オレンジ・ピール・フランベの部屋

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2010.05.14
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カテゴリ: カテゴリ未分類
典子「お水ですね」
   典子がショルダーの中からペットボトルの水を出す。
典子「はい、これ。熊本の美味しい水。私、今でも熊本の広報大使ですから。夫を議会に送った後、都庁に広報に行く予定だったんです」
真美「助かります。良かった」
裕太「ママー、おしっこ」
典子「えっつ、おしっこ?まぁ、どうしよう」
   典子が困った様子を見ていた真美が、思い出した顔をする。ごそごそとキャリーバッグのパケットを探る。
真美「これ・・・、台風、来てたでしょ。もし雨が強いようだったら、キャリーに被せて
引くしかないと思って・・・こんな量の重いパン持ち上げて歩くのは大変ですしね」

典子「まぁ、台風対策万全!」
真美「さぁ、裕太ちゃん、この中にして」
真美が袋を二重にして広げ、典子と袋の口を持つ。裕太が用を足し、袋の口を縛った。3人のそんな様子を見ながら、考え込む顔つきの章之が、口重く、つぶやくように言う。
章之「さっきのが地震なら、マグニチュード幾つぐらいだったんだろう・・・直下型?震源地は・・・長周期振動?吊り下げられた状態じゃ解からない。余震はまだないが、もしかして、地盤がゲル化したら・・・」
   そして、やや大きめな声で
章之「ここに長くいるのは危険かもしれない。助けがいつ来るか分からない。いや、助けが来る確証もない。静か過ぎやしないか?」
その場の重い空気に反応して、裕太が大声で泣き出す。典子がいくらあやしても泣き止まない。章之が抱き上げても、章之の不安が裕太に感染する。
真美「あれから、何時間たったかしら。可哀そうに・・・恐いのよね。こんなに泣いて、体力を消耗するのは裕太ちゃんの為に良くないわ」
   真美がバッグのポケットから折だたみ傘と薬を出し、昼用と印刷された小袋の薬を、傘の先で叩き砕く。その時、ぎしいいっつ、という音が天上から響く。
章之「やはり、ワイヤーかもしれない・・・」
真美「これ、軽い安定剤なんです。私は昼2条服用しています。砕いて極少量にしました。裕太ちゃん、少し休ませてあげた方が、いいかもしれない」

典子「そうですね。ありがとうございます」
   典子がチョコデニッシュに薬をはさみ、裕太に与える。
典子「はい、裕太。あーん」
   裕太、涙で、しゃくりあげながらも
裕太「おいしい」

