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しばらく看板に偽り有りの日記が続いていたが、今回は久しぶりに医療報道について。始めに共同通信の記事を読んだのだが、何がなんだか分からなかった。書いた記者には分かっているのだろうか。男性医師を書類送検 適切な検査せず女性死亡記事:共同通信社 【2008年5月14日】 長野県警南佐久署は13日、適切な検査や治療をしなかったために頭痛を訴えて来院した女性=当時(55)=が死亡したとして業務上過失致死の疑いで、同県佐久市の男性医師(29)を書類送検した。 同署の調べでは、医師は2004年10月23日午後2時ごろ、長野県佐久市の佐久総合病院に救急外来で来院した女性が激しい頭痛とくも膜下出血の可能性を訴えたにもかかわらず、CTスキャンなどによる検査や治療をしなかった疑い。女性は翌年1月、くも膜下出血で死亡した。医師は「判断ミスだった」と認めているという。 医師は当時、2年目の研修医。05年1月、夫が県警に告訴していた。 佐久総合病院の夏川周介(なつかわ・しゅうすけ)院長は「病院側の教育、管理体制上の問題もあり、本人の責任ではないと考えている」と話した。 受診したのが2004年10月で、クモ膜下出血を患者または家族が疑っているのにCTなどの検査をしなかったところ、翌年1月にクモ膜下出血で亡くなったらしいことは分かります。これではクモ膜下出血が起きたのは1月で、受診時には何ともなかったような書き方ですが、だったら書類送検されるわけがありません。詳しい情報を探してみたら、次のような記事を見つけました。くも膜下出血見逃し女性死亡 佐久病院医師を書類送検信濃毎日新聞 5月13日(火) 県厚生連佐久総合病院(佐久市臼田)で2004年10月、頭痛を訴え受診した佐久市岩村田、主婦小林美幸さん=当時(55)=がくも膜下出血で死亡し、夫の哲さん(59)夫が医療ミスがあったとして告訴していた問題で、南佐久署は13日、診察した同病院の深沢正之医師(29)=佐久市中込=を業務上過失致死の疑いで地検佐久支部に書類送検した。 調べによると、深沢医師はくも膜下出血の初期段階を疑い、適切な検査と治療をしなければならなかったのに怠った過失により、05年1月12日、同病院で小林さんを死亡させた疑い。同日、告訴状を受理し、捜査をしていた。深沢医師は過失を認めているという。 同署などによると、小林さんは04年10月23日、後頭部に急激な痛みを感じ、同病院の救急外来を受診。「肩凝りによる頭痛」と診断され帰宅したが、数時間後に意識不明になって同病院の集中治療室(ICU)に入院し、意識が戻らないまま死亡した。受診時に小林さんはくも膜下出血の恐れを伝えたが、深沢医師はCT(コンピューター断層撮影)検査などをしなかったという。深沢医師は研修2年目で、当日は土曜日だった。 同病院の夏川周介院長は「結果的には判断ミスだった。今後の経過を見守りたい」としている。 哲さんは「医師はくも膜下出血の症状をよく知らなかったようで憤りを感じる。病院側は示談を申し込んできたが断った。起訴されるか経過を見守りたい」と話した。 今度は帰宅後に意識不明となったことが分かる。その後の入院時にクモ膜下出血の診断がついたのだろう。なぜ最初に「肩凝りによる頭痛」と診断したのか知りたいところだが、その点は不明である。実際にクモ膜下出血を疑うような項部硬直などの症状があったのかどうかなど、ミスかどうかの判断に役に立つ情報は、いつもの通り無い。 それでも実際の所、医師が未熟であったのは事実なのだろう。何しろ2年目の医師なのだ。問題は、なぜ2年目の医師が診察し、そのまま帰してしまったのかと言うことだろう。自分だけのかってな判断で帰してしまったのなら、やはり責任を問われても仕方がない気もする。でも、頼る指導医もいない状態でやらされていたのであれば、この医師を責めても何にもならない。問題はその様な体制を取らせた病院、その様な体制を余儀なくさせている医療環境にあるからだ。 記事にするのであれば、受診時の医療体制について突っ込んだ取材をして欲しかった。誰かの発表を只垂れ流すのであれば、報道とは言えない。取材あっての報道ではないのだろうか。自分に高度な救急医療をする実力がないことが分かっていながら、当直表で割り振られ、強制的に救急医療をさせられて、放射線技師もいない状況で、CTを取ることもままならないという環境だったのなら、この医師も被害者だ。
2008.05.16
