長編時代小説コーナ

長編時代小説コーナ

PR

Keyword Search

▼キーワード検索

Profile

龍5777

龍5777

Favorite Blog

除菌アルコールとブ… New! Pearunさん

Mちゃんママから長… New! flamenco22さん

^-^◆ 学びの宝庫・… New! 和活喜さん

Wリーグトヨタ紡織チ… クラッチハニーさん

風に向かって クリス… 千菊丸2151さん

Comments

人間辛抱 @ Re:何故、安保法制が必要なのか。 (08/09) どうもお久しぶりです。 新型コロナウイル…
http://buycialisky.com/@ Re:士道惨なり(11)(12/10) cialis muscle paincialis daily use side…
http://buycialisky.com/@ Re:改定  上杉景勝(12/11) cialis 5 mg prezzo in farmaciaanti cial…
http://buycialisky.com/@ Re:騒乱江戸湊(04/28) cialis in spanien kaufenavoid counterfe…
http://buycialisky.com/@ Re:「改訂  上杉景勝」(04/21) what happens if a woman takes viagra or…
http://viagraky.com/@ Re:士道惨なり(11)(12/10) offshore viagra &lt;a href=&quot; <sma…

Calendar

Jan 12, 2009
XML
カテゴリ: 暗闘

にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ クール にほんブログ村 小説ブログへ
遂に北越の英傑、河井継之助の命も旦夕(たんせき)に迫った。一種不抜の信念を貫き通した武人は、どのような生涯を閉じるのか。今日をもって最終回となります。応援頂いた方々に心より感謝を申しあげます。



九日の早暁に殿さんに拝謁し、継之助の容態を報告した。

 両殿はいたく心配し、幕臣と共に若松城に入城し野戦病院を設け、

戦傷者の治療にあたっていた、松本良順に依頼し只見村の継之助の治療に

行ってもらう事とした。彼は快く応じ只見村に赴いたのだ。

 松本良順は漢洋の医学を究め、医学練習頭取として長崎に留学した。

 そこでオランダ軍医、ポンペに医学七科を伝授され、その後、将軍家茂

の侍医として仕え、戊辰戦役が始まると江戸を去って、主戦派の幕臣と共に

会津に来ていた。硬骨漢として知られ、後に五稜郭まで行っている。

 継之助の傷を一目みて化膿の激しさで、左足の切断を決意したが、付き添い

の異論で断念し包帯を巻きなおし、予後の手当てを長岡藩の医師、阿部宗達、

吉見伝医等に教えた。そうした様子を継之助は醒めた顔で見つめていた。

(今更、手術なんぞしたとて無駄なことじゃ) と思っている。

「貴殿とは久しく逢いたいと思っていたが、ようやく積年の思いが叶った」

 と云うと、継之助も「あしも同様じゃし」と旧知の如く談論風発し、戦争の

話や人物論などを語り、大いに話が弾んだ。

 松本はお土産に肉の たたき (ビーフ ステーキ)を持って来ており、

「貴殿はろくな物を食べていないだろう、精がつくよ」 と勧めた。

 この日はよほど継之助は元気であったというが、傷の悪化で痛みが薄らいで

いたようだ。継之助は大いに喜んで全部たいらげた。

 昔から横浜で随分と色んな食べ物や、飲み物を口にしていたので、そうした

物に対する偏見がなかったのだ。

「若松には上手な医師が居る、会津の壮士も貴殿を待っておる。是非、来たま

え」 と良順が帰りぎわに誘ったら、

「もう会津も西軍には化けの皮がはげたかなゃ」 と笑いながら答えていた。

(会津も最後じゃな)、孤軍奮闘する会津藩の苦悩がよぎっている。

 松本良順の去った後に、

「久しぶりに豪傑の顔を見たぞゃ」 と上機嫌であった。

 彼は己の命運の尽きるを察し、信頼する花輪求馬に後図(こうと)を託した。

「あしが死ねば会津も滅ぶじゃろう。その後はなゃ、きっと米沢に頼ろうとする

輩が現れようが、荘内藩と行動共にするのじゃなし。いずれにしても奥羽列藩

は瓦解いたすと見るがなゃ」 更に花輪求馬が驚くことを述べている。

「世継ぎの鋭橘(えいきつ)君を奉じて仙台に停泊しておる、スネルの汽船で

フランスに亡命するのじゃし。スネルには三千両を預けてあるぞゃ。数年も

経てば天下も一変し、今回の戦争なんぞ問題もなくなるじゃろうがゃ」

「若殿をフランスに亡命せよと申されますか?」

「恐れ多いことじやが、万一、両殿さんの身に変事があれば、長岡藩主が

いなくなるぞゃ」 

 この場面となっても継之助の洞察力はいささかも曇りがなかった。

 この件は資金面で実現しなかったが、花輪求馬は継之助の用意周到ぶりに

驚きを感じた。

 花輪求馬には継之助の余命が、いくばくもないと感じられた。

「総督、ご安心下されゃ」 と言葉短く約束した。

「ああたにはご苦労ばかりかけたがなゃ、許してくりゃれ」

「総督っ」  花輪求馬は返す言葉を失っていた。

「山本大隊長や三間市之進はどうしてござる?」

「二人とも殿軍を勤め、越後口で敵を防いでおりますぞゃ」

「そうか、もう二人には逢えぬじゃろうなゃ。宜しく伝えてくりゃれ」 

 継之助の眸が青々と澄み切っていると、花輪求馬には見えた。

「あとでの億二郎さんを呼んでくりゃれ」 

 そう命じで継之助は眼を閉じ、手で去れという仕草をした。花輪求馬は

惜別の一礼をして静かに部屋を辞した。

 この只見村を死所と定めていたが、継之助は行ける所まで行こうと決意し、

八月十二日に只見村を出発し、二里ほどの塩沢まで進んで、医師の矢沢宗益

の屋敷で泊まることになった。その夜に川島億二郎が訪れてきた。

「継さん、よくここまで来てくれた」

「億二郎さん、ああたに頼みがあるぞゃ」

 憔悴した継之助の眼が、往年の鋭い輝きを見せている。

「なんなりと申したくりゃれ」  川島億二郎が声を強めた。

「ああたは死んではいけぬのし、この戦も直ぐに終ろうがゃ。ああたは生き残っ

て荒廃した長岡の町を復興してもらいたいぞゃ、一緒に戦った仲間となゃ」

「それを云う為に、あしを呼んだのかゃ」

「そうじゃ、あしはもういかぬ。長岡の町を焦土としたあしは死ぬ」

「気弱な事を申されるな」

「あしの遺言と思うて聞いていただくぞゃ、約束してくりゃれ」

 継之進が手を差し出した。それを両手で握って億二郎は愕然とした。

 手が燃えているように熱いのだ。 

「継さん、だが敗戦ともなれば誰かが責めを負わねばならぬ」

「心配はいらぬぞゃ、この長岡藩の戦争責任者は、この河井継之助じゃ。

西軍ならば誰も知っておる、何も心配なんぞはないぞゃ」

 この戦は薩長の革命戦争である。それは古い体制を打破し新しいご政体を

作ることが目的であった。会津が滅びても藩主の命はとらぬ、家老が腹を斬れ

ば済む事じゃ。そうせずに藩主に腹なんぞ斬らせれば、再び世の中は乱れ、

各地に反乱が起こり暗殺が横行する。それを恐れているのが新政府の幹部

じゃと、継之助は西軍幹部の考えを読みとおしていた。

「だが・・・」  川島億二郎が何か云おうとした。

「億二郎さん、あしの屍に鞭うてば済むことじゃなゃ。悪口雑言を浴びせられて

も、あしには何の痛痒も感じぬ」

 凄まじい意気込みを吐いた。その継之助の眼光の鋭さが億二郎に決断を

迫っていた。 

「分ったぞゃ、継さん。ああたの後片付けは、あしが遣る」

 川島億二郎が約束して去った。こうした無理が祟ったのか継之助の

病勢は益々悪化し、誰の目でも分るようになった。

 継之助が十五日の夜に松蔵を呼んだ。

「松蔵ゃ、長々と介抱してくりゃあて有りがたかったでゃ」

 これまで松蔵が聞いたこともない優しい声であった。

「旦那さま、何を御気の弱いことを云わっしゃる」

「あしの命は最早、尽きる」 

 彼は夜空を仰いだ、満天の夜空に星が輝いている。

「あしが死んだら火葬にしてくりゃれ。敵勢が迫っておる。今からご苦労じゃが

骨壷と棺桶を作ってくりゃい」

「お許し下されませ」  松蔵が悲鳴に近い声で拒否した。

「おみしゃんは、主人の命令に従えぬかや」 と叱責され松蔵が庭先に向かっ

た。松蔵は篝火を炊いて棺桶作りをはじめた、さかんに涙を拭きながら棺桶

を作る松蔵に対する、愛おしさが募ることが不思議に思われた。

 翌朝、目覚めると棺桶と骨壷が廊下に置かれ、松蔵が呆然として座ってい

た。 「ご苦労をかけたなゃ」 そう労いの言葉をかけ、

 継之助の顔に満足そうな笑みが刷かれている。男子として後悔なしじゃ、

早う死んだ者達の許に行かねばなゃ。

 昨日とうって変わり雨が朝から降っている。寝床で屋根をうつ雨音に耳を

そばだてて継之助は天井を眺めていた。

 暫くすると矢沢家の人々や外山寅太等が彼の枕元に集まってきた。

 継之助の容態を気遣っての事であり、継之助は平生のごとく談笑しては皆を

笑わせていたが、昼頃となり、

「あしは一眠りしたいぞゃ、悪いがなゃ引き取って下されゃ」

 と付き添いの者を遠ざけて眠りに入った、外は相変わらず雨が降っている。

 その襖越に松蔵は、ひっそりと座って首をうな垂れている。

 彼には主人の命の尽きることが分っていたのだ。

 継之助は再び目覚める事なく、午後の八時頃に四十二年の波乱にとんだ

人生を閉じた。北越の蒼龍は雨雲を突きぬけて天にかけ昇って行った。

 慶応四年戊辰八月十六日であった。

                              「完}

小説 河井継之助の生涯(1)へ






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  Jan 12, 2009 06:49:45 PM
コメント(37) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: