ベルギー(四歳)の雑記部屋

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祐一君絶体絶命





カノンSS


祐一君絶体絶命!!(前編)



朝。学校、教室。


「香里ぃぃぃぃぃいいいいいいいいい!!!頼む!この通りだ!!」


俺は生き残る為に必死だった。


その為には土下座だって辞さない。


「相変わらず朝っぱらからテンションが異常に高いわね相沢君……」


やや冷めた目で睥睨する香里に俺はズイとばかりに近寄る。


デット・オワ・アライブ なんだ」


「そ、そうなの」


俺の気迫にびびりが入ったのか一歩、後ろに下がる香里。


俺はその分、つめより尚も土下座。


周りのクラスメイト達が奇異の視線を向けてくるがそんな事はどうでもよかった。


死ぬよりはましだ。


「頼む!!」


もう一度床に手をつく。


「いや、頼むって言われても。……第一、まだ何を頼まれているのかも解らないんだけど」


…そう言えばそうだった。


「そうだな……一体何からいえばいいのか見当もつかないが…とりあえず……」


「とりあえず?」


怪訝そうな表情で聞いてくる香里に俺は一言。

「何も聞かずに俺をお前のうちに泊めてくれ!!」


「は?ちょっと相沢君…?それってどう言う…」


「なにもきくなぁぁあああああ!!」


俺は半狂乱で頭をかきむしる。


「やっちまった。やっちまった…やっちまったんだああああああああああああああああああああああああああああ!!」


「やったって……相沢君。あなた、もしかして名雪を?!」


香里の表情がなんとも言えずに固まった。


なんだか素敵に勘違いをしていそうだが、とりあえずほおって置く。


なぜって俺もそれどころじゃなかったから。


「そう。…いつかはこんな日がくるとは思っていたけど、こんなに早くに来るなんてね……」


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


「で?相沢君。それは本人との合意の上で?それとも犯罪行為?…そうね……ええ分かってる。そんな事、言わなくてもいいわ…


どちらにしたってあの娘は構わないはずよ。でも解らないのはあなたの態度。なんで私の家に泊めてくれと言う事になるのかしら?


いまさら、それくらいの事できまづくなる関係でもないでしょうに………はっ!……まさか祐一君!もしや、あなたは、通常では考え


られないような性癖を持っていて、嫌がる名雪にあんな事やこんな事を求めて……さらにはモットすごいそーゆーふーな事まで?!


それで名雪が。………下衆め!!」


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


「…………………」


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


「人が珍しくボケてるんだから少しは突っ込みなさい」


「ごはっ・・!!」


何の予備動作もなしに、思いっきり腹部を殴られる。


「っつ…………!!」


そのあまりの衝撃に俺は息が出来なくなり、うめく。


「あ、おはよー。香里」


からから。


教室のドアが軽快な音を立て、名雪が入ってきた。


「あら、名雪おはよう。今日は遅いのね」


「うん、今日は祐一が先に一人で行っちゃって…それで…ってあれ?そっちのゴミくずみたいなのは……あーっ!、祐一…


一体誰がこんなに酷い事を?」


「さあ、一体誰が殺ったのかしら……」


しれっと香里。


(お前だ。お前)


…・だが俺はまだ声を発する事もできない。


「だ、大丈夫?祐一!!」


「……はっ、はあっ…・・こ、この威力。まさか二重の極み?」


名雪に介抱されようやく声を出せるようになる。


「で?一体ほんとの所なにがあったの?」


俺のボケは見事に無視された。この場合、俺は香里を殴っていいのだろうか?


…いや、今はそんな屁理屈をこねまわしている場合じゃない!!


「そ、それを話したら、泊めてくれるのか?」


「さあ…ま、考えてはみるわ」


「……・・わかった」


「祐一?」


「わかってる」


俺は名雪に一度うなずき、事の始まり。


昨夜の出来事を話し始めた。


* * * * * * * * *

カチ、カチ、カチ、カチ………


時計の秒針、そして長針が緩やかに動いている。


それ以外は何も音を発する物の無い静かな部屋。


ただ時だけがゆったりと流れる。


だがそんな緩やかなときの流れとは裏腹に決戦の時は刻一刻と近づいていた。


俺は一人、その訪れを待つ。


夜。


夕食も食べ終えた、一日の終わり。


本来であればくつろげる筈の時間帯。


だがそれに反し、部屋に満ちているのは張り詰めた緊張、限界まで引き伸ばされた時間。

「…………」

俺はそっと溜息をつく。


……遠くからは時折、車の走る音やブレーキの音、クラクションなどが聞こえてくる。

静か、静か過ぎる時。


ただそれは淡々と流れ――――――と


…トン、トン…


誰かがドアをノックする音が静かな部屋に必要以上に響き、それはついにやって来た。


だが俺は動かない。


…トン、トン、トン…


先ほどと全く変わらぬ強さで、だがノックの音が一回増えた。


恐らく中々出てこない俺に業を煮やしているのだろう。


相手の考えている事が手にとるように解る。


…トン、トン、トントントン!!……


そして今度は強くなる。


「わかった。今、行くからちょっと待ってろ…」


俺はドアに向かって言い、立ち上がる。


「ッ……!」


その拍子に体に鈍い痛みが走った。


時々こういうことがある。


以前の決戦の時におった古傷が痛むのだ。


「……ふ…」


俺はその懐かしい痛みに、笑みを漏らしながら。


……がちゃり。


ゆっくりドアを開ける。


「祐一、お風呂出たよ~~」


「……そうか」


目の前に現れたのは、どこか子ギツネのような悪戯っぽい瞳の少女。


沢渡真琴。俺と同じくこの水瀬家に居候になっている記憶喪失の少女だ。


「………」


俺は無言で真琴を睨みつける。


「――で?今度はどんな悪戯を仕掛けたんだ?」


「悪戯って何のこと?私、そんなのしらないよ」


そう言って何が嬉しいのかニヒヒと笑う。


「……そうか」


これで決まりだ。


戦いはもう始まっている。


「……お風呂はいらないの?さめちゃうよ?」(どうしたの?…闘わずして負けを認める?)


「……今からはいる所だ…」(ンなわけねーだろ、ボケ)

『ふふふふふふふふふふふふ』

俺達はお互いに凄まじい精神戦を展開し、精神衛生上にかなり悪そうな笑い声で笑いあう。


そして俺は一階の風呂場へと、真琴は自分の部屋へと戻っていく。


と…


「とっても、いいゆだったよ~~」


その歩みを止め真琴が言った。俺もそれに合わせて止まり……


「そうか」


振り返らずにそれだけ言うとまた歩き始める。


……決戦の地へと

…………。

………。

……。

一歩、一歩を慎重に踏み出す。


そしてその度にトラップの類が設置されていないかを確認する。


「オール・グリーン」


グット・ラック……俺は自分で自分にエールを送った。


どうやらこの段にも罠は仕掛けられていないようだ。


また一歩足を踏み出す。

ここは二階から一階へとわたる唯一の階段。


つまりそれはここを通らなければ一階にある風呂場には行けないということだ……


「……地雷を仕掛けて、風呂場に行き着く前にドカン……いかにもあいつがやりそうなことだぜ」


……並みの人間なら、この地雷原だけでアウトだろう。


だが幾度となく危険な戦場を渡り歩いてきたこの俺にそんな手は通用しない。


戦場から戦場を渡り歩く俺。


そんな俺を人は敬意と恐れの念を込めこう呼ぶのだ。我等が英雄『戦場の風』と………


「ふっ、俺って渋いぜ」


ニヒルに笑ってみる。


「……そんな所で何やってるの?祐一」


聞きなれない名で俺を呼ぶ女が話し掛けてきた。


「………祐一?誰だそいつは。俺の名前は戦場の風だ。そんな奴はしらん」


「………」


「俺に触ると火傷をするぜ、お嬢ちゃん」


「…………」


無反応。


ただ何故か哀れむような眼差しで俺を見つめる。


真の英雄と言うのは凡人には理解しがたい存在なのだろう。


まったく、しょうがない奴だ。


「なんだ、名雪」


「あっ、何時もの祐一にもどった……」


俺は祐一君戦闘モードを一時解除しノーマル祐ちゃんに戻った。


ノーマル祐ちゃんはとっても笑顔の似合ういい奴だ。


ニカ。


笑ってみせる。


「…わわ、やっぱり、戻ってないよ」


へん。


どうせ俺には笑顔なんて似合わないさ。


どうせ、どうせ俺なんか…………・・


あぁ、心が痛い。


「で、名雪。一体俺に何のようだ。俺は今、忙しい。手っ取り早く済ましてくれ」


「忙しいって……そんな風に階段を変な踊りをしながら降りるのが?」


素人にはどうやらそんな風に見えていたらしい。


「……変な踊りじゃあない。戦士の心得。戦場で生き残る為の最低限の注意だ」


「………また分けの解らない事言うし……もう、慣れたからいいけど」


呆れたように名雪。


ふ、いまのうちの笑っておくんだな、最後に笑うのは俺だ。


「……で?用件をいえ。手短にな」


「だから、祐一ここで何してるのかなって」


「……何って、解らんのか?」


俺は肩にかけた手ぬぐいと手にもった着替えの寝巻きを見せながら言ってやった。


何か?それとも、これをもって風呂以外に行く所でもがあるのか?この家には……


「解らないから聞いてるんだよ」


「手ぬぐいに、着替えの寝巻き、これを持って行くところと言えばひとつしかないだろう」


「そりゃ解るけど……だけど、その首にかけた浮き輪と、頭のシャンプーハットのせいで解らなくなってるんだよぉ!!」


俺は浮き輪とシャンプーハットをまじまじと見つめた。


別におかしな所はないと思う……


「むう……シャンプーハットに浮き輪と言えばお風呂の定番だと思うが?」


「……って言うか祐一、頭洗うのにシャンプーハット使ってるの?」


「ふっ」


これ以上、話すことはない。


俺はもうこの女の言う事には耳を傾けない事にした。


こいつは真琴のスパイだ。そうに違いない。


だって泡が目に入ったりすると痛いんだぞ?


再び祐一君戦闘モード。


さあ、風呂場まで後少しだ。


「ああっ。だから祐一!!」


後ろのほうでなにやら声が聞こえるが、もちろん無視。


戦場の風を止めることのできる人間など存在しないのだ。


そして階段を下り、数歩もしないうちにドアに突き当たる。


洗面所のドア…戦場の入り口だ。


ここから先はもうどんな罠が仕掛けてあるかなど想像もつかない。


ドアを開き、洗面所にはいる。罠はない。


後は風呂場のドアだけ。


ちなみに昨日はドアを開けた瞬間、真琴によって出しっぱなしにされていたらしいお湯がなだれ込んできた。


「……相沢祐一、参る!!」


「祐一、待って!!」


名雪の悲痛な声が聞こえる。


だがここで引くわけにはいかなかった。


ひけば俺は戦士として最も大事な物を失う事になる。


どうしてもこれだけは譲れなかった。


……すまない、名雪。


だが俺はきっと生きて帰る。


俺はいままでの慎重さをかなぐり捨て大胆にドアノブに手を伸ばす。


そして、勢いよくドアを開く。


バン!!


それとほぼ同時に名雪が叫んだ。





「お風呂には今、お母さんが!!」





何ですとぉ?!



