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「五味宏基って、だれ?」という人は、もう多いと思う。


彼の弁護をするつもりはない。でも弁護かもしれない。見ず知らずの私だけど、どうしても言いたい。聞いてもらえますか。

いつか、ある大きな新聞社に勤める記者の講演を、録音反訳しました。
冒頭、その人はこう言い放ったのです。「我々の給料は、M新聞にくらべると、全く違う。優秀な記者が集まるのは当然である」
あっけにとられました。給料の多寡が能力のよしあしを決める、ある意味では真実でしょうが、自分からは言ってほしくないし、それを第一のはかりにするような新聞記者は、品性が欠けていると思いました。

私は筋金入りの毎日新聞読者です。会社に知り合いがいるわけでも何でもありません。宣伝のつもりはありません。
長い間のつきあいで、読みやすいから読んでいます。
内輪の話になりますが、「くりくり」は、創刊号に感激しましたし、中学生のときには竹橋の編集部に遊びに行ったこともありました。地方版に詩が載ったこともありました。あれは小学3年のとき。


「五味宏基」。この名前はよく紙面で見かけていたからです。
報道写真に署名があります。いつも、いい写真を撮る人でした。
心が揺れる写真も多かった。でも、インパクトの強い写真ではありません。むしろ、穏やかな、きれいな写真の印象があります。
それらが、珍しい名前と共に記憶に残っていたのです。

毎日新聞は、事件を起こしたときに、すぐさま現地に本社の幹部を派遣しました。
当然のことと思います。
「五味宏基」で検索してみてください。この事件の報道以外に、たくさんたくさん彼の撮った写真も検索されるはずです。それらの写真をごらんになれば、きちんと仕事を積み重ねてきた人物だったと、おわかりになると思います。彼の撮ったこういう写真が、たくさん紙面を飾っていたのです。
何も起きなければ、彼が軽率にも爆弾を拾って「使用済み」と思い込まなければ、ある程度の出世の道がひらかれていたのかもしれません。社内のことや彼個人を知りませんので何ともわかりませんが、読者にとっては「いい仕事をする人」だと思っていたのです。

繰り返しますが、私は彼の知り合いでも何でもありません。
実際の人柄も知りません。
ただ、事件を起こした後の、彼の態度、コメント、新聞社の対応、紙面での扱い、どれをとっても、「誠意」がありました。きちんとした報道を感じました。


普通の精神状態を保てないような戦地で仕事をしていたとはいえ、軽率だったことは否定できません。彼についての報道は、もちろん否定的なものばかり。それは、当たり前でしょう。でも、「事件」だけで彼のすべてを断罪する記事ばかり。あんなにたくさんいい仕事を積み重ねてきていたのに。

すでに使用済みだったとの「思い込み」。
「思い込み」は、よくあることです。
彼の場合は、それが取りかえしのつかないことだった。
致命的な地雷を踏んでしまった。

たまたま、それが酒ではなくて爆弾で、場所が海外の空港で、空港職員を死傷させ、彼が新聞社に勤めていたばかりに、狂った歯車が、さらに大きく回ってしまいました。
神様のいたずらとしかいいようのない、彼の「思い込み」。

帰国後、五味記者は、毎日新聞を懲戒解雇されました。
その後の消息は、わかりません。
一生償いきれないものを背負って、彼がどうやって生きていくのか、もちろん気にするのは大きなお世話です。
でも、少しだけ、気になります。

おかした罪を償うための事件の顛末本なんか、決して書いてほしくない。言い訳なんかしないでほしい。
あの、たくさんの紙面を飾った写真の腕で、人知れず再起してほしい。
五味宏基、当時36歳。
大きな十字架を背負ってしまった彼のこの先、どうか荒れずに、くじけずに、いい写真を撮りつづけてほしい。

見ず知らずの人なのに、思い入れが深すぎると言われれば、確かにそうなんだけど。変かなあ。





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Last updated  2003年11月09日 17時32分30秒
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