「ミナコの思考回廊」

第1章 Act.1



「始まる予感は甘い香り」 Act.1


 カナと出会ったのは、大学一年の初め。

 現在から遡ること5年。
知人など一人もいない大学に進学した私には、友達と呼べるような人なんているはずも無い。
しかし周囲も同様で、少しずつジワリジワリと輪は広がっていった。
 その中で、カナは一際目立って見えた。いつも一人で、黙ってデッサンをしている。休憩中はデッサン用の鉛筆をひたすら削っていた。
男っぽい横顔に印象的な眼鏡をかけていて、寡黙で近付きがたい雰囲気を持っているが、彼女の描くデッサンは抜群に抜きん出ていた。
私は彼女の外見に、纏う雰囲気に、描かれてゆく画面に、惹かれてゆくのがわかった。
デッサン室を見て回る振りをして彼女の背後に佇み、少し猫背の背中ばかり眺めていた。


 転機は突然訪れた。

 まだぎこちないが新しくできた私の友達から、彼女を紹介されたのだ。


「はじめまして。えっと、奈美といいます」

「あ。カナ、です」

「カナ、ちゃん。綺麗な名前だね。響きがきれい」

「似合わんでしょ。見掛けが男だから、名前が似合わん」

「そんなことないよ。よろしく、カナちゃん」

「あ、よろしく」


これがすべての始まりだった。私とカナの、すべての、始まりだった。

私は初対面でうまく会話ができないことに内心己を罵りながら、何か大切なことの始まりを予感していた。


 予感は甘い匂いがした。


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