「ハハ、何を言っているのだね、名雪君は。…お、お母さんってそんな馬鹿な。だってさっき確かに真琴の奴が…」


俺は目の前の光景に目を奪われながらも、ゆっくりと言った。


「だから真琴ちゃん。今日はお母さんと一緒に……」


は、はめられた……


俺はようやくそのことに気づく。


そして、そえが今や取り返しのつかないことになっていると言う事も。

「あらあら。祐一君たら」

いつもとまるで変わらない秋子さんのやさしい…全てを包み込むような包容力に満ち溢れた声。


が、なぜか今はそれが 死刑囚に死刑判決を申し渡す裁判官 のような無慈悲な声に聞こえる。


俺の目の前に広がる絵にもかけない、すばらし…取り返しのつかない光景。


だがそれを端的に表すとするなら………



「すっぽんぽん」




俺はその言葉を最後に…なんと言うか




「ひでぶ」


鼻からありたっけの血液をまき散らしながら………死んでいた。


終わったのもその日なら始まったのもその日からだ。


終わったのは今までの平和な日常。


始まったのは起きながらにして見る悪夢。

俺はそんな事は絶対にありえないと言う事を知りつつも願わないわけにはいかなかった。


つぎに目覚めた時、全てがなかった事になっていることを。


全てが夢である事を。

* * * * * * * *

「と、言うわけなんだ」


「……なんだ。別によくある日常の一ページじゃない」


話し終えた俺に香里の反能は芳しくなかった。


確かによくあるドッキリハプニング。俺も最初はそう思っていたさ。


「そうだよ祐一。お母さんもその後、笑って許してくれたじゃない」


「ふ。甘いな、名雪アーンド香里」


「どう甘いのよ?」


「そう。確かにあの後。不覚にも洗面所と風呂場を紅に染めてしまった俺に


『気にしないでいいのよ』


秋子さんは笑いながら言ってくれた…・・様に見えたが……が、が…」


俺は口元に微笑をうかべ…


そして疲れたように呟く。


「目が笑ってねえんだ。目がよ」


「いや、そんな事はなかったと思うけど…」


「ふ、お前は今日の朝起こったことを知らない。だからそんな事がいえるんだ」


そう。すっかり赦免されたと思いこみ、むしろラッキーだったな、なんて思い真琴を内緒でほめちゃったりした次の朝。


俺はいつもどおり食卓に座り……そして。

「ジャムだ」

ふふふ。


俺は素敵に笑う。名雪達は無言だ。名雪はもちろん、香里だってあのジャムの事は知っている。

「そこに並べられていたのは、赤、蒼、黄、紫、白、黒、金、銀。計七色のジャム。それも

そのそれぞれが大瓶に入ってるんだ」



「!相沢君……まさか、あなた」


「……祐一」


俺は静かに首を振った。

『あ、秋子さん?こ、これ』


俺は全身の震えを必死に抑えながら尋ねた。


『ああ、これね』


そんな俺に台所でなにやら朝食を作っていた秋子さんは、こともなげに答える。


『祐一君に食べて貰おうと思って』


まるで歯医者に行きたくないと、駄々をこねる子供のように首を振る俺。


だが。

『食べてくれるわよね?』

あくまで笑顔で秋子さん。だが勿論、例によって例のごとく目は笑っていない。


『は、はははは』


断れない。断ったら死ぬ。いや…食べても死ぬ?


『つまり秋子さん。貴女は俺に死ねと、死んで罪を償え、と……そう言うことですね?』


ただ秋子さんは笑っていた。


………そこから先。


学校に着くまでの記憶はない。


「……と、つまりこういう分けだ」


「………………」


「………」


一同無言。気のせいか教室の温度が2~3℃下がったような気がする。


「だから。頼む!俺を、俺を助けると思って!」


俺は精一杯の誠意を言葉に乗せたたきつける。


しかし無常にも香里は首を横にふった。


「なぜ?」


「ごめんなさい。私もまだ命は惜しいの」


目を瞑り、哀しそうに香里。


「どう言うことだ?」


「想像してみて。今の話から察するに秋子さんの怒りはもはやハルマゲドン級よ。それくらいの事じゃ何の解決にもならないと思う。


例えば私のうちに相沢君を泊めたとしても……」


「追いかけてくる。そう言いたいのか?」


俺の言葉に香里はこくりとうなずいた。


俺はそのシュチエーションを想像してみた。


香里の家。俺は香里の部屋にかくまって貰っている


「ほんとにすまない。礼はいつか必ず」


「期待せずに待ってるわ。……それに栞も喜んでたみたいだし……」


「すまん。でも気さくな人だな香里のお父さんって……いきなり泊めてくれってやってきた俺を信用して


本当に泊めてくれるんだから(祐一の勝手な想像です)」


「そお?あれでも結構、きびしかたりするのよ?」


そしてそれから幾つか言葉を交わしあい、そしてどちらからともなく微笑んだ。


実にほのぼのとした時間。


が。


それはやってくる。


カタカタカタカタタタタタ…・


「あれ?」


わずかに揺れるたんす。


カチカチ…カ、カチチ……


唐突に部屋の明かりが消えた。


「な、一体?」


ぴーんぽーん。


なったのはインターフォン。


俺はガタガタと震えだす自分の足を止めることが出来なかった。


見れば香里もすっかり怯えた目でこちらを見ている。


「い、居留守だ。居留守を使おう」


「だ、ダメ……下には栞が……それにお父さんも、お母さんも」


下のほう、階下から声が聞こえる。


『あら誰かしら?栞、ちょっと見てきてくれない?』


『は~い』


だめだ。出たらダメだ。


『どなた様ですか~~……あ、名雪さんのお母さん。どうなさったんですか?』


『いえ、祐一君がお世話になっているそうで……それでお礼、と言うわけではないんだけど、これを』


『わー。ジャムですか?…・・あれ?でもこれなんかそれにしては色が…… 黒過ぎる のような……』


『ふふ。それ私の手作りの 特殊 なジャムなの』


『わ~。すごーい。じゃあ、ありがたく頂戴します。今度作り方教えてくださいね』


それだけはやめてくれ。


『ええ。 必ず


そして秋子さんは帰っていく。


『おとーさん。おかーさん。今、祐一さんの下宿先の方が来てジャムをくれたよー。手作りですので、どうぞって』


『ほう。手作り。そいつはすごいな。じゃあ早速いただこうか。母さん香里と、祐一君を連れてきなさい』


『わたし、ちょっと味みー♪』


な?や、やめるんだ!!栞、お前なんてことを!!


栞いいいいいいいいいいいいいいいい!!

「くるな。しかもジャム持参で」


「……何をあなたが想像してるのかは大体解るけど……」


「なんか二人とも人の親の事ぼろくそに言ってない?」


名雪のそんな非難めいた声が聞こえてくるが無視。


俺は香里に提案する。


「じゃあ、香里の家にいるって事がばれなきゃいいって事じゃないか?」


「……それもダメね。これは、そもそも根本的な問題なんだけど…年頃の娘が二人もいる家に男を泊めることを許す

親がいると思う?」


「そ、そんな…でも想像の中ではとっても気さくな人だったぞ?香里のお父さん」


「……じゃあ試しに来てみる?」


ふっと香里が笑みを漏らす。その笑みに俺は嫌な予感を感じ…


「……なあ名雪。香里の親父さんってなんかあるのか?」


「……うん。なんか、とっても娘のボーイフレンド関係とかに敏感らしいってのは聞いたことがあるけど」


「ちなみに去年は私に付きまとってくる男子生徒の話を父さんにしたら、次の日。彼は消えていたわ。 文字通りね


「…やめときます………」


「賢明な判断ね」


「で、でも…じゃあ、どーすりゃいいんだーーーーーーーーー!!」


おれは再び頭をかきむしる。


「親がそう言ったことに理解がある家…それでもって相沢君と面識があって、頼みを聞いてくれそうな人となると……」


香里が言い、それを聞いていた名雪がぱっと顔を輝かせ。


「祐一!私なんてどうかな?」


「そうか!!まさに灯台下暗し!秋子さんなら放任主義だし、名雪なら気兼ねする事だってないし!名雪!頼む


俺の命を救うと思って、俺をお前の家に泊めてくれ!!」


「うん。もちろんだよ」


「そうか!よかった。これで一安心、ん?…ってぇ!それじゃ何にも変わんねーじゃねーか!馬鹿かお前は!


……っていうか俺も気づけよ!」


ごちん。


俺は振り上げた拳を迷いなく名雪の頭に打ち込んだ。


「うう~~。ほんの冗談だったのに~」


「時と場合を考えろ!」


「……相沢君。相当、追い詰められてるわね」


とは言え、このままではカノン至上、最凶のバット・エンドが降誕してしまう。


何とかしなければ。


「そうだ!北川!!」


俺は、ばっと後ろを振り返る。


「……てゆーか、まず第一に俺に聞くべきだよな?そーゆー場合。なんで女に先に聞くんだ?」


そこには半眼で見つめる級友、北川の姿があった。


そりゃ、まかり間違ってOKでも、貰えれば一挙両得になるからに決まっている。


それに誰が好き好んで野郎の家なんかに泊まりたいと思うか。


だが今はそれどころじゃあない。


「たのむ。北川。話は聞こえてただろう?後はお前だけがたよりなんだ!」


「そうしてやりたいのは山々なんだがな……」


北川は申し訳なさそうに言う。


「おれ。秋子さんファンだから」


「せいっ」


俺の拳が真っ赤に染まった。


北川潤と言う男の血で


「ふ。決まった」


きめ台詞。北川は五メートルほども吹っ飛び、ピクピクと血の海で痙攣をしている。


「でもいいの?北川君を再起不能にしちゃって。そんなことしたら、いよいよ誰かの家に泊まるのを諦めなきゃならなくなるわよ?」


はっ。そう言えば…・・


「わわわ、北川?しまったぁ。つい……おいしっかりしろ北川?北川?」


「ふ、ほんの冗談だったのに……きついぜ。がくり」


「わーわー。こら北川!こんな所で燃え尽きるんじゃない!!コラ!何が、がくりか?!それくらい根性で何とかしろ!根性で!


俺はどーなる?!」


「ま、自業自得って奴ね。後は煮るなり焼くなり好きにしてくださいってプラカードでも下げて秋子さんにひたすら許しを請うしか


生き残る方法はないわね」


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


再び壊れる俺。


ぐしゃ、ぐしゃ、グシャ。腹いせに北川を殴りつづける。


「……祐一。何とかならないかな、香里?」


そんな俺を見かねて名雪が口を開いた。


「第一、条件がね。祐一君の交友範囲、しかも無茶な頼みを聞いてくれそうな人っていったら……


祐一君そんな人、私達を含めず何人ぐらいいる?」


俺の頭の中で何人かの顔が浮かぶ……んが。


「よく考えたら俺ってこの町に引っ越してきたばかりでお前等以外とはろくに口もきいたことがない?」


「……日ごろの人付き合いの悪さが裏目に出たわね。親が寛容。それでもって祐一君と面識のある人。


やっぱりそんな条件が全部そろう人なんて……」


いない。香里がそう結論付けようとしたその時。


「いますよー」


「……」


俺達の前に現れたのは、俺達よりも一つ上の学年の女生徒二人組み。


倉田佐祐理と川澄舞。


かくして救いの手は伸ばされたのであった。

(後遍へ続く)





しょうがないのでBBSにでも感想を書いてやる


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