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Apr 4, 2014
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御屋形さまの許で甲斐統一の戦(いくさ)をして参りました。

 それ故に今の武田家がございます。ここで家督相続などが起こり、家中に火種

などの基を作るなんぞは、もっての沙汰に御座います。何卒、ご嫡男の晴信さま

に家督相続をお許し下され」

「今一度聞く、信繁は晴信に劣ると申すか?」

 信虎の巨眼が変質に輝いている

「滅相な事を申されますな、力量の甲乙を申してはおりませぬ。長幼の序でもっ

て家督相続をお考え下され」  

 流石、信方は武田家の重鎮だけはある、臆する風もなくずばりと諫言した。

 信虎は不機嫌な様子で沈黙した。板垣信方の言葉は痛いほどに分かる。

 彼の父は信縄と言った。信虎はその嫡男として生まれ、戦いを義務づけられて

いた。最初は武田宗家を巡る戦えから、国人豪族達との抗争に明け暮れる毎日で

あった。彼は板垣信方や甘利虎泰、原虎胤等と共に戦い、小山田家、今井家、

大井家などを従わせた。そうした合戦の間にも諏訪氏や駿河の今川氏、相模の

北条氏の侵攻を受け、東奔西走する日々を過ごしてきたのだ。

 こうした経緯があって信虎は武田家を盤石にしたのだ。

「わしは十四才で父上の死で家督を継いだ、翌年には叔父の油川信恵 親子を

討ち取り大勝した。その方がわしと共に戦った時期は、一族の大井信達親子と

の戦いからであったの」 

 信虎が往時を偲ぶ眼差しで語りかけた。

「御意に、永正十二年頃にございましたな。今川勢と大井勢に攻められ小山田

大和守さま、板垣伯耆守さまを失いながらも我等は勝利いたしました。長く辛い

戦いの連続でしたが、御屋形さまのお蔭で甲斐を統一し、今は信濃を得る戦い

が始まっております」

「信方、折角治めた甲斐を乱してはならぬの。今の話は無かった事にいたせ」

「有り難き仰せにござる。御屋形さまのお蔭で武田一族は一枚岩となりました。

早い時期に佐久の穀倉地を手に入れましょうぞ」

 共に戦った主従は黙々と大杯をあおった。     

 信虎は戦国大名として合戦と隣国との交渉力には、一目おく存在であった。

 天文六年(一五三七年)敵対関係にあった駿河の今川家は前年に、国主の

氏輝(うじてる)が急死し、家督争いのすえ義元が国主の座を占めた。

 その機を逃さず、信虎は娘の定恵院を義元に嫁がせ、今川家と甲駿同盟を

成立させた。一方、それまでの同盟関係であった北条家と断交したのだ。

 甲斐はこれにより心置きなく信濃攻略が出来る情況となり、今川家は北条家の

侵攻を恐れることもなく、三河平定へと本腰を入れられる情況となった。

 こうして晴信の姉である定恵院は、義元の嫡男の氏真(うじざね)と二女を儲け

た。後顧の憂いを断った信虎は、小刻みな合戦を繰り返したが二年余り大軍を

を発する事もなく戦力を温存していた。 

 併し、いったん下火となっていた信虎の晴信への不満がまたも再燃した。

 ことある度に信繁を溺愛し、晴信を疎んじはじめたのだ。

 更に狂気も烈しくなり、鷹狩りに出ては田畑で働く百姓が邪魔だと云って銃

で撃ち殺したり、胎児が見たいと孕んだ妊婦の腹を割くという凶暴な振る舞いが

多くなり、信虎を怨嗟(えんさ)する声が日毎に強まってきた。

 武田の重臣の板垣信方や飯富兵部等は、秘かに晴信の身を案じながら何くれ

と心を砕いていたが、家臣たちの心も信虎から離反し始めていた。

 こうしたなか武田家の家臣団が晴信派と信繁派に分かれることは当然の結果

であったが、信繁は兄晴信を慕い、晴信の嫡男の義信(よしのぶ)を我が子同然

に接し、可愛がっていた。 

 こうして天文九年の年が明けた。躑躅ケ崎館の主殿に重臣等が集まったのは、

正月の三日であった。座所にどっかりと信虎が腰を据え、一段さがった板の間

に円座を敷き、右側に晴信が左側に信繁が座り武田家の重臣等が居並んだ。

 それぞれの前に正月の祝の膳部が置かれている。

「皆の者、今年は佐久郡を攻略いたす。よってまず海ノ口城を陥とす」

 信虎の野太い言葉に、

「待ちかねましたぞ」  

 板垣信方が真っ先に喜びの声を発した。

「父上、出陣は五月と見て間違いございませぬな」  

 晴信が恭しい態度で訊ねた。 

「そうじゃ、田植えが終ったら出陣いたす。総勢八千名じゃ」

「佐久郡全土が武田の領土になりますか、これは目出度い」

 宿老の一人甘利虎泰が戦場焼けした、塩辛声を張り上げた。 

「わしの望みは信濃全土じゃ」 

 信虎の戦場焼けした声が、広間に響いた。

「信濃全土と申されますが、諏訪家はいかがなされます?」

 原虎胤が無数の傷跡の残る凄味のある顔付をみせ質問した。


「諏訪頼重(よりしげ)殿とは親類縁者となる積もりじゃ」  

「なんとー」

「領土を血で購うばかりが合戦ではないぞ」  

 信虎の魁偉な顔が緩んでいる。

「何か策がおありにございますか?」  

 板垣信方が不審顔でいる。

「わしの三女のねねを頼重殿に嫁がすのじゃ」

 信虎の一言で一座から声にならない吐息が漏れた。

「さすれば御屋形さまは諏訪頼重殿の舅(しゅうと)になられますか?」

「舅と義理の息子が轡を並べ、北信濃(北信)の村上義清(よしきよ)を滅ぼす」

「おおー」  

 信虎の言葉に主殿に武者声が響き渡った。 

 信虎が厳かな挙措で座所から降り、中央の板の間に腰を据えた。

 居並んだ重臣等も姿かたちを改め、正面の楯無しと御旗を仰ぎみた。

「御旗、楯無しご照覧を」  

 信虎の野太い声が響き、重臣等もこれに唱和した。

 一座に粛然とした空気が漂った。この儀式は武田家が連綿として伝え続けてきた

戦い開始の行事であった。


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Last updated  Apr 4, 2014 12:47:49 PM
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