2005年10月21日
XML
テーマ: 吐息(401)
カテゴリ: Essay


 わたしが大好きなのは、南禅寺から哲学の道を辿っていく銀閣寺である。
 ところが、今回は時間の関係もあり逆のコースを辿ってみた。

 銀閣寺は、亡くなった元夫と新婚旅行で行った思い出の場所である。
 わたしは若い頃からなぜか京都が大好きで、新婚旅行にはぜひ彼を案内してあげようと思っていた。
 景色にも草花にも、それほど興味のない彼が実際には、どう感じたのか分からないけれど、年老いたとき同じ思い出を語る場所としては、そう悪くないと思った。
 でも結局、わたし達は離婚し彼は先立ってしまったのだから、どっちにしても二度と語られることはなかったのだ。
 わたしが今立っているのは、紛れもなくあの時の哲学の道である。
 歩き疲れたわたしを労わり、後れ毛をかき上げてくれた彼が居たあの哲学の道。

 その現実をいやと言うほど思い知り、わたしはたまらなくなった。

 哲学の道沿いに、俳優の栗塚旭さん経営の『若王子』という喫茶店があった。
 当時、店に出ていた栗塚さんと遭遇し新婚旅行だと告げると、快く写真に入ってくれた。
 そんなエピソードを思い出して喫茶店を訪れてみたのだが、閉まっていた。

 疎水沿いの哲学の道は整備され、どこかこぎれいになっていた。
 茶店風の店はほとんどカフェテラス系に変わり、時代の流れを強く感じた。

 十代からずっと愛したこの哲学の道。
 色んな思い出がわーっと押し寄せてきたけど、やっぱり今は亡き元夫を一番思い出した。


 幸せにするって約束したのに、嘘つきだ。
 だけど、先にその約束を放棄したのは、わたしなんだよなー。
 だから、嘘つきはわたしの方なのだ。

 つまり、五分と五分。

 哲学の道を歩きながら、わたしはそう誓ったから……。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2005年10月22日 00時43分44秒
[Essay] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

キーワードサーチ

▼キーワード検索

カレンダー

カテゴリ


© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: