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2006年11月03日
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「聖エルダー学園・天使と少年と魔女と・・・」

 #11 正体

 間一髪――、
 ハルカは崖に落ちるククを捕まえることが出来なかった。

 伸ばすハルカの手は、ただむなしく空を掴み――ククの小さな体は中を舞った。

 目を閉じて悲鳴を上げる少年――、
 その名を叫ぶ少女――、

 そうしている時間がどれほどのものだったか――少女には、一分・・・いや、それ以上に感じられた。
 が、その決断と行動は一瞬だった。



 それは誰が見ても、無謀かつ大胆な行為であった――。

     *

 自分は真っ暗な穴へ落ちている――そう、ククが感じたのは、彼自身が目を閉じていたせいか・・・。それとも彼の落ちる崖があまりに深いものであるためか・・・。
 いずれにしても落下し続ける彼は、何者かの声を聴いた気がした。

 そして目を開き――見たものは、忌々しいと思っていた少女の姿・・・。
 だけれども、彼女の目は真剣そのものであり――彼にはそれがわかった。

(何をしに――?)
 そう思い、彼はそれを口にする――。
 そして――彼女もまた彼に対して何かを叫んでいた。



「掴まるですぉ~~!」
 そう叫びながら、ククに向かって手を伸ばすハルカ。

 二人の距離が身近に縮まり――、

 ククはほとんど無意識に、自分の手を伸ばし、その手を取った。

「って、これからどうするんだよ!?」

「大丈夫ですぉ。こうします!」

 そう自信満々な顔をして――ハルカは、自らの翼を出した。

 光のように純白で、綿のように軽やかな翼を――。

 その翼で羽ばたくハルカを目にして、ククは目を丸くした。

「天使・・・?」
 その驚いた気持ちが自然と彼の口から出た。

「あ、あぃ・・・。内緒にしてくださいぉ~~」
 ハルカは照れくさそうな顔をしていった。
「え、え? あ、あぁ・・・」ククはあいまいな返事をした。「とりあえず、ありがとう・・・」

「どういたしましてぇ・・・」
 そう答えるハルカだが、やがてその顔は真っ赤になり始めた――。

「お、おいおい・・・大丈夫かあんた?」ククは不安げに言った。
「う、うぅ・・・。あんまり大丈夫ではないですぉ~~」ハルカは正直に答えた。
「えぇ~~! ちょ、もう落ちるのはごめんだぞ!」
「そ、そういわれても・・・。何だか、また頭がくらくらするのですぉ~~」
「!? そりゃ、まさかさっき食ったフェニックス・フルーツのせいか!?」
「そ、そうみたいですぉ~~。うう・・・!」
「わわわ!!」

 ハルカの赤い顔がやがて青くなったその瞬間――汗で滑った二人の手が離れた!

「うひゃ~~!」
 再び体が重力に引っ張られて、ククは悲鳴を上げた。
「ま、待つですぉ!」
 ハルカは直ぐに、落ちるククの脚に巻いたハンカチを捕まえた。

 ぶら~んと、逆さまの状態で宙吊りになりながら、ククはホッと安堵の息を漏らした。

 が、それもつかの間。

 ビビ、ビリリッ・・・!

 という悲鳴のような音を立てて、ハルカが掴んでいたハンカチがちぎれた。

 三度落ちることになるクク。
 二度も自分を掴まえながら、二度も落としたハルカに対して、この時の彼は何も文句は無かった――というかそんな余裕すらないといった方が良いだろうか・・・。

 しかし、その時一陣の風が吹いて、三度、彼を落下から救ったのだった。

 彼を救った風は、ホウキに跨った魔女、その人だった・・・。

「・・・やれやれ、本当に世話のかかる人たちね」
 エレナは呆れ果てたようにそう言いながらも、口元にはかすかな笑みを浮かべていた・・・。

     *

「助けてもらったことは、感謝するよ――」
 ククは気まずそうに答えた。
「だけど、フェニックスの居場所を教えるわけにはいかない――」
 それからハルカを見る・・・。
「たとえ、あんたがフェニックスにとっての恩人である天使だとしても――だ」

「あぅ・・・そうですかぁ~~」
 名残惜しそうにハルカは言う、その手に握るちぎれたハンカチをいっそう強く握り締めながら・・・。

「・・・ま、そうね。そこまでいう人間に強制は出来ないわ・・・好きになさい」
 と、エレンはククに対していくらか同意を示した様子だった。
 ククにはそれが一番意外なことだったかもしれない。
「意外だな・・・。あんたの方がこだわっているのかと思った・・・」
「・・・私が? そんなことはないわよ」
 エレンはぴしゃりとククの言葉を否定した。
「ともかくあなたに、私達を案内する意思はないってことは分かったわ・・・」

「それならよかった。じゃあ、用はないな・・・オレは帰るぞ」
 そういうとククは実にあっさりと、山林の方へ歩いていった。

 その後姿に、ハルカは少し違和感を感じた――が、直ぐにはそれが分からなかった。

 少し離れたところで、くるりとククは二人を振り返った。
「おーい!」

「な、なんですか!?」反射的にハルカは返事する。

「早く目的のものが見つかると良いなぁ!」
 ククは両手をメガホンのように口の横に立てて、二人にハッキリと聞こえるようにそういった。

「?? あ、あぃ・・・。ありがとうですぉ・・・?」ハルカは首をわずかにかしげた。

 それからククは二人に元気よく手を振って、すたすたと早足で山林の中へと入って行き・・・そして居なくなった。 

 その様子を見て、ハルカはようやく自分が感じた違和感について理解した。

(あれ? どうして脚を怪我した子が、あんなにすたすたあるけるんだろぉ・・・?)

「・・・あの子なかなか見所があったわね」
 不意にエレンが言った。
「え? 何のことですか?」
 エレンは指でハルカが握っているものを指し示した。

 ククの血で濡れたハンカチ・・・心なしか、本来、赤一色であるはずの血が、淡い光を放ち始めた。
「こ、これは・・・!?」ハルカは目を丸くした。
「フェニックスの血、ね・・・」エレンは冷静に言った。

「フェニックスの血・・・? じゃあ、まさか・・・!」
 ハルカはふと空を見上げた。

 そこには悠然と空を舞う、美しい鳥が一羽――まだ子供らしく、体が小さいものが――居た・・・。





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最終更新日  2006年11月04日 01時04分10秒
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