あたしはあたしの道をいく

2007.12.04
XML
カテゴリ:

分水嶺

積読消化中でございます(笑

いつもは読んだこと無い人を意識して、ネタバレせぬように気をつけるのですが、

本作については無理だと思うので、そのつもりでお読みくださいマセ。



この作品は、森村誠一のかなり初期の作品らしい。

解説によると、若書きだ、とのこと。

残念ながら、私はまだ森村誠一の膨大な著書のほんの一部しか読んでいないし、

それも時系列に読んでいるわけではないので、それについては分からない。

ただ、これが「若書き」であることと、「売れなかった」ということに、驚きを感じる。



が。言われてみれば。



ものすごく中身が「濃ゆい」。

濃い、では無いですよ。

濃ゆい、です。

「too much!」って感じです。



山。

友情。

男女の性。

三角関係恋愛。

夫婦。

夫婦の和。

夫婦の溝。



企業戦士。

ベトナム戦争。

戦争特需。

兵器。

人体実験。






一つでも十分メインテーマと成りうるような題材が、

もんのすごく欲張りに、たっくさん盛り込まれております。

あまりに盛り込まれすぎていて、一つ一つがかすみます。

これは確かに、「若書き」でしょう。



とはいえ。

読み上げてしまうと「too much !」と思う部分も強いけれども、

読んでいる最中は、のめりこんでしまって気にならない。

節々で語られる作者の眼は、すごい。

上に挙げたテーマ一つ一つに、作者の薀蓄がぎしりと詰まっている。

その一つ一つが、どれも非常な説得力を持って迫ってくるので

感想として書きたいことは、あまりに多い。



前の『 天の白骨 』でも書いたような気がするけれど、森村誠一の作品はとても男くさい。

この『分水嶺』も、男女・夫婦・友・親子、といったような人間関係について、

男性ならではの理論的な視点で色々とと書かれていて、純粋に面白い。

私は女なので、「男性から見ると、こんななのか」と思うけれども、

同性である男性が読んだらどう感じるのだろう、と考えるのも面白い。



それらの人間関係や物事への考え方についても思うところが多かったけど、

この作品の一番大きなテーマはやはり戦争に関するものだろう。

主人公の一人、秋田は広島で被爆、父母を失い、自身も白血病を発症している。

秋田が山で命のパートナーを組んだ大西は、兵器会社に勤め、

ナパーム弾、毒ガス兵器の開発に勤しんでいる。

大西の勤める会社は、米軍がベトナム戦争で使用する毒ガスを納めるため、

人体実験を行う。



小説は、虚構だ。

よって、この大西の仕事も虚構だ。

そう割り切りながらも、日本の復興が朝鮮戦争やベトナム戦争と

無縁ではなかったことを思い出すと、背筋が寒くなる。



それにしても。

森村誠一作品には、戦争を題材にしたものが多い。

悪魔の飽食 』シリーズは別格としても、小説自体に反戦の立場が強い。



私はヒロシマを知る世代ではないけれど、広島生まれの広島育ち。

原爆とか、反戦とか、そういうものにアンテナが働きやすい下地を持っている。

ふと、森村誠一も同じではないかと思い至り、検索をかけたところ、

Wikipedia に衝撃的な一文を発見。

>12歳にして、日本で最後(8月15日未明)の熊谷空襲を体験。

>のちの「反戦平和」の原体験となる。



8月15日!!!!!



8月15日は、終戦記念日だ。

今も毎年、8月15日の正午には式典が開かれ、追悼のサイレンが鳴る。

昭和20年8月15日には玉音放送で、終戦が告げられたはずだ。



いや、ポツダム宣言を日本が受諾したのは、さらに数日前ではなかったか。

8月6日 広島へ原爆投下。

8月9日 長崎に原爆投下。

この直後、ポツダム宣言受諾。

米英からの攻撃は殆ど無くなり、民間人がいぶかしむ頃、玉音放送による戦争の通知。

では無かったか。



つまり。

森村誠一は、もう日本がポツダム宣言を受諾し、連合軍と日本が終戦へ合意し、

占領軍が日本へ乗り込む下準備を着々と進め、あとは祝詞を待つだけという、

舞台が全て整えられた後に起こった、空襲と言う惨禍を経験しているのだ。

その惨禍の中で、もしかしたら、身近な人を亡くしたかもしれない……。

身近な人を失う悲劇から逃れられたとしても、

少年の目に、変わり果てた惨状はどう映っただろう?

そして、その直後の終戦の宣言は……。



知りたい、と思った。



直接的なエッセイや体験記でなくとも、森村作品にそれらは溢れているはずだ。



読みたい。

もっと、森村作品が読みたい。







お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2007.12.04 16:32:12
コメントを書く
[本] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: