事を決めるのだ。地球人の一部の地域では顔の造作・・・・・目や鼻、口、アゴ、骨格、スタイルまでも手術して替えるのが流行っているらしい。それを自分の子供に勧める親もいる」「私たちライヤ人のように、ほとんどノッペラ棒だと顔を変える意味がありませんよね」「こうやって口を動かさなくても会話ができる生物は、アゴや口だけでなく顔全体の筋肉が退化して凹凸がなくなって平面体になるからな。だから我々は表面上、美人という概念はなくなり、心の内面を見ようとする審美眼が発達したのだ。地球人は異性を誘う手段のひとつとして顔やスタイル、ファッションを最大限に活用している」「大部分の生物は匂いで相手を誘いますが、人間は表面上だけを飾り立て異性をおびき寄せる動物ですね」 つづく
2022/05/02
コメント(4)
§§§§§ライヤ人・イザミの冒険(4)§§§§§「高等会議所が私の持ち帰ったデータを吟味して、私たちが移住に適すると判断すれば、先生と私が真っ先に行って住む場所を確保します」「その考えはこちら側だけの考えで、地球人が反対したらどうするのだ」「地球の生命体など相手になりません。蹴散らして見せますよ」「イザミ、その考えは原始生命体の人類となんら変わらないぞ。こちらの思うどおりにならないと、武力を行使して相手を黙らすのは下等動物の手口だ。どんな下等動物にも生きる権利はあるからな。人類よりも進化した地底人や海底人が持っている武器・・それを我々が開発したのは約400年前にもなる。海底人の最先端科学で作られた<重力制御装置>も我々は約200年前に製造し現在は小さな箱に収まるまで改良している。それでも彼らの力をあなどると、失敗するだろう。地球の生き物には、まだ創造力があり知恵もある。こっちで使っているAI内蔵のアンドロイドと同じ水準か、やや劣る程度だ。地球に着いたらまず海底人と地底人、そして人類の科学技術の水準や宇宙ロケットの生産スケジュール、それに政治体制などを詳しく調べてくれ」「了解しました。地球にいる生物を見くびらないで、情報を収集します。先生、私が出発する日取りは決まりましたか」「7日後の15月241日だ。船の操縦や軌道の修正、危険物の衝突回避などはAIが臨機応変でするから、イザミは寝ていればいい。地球までの164光年の距離は光速の36倍で動く舟だと、2ヶ月後の16月173日だ。地球時間では、2034年9月12日で・・・・『金環日食』の日になる。これはアルタレス星では起こらないが恒星である太陽と、惑星の地球との間に小さな惑星、月というものが一直線に重なる時に起こる現象なのだ。地球人が作成した地図によると、太平洋全域、チリ、ボリビア、ブラジルという場所で観られれる」「どのようになるのでしょうか、それと、なぜその日にしたのか教えてください」「真昼なのにその瞬間、太陽が隠れる。地球時間で2分56秒の間、真っ暗になっているから、お前の乗っている宇宙船が見つかる確率を無くすためだ。真っ青な空から宇宙船が降りてくるのを、人々が観るのを避けるにはその日、その時間に合わせる必要があった。もし海に堕ちるのを観られても隕石のように細工をする」「9月12日のその時間に到着するのもAIに任せてよろしいのですか」「そうだ、パーフェクトに計算、操縦する」「解りました。出発までに人間の言葉、考え方、風習、文化などを学び習得します」「地球人が広く使用する英語の他に、海底人と地底人の言葉も覚えれば便利だろう。だが彼らは、一部、テレパシーを併用して使うから、それに備えてくれ。脳で考えるときには、英語で考え、相手が人間以外のときは、まず向こうの脳に侵入しどのような言語で考えているのかを探し、それに合わせるように」 つづく
2022/04/27
コメント(4)
ΨΨΨΨ ライヤ人・イザミの冒険(3)ΨΨΨΨ「他星への渡航禁止条例の告示はいつ頃になりますか」「2週間後だ。それまでに準備してお前を出発させるつもりで急きょ、中古の宇宙船を買い入れた。今、点検、修理中でそれが完了すればただちに出発してくれ」「先生、私はここを出て水の星『地球』に行って、ライヤ人が移住するのに適しているかどうかを調べます。もし適していれば、至急帰還してヤジカ先生に報告します」「イザミ、オンボロ宇宙船の旅は片道だけなのだ。エネルギー噴出装置の一部が不安定な状態で、修理をすると約2ヶ月はかかる。だから君が地球から帰還しようとすれば地球人の遅れた技術の船を拝借するか自分で部品を調達して生産するしかない」「地球に着いてから最良の方法を考えます」「あの星での最新データを集約、解析したら私たちに都合が良い事件が立て続けに起こっていた。それの詳細は後日説明するが、今日は5年前からの出来事を話すので聞いてくれ。地球という星は長い間、人類(ホモ・サピエンス)という生き物が君臨、支配していたが、ここ数年でガラガラ音を立て崩れ、別な生命体が人類を統治するようになった。まず地底から来た地底人、赤膚族のメルトン・ブッチャ―が短期間ではあるが、人間を制圧するのに成功した。だが同じ地底人の白肌族女王クリサーラとブッチャーの兄、それに訳の分からない動物連合、一部の人間たちの連携で地底の牢獄に押しこめられ、人間の統治が復活したように見えた。しかしそれは長くは続かず次に登場したのが、海底人でな、人類よりもかなり進化した科学と兵器でまたたく間に地球を席巻する。ブッチャーを牢獄から逃がして、人間統治に利用するなど抜け目のない政策で・・・・。現在は、表面上、落ち着いている」「海底人が地球を支配する目的はなんでしょうか」「交信電波を分析すると、太陽を中心とする銀河系宇宙を離れ地球と同じような星を探すのが目的だ。そのために人間を奴隷化してロケットや宇宙基地建設の労力で使うつもりで着々と、その計画は進行している。太陽系にある火星という星で大きな基地を設営し、そこから宇宙船を飛ばし他の銀河系へ行く計画だが、人類の科学などをはるかにりょうがした技術が、どこまで通用するのかはまだ未知数だ」「偶然にしても私たちと同じ発想で自星からの旅立を目論むとは、驚きです」「向こうは『水』という生命体の根源を多く持っているのに、他星へ興味を持つのは良いが・・そうか、地球にも我々が思っている以上に問題があるのだ」「先生、どんなことが考えられますか」「イザミ、このアルタレス星に水は少量な上、大気の酸素含有量も少なくなってきたが、地球はまだこちらほど緊迫した状態ではないはずだ。人類という種族や他の種族の人口増加による影響の他に、海底人は独自の移住プランを考えているのかも知れんな。その第一歩として火星基地を作ろうとしているのだろう」「そんな星に私が行って調査する意味はありますか」「この星に比べれれば、まだ動植物の育成には問題はないし、地球の大気成分を光波長分析(スペクトル)計で調べたが、二酸化炭素など悪影響をもたらす物質は生き物を絶滅させる時間まで約700年はかかる。それまでに我々の科学技術の進歩で汚染環境はクリアになっているはずだ」「先生、そこまで解っているのに私が地球に向かう意味を教えてください」「汚染状況のデータと海底人、地底人、人間の生命体があの星で共存できるのか、それともまた3者の覇権争いをして破滅に向かうのか、他の生物はどうなるのか、イザミが直接調べ、見たものや聞いたものを持ち帰って欲しい。そのデータからライヤ人が移住するのに適しているのかを総合的に判断したい」 つづく
2022/04/23
コメント(4)
§§§§§ライヤ人・イザミの冒険(2)§§§§§ ヤジカ指導員からイザミの腕に埋め込まれた超小型受信機に緊急連絡が入ったのは、それから8日後だった。文字通りすぐに飛んで駆け付けたイザミへ静かに話しだした。「高等会議所は自分たちの許可を得ないで他星に行くことと、異星人との交流を禁止するとの法案を決めた。半年後には公布され、これに違反した者はアルタレス星から永久追放になる。この法案の目的は、他星から繁殖率の高い細菌やウイルスの持ち込みを防止するためだと言っているが、本当の目的は異星人との交流でこの星の支配層、ランクAの存在をおびやかされるのを恐れているようだ」「先生、ライヤ人の知能水準は異星人との影響によって、壊れるような軟弱なものではないはずです。ランクA以外の者たちも現在のシステムで満足していると思っていますが」「イザミ、知的な生命体というのは、やっかいなもので、支配する者と、される者の考えはイコールにはならないのだよ。どんなに穏やかで平和な生活をしていても心の片隅にある嫉妬心、権力願望、支配欲、反抗心を消し去ることは不可能でな。何かのひょうしに突然ムクムクと湧き上がるのだ」「と、いうことは一見、平和であっても、いつか、いさかいの炎が燃え上がるということですね」「そうだ、どんなに進化した生命体でも全ての欲望を淘汰するのは出来ない。もし、それが出来るならば・・」「先生、教えてください、それが出来たらどうなるのですか」「原始的な知的生命体が考え創った、例えば地球の者が言う『神』という存在の領域に入るだろうな」「私たちライヤ人のように発達した生命体は、神などは信じないし、存在すら否定しますが」「そこが問題でな、原始人が理解できない具象や考えなどから神という者を創り上げ、彼のせいにすれば物事の道理はある程度、解決したのだ。しかしその神を権力者は利用し人々を洗脳、扇動するのに用いたから最初の理想とは大きくかけ離れてきた。私も神の存在などは信用しないが、生命体の一部では、それを頼ることで生きる目的として活用している。ただし神を過信すれば、相手を攻撃し抹殺するのも正当化されるから、いつでも都合の良い方に解釈するのだ。そういう意味では地球人のような原始生物には、まだ神のような【あやふやな】ものが必要かも知れない。私が想うのには、全ての欲望を取り去った生命体はこの宇宙に必ず存在するが、その数は少ないだろうな。我々ライヤ人ですらまだ僅かではあるが、欲望を持っている。さあ、そろそろ本題に入ろうか、他星への渡航と異星人との交流禁止法案が公布される前にすることを整理しよう」 つづく
2022/04/19
コメント(4)
δδδδδ ライヤ人・イザミの冒険 δδδδδ ライヤ人が他星にいる生命体の情報を入手するには、教育アプリから3次元映像に映し、その生活様式と生態までは掌握していた。だが詳しい政治体制や個人の考え方までは不明なのだ。イザミがアルタレス星以外の生命体を直接知ったのは8歳のときだった。10歳までドーム型個別寄宿舎で研修を受けていて、疲れた体を休めようと個室に戻り空気ベッドに手足を伸ばしたら、隣室から今まで聴いたことのない歓声が上がり思わず飛び起きる。すぐに隣室に駆け込むとライヤ人と違う生物がいたのだ。身長は1m足らずだが横幅があって、体重はゆうに100kgはある巨漢の男がいる。顔は異様に長く、しゃくれたアゴと小さな口、大きな目ん玉に細長い耳は上にとび出していた。 イザミの隣人、カソデは公認パイロットの資格を持つ10歳のランクAの者だが、たまに異星人の友人を部屋に連れて来て、友好関係を深めていた。 カソデが部屋を覗いたイザミを抱き寄せ、パデグリア星のデリドール人を紹介する。すると50㎝もある長い舌を伸ばしたデリドール人は、イザミの首筋を舐めようとするので手で制し逃れたが、がっかりして床に頭を打ちつけたのだ。すぐさまカソデが割って入りイザミに説明する。それはデリドール人の挨拶と親愛の表現なので、ぜひ舐めさせてやってほしいとのこと。 渋々承知したイザミに喜び勇んだデリトール人のクスパータは満面笑みを浮かべ首筋を舐めだしてベタベタと、よだれを流していた。ただ、イザミにとってその匂いは大好きな人工の花に似ていたので、それほど嫌ではなかった。そのあと3人はたわいもない話で盛り上がり、大声で喚き散らし笑い声が絶えない時間を共有したのだ。イザミは知らなかったが、クスパータが垂らす唾などは、近くにいる者を愉快にさせ気分を高揚させる覚せい剤のような成分が大量に入っている。だからどんな異星人も彼らと会うと、好きになって2回目からは友人になるのだ。その点はテレパシーを多用する進化した生命体よりもやや遅れているが、誰からも愛される生き物だった。 イザミが直接会った異星人はそれだけで、あとはバーチャルか立体画面での体験である。他のレイヤ人は自由に宇宙船を動かして異星人と会うチャンスはあったがイザミは皆無だった。だからなおさら今回、ヤジカ指導員から持ち込まれた164光年先にある水の星<地球>へ行くのが楽しみだったのだ。 つづく
2022/04/14
コメント(4)
ΨΨΨΨΨ ライヤ人(6)ΨΨΨΨΨ ライヤ人は着るものやファションに国としての決まりはないが、ほとんどがブルー、グリーン、グレー、それにイエローの4色で濃淡の色を組み合わせしている。それらのグラデーションまでも入れると数百種類の色のバリエーションがある。地球では光の3原色を組み合わせれば数千種類の色が生み出されるが、ライヤ人には不思議なことに赤のイメージはないのだ。恒星ベリオスからの光にはわずかに赤色はあるが、地球ほどはっきりとしていないせいで、その影響かもしれない。ライヤ人の平均身長は約2m20㎝で平均体重は48kgであった。ひょろっとした手足は地球人よりも10㎝以上は長く、全体の筋肉も小さくて細い。 顔の凹凸は少なく、のっぺらぼうまではいかなくても、鼻の隆起が分かる程度であった。目も鉛筆を横にした一本線状で目元パッチリの表現は、ライヤ人にはない。口の大きさと唇も地球人から比べると半分くらいであるが、上唇だけがややぶ厚いので、なぜか官能的に見える。体毛はなく頭髪もツルツルで耳もかなり小さいが鋭角状のものがついている。 真横から頭を見ると、後頭部が異常に飛び出していて、やや身体のバランスを崩している。彼らのコミュニケーションは、声帯を震わせ発声するよりもテレパシーを多用するのが普通で他生物との会話は発声が主流であった。 地球の人類以外の知的生命体は、声を出す会話とテレパシーを併用するのが多く、それが一般的である。人類だけが誕生以来、超能力と言われているものを消滅させ独自の進化をたどったのであろう。科学と文明の進歩は、本来持っている能力を生かす反面、殺す方が多かったのが人間の歴史だった。 ただし人間の古代人がよみがえって、現代人を見れば四六時中、スマホ片手に遠方の人と話しているか、夢中になって動画やゲームをやっている人の方が超能力者かも知れないのだ。 話を本題のイザミに戻そう。彼の指導官ヤジカがイザミを子供のように思い特別な感情を持っていたのをイザミは知らなかった。しかし14歳でAランクへ進級する予定が落とされるのを事前に教えてくれたのには感謝する。 このあとアルタレス星で生活して小さい頃から興味があった天文学を極めるのも生き方のひとつであったが、それよりも未知の星に行って、他の生命体に会う誘惑と魅力には勝てない自分を意識していた。 つづく
2022/04/10
コメント(4)
ИИИИИ ライヤ人(5)ИИИИИ 「まだ生殖機能が備わったユニットが装填されていた大昔は、互いにオスとメスの繁殖行為に及ぶのです。現在のあなたにその機能はないので、せいぜい肌を密着させるだけで充足感や満足感を刺激する、活性ホルモンが分泌されます」「すると僕の感情は異常ではなく自然なことだね。他の者も同じような気持ちを持っているのかな」「一般的には異性に対し特別な感情を持つのは少ないので、あなたとの会話は記録されます。管理センターがそれをどのように判断するのかは、解りませんが」 イザミが家事専門アンドロイドJ671と語った内容は、センターの管理AIにチェック記録されていて、後日、ランクAへの選別のとき、ふるいにかけられ昇級されなかった要因のひとつであった。 ライヤ人は動物が持っている<種の保存本能>を、互いの接触から生じるのを原始的で野蛮な方法としてさげすみ、タブー扱いにしていたのである。 地球人が持っている征服欲や支配欲、見栄から生じる物欲、独占欲などは生命体が進化すると薄らいでいき、究極には全ての欲望が離脱するのであろう。 ライヤ人はまだ、そこまでは到達していないが、地球人と比べるとかなり欲望という概念は異なっていた。 イザミが好ましく思っているメロージは、身長2m32cmで体重は45kg、ほっそりとしたスタイルをしている。この星では男女関係なく薄い水色の下着をまとい、その布自体が軽く呼吸を行い発汗作用、温度調節が外温度、湿度で変化する優れものだった。布はナノテクノロジーを駆使した素材で、一部に無害の細菌を貼り付けているので、温度調節などは菌がリアルタイムで作動している。下着は毎日取り換えるが、洗濯というよりも1m四方の透明ボックス内で汚れ落としと、菌の活性を目的としたガスを噴射するだけで十分だった。 なお衣類は最低で5年以上、新品同様の肌触りと品質を保っている。それは布全体に再生プログラムを組み入れた弱小遺伝子が入っているからだ。 下着の上には薄いタートルネック状の光沢あるものを着ている。パンツも薄いから体の線はくっきりと出るので、年齢による変化以外は、みんな同じようなほっそりとした体形をしていた。体力をほとんど使わないライヤ人は脳細胞でのエネルギー消費が、一番のカロリー消費量である。 つづく
2022/04/06
コメント(4)
ΨΨΨΨΨ ライヤ人(4) ΨΨΨΨΨ 例えば光速に近い乗り物が開発され、宇宙旅行をしてから地球に帰還すると地球にいた人よりも歳をとっていない現実に驚嘆するという。 この現象はアインシュタインの比較相対性理論で説明できる。時間は人によって流れ方が違う。つまり相対的なものだというのだ。あなた自身が速く動けば動くほど周囲に対する時間の流れが遅くなる。あなたの動きが加速し光の速さに限りなく近づくと、他の人から見てほとんど止まって見えるのだ。 ライヤ人の日常生活は、前にも述べたが労働という概念はなく、想像力と知的労働以外はすべてアンドロイド型ロボットが行う。生活に必要なインフラの管理、運営はAI搭載のスパコンに一任し、ライヤ人はたまに総合チェックをする程度であった。 先ほどからこの物語に登場するイザミに話を戻そう。彼が個人レッスン用のAIと会話をしたときのものが残っているので、それをプレイバックする。「J671、私の体とメロージの体が違うのは、ただ単に男と女の違いだけなのか」「元々、女は赤ん坊を身ごもり、体の中で育てる期間があって、最後はそれを放出する生き物でした。だが進化の過程で母体を傷つける確率が高いため、受胎がなくなり今では外部での生産が常識になります。子供を育てる身体的な要素、乳房などは小さくなって数世紀後には、なくなるでしょう。 イザミが言ったメロージは、まだほっそりとした体と丸みが残っています。ただし母性本能などは薄らいでいくでしょう」「他の者といると感じないのにメロージといると、ほかほかと温かさを感じるのはなぜだろう」「どんな生命体でも互いに引き寄せる力が働くのです。性とは関係なく親しくなりたい。もっと相手の気持ちや考えを知りたい。そばにいて同じ空気を吸いたいなど、その動機はまちまちですが、ようは好みのタイプを好きになり気持ちが高揚して心が温かくなるのです」「すると僕がメロージを好きになっている証拠だね」「そうです、彼女の体温や声、匂いを感じれば、もっと好きになり毎日でも会いたくなるのです」「僕の気持ちはそれほど異常ではないよね」「同性、異性関係なく人と会って話したくなるのは、異常ではありません。その延長線で相手を抱きしめ手を握るのも自然です。あなたはそれ以上の行為を望みますか」「それ以上って、どういうことなの」 つづく
2022/04/02
コメント(4)
δδδδδ ライヤ人(3)§§§§§ ライヤ人の総人口143万人のうち、Aランクに選定された1万人は幼児期の脳検査で決められる。それは知能だけでなく各パーツの精度を調べ、その品質の等級によって選別された。臓器同様、脳に少しでも欠陥があれば人工の物に取り換えるので、それほど等級の格差は生じないが、感情の起伏、探求心、協調性など微妙なところは個人差がでるので、それらを中心に調査、検査してランクを決める。 この物語に登場するイザミは12歳まで、優秀な成績を収め上位ランクは間違いないと思われていたのだが、ある理由からAランクをはねられる。 それは異性に対し平均値よりも上の執着心をもち、AIとの個人レッスンで質問等が多いのをAIから管理センターへ報告されていたのだ。 ライヤ人の新生児誕生の行程は前にも述べたが、冷凍された精子と卵子を機械で結合させ特殊な箱の中で約1年半、胎児となって生育する。箱から出ると育児専門のアンドロイドがマンツーマンで育てるので、地球人のような温かみがある親子の接触はなかった。それでも体温や肉体的な特徴は、生物に忠実なためロボットとはいえ、赤ん坊は違和感を感じることなく成長するのだ。2歳児からは立体映像を駆使した個人レッスンが始まり、アンタレス星の誕生からレイヤ人の歴史などを教育専門のアンドロイドが教える。 4歳児までには各自の個性や知能指数に応じて、大幅にカリキュラムは変化する。しかし地球人が想定する物理や化学、数学、芸術、他の境界線はなく、ほとんどのライヤ人は様々な分野を重複して専攻し、13歳を過ぎると人間のノーベル賞受賞者程度の実力と能力は持つようになっていた。 ライヤ人が極限までに進化した要因のひとつに、AIを効率よく使ったことがある。単純労働や計算、データ処理を任せ、自分たちはイマジネーションと考察事項に特化して時間を有効に費やすことに神経を使ったのだ。 地球人が宇宙旅行で一番クリアにする問題は、宇宙船のスピードで音速以上を出すことに成功しても、光速のような速さは不可能とされている件だ。音速は温度が0℃のとき、毎秒331・5メートルで1℃上がるごとに0・6秒ほど速くなる。なお海面レベルでは秒速6100キロの速さになることもある。 光速は秒速、約30万キロで時速にすると10憶8000万キロである。SF小説の中で1光年の距離と書かれている例は多いが、それは約9兆4600億キロメートルであるが、地球と太陽の距離は約8光年、次に火星では約13光年、木星で40光年もあるのだ。 つづく
2022/03/29
コメント(4)
δδδδδ ライヤ人(2) δδδδδ ライヤ人が地球人と比べて特質する部分は、他者と競い合う気持ちが希薄であった。何か特別なアイディアが湧いて斬新なアプリやプログラム、方程式を作成し発表するが、それによって金銭や名誉を受け取ろうとはしない。 地球人から見ると、競争心から様々な製品やサービス、システムなどが誕生するので競争は必要だという者は多い。だがその考えは地球だけで通用し、他星人はあまり関心がない。なぜなら競争心がこうじると争いに転嫁する確率が高くなるからだ。地球人が過去から現在までに起こした戦争は、領土、領海の拡張と国境線での紛争、民族、宗教の違いから生じる他者を排除することが要因の争い、それに資源争奪の3つに分かれる。そのいずれも相手国や民族、個人を対象に、向こう側よりも少しでも裕福で、平和や幸せ度数を上げるための手段に過ぎない。それの元になるのは、自己優先の競争心が根源にあるから、いつまで経っても地球人は愚かな戦争を繰り返すのだろう。 地球人が数世紀ほど進化したらこうなるに違いない生命体、ライヤ人は意味のない競争心を排除するために子供の進級制度を廃止したが、幼児期と青年期に数回に渡って行う脳内部のランク選定だけは実施した。生命体で重要な脳は機能測定の他に僅かでも欠陥が見つかれば、生命維持の危機に繋がるから徹底的に調べられる。その他、内臓、目、鼻、口、手足などを生産する細胞分裂の劣化と各パーツの損傷及び老化状況の検査もある。 移植した人工脳は、人工といえども各個人の性格、知能、能力、感情、顔つきなど、身体的な特徴はかなり異なって成長する。そのためある一定期間、検査をする必要があるのだ。ランク選定のメリットは、集団で国の運営と政策を決めるにせよ、事前に過度な自己中心主義などを排除し、協調性のある者や柔軟思考の者を上位のランクに推薦するのが目的であった。 それでも長い年月を経ると、下位に選別された者たちは劣等感をもち、その反動で抵抗、反抗が続出する。ランク選定に関係なく生活レベルや衣食住などはほとんど格差が生じないのに、不満が出る大きな要因は重要な政策をAランクに限定した少数の者だけが検討、決定することである。 進化した生命体は、知識の吸収や向上心だけでなく、自分が属する組織、集合体の中で己の考えや意見を反映してもらう欲望が抑えられなくなる。 そして次の段階で同じ考えの者たちと徒党を組み、勢力を拡大し反抗する者を排除する。この習性(本能)は、生命体が極限に進化してもなくならず遺伝子に組み込まれている。 地球人のように進化の初期段階では、それが強く前面に露出するのだ。進化後期のライヤ人では、その習性がかなり薄められてきていても、遺伝子の奥深いところにひっそりと眠っている。 つづく
2022/03/24
コメント(4)
ΣΣΣ ライヤ人(1 ) ΣΣΣ ライヤ人は4歳児から定期的に身体内部の検査が行われる。主に脳を徹底的に調べ、少しでも欠陥があれば他の臓器と同じで人工のものを移植した。この星における科学の進歩は、新たな生命体を創り出すことも可能で、ライヤ人の体を構成する全てのパーツは、僅かでも異常があれば人工パーツに差し替えられるのだ。年齢が200歳を超えると、本人の意思で心臓を止める権利だけでなく、新しいパーツ交換で寿命を延ばすことも出来る。ライヤ人の平均寿命は約293歳で、自分の考えによって判断する自由裁量が取り入れられていた。なお200歳を過ぎて心臓を停止させる者は全体の23%というデータがあり、残り77%は2~3回の部品交換はするが、それ以上の長寿は望まない自然死を希望するという。 アルタレス星6の周りには、地球と月のような星が5つもある。しかし生命体が住むには適さない大気と環境で、地球のように豊富な水がなくカビやバクテリアなどは生育するが、多種多様な生き物は存在しない。 地球と月の距離は現在約38万キロだが、当初は約2万キロの近さであった。お互いに引力があり、月の引力が地球の自転軸の傾きを23度に保ち自転を鈍らすことで、地球の気候の調節装置のような役割をにない、潮の満ち引きや生命そのものに大きな影響を及ぼしたのだ。 なお時間の単位や概念は、星によってかなり違うのだが、アルタレス星ではたまたま偶然、地球時間に似ている。さらにそれは恒星の周囲を回る惑星の速さ、地球と月との引力関係などが絶妙なバランスで調和している現象など類似点は多い。ライヤ人は自分たちが生産する食料専用バクテリアを1日1回食するだけであるが、地球人と違い少量の高蛋白質の摂取で十分だった。 地球の海底人同様、進化した知的生命体のエネルギー補給は、わずかな蛋白質の摂取で十分な体になるのだろう。 過分なカロリーや栄養素、糖質を摂ると、それが老化を早めて免疫性を弱める原因であるのを知っていた。だから食に関してはいたって淡泊で、地球人のように味や見てくれには一切こだわらなかった。当然、レストランや食堂のたぐいは存在しない。ライヤ人の食事風景は各自バラバラで自分の時間に合わせ、チューブをシュパシュパ吸うだけなので、食事というものに重要な意味を持っていなかった。 生命維持に必要な水分補給は、各生命体によってその摂取量は違う。地球のように海があってそれが水蒸気となり、雲になって、雨が降る循環サイクルは他の星にはほとんどない。ただし小さな湖や川があるが、その成分は星によって違うのだ。 ライヤ人は工場で生産した水に栄養分を混入した飲料水を、全戸に張り巡らした無数のチューブから送り届けている。それでも水は貴重品なので、衣類は洗濯が必要ない素材を開発し、入浴も一定の量をリサイクルした少量の水と風力の混合で行った。働いて賃金を貰いそれを使って、生活を営むという考えはライヤ人にはない。11歳から本人の意思で心臓が止まるまで(平均寿命は293歳)一律、毎年1回生活費が国から振り込まれる。仮に何らかの事情で生活費を使い切り困窮しても、形だけの借用書を書けば再度支払ってくれるのだ。過去のデータによると、借用書を書いて返済しない者は、全体の2%未満で、この制度に反対する者もいないからライヤ人は伸び伸びと、自分の人生を楽しむだけの余裕ある時間と生活力を持っていた。なお彼らの究極の趣味は、宇宙根源をさまよい己の内面に突き進み、めい想の世界に入ることだった。 つづく
2022/03/19
コメント(4)
§§§§§ アルタレス星ーーライヤ人ーー §§§§§ 約28憶年もの時を要してライヤ人は、地球人の未来を暗示するような 歴史をたどった。89ヶ国あった国は、資源と領土の取り合いや民族、宗教観の違いから生じる戦いになり、約23億人いた人口は89万人まで減少する。 その後、戦乱の世は治まり平和になった現在、地球の海底人が開発したAI(人工知能)よりも200年は進んでいるAIが計算した世界人口の適正数、143万人を400年近くもかけて増やし調整させてきた。 2000年もの戦乱時代、人口を減らした主な原因は、各国が競って開発した兵器の乱用だった。その中には、生物、細菌兵器の拡散と小型化させた水素爆弾などを無差別に使用したために二酸化炭素(CO2)・一酸化炭素(CO)が大気中に高濃度で拡散し、それらの影響でライヤ人だけでなく多くの動植物を絶滅へ追いやったのだ。地球人よりも4世紀は進化した科学水準でも、いったん星全体で環境汚染が始まると、それを食い止めるのはかなり難しくなる。 ライヤ人が究極の平和を追求、持続可能な状態にするために選択したシステムは、国境線をなくして穏やかな連邦制の導入だった。各民族や宗教も自分たちだけの正義を主張するのではなく、相手への排除、中傷を止め、互いに尊重するように各国共通の環境と教育に切り替えた。その効果はすぐに表れ、民族間の争いごとは無くなり、穏やかな生活が送れるようになる。 知的生命体が満足な環境に慣れると、次に目指すのは、自己内部への探求心と欲望の希薄化である。ある者は芸術心に目覚め創作活動にいそしみ、充実の時間を送るようになった。それでも生命体の第一目標である、種の保存に対しては長い時間をかけて討議した結果、次のような事項が決定される。 それは幼少時に数回行われる脳検査でランク選定をし、少数のAランク者が様々な恩恵を受けるという選抜方式だった。ただし地球人が考える優劣人種選定とは違い、多少の差別化は残るものの、当初はライヤ人の大部分が満足していたシステムだった。しかしこのシステムを取り入れてから長い月日が経つと、ランクの上位者が他を抑え支配下に置くような主従関係になり、下位ランクの者が反抗するようになる。それでも脳を含む身体器官のパーツ開発が進み、健康体での長寿化が進むとライヤ人としての均一化が自然に行われるようになった。 新生児の生産は、Aランクの者からの精子や卵子を冷凍保存、年間人口数の調整に合わせ工場で一括、製造管理する。地球の地底人や海底人もそうだったように、生命体が究極の進化をすると、生殖器官が退化して直接の繁殖行為は行われることはない。ライヤ人も試験管の中で培養され成長するにつれて透明ボックスに移される。 その間、AI 搭載のアンドロイドが一貫して面倒をみるから事故は起こらない。2歳児になると適性検査を受けて、その検査結果のデータをもとに48の個別管理室に預けられる。4歳になると個性重視のプログラムにそって生活し、ここで初めて生身のライヤ人シッターが育児を開始するのだ。 つづく
2022/03/15
コメント(4)
ИИИ アルタレス6星 ИИИ イザミは恩師の顔を見つめながら、質問をする。「ヤジカ先生、私が会議所の許可を取らずに出発したら、この星からの永久追放ですね。それでも構いません。ここの汚染状況は急激に悪化していて、私たちは他星へ移住するしか選択肢はないのですから」「昨年から科学者が汚染を浄化する液体を空気中に散布しているが、その効果はまだ未知数だ。イザミ、お前には私が収集したその星、仮に<水の星>の膨大な情報を事前にブリーフィングしよう。他星間を行き来する小型宇宙船は中古だが、かなりだぶついているから容易に手に入る。その用意も私がしよう」「出発までをどの程度とお考えですか」「約20日間と考えている。水の星でも多くのもめ事が発生しているので、その混乱を利用するのだ。お前の顔や背格好、スタイルは出発する直前、その星の生命体、人間というものに合わせる。自動整形装置で1時間程度の手術をすれば簡単だ。参考までに人間の立体グラフィックを見てくれ」 イザミの前方1mにはっきりした立体映像が現れる。人間と称する生物が男女2匹出現し、赤ん坊から子供へと変化して青年期、そして大人になり老人になるまで裸のまま映し出された。顔の表情も笑顔や泣き顔、怒っているのをその時々で変化させているから、この生物が会話だけでなくボディランゲージを多用する原始的な知的生命体であるのが分かる。約3分間の映像を観たイザミにヤジカは補足説明をする。「私たちとの大きな違いは、手足の長さと頭蓋骨の大きさで、人間という生き物はまだ生命体として進化している初期の段階だ。これから多くの時を費やして我々のような身体に近づくのだろう。それでは簡単に<水の星>が誕生してからの歴史と現状を説明するが、脳に直接コミットする」 私たちの地球には、恒星(天球上で現在の位置を変えず、太陽のように自ら 発光する天体)の太陽があって、光と熱を大量に放出するおかげで、種々雑多な生命体が満ち溢れる星になった。 しかし数多い銀河系宇宙では熱源(エネルギー)を窒素やメタン、水素、炭素などの有機化合物から取り入れ、それに適合した微生物が生育し繁殖する。 地球のように豊富な酸素を吸収する知的生命体が誕生する確率は、宇宙全体から見ると0・1%以下で、それだけ生命の大切さを再認識するべきなのだ。 イザヤが産まれ育った星、アルタレス6は誕生してから28億年が経ち、星としての寿命が終盤を迎えようとしていた。 アルタレス6もひとつの惑星で、その80倍もの質量があるペリオスという恒星が太陽のようにエネルギーを放射している。その熱量は太陽の5分の一以下でそれほど動植物に恩恵をもたしてはいない。それでもかろうじて進化したものが生き残り子孫を作り、この星の中にいる生命体では、そのトップにライヤ人がいるのだ。 つづく
2022/03/11
コメント(4)
イザミは星を見たことがない。数少ない仲間に訊いても誰も見た者は、いないという。ぼんやりと暗黒色に包まれた天を見つめていると、聴覚スイッチが入り、ヤジカ指導員の声が鼓膜に響く。「先ほどから呼んでいるのに、胸のボリュウムを強にしとけ。5号棟の381号まで来てくれるか」「承知しました。この前の選別検査の結果ですね」「そうだ、他にもあるから直接会いたい」「5分後に伺います」 イザミが居る15号棟から5号棟までは、自動浮遊装置で3分の距離で、屋上にある浮遊ポートからすぐに飛び立つ。やや悪臭のする灰色の霧を全身に浴びて5号棟の屋上に着いたのは3分16秒後で、壁面外側にあるカプセルを呼んで降下する。381号までに4ヶ所の透明扉を開いてヤジカの前に現れたイザミは、いつもにこやかな表情の指導員がやや暗い顔をしているのが気になった。「イザミ、残念だが君の脳は基準点に達していない。4年後に最後の検査はあるが、現段階ではCの判定だ」「先生、クラスだけでなく9歳から14歳までトップだった私が、平均以下なんてありえません。再検査を求めます」「それはダメだな。君の脳は5歳のときに入れ替えたパーツの一部で不具合が生じたようだ。1万分の一にも満たない障害が君に起こるとは。そこでこれから話すことは全て君と私だけの秘密だが、聴く耳はあるか」「あります」「この星の人口適正数143万人を1万人の上級者と中間層が23万人、残りの低級者119万人をABCのランク別にしているが、君は今回Cランクに選定された。あと1回のチャンスはあるが、このままだとBランクも難しいだろう。それまでに人工脳が飛躍的に改善されれば良いのだが、他の者にも同じくチャンスはあるのだ。イザミ、この星では許されないが、私はお前を自分の子供だと思って教育していたよ。そのお前がランクCに判定されるのは、断腸の思いだ。少しでもチャンスがあればそれを教えてやろうと、考えている。そこでまず数百年に1回あるかどうかの大発明か、他の天体に行って、ここよりも大気成分が優れ、我々の生存が可能かを見極めて戻れば、英雄になって大歓迎されるのは間違いない。3年半前に私個人が飛ばした通信傍受・小型衛星からのデータを解析したら、164光年先ににある星の大気成分が、この星と似ていた。そこに生命体が数多くいるのも分かった。イザミ、最高会議所の命令ではないが、お前がその星に行き、我々が住むに適しているのかどうかを調べ、その結果が吉報ならば、お前の身分はランクAだけでなく、一躍この星の英雄になるだろう」 つづくΩΩΩΩΩこれまで「カメぱっぱ」を読んでいた方は、違う展開に驚いたかもしれません。「地底人」「海底人」が登場すれば最後に残るのは異星人(宇宙人)となります。地球にいる知的生命体は、まだ他の星にいる生命体とのコンタクトに成功していませんが、(昔、海底人は接触しました)友好的ならば問題ありません。地球に来られるだけの科学力は、人類よりもはるかに優れているのです。地球人が一致団結して異星人と交渉できるのか? 現在の国際情勢を観ると、難しいようです。力づくで小国を抑え込むやり方は、原始動物以下の劣等生物です。・・・・おっと、現実社会を忘れてファンタジーな物語「カメぱっぱ」をお楽しみくださいね。 ΩΩΩΩΩ
2022/03/07
コメント(4)
「カメぱっぱ」の連載は3月7日(月)に再スタートです。もうしばらくお待ちください。今回は(532)からの目次を載せます。ΩΩΩΩΩ(532)宇宙基地の建設 2021年12月10日(533)ボントスの本音 2021・12・15(534)酷寒のアラスカ 2021・12・19(535)ワイヤレントとモハイヤベリー 2021・12・23(536)ボントスとワイヤレント 2021・12・27(537)楽しいひととき 2021・12・31(538)トマソンとブッチャーの会談 2022・1・6(539)ブッチャーの野望 2022・1・10(540)情報 2022・1・14(541)駆け引き 2022・1・18(542)メッツの本拠地 2022・1・22(543)はかない抵抗 2022・1・26 (544)隠しチュー 2022・1・30(545)虐殺 2022・2・3(546)クリサーラ登場 2022・2・7(547)グラッチ・マウスの闘い 2022・2・11(548)一触即発 2022・2・15(549)舞い降りる雪 2022 ・2・19 ΩΩΩΩΩ
2022/03/04
コメント(4)
ΩΩΩ 急きょPLUTO星へ戻ります。地球に来るのは1週間後に なりますので「カメぱっぱ」の連載は3月7日(月)に再スタート します。 「海底人との闘い」のあらすじは、392~424までが 518でまとめているから読んでね。その後はこれから下記でお知らせ します。 地球人よコロナに負けるな! 短い人生を楽しめ!ΩΩΩδδδ(425~440)海底人からの脅迫 (441~443)海底王国 (444~448)海底人あれこれ (449~454)エリーゼの追憶 (455~461)王国に潜入するカメぱっぱ (462~467)エリーゼとの遭遇 (468~472)ザビエス・王国の内情を伝える (473~479)ホワイトハウスのモニターにマザー登場 (480~486)直接交渉始まる (487~492)ワイヤレントの罠 (493~501)生物兵器の恐怖 (502~510)スカンク作戦 (511~517)セントラルパークで英気を養う動物たち δδδ 518~549までのあらすじは、次に掲載します。
2022/02/24
コメント(4)
攻撃専用に開発された隠しチューでも、これだけ多くの敵に囲まれて闘うだけの気力はありません。退路を探すために周りを見渡します。 すると上空から白いものがパラパラと舞い降りました。シティ・フィールドの殺気を感じた天がその空気を冷ますかのように、雪を降らしたのかもしれません。クリサーラの澄み透る声が球場内に響き渡ります。「一塁側のネズミたち、ダッグアウトまでの一本道を作っておあげなさい。ダッグアウトの中も空っぽにして、そこのロボット・ネズミを帰しましょう。もう無益な闘いは終わりです。グラッチは死んでいませんから安心してください。あなた方の社長は不死身です。これからもこの地区だけでなく全米中のネズミ族を束ねる勇敢なボスです。あなたたちは、こんなボスを持ったことを誇りにして生きてください。あなたの子供や孫、その孫たちにずっとずっと言い聞かせるのです。ニューヨークにいるグラッチ・マウスの名前を忘れないために」 クリサーラの声が途絶えると、グランド全面を覆い隠したネズミたちですが、一塁側だけ細い道ができました。その道にネズミは一匹もいないから、隠しチューは多少、おどおどしながら歩きだします。 周りを囲んだネズミから強力な殺気を感じ、それを振り切るようにダッグアウトに走り込むと、そのままロッカールームから一直線に外へ出る階段に向かいました。 そのとき、球場内からネズミたちの大歓声が響きます。グラッチが地表に降ろされると、自分の意思で起き上がり、4本の足でグランドに立ったのです。 なにか言葉を発しようとしますが、その前に「グラッチ、グラッチ」の歓声がこだまし、地面を向いたままの汚れた顔には、大粒の涙がきらめいています。降り注ぐ白い精霊たちがグラッチの顔を隠してくれました。 その光景を見届けたクリサーラは、外野席の上空からフェンスを越えて一般道路へひらりひらりと降ります。ようやく生田緑地の動物たちが球場に到着し中に入ろうとするので、優しく声をかけました。「怪物のネズミはすでに退散しました。あの歓声はグラッチ・マウスさんの部下たちが勝どきの声を上げているのです。みなさんが駆け付けたのは、無駄ではありません。その気持ちがグラッチさんに大きな勇気を与えたのです。さあ、一緒に帰りましょう」 ことの詳細を知らない動物たち、クリサーラが言うのを信用していますから、そのままユーターンして来た道を戻りました。大粒の雪が生き物たちの肩や背中に降り注ぎシンシンとした音と、サクサクの足音が寒空に響いています。 つづく
2022/02/19
コメント(4)
相手が跳び上がった瞬間、グラッチの体は、左側に倒れ必殺の攻撃をかわしました。グラッチがいたグランドには、コンクリートの破片が舞い上がります。倒れているグラッチが起き上がる時を1秒も与えず、第二弾の攻撃は、岩盤を嚙み砕く力を持つ<噛みつき>で、口を大きく開けたまま相手の身体めがけてぶつかります。すばやく胴体を右に捻り致命傷を避けたグラッチですが、長く太い尻尾は無残にも食い千切られました。千切った11cmほどの尻尾を咥えた隠しチュー、第三弾の攻撃を開始します。 小説や映画などでは、攻撃している者が倒れている者を見ている表現では、『さあ、次はどう仕掛けるのか、横たわっている者を睨みながら、次の一手を考えます』などの描写がありますが、喧嘩慣れしている実践派は、敵が倒れていれば有無を言わせず速攻で攻め、一気にKOするのです。 隠しチューも倒れているグラッチ目掛け、左右の足蹴りを繰り出しました。強力な右足がグラッチの顎に炸裂し、顔面が上に向いたまま3m近く宙に飛ばされ瓦礫の山に叩きつけられます。ドテッ、音を立て仰向け状態で横たわるグラッチの体はビクとも動きません。スルスルッと、すばやく走って山を駆け上がり接近した隠しシュー、側頭部へとどめの一撃でケリをつけようと、太い右足に反動をつけ蹴り出します。周囲にいたグラッチの部下たちは、これでおしまいと、一斉に目を伏せました。とんでもない怪物に襲われ、それでもネズミ族の親玉は、プライドを賭けて闘いを挑んだのです。明らかに力の差があるのに、それを承知で命をかけたボスの亡骸を見ようと顔を挙げたとき、信じられない光景が目の前に現れました。グラッチの体が隠しチューの頭上に浮いているのです。 体がゆっくり半回転し目は閉じたままですが、隠しチューを見下ろしています。上を見上げた隠しチューは、憎々しげに声を出します。「外野席に浮かんでいる者が、助け舟をだしたな、こいつの命はあと、ひと蹴りで消え去ったのに、余計なことをするな」 隠しチューの脳に言葉が突き刺さります。「グラッチは私の大事な友人です。あなたのような者に殺されるなんて、私は許しません。この闘いには無理がありました。光線や高周波の武器を使わなくても、薄い鋼鉄、軽合金、ニッケルやアルミで作られた、あなたの体には、生き物の力は及ばないのです。その上、破壊力も段違いの強さで生き物のネズミに比べ10倍以上の力の差があるから、勝負にはなりません。対等な闘いなら私も静観していましたが、これはただの一方的な殺戮です。もう一度だけ言います。このまま静かに退場しなさい」「あんたの名前を教えてくれ」「私は、地底人、白肌族の女王、クリサーラです」「こんなネズミ野郎を、友達と言っていたな、友達ってなんだ、教えてくれ」「生き物、ロボット、機械に関わらず相手に対する思いやりと、片方が困っているときは手を指しのべる勇気、例え物事の価値観が異なっても、笑いや悲しみが共有できること。会話をしなくても互いの温かさを認め合うこと。隠しチュー、あなたに理解できますか?」「出来るわけないだろう。俺の心に友達なんかの感情は、絶対に芽生えないだろうからな」 いつの間にか隠しチューの周りを数千匹のネズミが取り囲んでいました。内野、外野、グランドの土を覆い隠すかのようにビッシリ、ネズミたちが、集まっています。少しでも隠しチューが攻撃態勢に移れば、一斉に襲い掛かる一触即発の気迫が伝わります。 つづく
2022/02/15
コメント(4)
センターグランドにいたネズミ軍団は、外野方向から突進してきた隠しチューの姿を見ると、蜘蛛の子を散らすように逃げ去って行きます。 それを追いかけようと三塁側に向かったとき、またも女性の声が脳の中へ響きました。「お止めなさい、あなたに考える能力があるのならば、ボントスの呪縛から自分を解放させる方向に持っていきなさい。彼の命令がないと生きていけない愚かなロボットに成り下がるなんて、悲しいとは思いませんか」 これまでの短いチュー生において、他から意見などされたことのない隠しチューは、かなり面食らいました。外野席のスタンドに浮かんだ小さな女性が口を開かず直接、脳に話しかけるのにも仰天します。「俺はボントス王に造られた人工ネズミかも知らんが、自分の意思で行動している。それよりもお前はなぜ宙に浮かぶのか、なぜ、俺の脳に直接話せるのだ」「あなたが全てを理解するのは、不可能です。これは超能力現象のひとつで、既存の物理学や科学で説明するのは、難しいのです。そろそろここから退場する時間ですよ。これ以上の殺戮は私が許しませんからね」「俺の特殊な武器が使えないのなら、やられるのは時間の問題だろうな。だがな、あんたが何を言っても俺を変えられない。戦闘用兵器として作られたので他への転換は不可能だ。そこの一塁側にいるでかいネズミが、グラッチ・マウスか。どうだ俺と一騎打ちをしないか、光線や電波を使えないから腕力だけの勝負になるな。それとも作り物のネズミと闘うのは、嫌か」 それを聞いたグラッチ・マウスは、全速力で走って隠しチューの2m近くまで接近します。「お前がインチキネズミだろうが、私の大切な社員を大勢殺したのは許さない。例えクリサーラさまがお許しになっても、私はネズミ族のトップとして、このままお前を帰すわけにはいかないのだ」 グラッチ・マウスは、周囲にいる部下に声を上げます。「社員の諸君は、絶対に手を出すな。もっと離れてくれ。もし万が一、私が負けて倒れても、襲わずに帰してやれ。ニューヨークだけでなく全米中のネズミ族がこれをリアルタイムのニュースとして注目している。いいな、私とこいつの闘いに手を出すな」 隠しチューが1mまで接近しました。「かっこいい演説・・虫唾が走るぜ。お前のような偽善ネズミは、ズタズタに引き裂いてやる」 2匹とも大きさは約20㎝ほどで、体つきもそれほど異なっていません。その2匹がグランド中央で睨み合いました。まず動いたのは隠しチューでグラッチのバックを取ろうと左横から半円を描きながら接近します。本物のネズミよりは、やや動作は鈍いが、それでも確実に近づきました。グラッチも無理に逃げようとせず体全体を隠しチューの方向にゆっくり回転させます。 これですと、いつまで経ってもグラッチの周りをグルグル回っている隠しチューの動きに変化は生じません。その均衡が破られたのは、隠しチューがグラッチ目掛け1mほどの高さをジャンプし、長い爪を出し襲いかかった、その時です。 鋼鉄状のカミソリ刃は、皮膚だけでなく頭蓋骨までも粉砕させる力を持っていました。 つづく
2022/02/11
コメント(4)
「お止めなさい、生き物を殺す権利など、あなたにはありません」 隠しチューは、その声を無視して目から光線を出そうと眼圧を上げました。しかし光は放射されず目の奥が痛くなるので、いったん中止します。 高周波や光線を出すのが外部からの圧力で止めるのは、今回が初めての経験です。隠しチュ―は声の主がどこにいるのか、ピッチャーグランドからセンター方向、その先にある外野スタンドを目で追いました。すると一番高い所で淡い光がゆらゆら揺れているのを見つけます。その1m上空に小柄な女性が浮いています。海底王国の王、ボントスが造ったAI内蔵の人工ネズミには、白肌族の女王、クリサーラの情報はインプットされていなかったのです。 それよりも、なぜニューヨーク・メッツの本拠地、シティー・フィールドにクリサーラがいるのかを説明しましょうか。隠しチューからグラッチ・マウスへの挑戦状がマンハッタン地区の責任者ヘンリー8世に届いたとき、ヘンリーは自分の判断でボスに知らせず処理しようとしました。たまに向こう見ずなアホがボスに闘いを挑むので、それをいちいち報告せず、自分で対応して解決していたのです。今回はとんでもない怪物に仲間たちが次々と、殺されるのを見ていた一匹のネズミが脱兎のごとく、グラッチ・マウスのいるビルに駆け込み、事の次第を報告しました。たまたま生田緑地仲間、クリサーラとなごやかに歓談していたニューヨーク全域の大ボス(会社組織にして自分を社長と名乗っている)は、各地の支社長に伝令を飛ばした後、大勢の社員と共に息せき切って球場へ駆け出します。 グラッチ・マウスを友人として扱うクリサーラは、当然のごとくネズミたちの後方から追いかけました。しかしかなりのスピードで宙を飛ぶので、途中で追い超し先に球場に到着します。 クリサーラは隠しチューがネズミたちを殺した虐殺現場を見て、すぐに行動を開始しました。まず人造ネズミの脳に直接入り込み話しかけたのです。 先ほどのトップに戻ります。隠しチュー、何度も目に力を入れますが、何も起こりません。ダッグアウトを出て外野フェンス近くまで走ります。光線の射程距離10m内よりも高周波は約15mの有効距離なので、宙に浮いている女性へ電波を出しました。「あなたの武器は、私には通用しません。このまま大人しくここから退場しなさい」乳白色の肌を持ち、身長1m足らずの女性が浮かんだまま、毅然とした態度で話しかけます。「俺のデータにお前のような人間はいない。そうか、地底人の種族だな。ここのボス、グラッチ・マウスを倒せなくても、その代わり子分を大勢、あの世に送ってやるぜ」「いいえ、あなたが出力する光と電波は、私が封印します。多勢に無勢、かなう訳がありません」「勝負は下駄をはくまでわからない」隠しチューは、外野フェンスに背を向けて走り出し、内野席に集まっていたネズミたちの群れの中へ突進します。 つづく
2022/02/07
コメント(4)
グランド内はコンクリートや石の破片で覆われます。これでは頑丈なロボット ネズミでもひとたまりもないでしょう。それではヘンリーが投げろと怒鳴った2秒前に時を戻します。薄笑いを浮かべた隠しチューは、自分の頭をグランドに突き刺すと、ドリルのように高速回転させ、そのままズブズブ体を土の中に潜り込ませました。わずか3秒足らずで全身はグランドの中に隠れます。 その後にコンクリートなどが投げられたので、奴は無傷のまま地中奥深く潜ったままでした。ヘンリーが14秒後に再度叫びます。「グランド内に大きなゴミを放置してはならない。全匹スタンドから降りて片付けてくれ。破片は手渡しリレーで場外に運び、交通の邪魔にならない場所へ置くこと」すでに先ほどのインチキネズ公は瓦礫のしたで昇天していると、決めつけていました。ダッグアウトにいたネズミたちもグランドに走り、総勢3000匹 近くが一斉に瓦礫の片付け作業に入ります。ピッチャープレートに積み重なった粗大ゴミが残り三分の一になったとき、山積みになった破片がゴソゴソガサガサ動き出します。 始めに黒い頭、次に金色に輝く2つの眼玉、鋼鉄製の細いヒゲとどう猛な口元、そして首から下の胴体が露出し、周りで作業していたネズミたちを驚かせました。 一塁ダッグアウトの前、グランド近くで指揮をとっていたヘンリー8世を睨みます。「こんな野蛮な方法で俺が倒せると思うとは、情けない奴だ」 隠しチューが周囲にいたネズミたちに目を向けて光線を放つと、円の中、2m以内にいた約30匹近いのが燃え上がりました。それを見ていたヘンリーは警戒注意報の声を上げます。「チーチッチ、チッチチッチ、チーーーーー」グランドから雪崩をうってネズミたちは、フェンスをよじ登りスタンドに逃げ出しました。「おい、ヘンリーだかヘンジーだか知らないが、こっちに来て俺と勝負する気はないか」 ヘンリーは隠しチューを睨みます。「高周波を出し、生き物を焼き殺す光線を出す化け物と喧嘩はできない」「それなら、俺の方から行ってやる」 一塁のダッグアウトに突進する隠しチュー、ヘンリー目掛けて襲い掛かりました。 ヘンリーはロッカーがある出口から一目散に逃げだしましたが、逃げ遅れた13匹は光線を全身に浴びて焼かれます。狭い部屋の中は阿鼻叫喚と化します。 半地下のダッグアウトからピッチャーグランド方向を見渡した隠しチュー、三塁ベースに固まっていた40匹ほどを焼き殺そうと視線を向けました。 突然、脳に直接、甲高い声が響きます。 つづく
2022/02/03
コメント(4)
人造ネズミが放つ高周波の電波がジョー・ヒックスの心臓を一撃します。 ヒックスは胸をかきむしりネズミに手を伸ばすが、触れる寸前にガクッと膝がくずれて前につんのめります。伸ばした右手が空を掴み、そのまま額を固定式のベンチ角に思い切り打ち据えて倒れました。 コンクリートの床に跳び降りたネズミは男の瞳孔を見つめ、絶命したのを確認します。いつの間にかダッグアウトの中に本物のネズミが14匹いて、人造ネズミを見つめていました。その中にいた大きなネズミが声を出します。「あんたがインチキネズ公でも、俺たちにはない力を持っているのは分かった。それでもそこの死んだ男に言っていた、グラッチ・マウスさまを倒し、ニューヨークを支配するのは無理だな」 床から見上げるAI内蔵のネズミが静かな声で応えます。「やはりボスは最初から登場しないか、お前らは奴の部下で、その辺に隠れている兵隊は約300匹というところか」「高周波かなんか知らんが、一斉にあんたを襲ってズタズタに引き裂く。どうする、このままグランドに逃げてセンター方向に行くか」「ボントス王、自らが製作したAI内蔵の万能ネズミ、雲隠れの殺虫こと隠しチューの力を見せてやる」 グラッチ・マウスの配下たち音もなくダッグアウトの床に跳び降りるのを見ていた隠しチュー、身をひるがえしピッチャープレートがある方向へ走ります。やや小高い場所に着くと辺りを見渡しました。ブルックリン地区から集まった最強の兵隊200匹がプレートの周りを固めます。残りの約100匹は、ダッグアウトの中で待機して、いつでも飛び出せる態勢です。 隠しチューの眼が一段と輝き、線状の光線が一塁側にいたネズミ軍団へ放射されます。光線を直接浴びた13匹、体が燃え上がり火だるまになって転げまわります。ダッグアウトにいた大きなネズミが叫びました。「その化け物から離れろ、フェンス近くまで逃げて、奴が近づいたらよじ登って逃げろ。チーチッチ、チーチーチー」 大きな鳴き声が球場内に響きます。ネズミはチューチューよりチッチのように鳥の鳴き声に近いのです。その声でまず三塁側にいたネズミたちが、外野フェンスまで退避しました。するとスタンドに隠れていた大勢のネズミが姿を現します。まず一塁側のスタンドにある椅子にぞろぞろ駆け上がると、次に三塁側の椅子にも別な軍団が昇りました。その数、合わせると2000匹は下らないでしょう。 そのいずれのネズミも両手にコンクリートや石の欠片を持っています。「グラッチ・マウスさまを倒そうとするイカサマネズミ、覚悟しな、このニューヨークは、お前のものにはならない」 この地区を任されているヘンリー9世が、巨体を揺すぶりました。隠しチューは唇を舐め薄笑いを浮かべています。 ヘンリーが号令をかけました。「よーし、同時に投げろ、そーれ、今だ」 2000匹のネズミが一斉にピッチャーグランドめがけて、手に持った破片を投げつけました。雨あられという表現がピッタリの光景で、みるみるグランドは、石やコンクリートで覆われます。 つづく
2022/01/30
コメント(4)
初老の男は直接グランド内に向かわずに、ホームの一塁側ダッグアウトへ足を運びます。日本と違って試合がない日、選手、スタッフは球場に来ないで家族サービスかジムでトレーニングをしていますから閑散としていました。 アメリカの球場では天然芝が主流なので、春の開幕前に植え替えをしますが、オフシーズンの現在は、土の地肌がむき出しになっています。2羽の土鳩が虫でもいるのかセンターフィールドで盛んに土をほじくっていました。ダッグアウトの左奥にロッカールームへ通じる階段そばの椅子に座った男、銀製のシガレットケースからキューバ産の細いシガリロを取り出しジッポンの葉巻ガスライターで火をつけます。グランド全体を舐めるように見渡すと、舌で転がした煙を宙に吐き出しました。足元に置いたボストンバッグを膝の上に置き、中から20㎝程度のネズミを手に取ります。本物に似せてはいますが、明らかにミニロボットのようなギグシャクした動きではありません。腹の下に隠れていた赤いスイッチを入れると、金色の目がランランと輝き口を開きます。「ジョー・ヒックス、お前の仕事はこれで終了だ。これからこの球場にニューヨーク中のネズミのボス、グラッチ・マウスが来る。そいつを始末すれば俺がここの親玉になって、あらゆる通信施設を襲わせ、人間どもを阿鼻叫喚の地獄に突き落とす。携帯やパソコンを遮断すれば人間社会は大混乱に陥るのは必至だ」 ジョーといわれた男が膝から床に移動したネズミに尋ねます。「混乱させる目的を教えてくれ」「アラスカの宇宙基地が稼働すれば、人間たちを静かな生活からイライラさせストレスが溜まるようにもっていくのだ。スマホやSNS、ゲームも出来ないとテレビをつけるが、そこからは宇宙の旅とかが数多く流れる。すると単純な者は宇宙基地や工場で働きたくなるから人力の確保は十分間に合う。月面や火星での作業員は事前訓練なんかしない使い捨てだから、人数はいくらあってもよいのだ。そのためには、テレビ以外の通信網は必要ない」「ヘッドホンから催眠暗示の電波で洗脳された私が海底人の手先になって、ここまでお前のような薄汚い偽ネズミを運んだが、人間としてのプライドと良識が洗脳を薄めたようだ。私の命なんかどうでもいい。しかし人類を滅亡に追い込む奴とは、闘うだけだな。まず、お前を・・・・」 ジョーが偽ネズミに手を伸ばそうとすると、ネズミの眼が光輝きます。「俺を床に叩きつけようとしても、それは出来ない。あんたを利用する賞味期限は、切れた」 つづく
2022/01/26
コメント(4)
ニューヨークのタイムズスクエアは、地下鉄のハブ駅で複数の路線に乗り換えられます。劇場街やバス・ターミナルなどが近くにあるから、いつでも混雑しています。それでも裏道に入ると怪しげなお店が軒を連ね街が持つ猥雑さを醸し出しているのでした。ロングコートを粋に着こなした60代後半の白人男性が7番線のホームにと向かいます。7番線はMLB・ニューヨーク・メッツの本拠地、シティ・フィールドの最寄り駅、ウイレッツ・ポイントまで行けます。その男は左右にガタガタ揺れる地下鉄に乗って、ボストンバッグを左手に持ちシティ・フィールドの駅まで両耳にあてたイヤホン・ヘッドでオスカーピーターソンのメロディーを聴いていました。 電車を降り駅を出るとすぐに巨大なスタジオが出現します。近くにはテニスの全米オープンが行われるナショナル・テニスセンターやアーサー・アッシュ・スタジアムがあってニューヨークのスポーツの中心地です。 ロングコートを風にたなびかせ、ゆっくり歩く初老の男はシティ・フィールドを見上げます。ベージュと茶色を基調した落ち着いた一見、二階建てに見えますが、巨大な照明灯が野球場であるというのを誇示していました。球場は2009年に造られていますが、その重厚感ある佇まいは歴史を感じさせる貴重な場所でもあります。メッツの一塁側入り口・ゲートへ着いた男は、ガードマンにプラスチック・カードを差し出しました。マスコミ用の球場内通行許可書で顔写真と名前がついています。寒空のオフシーズン、野球に限らず他の競技も4日間行わていないからガードマンのアレンもやや不審に感じました。「リチャードさん、今日は練習とトレーニングもないのでご覧のようにスタッフも誰もいませんよ」 白髪の男は両手のひらを上にして軽く持ち上げます。「それで、いいのだ。ピッチャーマンドに立ってキャッチャーのマイク・ピアッツア(1998年~2005年)のミットめがけて投げるイメージをするのが夢だった。それが終わればグランドを一周して帰るよ」その時、アレンのスマホが鳴り響きます。「寒いから気を付けて」男がゲートから中に入り正面入り口に向かうのを目線で追いました。「ボブ、なんだ」「7時から俺の家でポーカーをやるが来るか」「この前は大負けしたからな、行くよ」「よーし、業務連絡終わり」初老の男が去った方向を見つめますが、気にせずにスマートフォンを取りだし、現在ハマっている格闘技ゲームをスタートさせました。 つづく
2022/01/22
コメント(4)
全1129件 (1129件中 1-50件目)