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2月2日の日記にも書いたのだが、恐れていたことが事実であることが判明した。麻薬アンプル30本盗難、国立病院の医師を逮捕 大阪府吹田市の国立循環器病センターから麻薬系鎮痛薬「フェンタニル」を盗んだとして、吹田署は15日、同市青山台、同センター麻酔科医師の福田稔容疑者(36)を窃盗容疑で逮捕、自宅から空のアンプル30本を押収した。 福田容疑者は容疑を認めており、同署は余罪のほか、麻薬及び向精神薬取締法違反容疑でも追及する。 調べでは、福田容疑者は1月15~29日の間、同センター3階の麻酔科の金庫に保管されていたフェンタニルのアンプル(2cc入り)30本を数回にわたって盗んだ疑い。 フェンタニルは麻薬指定され、毒性が強く、鎮痛効果はモルヒネの200倍とされる。福田容疑者は「疲れた時や眠い時に注射した。すべて自分で使うために盗んだ」と話している。 [読売新聞] 弁護するつもりはないが、気持ちだけはよく分かる。麻酔業務は結構気を遣う業務なのだ。bambooも疲れてもいるし眠くもあるのだが、頭の芯が冴えわたって眠れないことがある。業務中は脳内の警報装置がフル稼働しているので、業務終了からしばらくしないと、警報装置がオフにならないのだろう。こういうときは酒を飲んでも眠れない。事件の報道を見たとき、麻酔科医の犯行だと思ってはいたが、実際に明らかになると改めて悔しい。眠るためなら合法の睡眠薬がいくらでもある。盗まなくても処方してもらえるだろうに。自分の人生を捨てることはなかったはずだ。
2007.02.16
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硬膜外腔というのは脊椎骨の後ろの方、硬膜とその外側の黄靱帯の間にある。そこは神経の通り道なので、そこに局所麻酔薬を入れると、神経に対応した部分を麻酔することが出来る。これを硬膜外麻酔という。麻薬を入れても鎮痛作用があり、手術後の鎮痛に、よく使われる。 硬膜外麻酔をするためには硬膜外腔に針を刺さなければならないが、硬膜外腔に針が届いたことは、針に付けた注射器のピストンを押して、その抵抗の変化で判断する。この判断を誤り、硬膜を穿刺して脊髄腔内まで針を刺してしまうことを英語では"dural puncture"と言うが、麻酔科の業界内ではドラポンとかドラパンと称され、バカにされる対象である。でも、実を言うと、技術によって確率は異なるものの、絶対にドラポンをしないという方法はない。「がん医療ミスで死亡」 遺族、1億円の賠償求め2病院側を提訴 記事:毎日新聞社【2007年12月19日】 損賠訴訟:「がん医療ミスで死亡」 遺族、1億円の賠償求め2病院側を提訴 /茨城 麻酔の刺し間違い、縫合不全、腹膜炎見落としなどのミスを重ね、早期の胃がん手術を受けた土浦市木田余の会社員、酒井宏行さん(当時47歳)を死亡させたとして、遺族が県内の病院を経営する2法人に約1億545万円の損害賠償を求める訴訟を水戸地裁土浦支部に起こした。 14日付の訴状によると、酒井さんは02年12月26日、つくば市天久保1の筑波メディカルセンター病院で手術を受けた。その際、麻酔医が針を刺し間違えて両足をまひさせた。 さらに手術中に胃と十二指腸を不均衡に縫い合わせたため、内容物が腹腔(ふくくう)内に散らばって腹膜炎を発症した。酒井さんは転院を勧められ、牛久市柏田町のつくばセントラル病院に移ったが、同病院の医師も腹膜炎の発症を見落として食事の開始などを指示。翌年1月6日に死亡した。 遺族は、2病院で計9人の医師が治療にかかわったと主張。県警は、うち3人を業務上過失致死容疑などで書類送検したが、不起訴処分になっている。 酒井さんの妻(53)は「夫の無念を晴らすのは私しかいないというつもりで準備してきた。こんな理不尽な死に方があるだろうか。訴状を読むと今でも涙が出る」と話した。両病院側は「訴状が届いていないのでコメントできない」としている。【山本将克】 術後の縫合不全も、技術によって確率は異なるものの、なくすことは出来ない。この症例が外科医の責任を問われて当然だったのかどうか、記事からは全く判断できないので、門外漢の私はコメントを差し控える。専門分野の硬膜外麻酔についてだけ言及する。 おそらくこの麻酔科医は、かなり落ち込んだだろう。ドラポンを絶対に防ぐ方法はないとはいえ、脊髄まで穿刺することは滅多にない。この記事を読んだ麻酔科医の多くも、ミスだと判断することだろう。でも、私はそのように決めつけることはしない。注射器の抵抗が変化しないまま、脊髄まで穿刺することだってあり得ると考えるからだ。 針が硬膜外腔にはいると注射器の抵抗が変化するのは、硬膜外腔は組織がスカスカだからだ。針が黄靱帯を貫いて硬膜外腔に達すると、急に抵抗が消失するのだ。もし、極めて希に、丈夫な黄靱帯の持ち主が居たらどうだろう。針は黄靱帯を押すものの、刺さらない。黄靱帯は押されて、硬膜や脊髄までも圧迫する。ついに針が黄靱帯を貫いたとき、硬膜も一緒に貫き、脊髄まで届いてしまう。この状態では、抵抗消失法で行う限り、防ぐことは出来ないだろう。 もちろんこれは、私の想像にすぎない。麻酔科医の多くは賛同しないかも知れない。でも、あり得るメカニズムだと思っている。 最期にもう一つ。この症例は亡くなってしまったので麻痺が回復していないだろうが、脊髄を刺しても、時間はかかるが通常は回復する。もちろん死亡と脊髄穿刺は何の関係もない。この記事だと、麻酔科医も死亡に責任があるかのような書き方だが、それは誤りだ。
2007.12.20
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