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人生朝露
共時性と老荘思想。
前回の続き。
1950年代に、『自然現象と心の構造 -非因果的連関の原理-』という本が出ました。
著者はユングと、
1945年にノーベル物理学賞を受賞した物理学者・ウォルフガング・パウリです。
参照:Wikipedia ウォルフガング・パウリ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%B4%E3%82%A9%E3%83%AB%E3%83%95%E3%82%AC%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%BB%E3%83%91%E3%82%A6%E3%83%AA
当時の知性を代表する二人。「心の理」と「物の理」がこの本では混濁化しています。
キーワードがまさに「非因果性」と「偶然」です。
ちなみに、1948年にユングとパウリが初めて出会った日のこと。パウリが入室しようとした矢先、なんら外的要因がみられないにも関わらず、中国製の花瓶が割れました。これは、「Matrix」の中で、ネオ(Neo)とオラクル(Oracle)が初めて会うシーンにも使われています。パウリ効果です。
参照:The Matrix - Neo's First Minute with the Oracle
http://www.youtube.com/watch?v=kWVWNri4IFM&feature=related
パリーンってね。
参照:Wolfgang Pauli, Carl Jung and the Challenge of the Unified Psychophysical Reality
http://paulijungunusmundus.eu/synw/pauli_fludd_flood_sync.htm
12 Causality
http://www.youtube.com/watch?v=b02SihR324A
鍵となるのが、メロビンジアン(Merovingian)というキャラクターが司る「因果律(Causality)」。元々はここですよ。
≪因果性の原理は、原因と結果との間の結合が必要であると主張する。共時性の原理は、意味ある偶然の一致が、同時性と意味によって結ばれていることを意味する。そこで、もしESP実験やその他の数多くの観察が確定された事実であるとすれば、自然の中には原因と結果との結合性以外に、いまひとつ別の因子が存在し、それが諸事象の配置の中に表現され、それはわれわれにとって、意味として表れると結論しなければならない。意味というのは擬人的な解釈であるが、それでもなお、それは共時性に不可解の基準を形成しているのである。その「意味」としてわれわれに現われる因子が、それ自体において何であるかということを、われわれは知ることができない。しかしながら、ひとつの仮説としてならば、それは最初に一見して思われるほど全く不可能なものではない。われわれは、西洋の合理主義的態度が唯一の可能なものではなく、全てを包括するものでもなく、多くの点において一つの偏見であり、偏向であって、おそらく修正されるべきものであることを、記憶しておかねばならない。中国の太古の文明はこの点に関して、常にわれわれとは異なる考え方をしていたのであり、われわれの文明の中で類似ものを見出そうとすると、少なくとも哲学に関する限りでは、ヘラクレイトスの時代までさかのぼらねばならない。≫(『自然現象と心の構造』共時性の観念の先駆者達より)
≪中国哲学に最古にして、また最も中核的な観念のひとつは、道(Tao)の観念である。これをジェスイット派は神(God)と訳した。しかしこれは西洋的思考法にとってのみ正しいのである。「摂理(Providence)」とか、その他類似の訳語は単なる間に合わせに過ぎない。リヒャルト・ウィルヘルムは賢明にも、それを「意味」と解釈したのである。道の観念は中国の哲学思想全体の中に浸透している。われわれ西洋人の間では、これと同じ最高の地位を因果性が占有しているが、その重要性は過去2世紀の経過のうちにのみ獲得されたものであり、これは一方では統計学的方法が、均等化の影響を与えたためであるし、また他方では、形而上学的世界観を不評判なものとした自然哲学の類ない成功のためでもある。
老子は名高い『道徳経』の中で道を次のように記している。「物あり混成し、天地に先立って生ず、寂たり、寥たり。周行して殆まらず(とどまらず)。以って天下の母と為すべし。われその名を知らず。これを字して道という。強いてこれを名なして大という」(第25章)。
道は「万物を衣養して主とならず」(第34章)。老子はこれを「無」と述べているが、それによって彼の意味するところは、ウィルヘルムが言うように、それの「現実世界との対比」ということである。≫(同上)
ユングが「共時性」の先駆者としてまずあげているのが老子です。
・・・いるんですよね。こういう人が。
参照:当ブログ 長岡半太郎と荘子。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/005007
そして、次に挙げるのが荘子です。
≪荘子(プラトンと同時代の人)は、道の基盤をなしている心理学的条件について、次のように言っている。「自と他が対立しあうことのない状態が道の枢軸と呼ばれる」。また彼が「存在の末瑣的な断片のみ注目するとき、道は不明瞭になる」とか「限定することは、本来生命の意味に根付いていない。もともと言語は固定した意味を持たなかった。物事を主観的に見ることによってのみ相違が生じてきた」と述べるとき、われわれは科学的世界観への批判のように聞こえるのである。荘子によれば、古代の賢者達は、「事物が存在し始めない状態を彼らの出発点とした。これはまさに極度の限界で、誰もそれを超えることはできない。次の仮定は、事物は存在しているが、それらはまだ分離され始めていなかった。次は、事物はある意味では分離されているが、肯定と否定はまだ始まっていなかった。肯定と否定が存在し始めると、道は衰えた、道の衰えの後に、一面的な執着が生じた」と言っている。「外部から聞こえることは、耳に届くだけでそれ以上浸透することはない。知性は分離された存在を導こうとはしない。かくて魂は空となり、全世界を吸収する。その空を満たすものこそ道である」。もしあなたが洞察力をもつならば、「その内なる目と内なる耳を用いて、事物の核心を貫くこと。すると、知的な知識は不必要となる」と荘子は言っている。これは明らかに無意識の絶対的な知識と、小宇宙の中に大宇宙が存在することを示している。
このような道的な解釈は、中国思想に典型的なものである。それは可能な限り全体性の観点から思考することであり、この点は中国の心理学のすぐれた権威者であるマルセル・グラネもまた明らかにしているところである。(中略)この全体性には未開人や西洋の中世期の前科学的心理学(これは今もなお生きている!)に見られるように、「偶然によって」結び付けられたように見える諸現象が含まれていて、それらの事象の偶然の一致は、まったくの気まぐれのように見える。これは中世の自然科学者たちが発案した対応性(correspondentia)の理論や、特に事物の共感性という古典的な考えの登場するところである。≫(同上)
ユングが最初に引用したのは、
『物無非彼、物無非是。自彼則不見、自知則知之。故曰、彼出於是、是亦因彼、彼是方生之説也。雖然方生方死、方死方生。方可方不可、方不可方、可因是因非、因非因是亦彼也。 是以 聖人不由,而照之于天,亦因是也。彼亦是也、彼亦一是非、此亦一是非、果且有彼是乎哉、果且無彼是乎哉、彼是莫得其偶、謂之道枢、枢始得其環中、以応無窮、是亦一無窮、非亦一無窮也。故曰「若以明」。』(『荘子』斉物論 第二)
→物に「彼(あれ)」でないものはなく、「是(これ)」でないものもない。「彼(あれ)」であるとすると見えないものも「是(これ)」であるとすると見えてくる。『「彼」という概念は是という概念から生じて、是という概念も彼という概念から生じ、(すなわち「あれ」と「これ」、「我」と「彼」という概念は、相対化された中で)双方が並存している』と。これを「方生の説」という。しかし、あらゆる視点から見渡すと、生は死であり、死は生である。可は不可であり、不可は可である。肯定に因ることは否定に因ることであり、否定に因ることは肯定に因ることである。聖人と呼ばれる人は、人知によらず天に照らして由らしめる。彼もまた是であり、是もまた彼である。彼に一是非、是に一是非ある。果たして、是と彼に絶対的な区別など可能なのであろうか?是と彼を遇することのできない極限ものを「道枢」という(枢とは、扉の回転の真ん中にある一本の柱のこと)。その環の中にあって、初めて無限の世界に応じることができる。是もまた一無窮、非もまた一無窮。故に「明によるに若くはない」というのだ。
・・・これ、なんですが、この円環は私にとっては荘子の描いた曼荼羅であり、
ウロボロスなんです。1979年のノーベル物理学賞受賞者、シェルドン・グラショウの描いたコレですよ。
参照:素粒子から宇宙を見る
http://www.kek.jp/newskek/2006/novdec/Satointerview.html
エヌマ・エリシュと老荘思想。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5051
量子力学と荘子。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5057
韓非子には、はっきりとあります。
『蟲有?者、一身兩口、爭食相?也。遂相殺、因自殺。人臣之爭事而亡其國者、皆?類也。』(『韓非子』説林 第二十三)
→?(かい)という生き物がいる。一つの体に二つの口があり、争ってたがいに噛みあう。 ついには互いに殺しあい、自身をも殺してしまう。人臣の、権力を争って自国を食いつぶすような者は、みな?のたぐいである
『小蛇謂大蛇曰:子行而我隨之,人以為蛇之行者耳,必有殺子,不如相銜負我以行,人以我為神君也。乃相銜負以越公道,人皆避之,曰:神君也。』(『韓非子』説林 第二十二)
→小さな蛇が、大きな蛇たちに言った「われわれが道を横切ったら人は群れなす我々を殺してしまうでしょう。どうです?みんなでお互いの尻尾を咥えてあって、私をその上に乗せて進んでみませんか?人間は我々を神とみなすでしょう。」蛇たちが言うとおりにすると、人間たちはそれを見て逃げだし、こう言った。「神様だ!」
今日はこの辺で。
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