「ミナコの思考回廊」

第1章 Act.2


「始まる予感は甘い香り」Act.2


私は私が嫌いだった。しかしプライドだけは誰よりも高かった。

幼いころから虚勢を張って生きてきた。小学校、中学校での成績は抜群で、運動部でキャプテンも勤めていた。
高校はその地区では一番の進学校に入学した。周囲は皆喜んだし、5歳年上の姉も同じ高校を出ていたから私には当然の道だと思った。

孤独なんか怖くなかった。
私は独りが寂しいとは思わないし、自由には孤独が付き物だと考えていた。
孤独を恐れ仲間との安堵を選べば、自由はなくなる。逆に自由を選べば仲間は離れ、勝手に孤独は付いてくる。
人間なんてそんなものだ。私は独りでも自由を選び、強い自分を保って生きていける。そう信じていた。なんの疑いも持たなかった。


 しかし、カナに出会って私は変わった。


絵を学ぶ大学という少し特殊な空間で、新しいタイプの人間と多く関わった要因もあるかもしれない。
実際大学には、今まで私を囲っていた枠から飛びぬけたものばかりが存在した。端的に言うと、常識が通用しない、実力がすべてものを言う世界だった。当然私のプライドの根源であった学力など、なんの意味も持たないのだから。
それでも一番の要因は、カナとの生活だったことは言うまでもない。

カナと接触するにつれ、わかったことがあった。

元来自分が寂しがり屋なことは承知していたが、どうやらそれに加えて人が離れていくのが怖いらしい。
無意識に、誰にでもいい顔をしたくなってしまう。計算して付き合っているわけではないが、自分の私生活を犠牲にしてまで相手のために何かをしている己を顧みて、寂しい奴だと自嘲することもしばしばだった。
そんな人間に恋人などいるはずもない。本当に大切にしたい人を大切にできず、そこそこの付き合いで十分な相手に親切を尽くすよう心がけている自分は、破綻の道を歩んでいるように思えた。

そして、そんな自分がなんとも馬鹿らしく思えた。

私はもっと、ワガママになってもいいのかもしれない。

嫌なことはやらなくてもいい。

欲しいものを欲しいと、声に出してもいい。

嫌いな人間に、無理に好かれなくてもいい。

独りが寂しいと、思ってもいい。

そんな自分を、もうそろそろ赦してもあげてもいい。

初めて、そんなふうに思った。
私の心に芽生えた新しい雫は、冷たく固まっていた大地を柔らかくした。

息が、しやすい。確かにそう感じた。



だから、カナ。私は、カナだけでいい。カナだけでいいんだ。
ほんとうに欲しいものは、カナだけなんだ。



とてつもなく大きなハリケーンとなって、私の胸を引っ掻き回してゆく感覚。
この気持ちを、何と言ったろうか。



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