2005年10月15日
XML
テーマ: 吐息(401)
カテゴリ: Essay


 慌てて洗濯物を干して手早く家事を片付けたのだけれど、時計はすでに一時を大きく回っていた。
 それでも先週に引き続き、根津美術館へと向かった。
 『特別展 国宝 燕子花図』を、もう一度見るためだ。

 今回は、前回購入した図録にしっかりと目を通して臨んだので、全く違った楽しみ方ができた。
 時間をかけてゆっくりと館内を歩き、疲れると休憩を取り、そしてまた歩くと言う具合に、ひとりだから十分過ぎるくらい満喫できた。

 わたしがこの、尾形光琳の『燕子花図』に興味を持ったのは、二十代前半の頃である。
 当時どっぷりと浸かっていたいけばなに、琳派という技法があったからだ。

 先輩の諸先生方は、やれMOA美術館の『紅白梅図』だ、根津美術館の『燕子花図』だとお出かけになったものであるが、地方都市に住むわたしの給料では、それほどたやすいことではなかったのだ。
 だからそのうち余裕ができたら、絶対に実物と対峙しようとずっと心に決めていたのである。

 子育てが一段落した時、MOA美術館の『紅白梅図』屏風は、お目にかかることができたのだけれど、根津美術館の『燕子花図』屏風は、気になりながらも機会はやってこなかった。
 そんな経緯もあり今般の公開は、本当に首を長くして待っていたのである。

 やはり実物は素晴らしかった。
 金箔地の六曲一双の屏風に、群青の花と緑青の葉の燕子花のみが描かれており、想像もつかないくらいの迫力と色彩で、わたしを圧倒したのであった。
 待ちに待ったものとの出会いは、感動が寄せては返すさざ波のように訪れるものだ。
 わたしはその中に、思い切り浸った。

 初めて見たいと思った時から、すでに四半世紀近い歳月が通り過ぎていた。
 でも、わたしは今会えて良かったと思う。

 やがて閉館時間が訪れた。
 わたしは立ち去りがたい気持ちを抑えて、外に出た。
 見上げた空は、すっかり雲に覆われていた。

 ※画像は根津美術館内、日本庭園内にて撮影 by sion





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2005年10月16日 02時02分52秒
[Essay] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

キーワードサーチ

▼キーワード検索

カレンダー

カテゴリ


© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: