寒かった。外は雪。それでも横になれたのだ。幸せ。
また缶コーヒーでママの手足を温める。
もう明日にはブラックコーヒーしかないかもな。
外に出るたび、入口や救急入口で、子供を抱いて駆け込む人、
ここに行けって言われたから来たのにと怒る人、
箱で運ばれてくる水、ママは気にするなと言うけど、心が痛んだ。
意外と、気の小さいお嬢さんなのよ、と言う。
携帯は全然だめ。ウィルコムですからね・・・。
ママ、あたしがんばってっから、iphone買って!と言っておく。
ポットのぬるい水で母の顔を拭き、ま、いいかと私の顔も拭く。
ウェットの歯磨きシートで母の歯を磨くけど、全然磨けていない。
ママの歯ブラシ欲しい。
「歯ブラシしなさい」と、ママが私の心配をする。
そう言えば私も全然磨けていない。矯正してから頑張ってたんだけどな。
よく見たら歯茎まで白い。
今日も、昼の食間水の後に出れば外出してもいいだろうか。
お隣さんが何時間も並んで、ひと房しか買えなかったバナナを一本くれた。
すっかり仲良くなって、家族がいないときはおばあちゃんと話したりしてたのに
おばあちゃんは上の病室に移動になった。
看護師は全く来なくなった。
ママはおでこのスイッチを持ってきてほしいと言う。
でも、おでこのスイッチで看護師が来て
「音がするのはコールだ」と思ったら、呼吸器が外れても来てくれないかもしれない。
吸引でアラームを鳴らしても、誰も気にして覗く人はいなかったし、
呼吸器のチェックには来ても、意味が分かる人と分からない人がいる。
服薬のチェックは、初日を除いて誰も来ない。
みんな親切だけど、ここはICUなのだ。
決めた。
居座るために、今日はどこにも行かない。
担当看護師は誰なんだろう。いるのかな。
窓もなく、本当に手術室と言う感じで、ラジオは暗いニュースで
話す相手はママだけで、だんだんだんだん不安になっていく。
廊下まで電波が通じて、JJと話したけれど
放射能の怖い話ばかり。
「俺たちの子供のために気をつけて。外に出ないで」と言われても、
きのこ達は18日には物資を取りに行ってくれるんだよ。
みんな並んで水やガソリンや食料をゲットするんだよ。
海外ではどんな報道がなされているんだろう。
JJの両親は、何を考えるだろう。
留学は、どうなってしまうんだろう。
放射能怖いのは誰だって同じ。
なのに、みんなに支援物資を任せて表に出ないなんて、そんなのできない。
でもあたしだって怖い。
そう思って病室に戻ったら、
自転車できのこのYちゃんが今日も来てくれていた。
Yちゃんのお父さんは福島の避難区域から仙台に帰ってきた。
「お父さん超へこんでますけどね。私ももう気にしないです。
テレビ見ていられなくて、何かしたくて淑子さんに会いに来ちゃいました。」
あたしはなんて馬鹿なんだと思った。
情けねえ。意外と情けねえんだよ。
だって話だけで具合悪くなりそうじゃないか。
今頑張らないといけないのに、ママが笑わなくなってきてるから
私が笑顔でなきゃいけないのに、なんかすり減って来てるよ。もう。
まだ、ここにいなきゃいけないのに。
従兄の奥さんに電話で話したときにその話になって
「大丈夫だよ、ヨーコちゃん、
今は世界中、日本中の人が変になってるけど、そのうち落ちつくから大丈夫」
と言われて、とても楽になった。
ママが「横になって寝て」と言ってくれたので
また簡易ベッドで寝る。
ラジオでかかった「アンパンマン体操」が思いのほかいい歌だったんだと思った。
あ・・・なんか明日取材がくるみたいですけど
私風呂も入ってないし歯も磨いてないしすっぴんですけど・・。
本日の寝どこ。