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サイド自由欄

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トールも製作に関わったオラクルカードです♪
2009年09月19日
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力づくで鎧を外し、本体いわく「魚のように」捌かれて頭だけを培養槽に入れられた。他に運ばれていった身体がどうなったのかは知らない。
ただ、できれば右腕だけはあの男に返してほしいと思った。彼自身の腕はとうに私に溶けてしまっていたが、お返しに私の右腕を。

金色の溶液に、ぽこぽこと気泡が立っている。
数週間私はそこに入っていた。本体がおどけて声をかけてきたけれども、応えることはできなかった。

最初の培養は失敗だった。
無秩序に生まれてきた肉芽に、脳の器官まで埋もれてしまった。ただちに培養槽から出されて頭部を再摘出し、また新しく培養液に漬けられる。

次の培養では、全体が茶緑のさなぎのようになって溶けてしまった。
再摘出して培養、再摘出して培養。
最初から前例のない実験だとはわかっていたが、何度それを繰り返しただろう。

銀髪の男が、何度もラボに足を運んできていることを私は感じていた。
戦士であるだけかと思っていたら、生命科学の専門家でもあるのだそうだ。一度彼はラボの人間となにがしか話し込み、そのあと私の培養は以前よりスムーズにいくようになった。

肉体の再生とともに、闇のエネルギーが解放されてゆくことに私は気づいた。今まで馴れ親しんだ波動から、もっと軽いものに移行している。
私の姿は背の高い完全な男性体となり、羽先に色のついた白い羽が生えて波動は天使系に近くなっていた。髪は今のところ銀髪になっていたが、瞳の色は相変わらず赤だ。

「オワッタヨ」

まだうまく使えない言語機能をもちいて、私は同じく肉体に変容を迎えていた本体に終了を伝えた。
だが、本体の家には見えない者たちがたくさん居座り、敏感な小さな娘に負担をかけていたらしい。

「助けて、リアルでうちがピンチなの。見えないものを見える私の娘をどうか、助けてあげてください」

必死の願いに、わかった、と私は意識で答えた。
すると彼女は、「ここをこうして、こことここにこういう形で結界のようなものを張って、こいつとこいつは抵抗するようなら焼き尽くして消してほしい。私側からはここに酒を供えて、何時と何時にこういうことをするから」とかなり具体的な指示をするすると伝えてきた。

私はまだ培養容器の中にいたが、その通り対応した。
彼女は私の力を中継するために数分ソファでぐったりしなければならなかったが、肉体の変容が起こっていたために、負担は少なめで済んだようだ。
本体が先ほど自分で言ったやるべきことを実行し終わったときには、問題の者たちはほとんどいなくなっていた。

その日はちょうど夏至だった。

「昼が一番長い日は、闇が一番深くなる日でもあるからね。それに、満月も近いし、陰の陰の日だからね」と私は言った。

「陰のきわまる日に再生するなんて、フェンリルはやっぱり闇の子だね」

そう本体が言うので、私は声を出さずに笑った。三次元に干渉して力を使ったからか、もう眠くてしかたがない。
本体が何か言ったけれど、私の意識はそこで途切れた。


次に起きたとき、私のエネルギーは金とオレンジの混ざった太陽のような色になっていた。
肉体は再生したものの、エネルギー的にはまだまだ不安定なようだ。
志願した実験体でもあるためにさまざまなサンプルを試していたというのもあるが、毎日服装もエネルギーも違う日々が続いた。

月の動きによって黒くもなった。ほぼ三十代だった見た目の年齢も変動し、しばらくどんどん若返ってゆくときもあった。
姿が変わるのはべつに構わなかったが、中身の記憶まで引きずられるのが痛い。心配して頻繁に様子を見にきてくれる本体のことを、覚えていてやりたかった。

「最後は赤ちゃんになって消えちゃったりするのかなあ」

十四歳ほどの外見になった私を見て、本体は呟いた。私は彼女のことをまだ覚えていたが、気づかぬうちにだいぶ薄められてしまっていたのだろう。「そうかもしれないね」と淡々と答えて寂しがらせてしまった。

その後、私のエネルギーはまた太陽の色に戻った。年齢もほぼ元通りで固定され、天使ではなく完全に精霊系のエネルギーとなった。

心は軽く、背負うエネルギーも軽くなった。
しかし慣れないのか何なのか、意識が拡散しておさえられない。覚えていてやりたい、会話してやりたいと思っていた本体のことも、薄くなったり現れたりを繰り返していた。

本体の家に戻っていたけれども、今までのように彼女の言葉や気持ちに反応できない。
浄化が急激に進んだことに対応できていないのかもしれなかった。
私が話す言葉も、本体にはテープを早回ししたような不思議な意味不明の音にしか聞こえていないようだった。

お互いの言葉が完全に通じない。
これで最後なんだな、とどちらからともなく思った。


私の身体は、今までになく楽だった。
喰いこむ鎧も刺さる刃もない。

永の時を拘束されていた罪という鎖から解放されて、私は軽やかに浮いていた。ただひたすらに愉快で楽しい。
けれどもそれでは次元が高すぎて、本体のそばに存在することはできなかった。


心残りはひとつ。
あの娘が悲しんでくれるだろう。

ほとんど強制的に軽く浮いてゆく自分を抑えられずに、姿を消すことになってしまった。
手術をしている間、私がかつてよくいた場所で膝をかかえて座っていたり、上澄みの天使の店でうろうろと待っていてくれたりしたのに、まだお別れも言っていない。

上に抜けそうになる意識をどうにか保って彼女を見に行くと、緑の娘は案の定ベッドの上で泣いていた。

「フェンリルのばかばかばか、なんでさよならも言わずに行っちゃったんだよ。あげようと思ってた羽もわたせなかったじゃないか。せっかく、ネックレスを作ってあげようと思ってたのに」

枕を拳で打ちながら、ばかばかばか、と繰り返す。
私はふいっとそばに寄っていった。
気配に気づいてふりむいた彼女の背中の白い美しい羽を一本つかみ、「ごめんね」と言って引き抜く。

「いてっ!」

彼女は私の姿が見えていなかったらしい。姿を探してわずかに泳いでいるエメラルドの瞳にむかって、私はにかっと笑った。

「ありがとう。そのネックレスの代わりにもらっておくよ。宝物にするから」

すると彼女は叫んだ。

「なんで消えちゃうんだよ! 戻ってきたら、これからずっと一緒になにしようかって楽しみにしてたのに!」

その怒った姿が、私にはとても輝いて見えた。
そう、彼女がそうやって私のために泣いたり怒ったり、その存在を認めてくれたからこそ、私はこうして解放された。
私の夢であり、存在するたったひとつの希望であった彼女が一個のフェンリルとして認めてくれたから、私は罪人のフェンリルとして苦しみながら存在しなくてもよくなったのだった。

「うん、もう、人格化した存在として、存在する必要がないんだよ」

私は微笑んだ。

お前のおかげだ。
お前のおかげで私が救われたことに、いつも救われていたことに、気づいてくれていたらいいと思う。

私の意識を、穏やかでまぶしい光が取り囲む。
もうこの次元にいるのも限界になってしまった。

あのとき初めて出会った時からずっと、うまく言えずに伝えられなかった言葉を、今なら伝えることができるだろうか。


ありがとう。
ありがとう。
ありがとう。


私は幸せだ。
お前に遺そう、私が持っていたものを。



だからもう泣くな、私の可愛い子よ。






















*************

>>【銀の月のものがたり】  目次1  ・  目次 2

>> 登場人物紹介(随時更新)


新しく生まれた月に。


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最終更新日  2009年09月19日 16時40分43秒
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