売り場に学ぼう by 太田伸之

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Nobuyuki Ota

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2025.11.14
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カテゴリ: ファッション




先月の毎日ファッション大賞授賞式で早稲田大学繊維研究会の学生さんらと立ち話、機会があったら皆さんとお話しする場を作りましょうということに。幹事役の杉田美侑さん(早稲田大学)のほかは明治、青山学院、獨協など他の大学に通っている学生さんでした。この学校の枠を超えた集まり、自分が大学時代に作った学生ファッションマーケティング集団F.I.U.と同じ、だから懐かしさがこみ上げ午後11時半までお付き合いしました。

明治大学3年生のとき、明治の大先輩で有名アパレル企業の顧問もされていたN先生から、「キミを最後の鞄持ちにしてあげる。私についてきて(顧問先企業の)企画、生産、営業など一通り全部経験してはどうだ」というお話がありました。オヤジの考えで大学卒業したらロンドンのサビルローに紳士服修行に行くつもりだったので、学生時代に一通り経験できるのはありがたい、と最初は思いました。

この業界重鎮N先生の提案を当時服飾評論家の第一人者星野醍醐郎先生に話したら、ガツンと叱られました。「学生は学生らしくファッションを真面目に勉強してください。仕事は卒業してからいくらでもできるじゃないですか」と猛反対。N先生のお話はありがたいけれど、私は星野先生の言葉を真摯に受け止めN先生にお断りました。





そして週に一度程度みんなで集まって意見交換、時には星野先生や男子専科編集長志村敏さんらをゲストスピーカーにお願いしていろんなことを教えていただきました。ファッションのことというよりも主にものの見方、多面的に物事を見ることが重要と教わりました。

そうこうするうちに大手繊維会社ユニチカ(東京五輪女子バレーボール金メダルのニチボー貝塚などが合併した会社)から依頼があってF.I.U.は若者マーケティング調査で協力することに。年に数回分厚いアンケート用紙に答えてもらい、数百部の回答をユニチカの大型コンピューターに入力、出力データを受け取ってこちらが原稿化、まるで大手広告代理店マーケティング部のような作業でした。

調査結果の半分は社内企画開発用の資料にマル秘、あとの半分は広報を通じて業界に対してマーケットの変化予測を発表。主宰者の私はマーケティング部責任者と共に年に数回合同記者会見、さらに切り口を変えた原稿をいろんなメディアに寄稿しました。業界新聞に寄せた原稿「ポストデニムはブルーデニム」には大手ジーンズメーカーが広告出稿してくれ、新聞社から大変喜ばれたこともありました。

この頃、私は米国業界からの情報としてマーチャンダイジングという仕事がある、その片鱗はハワイ州ホノルル郊外のショッピングセンターでも体感できると知り、オヤジの同業テーラー業界でマーチャンダイジングやマーケティングを指導している方のハワイ研修ツアーにF.I.U.の仲間と一緒に参加、連日ショッピングモールを視察しました。これがわが人生の大きなターニングポイントになったのです。


修業に行くはずだったサビルロウ

家業テーラーを継がせるため息子のロンドン修行を計画していたオヤジは学生時代に2回ヨーロッパ視察に出してくれ、パリやロンドンの有名店を視察する機会がありました。中には昭和天皇が注文したサビルローの老舗テーラーで天皇個人の型紙を見せてもらったこともありました。これはこれで貴重な経験でした。

しかしながら、ホノルル郊外のショッピングモールのダイナミックな商品陳列は強烈なインパクト、私の気持ちは卒業後ロンドン修行ではなくニューヨークでマーチャンダイジングを修得したいにガラリ変わってしまいました。

パリ、ミラノ、ロンドンで目にした商品は洋服といいバッグ、シューズといいホンモノ高級品、ファッショナブルで十分魅力的でした。一方ホノルルのモール内大型店に並ぶのはリーズナブルな化合繊スーツ、合成皮革のバッグや靴は一般大衆向け、ファッショナブルではありませんがその陳列のダイナミズムに惚れ惚れ、ロンドン修行はやめようかなと考えるようになったのです。

そして大学卒業直前、メディアからいただく原稿料で思い切ってニューヨーク視察を計画、建国200年に沸くニューヨークに出かけました。この視察のあと業界新聞に15回連載「ブルーミングデールズの周辺」を寄稿、業界でちょっとした話題になったのです。当時三越本店次長・広報部長(のちにプランタン百貨店社長やプロ野球ダイエーホークス球団社長)から「この記事を書いた記者と会いたい」と編集部に連絡あり、私は学生ということを隠して若手記者のような顔をして面会、ニューヨーク事情をお話する場面もありました。


エキサイティングな百貨店だったブルーミングデールズ

もうこのとき私はロンドン修行に出かける気持ちは完全に失せ、家業テーラーを継承せずに卒業したらニューヨークに渡ってマーチャンダイジングを理論でなく身体で覚え、将来はマーチャンダイジングで食っていこうと決めていました。この頃すでにたくさん原稿を書いていたのでニューチョークでは執筆で生計を立て、マーチャンダイジングを修得したら帰国という人生プランを描きました。

オヤジの構想を蹴ってニューヨークに渡り、帰国してずっとマーチャンダイジングを指導してきた原点は学生サークルF.I.U.の活動だったのです。

大先輩からいろんな教えをいただき成長した私、今度は私が後進を育てる番、それが私塾「月曜会」を開講になり、それを事例にI.F.I.ビジネススクール設立に奔走した理由です。昨日の学生さんたちとの居酒屋交流(その前段は喫茶店会議室で2時間お話)も大先輩たちにから受けた恩恵に応えるためでした。

もちろんこれまでも多くの若者を指導してきました。毎週講座を担当したファッション専門学校は数校、I.F.I.ビジネススクールではコースディレクターとして後進指導、一般大学の特別講義もたくさん担当。勤務したブランド企業や百貨店では毎週若手社員に売り場の見方やマーチャンダイジングを教えてきましたから、若者に教えることは大袈裟に言えばわがライフワークなんです。

昨日長時間付き合ってくれた学生さんたち、いずれ日本のファッション業界を背負ってくれることを期待しています。みなさん、頑張ってください。





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Last updated  2025.11.15 18:21:08
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