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正月のテレビドラマで見た「家康、江戸を建てる」の原作を読んだ。ドラマは、「水を制す」と「金貨の町」の2話の連続だった。確かに江戸の町を今の大都会にする礎は、利根川の流れを変え、全国に流通する小判を作ることにあったのだろう。そのポイントを押さえたドラマだったかもしれない。しかし、原作を読むと、江戸城を建てることに、もっと多くのページを割いていた。石垣であり、天守をめぐるドラマである。だが映像化するのに、石垣の大岩を切り出し運ぶ、という作業は適さなかったのだろう。伊豆の山から切り出すのは、もはやCGでも使う以外になかったのに違いない。また、織田信長の安土城にしろ、豊臣秀吉の大阪城にしろ、天守は黒が常識だった。なのに、徳川家康が白い天守を建てよと命じた理由が面白かった。三男の秀忠はその理由を突き止める。しかし、半分しか当てられなかった。木造、瓦、白漆喰の組み合わせが象徴する江戸城の美は、260年続く徳川の世を象徴するものだったのかもしれないない。実におもしろかった。家康、江戸を建てる (祥伝社文庫) [ 門井慶喜 ]
2019年01月19日
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今年9月に亡くなった、樹木希林氏のことばをまとめた「一切なりゆき」を読んだ。生前、色紙に書いていたことば「私の役者魂はね、一切なりゆき」からタイトルがつけられた。一切なりゆき 樹木希林のことば【電子書籍】[ 樹木希林 ]様々な雑誌、インタビュー等からことばが集められたが、なにせ摘まみ食いの形になっているので、十分に意味が伝わってこないのが残念だ。むしろ、巻末に納められた娘、内田也哉子氏の本葬時の挨拶「喪主代理の挨拶」全文の方がよかった。その中で、「おごらず、他人と比べず、面白がって、平気に生きればいい」という母からの言葉が全てのような気がする。
2018年12月30日
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英国人探検家ジェームズ・クック(通称キャプテン・クック、1728~79年)が太平洋の航海に使ったとみられる船の残骸が、米東部ロードアイランド州沖の海中で、同州の海洋考古学団体によって発見されたいうニュースを見た。今月19日に欧米メディアが伝えている。発見されたのは5隻で、そのうちの1隻がキャプテン・クックが乗り込み1770年にオーストラリア東部などに到達したエンデバー号とみられる。ダイバーによる潜水調査が続いているというが、25年前から調査をしてきたものらしい。四半世紀もの歳月をかけて、闇の中の海底を探索して発見したというのは浪漫を感じる。尾根のかなたに 父と息子の日航機墜落事故 (小学館文庫) [ 門田隆将 ]しかし、山の中で生きていた家族を探すというのは時間との戦いだ。1985年8月12日の日航ジャンボ機の墜落事故で、520人もの人が亡くなった。以前に読んだ山崎豊子氏の「沈まぬ太陽 第3巻 御巣鷹山編」はフィクションの形で書かれていた。今回読んだ門田隆将氏の「尾根のかなたに 父と息子の日航機墜落事故」はノンフィクションである。この文庫本で、映画監督の若松節朗氏が解説を書いているが、彼の言う通り、「沈まぬ太陽」が日航側の視点で描くものとすれば、「尾根のかなたに」は遺族の側から描くものである。そして、口の重い男たちが語る5つの実話だ。当時、救助に当たった陸上自衛隊員、母と妹を亡くした9歳男児、父を亡くした13歳男児、両親と妹を亡くした男子高校1年生、64歳の父を亡くした歯科医兄弟が語る、事故当時とその後である。四半世紀の時を経て語られる再生の物語は胸を突く。
2018年09月22日
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山崎豊子氏の「沈まぬ太陽」(御巣鷹山編)を読んだ。「沈まぬ太陽」は5巻からなる。1巻、2巻が「アフリカ篇」で、3巻が「御巣鷹山編」だ。4巻、5巻は「会長室編」となっている。映画化されたのはアフリカ篇だ。沈まぬ太陽(3(御巣鷹山篇)) (新潮文庫) [ 山崎豊子 ]この「御巣鷹山編」は、主人公の恩地が労働組合活動で懲罰人事により、アフリカへ送られた苦闘の末、東京に呼び戻されていた時の出来事だ。出社しても新聞を読み、かかってくる電話を取るだけの「閑離職」の時に起こった事故として扱われている。もちろん、あのJAL123便の御巣鷹山墜落事故を詳細に調べ、小説化したもので、一部、遺族は本名で書かれている。JALはNAL(国民航空)として書かれている。所沢にある東京航空交通管制部の場面から物語は始まっている。機長からの「トラブル、羽田へ戻りたい」という声から始まる。有名なダッチロールの際、機内で何が起こっていたか。そして墜落後の遺体の状況など目を覆いたくなる記述が続く。でもジャンボ機が山に落ち、一瞬にして520人もの命が失われたのだ。想像を超える現実があった。恩地は遺族のお世話係として奮闘するが、遺族にも様々な事情がある。一度に子供夫婦と孫を失った遺族や、3人の娘を失った遺族、働き盛りの夫を失った未亡人…。一方で、国民航空の幹部やボーイング社の対応など企業の論理も絡んで、一筋縄ではいかない物語。悲しみ、怒り、そして絶望…。飛行機が落ちるということは、こういうことなんだと、改めて思い知る。でも、シートベルトが凶器になったかもしれないのに、いまだに何も変わっていないのではないのか? 教訓は生かされているのだろうか?
2018年09月10日
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石原さとみ氏主演でドラマ化された「校閲ガール」を思い出す。校閲という出版業界の地味だが、最後の砦ともいえる重要な仕事を担当した校閲ガール、河野悦子役だった。名を略せば「河」「悦」となるところもミソである。半分、青い。 下 (文春文庫)[本/雑誌] / 北川悦吏子/著読んでいるのは「半分、青い。下(文春文庫)」である。上巻は読み終えたが、朝ドラを先走ることなく、ドラマを追いかけるように読んでいる。ぼんやりとドラマを見るより、文字で表現された感情や背景が新鮮だ。ところが、読んでいて唖然としたのが写真の部分。校閲ガールが仕事をしていないのだ。スズメがリツの「結婚しましたハガキ」を見て、大阪へ行きリツの妻の顔を見に行ったときのことだ。そこには偶然、リツの母、ワコも来ていたが、部屋の中のワコに対して返事をするのに、スズメの母、ハルに返事をしているではないか。文春文庫には校閲はいないのか。大チョンボである。折しも、マガジンハウス社から、豊川悦司氏が演じた漫画家・秋風羽織の特集本「秋風羽織の教え/人生は半分、青い。」が出版されると発表された。秋風はドラマの中で数々の名言を残していて、その「秋風先生に単独・密着取材し、『真実の言葉』を語り下ろしていただきました」というものだ。スキャンダルばかり追っている文春じゃないから、こちらの校閲は大丈夫かな?
2018年08月15日
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森沢明夫氏の「きらきら眼鏡」を読んだ。ちょっと長編だったけど、いつもの森沢節でよかった。映画化されて9月に上映されるようだが、主人公、明海くんを取り巻く2人の女性のうち、フリーライターの大滝あかね役を演じるのは池脇千鶴氏のようだ。だが、個人的には、NHKアナウンサーの和久田麻由子氏がピッタリくる。笑うとできるエクボ。曰く「ペコちゃんの笑み」が咲くのだ。もっとも、ちょうど読んでいるときに、表現とそっくりの青いワンピースを着て、朝の番組に出演していたからなのかもしれないが。今週は朝の番組、彼女はお休みである。きらきら眼鏡 [ 森沢 明夫 ]愛猫の死、愛する人の死が根底にある物語だが、ペコちゃんは目に見えない「きらきら眼鏡」をかけている。いろいろな物事のきらきらしたところにフォーカスする眼鏡だ。だから「世の中がきらきらして見えると、あれこれ考える前に、とにかく一歩を踏み出してみようかなっていう気分になれるし、恋愛にたいしても、人生にたいしても、できるだけ自然なままの自分でいようって思えるようになれたかも」。「よくよく考えてみれば、人生の価値を決めるのは、その人に起こった事象ではなくて、その人が抱いた感情なのだ。あかねさんのように、この世のきらきらした部分にフォーカスして、きらきらした感情を丁寧に味わえたなら、人生の幸福度は限りなく百点満点に近づいていくだろう。」こうした話が随所に出てくる。そして、ざわざわ、ざわざわ。風に揺られ、心が揺れて…。やっぱり、面白かった。
2018年07月31日
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森沢明夫氏の「キッチン風見鶏」を読んだ。彼の作品は、つくづくファンタジーだと思う。また、素敵なファンタジーを味わった。ある港町で三代続く洋食屋「キッチン風見鶏」で働く、漫画家デビューを夢見るアルバイトウエィターが主人公だ。世代を超えたファンタジーが綴られる。キッチン風見鶏 (ハルキ文庫) [ 森沢明夫 ]朝ドラ「半分、青い。」を見てきたから、漫画家志望の苦悩がわかる。朝ドラではデビューするも挫折し、翼が折れて、違う道を現在進行形だが、ウエイターは翼を折らない。折りそうになりながらあきらめない。未来は不安だし、人生は寂しい。でも、だからこそ、自分の心に嘘をつかずに生きていく。彼は子どものころから霊能力のあるマイノリティとして、生きづらい中を生きてきた。同じ悩みを持つ売れっ子占い師との出会いが、彼の救いだったのかもしれない。夢は、魔法の言葉とともに次の代に受け継がれていく。人生にマイナスと思われる出来事が降りかかってきたら、心のなかで「だからこそ」という魔法の言葉を発してみる。そうすれば、自然とその先の未来がプラスに開けてくる。だからこそ、だからこそ…。とんがり屋根の上で、風見鶏がカタカタカタ、と幸せそうに笑っていた。
2018年07月11日
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垣谷美雨氏の小説「老後の資金がありません」(文庫本)を読んだ。主人公は50歳代の派遣女性。夫は57歳の会社員だ。長女の結婚が決まり、長男は就職が決まり、いよいよ自分たちの老後に向けて歩み出す、ごく一般的な家庭と言える。老後の資金がありません (中公文庫) [ 垣谷 美雨 ]ところがである。長女の嫁ぎ先は商売をしていて、その長男と挙式を挙げる。だから、椿山荘みたいな立派なところで600万円もの費用をかけて披露宴をするという。しかも費用は折半。イタリアへの新婚旅行、新居準備で、なんと500万円もの出費。義父が亡くなる。長男である夫が喪主を務めるが、閉店したとはいえ、老舗和菓子屋の葬儀だからと、結局、墓石と合わせて400万円の出費。1,200万円あった蓄えは、300万円になってしまった。さらに、追い打ちをかけるように、派遣社員の仕事は雇止め。夫も会社をリストラ。嫁いだ娘は、夫から暴力を振るわれているかもしれないという疑念も渦巻き、お先真っ暗になっていくのだった。お花の師匠さんの事件や、年金詐欺まがいのエピソードまでが加わり、さぁ、どうなる。「家計応援小説」と銘打っているが果たして…。面白い、と言ってばかりはいられないのだった。
2018年06月08日
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砂田麻美氏の「一瞬の雲の切れ間に」を読んだ。帯には「最終章で叫びたくなる!すごい文庫!!」と書かれているが、「う~ん、微妙だなぁ」というのが感想である。少なくとも、佐藤多佳子氏の「一瞬の風になれ」のイメージで読んではいけない。([す]1-1)一瞬の雲の切れ間に (ポプラ文庫 日本文学) [ 砂田 麻美 ]自転車に乗っていた小学生を、一台の乗用車がはねて死亡させてしまった。この交通事故にまつわる短編集になっていて、加害者の夫、加害者、被害者の母など、それぞれの主人公が自らの心の動きを細かく吐露している。それが細かすぎて、途中で気持ちが悪くなった。自分の心の動きを、そんなに細かく理解できているものだろうか。いちいち細かい。「独白」の手法が失敗しているのではないかと思う。著者は映画監督であり、それが邪魔しているのではないか。心の動きを、もし映像で表現することができるのならいいかもしれない。だが、文字にすべきではないのだろう。そして、個人的には、最終章で叫びたくはならなかった。ん?むしろ最終章で、疑問が広がっていった。Nとの関係は、この短編集に必要だったのだろうか?
2018年04月14日
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喜多嶋隆氏の「向かい風でも君は咲く」を読んだ。いつも通り、読後感がいい。向かい風でも君は咲く (光文社文庫) [ 喜多嶋隆 ]二人の主人公が登場する。一人は、心優しい18歳の少女。恵まれない環境のなかで育ったアマチュア・ゴルファー。でも、だからこそ人に愛される完璧な少女だ。喜多嶋作品の主人公は、いつも完璧なまでにかっこいい。もう一人の主人公は、23歳の青年で、プロテストに3回も落ちた人物。これはいつもと違うが、過去はどうあれ、描かれる行動はやっぱりかっこいいのだ。彼が少女のボディーガード兼キャディーを務めて、アマチュアのトーナメントに出場する。トーナメントは、異常性格者によって狙われている。しかも、ターゲットは彼女である。だからボディーガードなのだが、青年の腕っぷしを見込まれての事だ。出場者には彼女と対照的な、気の強い金持ちお嬢様もいて、悪質なキャディーが付いている。面白いなぁ。喜多嶋作品は肩の凝らないのはもちろん、どんどん引き込まれるストーリー性が好きだ。少し長い時間、電車に乗っている時なんかは手放せなくなる。逆に短い時間は向かない。本を閉じるのが惜しくなるから…。
2018年04月12日
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宮下奈都氏の「羊と鋼の森」を読んだ。映画化され、6月に公開されるようである。出演は、山崎賢人氏と三浦友和氏と帯に書かれている。2016年に本屋大賞を受賞した作品だ。羊と鋼の森 (文春文庫) [ 宮下 奈都 ]羊も鋼もピアノの部品である。物語は、新人ピアノ調律師の成長物語である。昨年10月に亡くなった私の叔父は、長年、調律師をしていたが、生前に読んでいたらどう感じただろう。聞いてみたかったな。調律師は、ピアノの調整をする人ぐらいにしか知識がない。だいたい、ピアノの仕組みもあまり理解していないが、漆黒の箱の中には、鋼の弦が張られていて、羊の毛で作られたハンマーでそれを叩くことで音が出るという。そして、生き物のようであって、設置された場所や温度や湿度、人の数などで音が変わる。それを調整するが、だんだんズレルから定期的に調律師の出番となる。主人公は森深い山村の出身で、その森の息遣いを感じながら、先輩や顧客とのつながりから成長していく。いい話だと思う。新しい世界を知ったとも言える。でも、これを映画化する意味があるのだろうか。解説で佐藤多佳子氏が書いているが、主人公は外見の描写がなく、外村という名字しか出て来ない。読み手が外村君を想像するのだから、読む人それぞれに外村君がいる。それなのに、外村君は山崎賢人氏でですよとか、ピアノが奏でる微妙な音の違いを音声化して、聴かせてしまうことに何の意味があるのだろうか。学校の体育館で鳴る音、自宅の防音化した小さな部屋で奏でる音、広いコンサートホールで響く音、結婚を祝す祝いのレストランで紡ぐ音…。それは想像の中に置いておきたい気がするのだ。
2018年03月12日
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喜多嶋隆氏の「海よ、やすらかに」を読んだ。いつものように、かっこいい女性が主人公だ。ハワイの海洋生物研究所の研究員で、魚類保護官でもある。その妹もかっこいい。いつもながら出来過ぎだ。海よ、やすらかに (角川文庫) [ 喜多嶋 隆 ]しかしいつもと違うのは、社会派の海洋ミステリーに仕立てられたことだ。湘南の海で、大量の魚が死んだ。原因が分からずしかも死に続ける。そこでハワイから呼び戻された主人公は、湘南の海の出身だった。秘密裏に調査する彼女に、危機が迫る。突然襲われ、その後も、後をつけられる。つまり魚の死は自然現象などではなかった。不気味な敵を追う彼女が、ようやくつかんだ尻尾。ところが捕らえられ…と面白かった。「海よ、やすらかに」というタイトルは、海を愛する著者の偽らざる気持ちの表れだろう。
2018年02月18日
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喜多嶋隆氏の小説「二十年かけて君と出会った」を読んだ。いつもの喜多嶋氏らしく、かっこいい男と女が出てきて小気味いい。広告業界出身の喜多嶋氏のホームグランドで、話は進んでいく。二十年かけて君と出会った CFギャング・シリーズ [ 喜多嶋隆 ]タイトルから結末は分かってしまうが、そこまでのストーリーは退屈しない。あり得ないほど失敗しない主人公。普通なら嘘くさくて呆れるほどだが、それが娯楽作品として一級品だと思えてしまう。独創的で好きだ。
2018年02月12日
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「失敗学」で有名な、畑村洋太郎氏の「技術の街道をゆく」を読んだ。技術屋さんは読んだ方がいい。新書で軽く読める。しかも、気づきの多い内容だ。技術の街道をゆく (岩波新書) [ 畑村洋太郎 ]「街道をゆく」というのは、司馬遼太郎氏のシリーズから採ったそうだ。「現地」を訪ね、「現物」に触り、「現場」の人と議論する。「3現」をモットーにした筆者にとって、「ハタムラ版 街道をゆく」というのはピッタリだ。第6章「道なき道をゆく」が特にいい。ベトナムでホンダがイミテーションを抱き込んで、中国車とのシェアを逆転させた話。インドネシアでコマツが、中古市場に出た建設機械を自社で引き取り、分解して組み立て直して販売する話。その中古品の中には、イミテーションで安直な部品が使われており、組み立て直す際、他で真似できない自社の部品を仕込むことによって認められ、政府から税の優遇をも受けている。日本の技術者は、「良い物を作れば売れるハズ」という考え方が染みついている。つまり、「良い物さえ作っていればいい」という考え方にすり替わっていくのだ。「物の世界」に閉じこもっているうちに、人々が「欲しい」と思う製品からどんどん離れてしまう。気づきの本。
2018年02月02日
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伊藤琴子(きんこ)氏の「私のアメリカンライフ」を読んだ。2007年新刊の中古本である。二男と同じ高校を出て(つまり先輩)、名古屋の大学に進学し、アメリカのオハイオ州立大学大学院博士課程を卒業し、アーカンソー大学の社会学教授になった女性である。【中古】 私のアメリカンライフ /伊藤琴子【著】 【中古】afb昭和32年生まれなので、現在は60歳になるだろか。彼女が高校に入学した4月。授業料を納めに職員室に行ったとき、掲示板にアメリカ語学留学のポスターがあったという。7月に、その研修旅行に3週間参加したのが始まりだった。引率した20代の女性添乗員が、キビキビと責任を持って働く姿を見て、「仕事を持って生きる」指針を与えられたと述懐している。大学に入学すると、今度はイリノイ州立大学に1年間、交換留学生として渡米している。卒業後は前述の通りである。社会学の正教授だが、その語り口調が楽しい。堅苦しさとは無縁の様子だ。アメリカでの武者修行が楽しませてくれる。コロラド州ボールダーでは、天皇、皇后両陛下にお会いし、握手までしてもらっている。なかなか握手なんてできるものではない。もちろん、それは選ばれた者としてではなく、ほぼ偶然の産物だ。彼女の行動力に乾杯。中古本だが美品である。今月末、PTA役員会で高校に行くので、図書館に蔵書として置かれてないならば、校長に進呈してこようかと思っている。
2018年01月24日
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タイトルは簡略化したが、正式には「フツ―の主婦が、弱かった青山学院大学陸上競技部の寮母になって箱根駅伝で常連校になるまでを支えた39の言葉」である。原晋監督の妻であり、原晋監督の監督でもある原美穂氏の著書を読んだ。フツーの主婦が、弱かった青山学院大学陸上競技部の寮母になって箱根駅伝で常連校にな [ 原美穂 ]夫婦には子どもはいないようだが、いきなり寮母として、大学生の親代わりとなり、今年の箱根駅伝では4連覇を成し遂げた。原夫婦が子どもと一緒に寮生活をしてきたことと無関係ではない。性格の違う夫婦がお互いを補い合い、さらにそれぞれに違う性格の子どもたちの長所も短所も知り尽くし、試行錯誤してきた結果が実を結んだ。特別なことが書いてあるわけではないけど、日々の生活の中でそれに気づき、実行してきたことが、読む者に納得感を与える。
2018年01月17日
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高田崇史氏の「神の時空(とき)鎌倉の地龍」を読んだ。由比ヶ浜女学院1年生の辻曲摩季が主人公かと思いきや、いきなり元八幡で気を失う。だが、元八幡から移されて、由比ヶ浜で意識不明の重体で発見されるのだ。これがプロローグで、摩季の兄弟や友人によって、その謎が解明されていく。神の時空 鎌倉の地龍 (講談社文庫) [ 高田 崇史 ]舞台は鎌倉の鶴岡八幡宮であり、伊豆修禅寺である。源頼朝や二代将軍・頼家、三代将軍・実朝、北条政子、源範頼らの謎を、次々に解き明かしていくのだった。これが全くのフィクションなのか、それとも、ある程度史実に基づいているのか分からない。しかし、巧妙に綴られている。それにしても鶴岡八幡宮の一の鳥居、二の鳥居が地震で倒れ、三の鳥居までもが火で包まれた。まさに怨霊が、鎌倉の街を襲おうとしていた。どうなるのか? そして、病院で息を引き取った摩季のその後はいかに?実に面白かったが、「鎌倉ものがたり」のような可愛い話ではない。
2017年12月27日
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五嶋りっか氏の「鎌倉ごちそう迷路」を読んだ。表紙はイラストで描かれた、鎌倉坂ノ下の御霊神社前の江ノ電踏切。ご先祖様の鎌倉権五郎景正公を祀る御霊神社。今月参拝したばかりである。鎌倉ごちそう迷路 (スターツ出版文庫) [ 五嶋りっか ]鎌倉で一人暮らしをする潤香は、デザイン会社をリストラされた。職を探すも、いい加減な動機が足枷となり、うまくはいかない。そんな潤香を救ってくれるのが、古民家カフェの「かまくら大仏(おさらぎ)」であり、そのマスターである。さらに、カフェの助っ人、鎌田倉頼(略して鎌倉)であり、その祖母である鎌田久良子である。名前に凝っているが、むしろ名前は普通がいいように思う。物語に入り込みにくいから。冒頭、進捗しない展開に焦れてしまったが、中盤から面白くなった。しかし、進むべき道を見つけた主人公、潤香だったが、そこで終わってしまうのが中途半端な気がする。まだ何者でもないまま終わるのだ。
2017年12月21日
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小川糸氏の「キラキラ共和国」を読んだ。「ツバキ文具店」の続編である。QPちゃんのお父さんと結婚したポッポちゃん。その鎌倉二階堂での生活が綴られている。バーバラ夫人や男爵らとのふれあいより、家族の在り方が中心だ。キラキラ共和国[本/雑誌] / 小川糸/著もちろん、いわくありげな代筆依頼人たちとのやりとりもある。昨日、鎌倉を旅してきたが、ツバキ文具店は実在していない。鶴岡八幡宮から荏柄天神社へ向かう時は、思わず探してしまった。雰囲気のある、小さなお店が点在していた。「ツバキ文具店」はNHKでドラマ化されたが、そのロケ地が上の「八雲神社」である。その隣にあった会館で、先代の葬儀の模様が撮影されたという。小さな神社だが、見た目に趣があった。「キラキラ共和国」が何を意味するのかは、読んでのお楽しみだが、鎌倉で暮してみたくなる本だ。観光客で埋め尽くされて、生活するには不便とも聞くが、そんな暮らしを想像しながら心が温まる。美雪さんとの関わりの納め方が好きである。
2017年12月11日
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西岸良平氏の「鎌倉ものがたり」を読んだ。読んだのは12月に公開される映画「DISTINY 鎌倉ものがたり」の原作ストーリーとなる19編を収録した原作エピソード集(上下巻)だ。鎌倉ものがたり 映画「DESTINY鎌倉ものがたり」原作エピソード集(上) [ 西岸 良平 ]まったくもって奇想天外だなぁ。推理作家、一色正和と妻、亜紀子の鎌倉での生活を描いたコミックだ。魔界や妖怪、人ならざる者たちが行き交う古都・鎌倉。よくも、こんなことを考えつくものだと驚く。そんななかで、一瞬、ホントかいな?と入り込んでしまったのが、鎌倉不動産事情。鎌倉で家を買ったり借りるときは、霊的現象の有無に注意することとある。Dランク物件は、生命の危険があり居住には適さないと。まさかね。(笑)この物語は、下巻の方に出てくる。19編をどうアレンジして、実写映画化しているのだろうか?鎌倉ものがたり 映画「DESTINY鎌倉ものがたり」原作エピソード集(下) [ 西岸 良平 ]
2017年11月19日
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日馬富士関の暴行事件では、横綱の品格が問われている。本当の真相が知りたいところだが、暴行自体は認めているようだ。引退、廃業という今後が予想される。日の名残り (ハヤカワepi文庫) [ カズオ・イシグロ ]執事としての品格を問う小説が、「日の名残り」である。ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ氏の著書だ。本書は英国最高の文学賞、ブッカー賞を受賞している。英国貴族のお屋敷で執事を務める主人公ミスター・スティーブンスが、いまはお屋敷ごと米国人に買われて執事を務めている。主が米国に帰国している間、旅をしなさいと言い渡される。その旅の道中、かつての主との出来事や女中頭とのことを思い起こす。さらに、「偉大なる執事とは」などと考えを巡らせるのだが、そこで品格が問われる。これらの話は、日本人にとって非日常的な世界で、入り込むまで時間がかかる。英国人による、英国人のための小説に思える。巻末に丸谷才一氏が書いているが、ミスター・スティーブンスは、かつての主に畏怖の念を抱いていた。しかし、時代の流れで、貴族への評価が次第に崩れていく。そのいわば公的な悲劇とないまぜにして、彼は私的な悲劇を持つ。去った女中頭との関係を回顧して、自分はもったいぶってばかりで、人間らしく生きることを知らない、つまらぬ男だったという自己省察に到達するのだ。この公私両方の認識の深まり方につきあうのが、「日の名残り」を読むということなのだ。さすがは丸谷才一氏だ。大学受験のころに、よくお目にかかったビッグネームである。
2017年11月15日
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孤狼の血 [ 柚月裕子 ]今日は、愛知県犬山市のホテルでセミナーだった。先月に続き、犬山城を遠くに眺めた。幸い、雨にも降られず、包帯巻の足にビニール袋をかぶせずに済んだ。ここ数年、毎年2回ずつ、このホテルでセミナ―をしている。道中、電車の中では、読みかけの文庫本を読んで過ごした。柚月裕子氏の「孤狼(ころう)の血」である。個人的に読んだのは、「検事の本懐」に続き2作目となった。悪徳警官ガミさんと部下の日岡の物語は、病みつきになる面白さだった。来年映画化され、ガミさんを役所広司氏、日岡を松坂桃李氏が演じる。どんでん返しというのか、読み進めると意表を突く展開にアッと驚く。広島ヤクザに対する警察の立ち振る舞いは、ヤクザの懐に入り込んだガミさんだからこそ、コントロールできたことを痛感させる。持ちつ持たれつだ。そう考えると、この物語を書いた柚月裕子氏もまた、もしかしてヤクザの懐に入り込んでいるのではないかと疑いたくなる。それほどの事情通でなければ、ここまで書けないのではないかと。巻末の解説に書かれているのだが、ガミさんは「粗にして野だが卑ではない」人間として書かれている。だからこそ、ガミさんを想う日岡の気持ちがよく分かるのだ。私個人は、決して仁義なき戦いを好きな人間ではないが、それでも途中から、この物語から目が離せなくなった。
2017年10月20日
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柚月裕子氏の「検事の本懐」を読んだ。文庫本で小説が読みたいと思い立って選んだ本だ。「樹を見る」「罪を押す」「恩を返す」「拳を握る」「本懐を知る」という5つの短編からなる。検事の本懐 (宝島社文庫) [ 柚月裕子 ]どこかで見た物語と途中で気づくが、ドラマ化されていて、それを見ていたんだなぁ。面白くて読みごたえがあった。検事、佐方貞人自身の活躍もいいが、彼が間接的にしか出てこない短編もいい。日がな一日、堪能した。
2017年10月09日
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池井戸潤氏の文庫「アキラとあきら」を読んだ。面白かった。700ページを超える大作だが、二人の「あきら」の小学生時代から始まる。零細工場の息子、山崎瑛(あきら)と大手海運会社の御曹司、階堂彬(あきら)だが、どちらが「アキラ」でどちらが「あきら」なのかは分からない。アキラとあきら (徳間文庫) [ 池井戸潤 ]生まれも育ちも真逆ともいえる二人だが、社長の子供という点は同じである。そんな二人はともに東京大学に進み、メガバンクに就職する。新入社員研修で、同期の中でも頭角を現すのだった。前半は、山崎瑛の物語が中心だが、後半は階堂彬の物語が中心だ。後半、階堂彬による家業、大手海運会社の再生、山崎瑛による救済が見事だが、二人のあきらと敵対する別のメガバンクのやり口が、実に最悪である。実在しそうな雰囲気があるが、果たして。「幼いころの君は、どんな音を聴いていた?幼いころの君は、どんな匂いを嗅いでいた?」この著者の問いかけに、どう答えるか?
2017年07月25日
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先日出席した、愛知県公立高等学校PTA連合会の研修会で知った、木村泰子氏の「『みんなの学校』が教えてくれたこと」を読んだ。「みんなの学校」とは、大阪府立大空小学校のことである。「みんなの学校」が教えてくれたこと 学び合いと育ち合いを見届けた3290日 [ 木村泰子 ]この小学校の校則はただ一つ。「自分がされていやなことは人にしない。言わない」だけだ。そして、様々な個性の子どもたちがともに学び合う。支援学級はない。みな一緒に学ぶ。そして、地域に開かれた学校運営がなされている。テレビでドキュメンタリーとして紹介され、その後、映画化もされた。理想的な学校運営だが、口で言うほど簡単ではない。でも、それを実現しているのだから驚かされる。大空小学校の卒業生たちの将来が見てみたい。
2017年06月23日
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フリーライター杉江松恋氏の「ある日うっかりPTA」を読んだ。金髪、ヒゲ、サングラス姿の彼が、小学校のPTA会長になった。その3年間とその後も少し書かれている。ある日うっかりPTA [ 杉江 松恋 ]読んで思ったのは、小学校のPTAは大変だなぁということだ。私も「うっかり」ではないが、高校のPTA役員を引き受けることになったのが2年前のこと。そもそも、生涯ただの一度もPTA活動に参加してこなかった私が、いまさらPTA役員?と思ったものだ。当初、何度も固辞したのだが、直接訪問され、話しているうちに、「ここで経験しなければ、二度と経験できない」という思いが湧き上がってきた。それが決定打となって引き受けた。この本を読んでいて、小学校のPTAじゃなくてよかったと思う。高校のそれは、活動頻度が少ないからだ。子どもたちのためのボランティアだが、内容もずいぶん違う。彼は様々な改革も行い3年間務め上げた。会長職3年だから、それも可能なのだろう。二男の高校のPTAでは、会長職は1年だけだ。それまでは役員として、活動の経験値を上げていく、いわば訓練生みたいなものだ。たった1年で、改革ができるほど甘くはない。過去の紆余曲折を経て、いまの状態がある。例えば、ある行事をやめるというのは簡単だが、それでは代々の役員の苦労が水の泡である。というわけで、いよいよ会長を務める年が回ってきた。来週行われるPTA総会からが勝負である。すでに、様々な行事について、女性役員とラインで意見交換を行っている。買ったばかりのスマホでライン。重宝している。そう言えば、本のこと、内容にまったく触れていないが、PTA活動、特に小学校のPTAに携わる方は読んでみると面白い。ためになると思う。表紙はいかがわしくも見え、千葉の元保護者会々長の事件を思い出してしまうが、まったく違う話である。
2017年05月11日
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長江俊和氏の「出版禁止」を読んだ。本仮屋ユイカ氏が帯に書いた言葉には「裏切られた!!こんな経験二度としたくない!」とある。心中事件を扱った物語だが、巧妙に仕組まれていて、小説なのか、現実のルポなのかが分からなくなるのだ。正直、万人向けの本ではない。本仮屋氏の意見に同意する。出版禁止 [ 長江 俊和 ]山荘で起こった心中事件は、純愛だったのか、殺人だったのか。少なくとも、心中という行為が、美化されるものではないということがよくわかる。きれいな映像の世界と、現実とは大きく違うのだ。偶然にも、ほぼ同時期に聞き始めた1970年代の赤い鳥の歌声が、あの「あさま山荘事件」のイメージをも呼び起こした。あの頃、街は暗かった。物理的に、街灯が少なかったこともある。高度経済成長にも限界が見え始め、閉塞感みたいなものが漂っていた。というか、光と影のコントラストが色濃く表れていて、いまよりも影が濃かった時代である。個人的には小学生の時代だから、何をもってそう感じるのか分からないが、いまの明るい街と比べるとということだろう。当時のサスペンスドラマで見た「はにう きみえ」という名前が、なぜか蘇った。物語はまったく覚えていないのだが…。読むならば、心して読むべし。
2017年03月30日
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森見登美彦氏の「夜行」を読んだ。森見氏らしいテイストだ。これを森見ワールドと言うのだろう。でも、荒唐無稽と切って捨てるほどではなく、こうした錯覚、いやパラレルワールドというのは、もしかしたらあるのではないか?と思えるほどだった。夜行 [ 森見 登美彦 ]物語の舞台は、尾道、奥飛騨、津軽、天竜峡、そして京都の鞍馬である。タイトルにもなっている「夜行」というのは、岸田道生という作家の銅版画のシリーズのタイトルだ。「夜行ー鞍馬」や「夜行ー尾道」と、その土地土地を描いた銅版画。そこには必ず顔のない女性が描かれている。顔がないというのは、目、口、鼻などのパーツが描かれていないという意味だ。そして、こちらを招くかのように、右手を挙げている。まったくもって、暗いタッチの銅版画らしい。それでも、何故か人をひきつける何かがあるようだ。物語は、鞍馬の火祭から始まる。学生時代に通っていた英会話スクールの仲間たちが、10年ぶりに、鞍馬の火祭を見物に行こうと集まるのだ。貴船川沿いに軒を連ねる一つの宿で、温かい鍋をかこんで賑やかだった。そこで、一人一人が、各地で出合った銅版画「夜行」を物語るのだ。この「夜行」は夜を描いた48作にも上る連作で、それと対をなす「曙光」という連作もあるという。しかし、すでに亡くなっている岸田道生しか、誰も見たことがない。昼夜逆転の生活を送っていた岸田道生。後半に、ぐるぐると世の中が回っていくのだ。まるで、ウルトラQのタイトルかのように。
2017年03月14日
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いま、はじまろうとしていた。今日は朝8時前のJRに乗って、安城市へセミナーに出かけた。春日井駅でたまたま空いている席に座ったら、両隣は受験生。学ランを着て、最後の復習勉強をしていた。その間に座ってしまった。今日は国立大学の前期日程だ。受験生がノートを必死で見返している間に座り、喜多嶋隆氏の「きみがハイヒールをぬいだ日」を読んでいた。喜多嶋作品だから、受験生の刺激になるようなことは、もちろん書いていない。広告代理店に勤めていた女性が辞めて、ヨットで生活をしている話なのだ。業界に嫌気がさして退職したのだが、再び、広告の世界で脚光を浴びるまでを描いている。いつもの通り、前を向いて歩こうと、背中を押してくれる作品だ。きみがハイヒールをぬいだ日【電子書籍】[ 喜多嶋隆 ]お、右隣の彼は大曽根駅で降りた。名古屋大学だろうか。左隣の彼はまだ降りない。鶴舞駅で降りたら名古屋工業大学だな。しかし、鶴舞駅で降りない。私は次の金山駅で降りて東海道線に乗り換えたので、彼の行方は分からない。岐阜大学だろうか。彼らの戦いが、いま、はじまろうとしていた。そして、「きみがハイヒールをぬいだ日」のラストで、主人公たちの夏が、いま、はじまろうとしていた。
2017年02月25日
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喜多嶋隆氏の「恋を、29粒」を読んだ。今日も三重県鈴鹿市へセミナーに行く道中の、近鉄電車の車内が読書室になった。恋を、29粒 [ 喜多嶋隆 ]「人生の断片」(スライス・オブ・ライフ)。人生の中の一瞬をスライスした、切り取った短編集である。様々な恋のきらめきと切なさを写しとった、29本の短編はすがすがしい。個人的には「奇跡のピザ」という短編が好きだ。ワイキキビーチのホテルが舞台で、ハリウッド・スター夫婦の物語。華やかな印象があるがそうではなく、その原点を見つめて再生していく話である。だが、短編には、やはり物足りなさを感じてしまう。次は何を読もうか。
2017年02月20日
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喜多嶋隆氏の「キャット・シッターの君に」を読んだ。6匹の猫と飼い主たちの物語である。葉山マリーナが主人公「中川 芹(せり)」のメインの職場である。猫を取り巻く人間たちの日常や出来事。様々な過去からの再生の物語になっている。個人的には、亡くなってしまった堀さんの物語が好きだ。キャット・シッターの君に。 [ 喜多嶋隆 ]「自分で時間を止めてちゃいけない。思い切って時間を動かしはじめないと、心の傷が、ただの古傷になってくれない」のだ。だけど、巻末に解説を書いている新井素子氏って誰だ。猫、猫、猫って、鬱陶しい。うるさいだけである。今日は今年になって何度目だ?という、三重県東員町で3回セミナーを行った。そろそろ疲労がボディブローのようにきいてきている。そんなときに読んだ解説に、無性に腹が立った。
2017年02月17日
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喜多嶋隆氏の「地図を捨てた彼女たち」を読んだ。やっぱり、喜多嶋作品はいい。あと味がよく、前向きになれる物語だ。地図を捨てた彼女たち [ 喜多嶋隆 ]今日も、朝から三重県鈴鹿市にセミナーで行ったが、最近は近鉄電車が私の図書館になっている。道中で、一気に読み終えた。タイトルの「彼女たち」とは、4人の女性だ。一人は、モデルを目指した女性。他の一人は、成り行きからTシャツのデザイナーになった。また、一人はプロゴルファーを目指し、最後の一人は、ある事故を契機に、とんでもないことに…。そして、いつもの「あとがき」がいい。この4人の物語は、「何かを得るとき、何かを失う」というテーマでつながっていた。「地図」とは、「世間的な常識からいえば、こういう生き方をしていけば、安全確実で、失敗の少ない人生を送れますよ」ということを示した地図である。4人のヒロインは、その地図を捨てて、自分の人生を自分で選びとったという充実感や達成感を得ていく。進むべき道に迷ったとき、彼女たちの選択は勇気を与えてくれるだろう。
2017年02月06日
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喜多嶋隆氏の「鎌倉ビーチ・ボーズ」を読んだ。「ボーイズ」ではなく、「ボーズ」である。坊主だ。三重県桑名市のセミナーへ行く道中の、近鉄電車とJRの車内で一気に読み終えた。28歳の駆け込み寺の坊主が主人公である。いつもの、サバサバ系女子も出てくるが、あくまで脇役としてである。鎌倉ビーチ・ボーズ [ 喜多嶋隆 ]喜多嶋作品は、やっぱり読みやすいし、読んだ後が気持ちがいい。ただ、海がなければ始まらない。今回はサーフィンだった。不良や不倫。そんなさわやか系とは、少し違うテイストでもある。しかし、今回の「あとがき」はつまらない。別に注目されるものでもない「あとがき」が、喜多嶋作品では好きだった。物語の核になる部分が語られるからである。今回はそれが、ちょっと普通でつまらない。
2017年02月03日
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喜多嶋隆氏の「Miss ハーバー・マスター」を読んだ。喜多嶋氏の著書は4作目だが、どれも一気に引き込まれて、まったくはずれがない。Missハーバー・マスター [ 喜多嶋隆 ]ハーバー・マスターとは、ハーバー全体の責任者である。舞台は、湘南にある逗葉マリーナ。そのマスターに就任したのは29歳の女性だった。海辺育ちの彼女は、誰よりも上手に泳ぎ潜ることができる。ヨットやボートの操船がプロレベルだ。海や天気の状況を正確に読むことができる。そして、男勝りの決断力を併せ持つ。マスターと呼ぶにふさわしい。このハーバーに集う、オーナーたちとの出来事が綴られている。だが、個人的には船は苦手だ。船酔いの辛さを知っている。だから、マリーナ自体は門外漢で、近寄りがたい。そんな私でも、その雰囲気を堪能することができた。そして、「あとがき」でも触れられているヘミングウェイの小説『持つと持たぬと』が効いている。持つこと自体に満足する人と、自分が何ができるかに価値を見出す人。マリーナにも2種類の人間がいる。いい物語だった。
2017年02月01日
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喜多嶋隆氏の「かもめ達のホテル」を読んだ。葉山一色海岸にある、「葉山一色ホテル」が舞台だ。そして、ヒロインはホテルのオーナー、美咲である。かもめ達のホテル [ 喜多嶋隆 ]喜多嶋作品は3作目だが、いつも似たような空気が流れている。主人公が若い女性であること。そして、どことなく、イカシタ物語。さらに、「あとがき」が重要であること。「かもめ達のホテル」のあとがきでは、登場人物たちの「なぜ」をまとめている。第1章「たとえ18歳に戻れなくても」に出てきたスクープ・カメラマン時松は、なぜ、最後に、あのような決心をしたのか…。第2章「心の翼が折れたとき」に出てきた挫折しかけたスポーツ選手の小久保は、なぜ挫折しかけ、なぜ立ちなおることができたのか…。第3章「この夏も、いつかは思い出」に出てきた香川真希は、なぜ年下のアメリカ人青年と恋に落ち、なぜ、ラストにあのような決断をしたのか…。そして、第3章で明かされた、オーナー美咲の過去と現在。彼女は、海外逃亡中の恋人を、なぜ信じ切ることができたのか…。その謎を解くのは、読者の皆さん、と語り掛ける。読者それぞれの恋愛観、人生経験によって、読者それぞれのさまざまな結論が導き出されるのだろうと。どこまでも、イカしてるのだ。次は、何を読もうか。
2017年01月25日
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今日は、静岡県浜松市で2回セミナーを行った。その1回目と2回目の間が空くので、喜多嶋隆氏の「みんな孤独だけど」を読んでいた。一気に読んだが、力が出る物語だ。みんな孤独だけど [ 喜多嶋隆 ]4編の短編集で、「前向きな孤独」をまとったヒロインたちのラブストーリーである。自分らしく生きていこうとする彼女たちの物語を読むと、前向きになれるところがいい。特に、4編目の「レンズごしに、好きだと言った」は、その設定に驚いた。葉山の一色海岸にある、企業の保養所が舞台だが、妻が学生時代にバイトしていた先にそっくりなのだ。その企業が、写真フイルムメーカーというところまで同じなのだ。妻の姉が勤めていたメーカ―で、夏休み期間にバイトしていたが、そこは三浦海岸にあった。それを一色海岸に移し替えただけのようなのだ。でも、一色海岸ってどこ?個人的には聞いたことない。私もバイトする妻を訪ねて、その保養所に行ったことがあるのだが、帰宅してから、妻にその保養所がどうなったかを聞いてみた。企業の合併などもあり、保養所がどうなったかは分からないとの答えだった。そりゃ35年も前のことだし、姉も結婚して退職しているから仕方がない。
2017年01月23日
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喜多嶋隆氏の「ペギーの居酒屋」を読んだ。喜多嶋作品は初めてだったが、読みやすく、どんどん引き込まれた。ペギーの居酒屋 [ 喜多嶋 隆 ]葉山に在住する喜多嶋氏は、鎌倉あたりを舞台にすることが多いようだ。今回は、腰越が出てくる。あの江ノ電が、路面電車のように走るところである。主人公のペギーはハワイで生まれ、日本の広告代理店に就職した。なんだか、ご時世だから電通を思い浮かべてしまう。しかし、その広告代理店のやり方に疑問を持ち、退職し、千駄木で居酒屋を始めるといった話だ。喜多嶋氏自身がCFディレクター出身だからか、広告代理店のやり口には、なるほどと思わざるを得ない。ペギーの母は、腰越の出身。サーフィンに夢中になって、家出同然でハワイに行ってしまった。以来、両親とは音信を絶っていた。ところが、ペギーの居酒屋がテレビ番組の居酒屋対決に出演することになり、物語が大きく動くのだった。いい話である。他の本も読んでみよう。
2017年01月19日
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安部龍太郎氏の「家康(一)自立篇」を読んだ。全5巻の1巻目で、全巻完成まで7年構想というから、気が遠くなる。何せ、東京五輪が終わっても、まだ行きつかないのだ。経済の覇者が天下を制す。その観点から、家康の物語が書かれている。家康(1(自立篇)) [ 安部龍太郎 ]物語は、家康が元康と言っていた、19歳のときから始まった。6歳から、尾張の織田、駿河の今川の人質として暮らしてきたが、いつ殺されるかもわからない日々だった。しかし、永禄3年の桶狭間の戦いで、今川義元が信長により討たれると、家康はその混乱に乗じて、本拠地の岡崎へ戻り、今川と決別。信長との清州同盟を組んで、三河から遠江へと領地を広げていったが、その間、信長の妹、お市と一夜をともにする場面は独創的だ。姉川の合戦から2年が過ぎた元亀3年、三方ヶ原の戦いが始まるのだ。武田信玄に敗れ、家康は命からがら浜松城に逃げ帰るしかなかった。1000人以上の家臣を死なせてしまったところまでが描かれている。著者は、この三方ヶ原の戦いからが、家康の本当の天下獲りのはじまりだったかもしれないというのだ。それは2巻以降につながるのだが、先のお市との関係や、祖母の源応院の豊かな乳房や、側室のお万の柔らかい乳房で安堵する姿が描かれていて、家康の人間味を感じさせる。
2017年01月15日
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ラグビー元日本代表ヘッドコーチ、エディー・ジョーンズ氏の「ハードワーク 勝つためのマインド・セッティング」を読み終えた。オーストラリア人の父と、日系アメリカ人の母の間に生まれた彼は、1995年に初来日。そして、2015年のラグビーワールドカップで、「スポーツ史上最大の番狂わせ」を演じたのは記憶に新しい。ハードワーク 勝つためのマインド・セッティング [ エディー・ジョーンズ ]ラグビーのみならず、他のスポーツにおいても、いやビジネスにおいても、役に立つ言葉が散りばめられていた。いくつかをその中から、下記に書き記す。それが本当か噓かは、関係ありません。何度も同じことを聞かされるうち、人は次第に本当だと信じるようになる。単純な繰り返しではなく、言い方を変える。手を替え品を替え、話さなければなりません。欠点は誰にでもあります。しかし、それをネガティブにとらえると、そこで負けは確定してしまいます。要は欠点とは、一つの条件にすぎない。欠点を欠点ととらえるか、ただの条件と考えるかが、勝利や成功への大きな分かれ目になるのです。結局、準備は、自信を持つために行うと言っていいと思います。成功は、十分な準備がもたらす自信が、呼び込むのです。心配ほど無意味なものはありません。心配が何かを変えることはないからです。コントロールできることだけを考える。コントロールできないことは、放っておく。努力を怠って、実力を維持したり、向上させたりできる人などいないのです。
2016年12月19日
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以前に読んだ「江古田ワルツ」の続編である、「江古田ロック」を読んだ。東京都練馬区の江古田にある「ひとつぶの涙」は、日本茶専門の喫茶店だ。ここを舞台に繰り広げられる、5つの物語をまとめた、肩の凝らない文庫本である。江古田ロック [ 鯨統一郎 ]江古田は学生時代を過ごした街で、その思い入れがある。だから、どうしても贔屓目に見てしまうが面白かった。「ひとつぶの涙」のママは、元サイコセラピストで元警視庁プロファイラーを名乗る。その店のバイト仲間と常連客が、一応の事件?を推理をする事件簿という体裁になっている。「おはようヘルペス君」って、フェルプス君だよ。「日本の三大真理といえば?」天地真理、田中真理、芳村真理。田中真理って誰?「三大真希といえば?」堀北真希、後藤真希、宮本真希。宮本真希って誰? と、まあ突っ込みどころ満載で楽しい。
2016年12月02日
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映画化された「この世界の片隅に」のノベライズを読んだ。原作のマンガは、すでに読んでいたが、この脚本なら映画を見てもよさそうだと思った。のん氏が声優を務めていて、良くも悪くも彼女の色が濃く出るので、二の足を踏んでいた。それに、原作を読んで「いい」と思っても、映画化されると上映時間の影響からか、脚本がダメで、ガッカリすることがある。例えば、「夏美のホタル」がそうだった。いい原作なのに、脚本がダメで、公開後はあまり大きな話題にならなかった。夏美のホタル [ 森沢明夫 ]主人公のすずが、人さらいに遭う場面から始まるが、18歳で呉市へ嫁ぎ、戦争に翻弄され、右手を失い、それでも健気に生き抜く様が勇気をくれる。遊郭の少女リンと夫の秘密。それとて、愛おしく思える物語。夫の言葉を思い出すすず。「過ぎたこと、選ばんかった道、みな覚めて終わった夢と変わりやせんな」…この世界の片隅で、わたしたちの生活は続いていく―。
2016年11月20日
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軽く読める小説を、と思って探した「鎌倉不動産のあやかし物件」。なかなか面白く読ませていただいた。もっと、鎌倉の名所の描写が多いとうれしいのだが、東慶寺がメインである。鎌倉不動産のあやかし物件 [ 安東 あや ]鎌倉にある老舗不動産会社の御曹司と、その見合い相手である女子大生の物語。二人に共通することは、霊が見えるということだった。「あやかし物件」とは、まさにその老舗不動産会社が扱う物件の中で、霊の存在が疑われる物件だ。二人がその霊の謎を解いていくのだが、第4章「運命に惑いし者たち」は読みごたえがある。この章では「あやかし物件」ではなく、御曹司の過去が扱われ、女子大生が危機に陥る。こういう展開か、と面白い。鎌倉は古戦場。霊が似合う場所でもある。
2016年10月27日
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とうとう映画を観る前に、文庫本を読み終えてしまった。映画を観に行く時間がないのと、隙間時間についつい読みたくなったからである。東京、千葉、沖縄の3か所で、別々の人間模様があり、繋がっていない。「信じられるかどうか」という意味で繋がり、それが面白かった。怒り(上) [ 吉田修一 ]怒り(下) [ 吉田修一 ]下の写真は、読んだ文庫本なのだが、映画化に合わせて出演者の写真がカバーになっている。しかもその裏には、著者吉田修一氏が映画の撮影現場を訪ねた際の、詳細な訪問記が書かれている。上巻には「千葉編」が、渡辺謙氏を中心に書かれている。下巻には「東京編」が、妻夫木聡氏と綾野剛氏を中心に書かれている。これだけでもお得である。しかし、「怒り」の正体は何だったのだろうか。むしろ「信じる」というタイトルでもよかったのではないだろうか。弱いかな。
2016年09月26日
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今日、映画「怒り」が封切られた。評判は上々のようだ。私も今日、原作の上巻を読み終えたところだ。東京八王子で起こった夫婦殺人事件。その事件現場の壁に、「怒」の血文字が書かれた特異な事件。犯人はすぐに判明するのだが、顔を整形し、逃亡している。なかなか、犯人にたどり着かない。怒り(上) [ 吉田修一 ]千葉、東京、沖縄で、素性のわからない3人の男が現れる。そして、その地で、人々と関わりを持っていく。その中に犯人がいるのかどうか、まだそこまでもたどり着いていないが面白い。映画も必ず観ようと、ネットで映画を観た人の感想を調べた。その中に、こんなものがあった。「原作の上巻だけ読んでから観ると、よりそれぞれの背景がわかって入り込めると思います。映画の後、もう一度上下巻読んで、映画をもう一度観る事をお勧めします。(略)犯人が分からないで観るこの作品のドキドキも味わってみたかったです」と。下巻を読み始めているが、どうしようか。やはり、この人の言うように、上巻を読み終えた今の状況で観た方がいいのだろうか。悩むなぁ。
2016年09月17日
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広島東洋カープがリーグ優勝を決めた。25年ぶりである。優勝セールで広島の街は活気づいているようだ。思えば、原爆を落とした当事者であるアメリカのオバマ大統領が、投下71年目に広島を訪れた。今年は広島の年だ。広島大学は世界トップ100に入れるのか [ 山下柚実 ]「広島大学は世界トップ100に入れるのか」を読んだ。いい大学に思えた。旧帝大でない、地方の国立大学である。だが、広島ゆえに、「平和科目」が必修科目になっているという独自性がある。そして、タイトルにあるように、2014年から文科省がスタートさせた「スーパーグローバル大学創成支援」の「タイプA(トップ型)に選ばれた。東大、京大、北大といった旧帝大、早大、慶大など13校のうちの1校だ。10年後に世界トップ100に入ることを、公に約束したのである。現在は500位台だが、その挑戦はすでに着実に始まっている。論文被引用数では、すでに国内の大学で6位にある。名大、阪大より上なのだ。この本を読むと、広大志望者が増えるのではないだろうか。経営陣、教授、みな大学全体が本気になっている。目指すべき目標を共有して、一丸となっているのだ。
2016年09月11日
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リオ五輪の競泳、金藤理絵選手の金メダルに感動する。金メダル後に聞いたエピソードに泣けるのだ。姉の結婚披露宴でのビデオの件だ。約5分の映像が終わると、父からかけられた金メダル。その裏には、母からの言葉が添えられていた。「上には上がいる。それでもきっと上を向くひまわりのように。いつも見守っています」と。ビビリ [ Hiro ]そして、金メダル受賞後に、何度も感謝を口にした加藤コーチ。つい引退の2文字を口にしてしまう度に、「応援してもらえる環境があるのになぜやめるのか。周りは理絵のことを考えている。自分のことしか考えられない人間になるな」と奮起を促されたのだ。メダリストがみな口にする「感謝」や「恩返し」。これらの言葉は、人を強くする。そんなことを書いているのが、EXILE HIRO氏である。「ビビリ」という著書が文庫化されたので、それを読み終えたところだった。「僕も自分がいちばん食えなかったときに面倒を見てもらった人に、ずっと恩返しがしたいと思って頑張ってきた。恩返しをしたいという気持ちは、苦しいときに自分を奮い立たせる目標になる。その恩をどれだけ返せたかはわからないけれど、ちょっとでも恩を返せたと思った時には、なんとも言えない達成感を味わった。自分がようやく一人前の人間になれたような気がした。恩返しには、恩を返すことによって、自分の成長を確認するという意味もある。恩を返そう」と。音楽グループEXILEのリーダー兼プロデューサー。事務所の社長でもある彼の、口述筆記と思われる著作だが、「親のモノサシ。」や「スケジュール命。」「よい自分と、悪い自分のバランス。」など、その他の項目でも、いい話を語っている。それはまた、別の機会に。
2016年08月12日
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森沢明夫氏の「夏美のホタル」を読み終えた。やっぱり、森沢氏の小説は好きだ。三つの恩恵の話であり、ありがとうの物語でもあり、私にとってはかけがえのないと言える物語だった。映画化したくなる気持ちが、よくわかる。夏美のホタル [ 森沢明夫 ]価格:691円(税込、送料無料)読み終えて、いま心に残っている言葉が「錯覚」と「覚悟」の2つである。「錯覚」はP150から続く、月が大きく見えたり、小さく見えたりするという、車内での夏美と慎吾の会話に出てくる。月が低い位置にあるとき、ビルの影や山や木々などの比較対象物が月の近くとあると、目の錯覚で大きく見える。そんな2人の会話から、「人間ってのは、何かと何かを比べたときに、いつも錯覚を起こすんだって。だから、自分と他人をあまり比べない方がいいって」「他人と比べちゃうとさ、自分に足りないものばかりに目がいっちゃって、満ち足りているもののことを忘れちゃうんだってさ。俺さ、それって、すごくわかる気がするんだよな」って、夏美に言うのだ。「覚悟」はP296から始まる、仏師の雲月と慎吾の会話に出てくる。仏像を彫って欲しいと頼んだ慎吾に、写真誌のアマチュア部門の賞で得た10万円では足りない。そのとき、慎吾は出世払いでお願いする。それを聞いた雲月は「出世、できんのかよ」と聞く。自分の才能がどこまでのものかも分からず、口籠る慎吾に、「才能ってのはな、覚悟のことだ」「どんなに器用な人間でもな、成し遂げる前にあきらめちまったら、そいつには才能がなかったってことになる。でもな、最初に本気で肚をくくって、命を懸ける覚悟を決めて、成し遂げるまで死に物狂いでやり抜いた奴だけが、後々になって天才って呼ばれてるんだぜ」と言って、にやりと笑うのだった。そして別れ際、ひとつ、いいことを教えてやると言う。「神は細部に宿る。だから、爪の先ほどでも妥協はするな」と。ここのところ、不思議とよく出てくる言葉だ。「神は細部に宿る」
2016年05月08日
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小川糸氏の「ツバキ文具店」を読み終えた。鎌倉にある代書屋さんの話である。店主はポッポちゃん。本名は雨宮鳩子で、鶴岡八幡宮の鳩が由来だが、ハトポッポからポッポちゃんと呼ばれている。表向きは文具店である「ツバキ文具店」は、副業で代書屋を営み、彼女はその11代目である。先代の祖母のあとを継いだが、厳しい祖母とは思春期にいろいろあった。複雑な家庭だが、いまは一軒家である「ツバキ文具店」の2階に、一人暮らしをしている。お隣さんのバーバラ婦人や、いわくありげな依頼人たちとの出来事が綴られている。マダムカルピスとか、こけしちゃんとか、小学校のパンティー先生とか、QPちゃんとか、登場人物のニックネームが楽しい。代書屋ゆえ、用紙、筆記具、書式など、物書きの記述が興味深いし、四季折々の鎌倉の風物詩も記されている。夏から始まる章立ては春で終わるが、鎌倉の四季が、そしてツバキ文具店の日常が、未来へつながっていく感じの後味がいい。鎌倉宮の近く、二階堂川のあたりにあるという「ツバキ文具店」。こんど鎌倉に行ったら、思わず探して訪ねてみたくなった。ツバキ文具店 [ 小川糸 ]価格:1512円(税込、送料無料)
2016年05月04日
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野村克也氏と宮本慎也氏による共著「師弟」を読んだ。帯には、「仕事がわかる。野球がわかる。そして人生がわかる。」とあるが、まったくその通りである。師弟 [ 野村克也 ]価格:1404円(税込、送料無料)野村克也氏はたくさん本を出しておられるが、読んだのは初めてだ。さすがだ、と感心することしきりである。1章ごと、野村氏が書き、宮本氏が書くという構成になっていて、まさに師弟共著である。高校球児の二男にコピーして渡したのが、第2章「頭脳は無限」で野村氏が書いている「とは理論」のところである。数ページのコピーなら、すぐ読めるだろう。そこには、こんなことが書かれている。素人に「野球とは?」と聞かれたら、なんと答えるか。ベテラン選手に聞いたら、何も言葉が返ってこない。だが、宮本慎也氏は「頭のスポーツです」と即答したというのだ。野村氏にとって、目の中に入れても痛くない、無二の弟子に違いない。コピーしたところには、こんな言葉が…技術に限界はあるが、頭脳は無限だ。頭を使わない手はない。野球やソフトボールは、「守備」側がボールを持している。主導権は攻撃側ではなく、守備側にある。攻めているのはピッチャーだけだ。スライダーは便利な球種。しかし勝負所を間違えるとカモになる。便利は弱い。これも勝負における減速のひとつだ。考える心というやつ、もともと4分の1は知恵で、残り4分の3は臆病に過ぎない。考えを深めることは戦いであり、とても勇気がいることだ。「備える」とは勇気の結晶だとも言える。そして、野球の試合で、特に二男に伝えたかったのは…何でもかんでも初球から行くことが積極性ではない。待つことも積極性であり、勇気なのだ。
2016年04月21日
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PTA役員に勧められて読んだ本「アイドル受験戦記」を読み終えた。副題がすべてを語る。「SKE48をやめた私が数学0点から偏差値69の国立大学に入るまで」である。著者は菅なな子氏だ。アイドル受験戦記 SKE48をやめた私が数学0点から偏差値69の国立大学に入るまで [ 菅なな子 ]価格:1296円(税込、送料無料)個人的にはSKE48どころか、AKB48ですら知識的にはままならない。感覚的にしか分からない世界だが、名古屋栄を拠点にするSKE48のメンバーだった菅氏は、中学3年の時オーデションに合格し、メンバーとなった。中京大中京高校に進学したが、芸能活動でとても勉強どころではなかったようだ。メンバー内での地位をとんとん拍子に上げ、マスコミでの露出も増えていった。しかし、高2のときに方向転換する。足を洗って、大学受験に挑むことにしたのだった。ここまでが前半に書かれている。後半こそが受験戦記で、名古屋大学経済学部に現役合格するまでの険しい道程が書かれている。あの「ビリギャル」にも似て、家族、予備校の先生、友だちたちの支えで乗り切るのだった。受験生となれば、スマホを捨てることはやはり必要のようだ。個人的には、ガラケー利用者でLINEもしていない。だから、実感がわかないのだが、グループLINEは必要のないメッセージがどんどん飛び込んでくるという。それに全くリアクションしないわけにもいかず、結果的に、集中力を削ぎ、時間を無駄にしてしまうのだという。二男を見ていても、スマホ中毒に近い。手放せないようだ。電車の中でも、みんなスマホを覗いている。ニュースを読むこともあるだろうが、ゲームをしたり、LINEをしたり、暇つぶしである。しかし、目を悪くしたり、肩凝りを誘発したり、あまりいいことはないように見える。「ビリギャル」の2匹目のどじょう、という感は否めない。ただ、ビリギャルの著者は塾講師、本作の著者は受験生本人というところが大きく違う。菅氏の通った塾は東進ハイスクール。あの「今でしょ!」で有名になった林修氏のところ。今の彼女は名大2年生で、公認会計士試験合格を目指している。ガンバレ!
2016年04月17日
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