オキナワの中年

オキナワの中年

沖縄文学の情景/岡本恵徳


読書/沖縄文学の情景/岡本恵徳著/文学から沖縄文化全体に


 著者の琉球大学退官をきっかけに編まれた本書の各論考は、内容・形式両面で実に多様である。現在では忘れさられた戦前の作家から、最近年の作家たち、あるいはメディアとしての雑誌までと、その対象は広い。また論文、エッセーに加え、国際会議の報告や、一般向けの公開講座までが収録されており、実に多彩だ。それでいながら全体として、有機的な統一感を感じさせるという、希有な一冊となっている。
 研究者あるいは沖縄文学に強い関心を持つ読者なら、本書に収録されている論考の多くを既に読んでいるものと思われる。しかし一冊の書物として通読するとき、あらためて著者の広さと深さとを再認識させられる。広さは歴史的あるいは文明論的なパースペクティブにあり、深さは作品論のち密さに現れている。本来この二つは、文学をとらえる上で欠くことのできない両輪であるが、現実に一人の研究者の中に両立するのは難しい。「沖縄文学の情景」というのは、一見漠然としたタイトルであるが、歴史的かつ批評的で、さらに文学を通して沖縄文化全体に至ろうとする、本書の全体をよく言い表しているといえるだろう。
 本書はまた初学者、あるいは一般読者をも拒んではいない。高度な達成を見せながら、論旨はあくまで明快であり、首をひねるような特殊な専門用語は、全く使われていないのである。大城立裕以前に、こんなにたくさんの作家たちが、限られた状況の中で、自己を表現しようと苦闘したのか、という驚きであってもいいし、名高いが近寄りがたい大江健三郎『沖縄ノート』への良質な導き手として読んでもよい。
 占領下沖縄文学の熱い時代を自ら経験しながら、あらゆる作家・作品に、全く偏りを持たない澄み切った筆致は、もはやダンディズムと言ってよいだろう。沖縄文学、もしくは沖縄に関心を持つ者すべてにとって、必読の一冊である。
(大野隆之・沖縄国際大学助教授)
(ニライ社・一八〇〇円)


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