「ミナコの思考回廊」

「夢のない現実」


「夢のない現実」 2


―――ピリッ――――


皮膚が引きつれたような、小さな電流が流れたような。
そんな衝撃に、私は深い深い思考の底から浮かび上がった。

瞬間。
何の意味も持たなかった「感覚」というものが、一気に押し寄せる。
取り繕われた「わたし」という皮を破って、何かが溢れそうになる。

・・・・ぱた・・ぱたた・・・・

耳に届いた微かな音が、私を現実に呼び戻した。闇色の瞳に、鮮やかなセルリアンブルーが広がる。

風が、肌を打つ。

するりと腕をつたう何かが冷たくて。私は観念して、「カナ」から抜け出した。

ぼんやり手元を見て、ようやく思い出す。

(ああ、そうだ。今日はカナの命日で。私はひとり屋上にいて。)

(気の滅入るようなセルリアンブルーは遠くって、それでも目が離せなくって。)


「・・・あ、血・・・。」

私を現実に引き戻した小さな衝撃の正体は、手首の皮と、その下の肉をえぐったプラスチックのカッターの刃だった。
右の手のひらには、命一杯首を伸ばしたブルーのカッターが握られている。
左の手首からは、するすると私の体液が流れ、腕を伝い、ひじの先で燻ぶっては重力に負けて落下した。

体内から外気に触れた体液は、とたんに冷え凝固する。
冷たく冷えきった血液は、もはや自分の体内を廻っていたそれとは異種のものに見えた。

落下したそれは、白く大きな花束を、ゆっくりと染めていく。

(禍々しい赤だ)

ほんの少しの嫌悪感が頭をかすめたが、それはすぐに愉快な気分に変わった。

それからしばらく、私は夢中になって、花束を自身の赤で染め続けた。

右手の中に行儀よく納まったままのカッターは、いつ買ったものだったのか。

そんな、どうでもいいことばかりが気になった。



セルリアンブルーと白と赤。

この三つが、決して混ざり合うことのない事実に、救われていた。




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