真美「佐藤さんも召し上がってください。貴方は唯一の男性だから、もしもの時は体力を使って頂かなきゃなりません」
   真美、パンを選び、章之に渡す。
真美「クリームチーズが入ってます。体力付けてください」
章之「ありがとうございます」
   章之、考える顔つきで黙々とパンを口に運ぶ。真美と典子も、メイプルパンを黙って食べる。章之が、食べ終わるとエレベーターの床に敷いてあるカーペットの隅をめくって見ている。床に引き手を見つける。
章之「やっぱりだ。ここからエレベーターの外壁面にあるポールはしごに出られるんだ。ここがライトの表示どおり、2階なら、3階まで1階分登れば、ホテルの旧館の出口に繋がる。ここは静かだ。全く人の気配がない。外まで行って助けを呼ばなければ」
典子「でも、あなた、もし足を滑らせでもしたら、地下まで落ちてしまうわ」
章之「大丈夫だよ。慎重に上るから。状況が分からないんだ。電波が通じないのも気がかりだ。何かが起きている。一刻も早く助けを呼ばなければ」
真美「気をつけてください。無理をしないで。もし、地盤が液状化してるなら、より高い方へ出た方がいいと思います。神楽坂の方へ」
章之「解かりました。必ず助けを呼んできます」
   章之が靴と靴下を脱ぎ、ビジネスバッグから風呂敷を出し、包むようにして肩掛けに背負う。
典子「あなた、3階の出口に出られたら、声を掛けて。お願い、落ちないで」
章之「大丈夫だよ」
   章之が、眠っている裕太のおでこにキスをし、床の下を覗く。
章之「3階のエレベーターのドアは開いている」
   真下は地下の底が見える。章之は床に手を掛けポールはしごに足をからげる。そして一気に腹筋を使い、頭を床からくぐらせ、手をポールに持ち替える。慎重に3階へと向かう。
章之「おーい、典子。3階に出たぞ!誰もいない!真美さん、旧館から神楽坂方面に向かいます」
典子「あなた、気を付けてぇー」
真美「無理をしないでぇ」
章之「必ず助けを呼んでくるぞぉ!」
   真美と典子、床を閉めカーペットを元に戻す。と、その時、また、ぎぎぎいいいっつ、っと不気味な音がする。そして、パキッツパキパキッツっと、金属音が天上から一際大きく響いた。真美、早口で、
真美「章之さんの言うとおり、さっきの地震でワイヤーに無理な負荷が掛かったんだと思うわ。典子さん、パンがクッションになるわ。私のバッグの上に裕太ちゃんを乗せて、体の右側を下にして、私達も同じ体制を。頭を抱えて、早く!」
   真美が一気に言い上げる最中、典子は裕太をバッグの上に言われたように猫のように丸く寝かせ、二人が体制を整える。その直後。ピシイッツと、音がし、落下の感覚と、跳ね返る衝撃。激しい音と共に体が叩き付けられる。
                                   (FO)
真美、裕太の鳴き声で目覚める。真っ暗な中、自分の体をあちこち擦り、無事を確かめる。真美が動く物音に反応する典子。
典子「真美さん、良かった。気が付いたんですね。・・・裕太が暗闇を恐がって・・・」
真美「典子さん、無事ですか?」
典子「はい。打撲はしてますが、大丈夫です。奇跡ですね。地下二階まで4階分も落ちたのに」
真美「ワイヤーがバウンドして、衝撃が和らいだのかも・・・。いい物持ってるの思い出した」
   真美が、手探りでバッグのポケットを探す。
真美「私が喫煙者で良かった。それと、昨日アジア料理の店で貰った、これ」
   暗闇でライターが点き、点燈されたのは、ハート型のアロマキャンドル。
典子「まぁ!ほら、裕太、見て。きれいよ。暗くないよ。恐くないよー」
   炎を見つめながら、裕太が泣き止むまで、あやす典子。その後、静寂が訪れる。炎を見つめ、考え込む顔の真美。
真美「典子さん、息苦しくない?」
典子「そう言えば、少し。体の痛みのせいだと思ってました」
真美「違うみたい。酸欠かもしれない。昨日の晩、香りを試した時より、炎が、ずっと小さいの。あれから、どの位経った?」
典子「6時間位かしら。裕太が恐がるから携帯を明かりがわりにしてたら、電池切れちゃって」
真美「私の腕時計も壊れちゃった。でも、きっと、もう朝頃よね」
典子「夫が、きっと助けを」
真美「そうね。きっと助けは来る」
   と、その時、僅かに人の声が聞こえる。真美が、床に耳を当てる。
真美「典子さん、聞こえる?」
典子「ええ、下から。下に人がいるみたい。ここは地下の最下階じゃないの?」
真美「そうだと思うけど・・・」
   その時、下を通り過ぎていく微かな怒鳴り声がする。
声A「報復だ。たとえ同盟国の手違いだとしても、報復なしで、この国の権威が保てるもんか!」
真美「確かに、この下を人が通りすぎてる。この下に地下道でもあるみたい・・・」
典子「何が起こってるの・・・」
真美「・・・・・」
   その時、エレベーターのドアが開かれた。
レスキューA「レスキュー隊です。大丈夫ですか?」
   レスキュー隊が皆、宇宙服のような物を着ている。
レスキューA「おい、測定器を!」
レスキューB「ここは汚染されていません」
レスキューC「これを着てください。外に出ます」
   二人は訳も解からないまま、言われるまま宇宙服のような服を着る。レスキュー隊は、裕太を特殊な袋に入れる。嚢に入った裕太を抱くレスキューB.再び裕太が泣き始める。
レスキューA「旧館の前にヘリを止めてあります。これから、汚染外地域の病院まで、お送りします」
○ホテル旧館前
裕太をなだめながら、ヘリに乗る典子と真美。飛び立つヘリ。
○ヘリの中
高くなるにつれ、周りの風景が視界に広がる。あるべき所にあるべき物がない。国会議事堂、見慣れた四角錐の屋根を持つ石造りの建物がない。僅か何百メートルかの範囲にすっぱりと穴が開いている。
ヘリの操縦士「北朝鮮じゃないんですよ。あれ程、局所的な小型核兵器は、かなりの先進国しか持ち得ない。憲法九条を声高にしていた社主党ですら、民声党の野沢さんに同調して、報復案を言ってるらしいですよ。ほんとに戦争やっちゃう気ですかねぇ」
   真美も典子も言っている意味が解からない顔。
典子「私の夫は、私の夫は、どこにいるんですか!?何が起こったんですか!?」
ヘリの操縦士「ああ、自明党の佐藤さんの奥さんですよね。大丈夫ですよ。神楽坂に向かって地上に出たのが幸いでした。風向きも良かった。汚染されず救出されましたよ。ご主人から聞いて、それで、我々が救助に来たんです。ご主人は今、自明党の生き延びた人達と、これを事故として賠償責任を問うという形で、報復回避の案を出してます。この補欠選挙は、事実上、全面的な国政選挙ですね」
真美「何があったんです!教えてください!」
ヘリの操縦士「同盟国の核のシュミレーションが誤作動を起こし、実戦のミッションのソ         
フトに切り替わってしまったんです。事故ですよ。でも、以外だったなぁ、日本もターゲットに入ってたんですね。最新の局所的ミサイルですからね。被害にあったのは、あそこだけ。事故が事前に知らされたのは被爆の7分前でした。今日の閣議の審議拒否をしていた野党は、紀尾井町の地下に抜ける地下道を通って、あのホテルの旧館の下にあるシェルターに非難したんですが、連絡の遅れた与党は、瞬時に消えてしまいました。生き残ったのは、たまたま国会議事堂にいなかった僅かです。与党の生き残りと官僚は、報復案を強調していて、被害にあった野党の生き残りと、皇室だけが、報復を否定してるんです」
ヘリは六本木上空にいて、下にはいつもと変らず普通に人が歩いている。ビルの電光掲示板に『戦争回避』の文字。人だかりの街宣車の上に章之の姿。





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Last updated  2010.05.14 17:22:20
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