売り場に学ぼう by 太田伸之

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Nobuyuki Ota

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2025.11.15
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カテゴリ: ファッション
​​1970年代ファッションの主役がそれまでの一部富裕層向けオートクチュールから一般人でも頑張ればなんとか手が届くプレタポルテに移って以来、ファッションの新しい解釈やブランドが発信する新しいスタイルを伝えてくれたのは世界各地にあった流行先取りファッション専門店、いまで言うセレクトショップでした。

パリ、ミラノ、ロンドン、ニューヨークなどデザイナーコレクション発表拠点やボストン、ロサンゼルス、シカゴなど米国主要大都市には規模の大小はあったものの革新的コレクションブランドや面白い新進デザイナー商品を多数扱うショップが必ず存在し、知名度のない新ブランドを目の肥えたお客様に紹介していました。


BARNEY'S NEW YORK7番街本店(1981年当時)

私が過ごしたマンハッタンには、大型婦人服専門店で新人デザイナー発掘と育成に定評あったインキュベートストアHENRI BENDELをはじめ、元々はボリューム紳士服店だったBARNEY'S NEW YORK(ジョルジオアルマーニを最初に米国独占販売)、その宿敵で小型ショップをアッパーウエスト地区に数軒開いていたCHARIVARI、個性の強い女性ブランドばかり扱っていたDIANE BやIF、アクの強いメンズブランドを集積していたCAMOUFLAGEなど、ウインドーショッピングだけでも十分楽しめるお店がたくさんありました。

同時期高級ブランド商品を揃える百貨店も強い個性のデザイナーブランド商品の扱いをシーズン追うごとに増やし、ショップ・イン・ショップ形式の小型ブティックを館内にどんどん増設。NEIMAN MARCUS(傘下にBERGDORF GOODMAN)、SAKS FIFTH AVENUEやBLOOMINGDALE'Sのみならず、ボリュームイメージの強かったMACY'Sや顧客満足経営のNORDSTROMまでもがアバンギャルド系ブランドを集積するセレクトコーナーを設置するようになりました。

ところが百貨店内ブランドショップの大型化、個々のブランド直営店の路面あるいはショッピングモール出店の急増もあってか、ファッション市場を牽引してきた革新的セレクトショップは残念ながら次々と姿を消しました。新しいブランドを消費者に繋いだ前述ニューヨークのセレクトショップのほとんどは生き残っていません。またその後ミートマーケット地区再開発に先鞭をつけたジェフリーでさえ大手百貨店傘下に入ってのち結局は閉店しました。

この流れはパリ、ロンドンなど米国以外でも同じ。世界各国からのパリコレ出張者にとって必見ショップとも言うべきコレットもすごく流行っていたものの残念ながら閉店してしまいました。

たくさんのブランドを集積するセレクトショップのバイヤーや百貨店セレクトゾーン担当バイヤーの目に留まれば、資金力のない経験の浅いデザイナーブランドだって店頭に商品を出してもらえました。が、こうしたセレクトショップが姿を消すと(ネット通販を除いて)短期間ポップアップ展開または自前で直営店舗を構えるしか道はありません。だからプレタポルテ黎明期に比べると近年の新進デザイナーは厳しい業界環境と言わざるを得ません。



刺激をもらえるセレクトショップが世界各都市で姿を消している中、次世代デザイナーのインキュベーションを担い、トンがったデザイナー商品を意欲的に導入しているショップの最右翼はDOVER STREET MARKET(以下DSM)ではないでしょうか。あくまで個人的見解ですが、いま服屋さんで最も面白い店はコムデギャルソンが運営するこの大型店。銀座店は売り場面積もたっぷり、とにかくお店に足を踏み入れると欲しいものがいっぱいあって目移りします。

かつてBARNEY'S NEW YORKが7番街西17丁目で1店舗のみ営業していた1980年代前半、店内に足を踏み入れると欲しいものが各フロアにいっぱいでワクワク、自分で支出をセーブしないとすぐクレジットカード難民になりそうでした。

また、BARNEY'Sの靴バイヤーが独立して故郷ジョージア州アトランタに開店したのちニューヨークのミートマーケット地区(当時はファッションストアは1店もない肉卸売りの市場のような区画)に大型セレクトを開いたJEFFREYも同じ、バッグ、靴、ニット、コート、ジャケットなど目移りしっぱなし、ショッピングが楽しくて興奮したものです。

こうした来店客にワクワク興奮を与える品揃えと店の構成、これが本来のセレクトショップの役割だったと思いますが、いまそんな刺激を与えてくれる店はほとんどなくなり唯一無二の存在がDSMだと思います。





世界を見回しても、クリエーションするブランドデザイナーには必ずクリエーションを受け止めてビジネス化するマネジメント人間がパートナーーとして存在します。古くはイヴサンローラン、ケンゾー、ジャンポールゴルティエ、カルバンクライン、ダナキャランなど、有能なビジネスパートナーが傍らにいてデザイナーを守り、その存在は業界内で有名でした。これがごく普通のブランドビジネスの姿、しかしコムデギャルソンは特例なんです。

今日DSMギンザに立ち寄りました、土曜日の昼下がりですから買い物客でいっぱい、特に海外からのお客様が半端なく多かった。私はここのスニーカーのチョイスが好きで新しいスニーカーを探しに行ったのですが、服に目移り、あれもこれも欲しくなりました。

もう40年以上コムデギャルソンを愛用しているのでコムデギャルソン系に目移りするのは当然なんでしょうが、DSMがセレクトしたコムデギャルソン以外のブランドの商品にも気になるものがたくさんありました。もしここに長時間滞在したら翌月のクレジットカード支払いはとんでもない金額になってしまうでしょうね。

ブランド服は「必需品」ではありません。なくても生活に困ることはないでしょう。が、新しいクリエーションやニュアンスがほかと違う刺激的な服に出会うとどうしても買いたくなる、自分の手のうちに入れたら幸せになる「必欲品」なんです。これをいろんなブランドから集め、より魅力的に編集し、カッコよく陳列して買い物客の欲求を満たすのが本来セレクトショップの存在意義。

今日1点私の必欲品を見つけ、改めてワクワクするショッピングを実感しました。DSMギンザはやっぱり楽しい大型セレクトショップ。これが本来のファッションビジネスです。





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Last updated  2025.11.15 19:49:06
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