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最初にお会いした日、本屋で『五輪書』を買い、隅々まで読みました」と岩見さんは話す。
その手には、その時購入した「五輪書」が握られている。ぼろぼろになったその本を見ながら「目次は自分で作ったんですよ、懐かしいなぁ」と目を細める岩見さん。師匠である今井さんから、何を質問されても答えられるように、細かな目次が本の最初のページに貼り付けられている。その教えを忠実に守り"くってくってくりぬいた"岩見さんの「五輪書」だ。
「剣術とは殺し合いの為の兵法です。稽古を通して人間形成する。それが兵法二天一流。『五輪書』には現代に、生きている人間の生活に通じることが書かれています」と岩見さんは話す。難しい稽古の先にあるのは"流祖武蔵先生にであうこと"そのためには、"十代宗家を守ること"が武蔵に出会う近道だと岩見さんは考えた。
「私は十代に叱られて叱られて叱られ切ったと思っています。叱られても自暴自棄になったり、先生に対して怒ったりはしませんでした。兵法二天一流を自分の物にするためには、先生の言葉を素直に聞けた。今井先生は怒ることにかけては天下一品でした。素直に怒られたことで、先生との間に信頼関係が築けたのだと思っています」。十代宗家今井さんの厳しい指導と岩見さんのたゆまぬ努力と稽古は続き、やがて今井さんの相手、仕太刀(しだち)を任されるようになった。
そして、岩見さんへ第十一代が相伝されることになる。相伝式は、小倉城公園に建立された宮本武蔵顕彰碑「誠心直道之碑」の前で行なわれた。この碑の建立には、多くの人たちの協力があった。
兵法二天一流の正統第十一代宗家岩見利男玄勝(はるかつ)さんは「武蔵先生が書いた『五輪書』は兵法であるけれど、人間形成の道である」と語る。「仏法書と同じだと思います。今の教育や経済に足りないものが武蔵先生の『五輪書』を読むことで何か方向性が見つかるのではないかと思います。"兵法とは利方への道である"という事が書かれています。