えっ? 誰? 振り返ると、うわっ、気づかなかった。こんなに近くまで来ていたんだ。僕は飛び降りて慌てて滑り台の下に潜り込んだ。けど、ひろ君は滑り台を滑って降りてきて、滑り台の下にやってきた。やっぱり僕が見えているんだ。うわっ うわっ うわっ 僕は固まってしまった。
僕は、固まったままガタガタ震え初めた。しまった。しまった、見つかっちゃった。怖いんだよ。ひろ君は怖いんだよ。僕の尻尾を掴もうとしたし、虹ちゃんを泣かしたし、あの後、僕はお家に帰れなくてとっても苦労したってのに。あっ、僕の尻尾。慌てて隠そうとしたけれど、もう、ちゃんと両脚の間に隠されていた。不思議。尻尾って、いつも勝手に動いちゃうんだね。
「怖がらないでよ」ひろ君が言った。
僕は、返事ができなかった。虹ちゃんと杏ちゃんには見えていても、僕を見えなくなる子がどんどん増えていって、あとはボン君ぐらいだったのに、忘れていた。それに、ひろ君は別の学校だって、虹ちゃんが言ってたんだもの。僕、隣の学校まで行かないんだもの。
ついつい、滑り台の下の狭い方に来ちゃったんだ。間違えたんだ。緑色のはしごみたいな方だったら逃げ場があったのに、この狭い方じゃ、黄色い斜めのお屋根の下に追い詰められたみたい。そもそも下に行ったのが間違いだった。僕の上には広いお空があったのに、僕は飛べるのに、人間は飛べないのに。
僕の方に伸ばしかけた手を引っ込めて、ひろ君がもう一度言った。
「怖がらないでよ」
けど、さっき、僕の真後ろにいたのに僕が気が付かなかったことだって、怖いよ。あんなに気配を消せるなんて。尻尾を掴まれそうになった時だってそうだったし。
「触らないから、怖がらないでよ」
僕は返事ができなかった。ここからどうやって逃げ出そう、そればかり考えていた。どうしてひろ君がここにいるんだ? どうして。そりゃ幼稚園は近くだけど。虹ちゃんと一緒にもう卒園したのに。それに今日はお休みだし。
「公園に寄り道してよかった。パル君に会えたもの。誰かに会えるかなってこっちに来たけれど、よかったぁ」
「よくない、よくない、僕にはよくない。全然よくない。
「まだちゃんとパル君が見えるってわかったし」
もっとよくない。僕を見えないでくれた方がいい。みんなが僕のこと見えたら、僕、公園に入っちゃいけないことになっちゃう。みんなに見えたら、僕、杏ちゃんの幼稚園にも虹ちゃんの小学校にも入れない。入れない所が増えちゃう。どんどん増えちゃう。あっちの世界にいた頃の僕になっちゃう。せっかく魔法使いになってどこにでも入れるのに。
早くひろ君から逃げたい。どうしよう。どうすればいい。困っている僕の耳に、賑やかな蝉のジージーミーンミーンに混じって、虹ちゃんの声が聞こえたような気がした。あっ君の餃子の匂いもする。「べるりんちゃん…で、かりんちゃんのは薄紫で….」気のせいではない。本当に虹ちゃんの声、うふっ、助かったぁ! あっ君が言っている「えっ?、どうしてみんな花の色が違うの?」
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