浪人じだい

浪人じだい
寒い午後 東京タワーの夏


寒い午後


  人が好きだ 人が好きだ

  憎んだり 悲しがったり 強がったり

  そんな弱い弱い人間が大好きだ

  繊細で複雑なこころ

  小さな風ですぐに崩れる人



  人を好きになることが、

  生き物の本能に基づくなら

  心の複雑さも 知性の高さも 単純に

  愛が源にあるのだろうか       



東京タワーの夏 ’96.8.8

  東京タワーの見えるビル13階

  毎日せっせとペンを動かしていた

  タワーと一緒におびただしい数のビル、ビル、ビル

  たまに飛んで行く大きな飛行機を見るのが嬉しかった



  その日は少し曇り空

  灰色がかったタワーの前で

  問題集のページをめくった

  吹きすさぶクーラーの中で

  ガラス越しの真夏の太陽は

  自分とはまるで関係の無いようにみえた

  目の前に広がるビル郡とも

  まるで関係の無いように思われた

  道はただひとつ

  あのタワーだけのようだった

  てっぺんの尖った先にだけ

  吸いこまれていくようだった




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