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2018.11.28
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カテゴリ: 教養書
登山家の長谷川恒男の生涯について書いた伝記。

●まとめ
長谷川はベビーブーム世代で学校になじめずに中卒でレコード会社で働くものの退屈で登山を始める。当時は極地法で荷物係が大量の荷物を運んでベースキャンプを設営しながら少数だけが登頂するやり方が正統派で、ほとんどの山が初登されてしまったので、第二次RCCがより難しいルートを登るロッククライミングをするようになるものの邪道扱いされていた。長谷川はロッククライミングにのめり込んで実力をつけるものの、調子に乗って嫌われて山岳会を辞める。長谷川は遠藤甲太と組んで積雪期谷川岳滝沢ルンゼ状スラブ登攀で名を上げて、保守的な山岳会とは違うアルピニストの同人「星と嵐」を作るものの、人間関係が悪化して二年後に解散する。
外国の登山がブームになる中でRCCはエベレスト登山を計画して森田勝を誘い、森田の推薦で長谷川も登山隊に加わるものの、悪天候で南壁の初登攀は断念せざるを得ず、長谷川はノーマルルートのサポートに回されて、登頂した石黒と加藤を下山させるためには長谷川はどうでもいいと本部が交信しているのを聞いて、集団での登山をやめてソロ・クライマーになる。長谷川は谷川岳の第二スラブを他のパーティーと一緒に登ったのに初登攀したと発表して物議をかもす。
長谷川はアイガー北壁冬季単独初登攀を成功させて、森田も触発されてグランド・ジョラス北壁の単独登攀に挑むものの失敗する。長谷川がメディアに注目され、ファンクラブができるほど人気になり、結婚して仕事の幅も広がり、アコンカグアでアルピニストとしての業績を重ねる一方で、森田は弟子の村上と再度グランド・ジョラスに挑戦して死亡する。
長谷川は寄せ集めの登山隊でエベレストに挑むものの失敗続きで、パキスタンの登山家のナジール・サビールと一緒に未踏のウルタルII峰に挑んで失敗して、再挑戦して頂上が間近という時にナジールが雪崩を警戒して6時にキャンプを出発しようと言うものの、長谷川は雪が安定していると判断して8時に出発して雪崩に巻き込まれて死亡する。

●感想

「人はいつでもどこでも、死ぬことができる」というプロローグの出だしの文章がまずよい。これから登山家の死に様を書くよと出し惜しみせずに最初に書いて読者の関心を引くのはよい。他の本やインタビューを基にしていて客観的に長谷川の人物像を掘り下げていて、文章も読みやすい。登山家が危険を冒してまで山に登りたがるのは登れなかった山が登れるようになって自分の成長がわかって目標を達成できるからだという登山家の心理も書いているので、山に登らない人でもわかりやすい内容になっている。私のように登山をしない人から見れば誰がどの山を登ったというのはどうでもよくて、エゴイストな登山家の実力と名誉をめぐる人間模様が面白い。長谷川はろくな教育を受けないまま競争に晒されて身勝手になって人間関係でつまづくという団塊の世代らしい特徴がよく出ている。
空白地帯がなくなって、新しいことをやろうとすると「単独」「無酸素」「フリー・クライミング」等のカッコ付き登山が行われるようになる、というのは登山に限ったことでもなく、似たような空白地帯のない閉塞感は現代社会のいたるところにある。2019年に天皇が退位するということで平成はどういう時代だったのかという総括がいろいろなメディアで行われているけれど、平成はパソコンや携帯電話が高性能になって普及してインターネットの通信速度が速くなって便利になったという程度で、テクノロジーが進歩した一方で社会は多様性がなくなってかえってつまらなくなった。昔は個人経営の店があちこちにあって、たいして旨くない飲食店や小さな本屋でもそれなりにビジネスになったけれど、今は駅周辺やロードサイドの立地がいい所は大資本のチェーン店に占拠されて、コンビニが乱立して、郊外にイオンができて商店街がさびれて、田んぼにレオパレスや大東建託の同じデザインのアパートが建って、どの都市も似たような風景になった。テレビはどこかの番組が人気になると他局も横並びで同じ時間帯に似たことをやってすぐに陳腐化している。


★★★★☆


長谷川恒男虚空の登攀者 (中公文庫) [ 佐瀬稔 ] ​





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最終更新日  2018.11.28 23:43:20
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