以上の三冊は、イスラーム世界の歴史を概観できる今のところもっとも手ごろで水準の高い新書であると思います。
『都市の文明イスラーム』では、まず「『イスラームの世界史』への序言」が、巻頭にすえられています。イスラームとは何か、開かれた世界、異文化との対話などの項目から、この部分が全三巻すべてを包み込む解説であり、また、なぜいまイスラームなのか?という問への意欲的な解答であることが理解できると思います。
そして、イスラーム教の成立、ウマイヤ朝からアッバース朝への流れ、トルコ人の登場、地中海、さらにアフリカ世界に対するイスラームの浸透が記されます。
『パクス・イスラミカの世紀』では、アッバース朝の衰退=イスラームの衰退ではないという立場から、まず「モンゴルが『世界史』をひらく」(杉山正明)が記されます。たしかにモンゴルはアッバース朝を滅ぼして、カリフ制度を消滅させました。しかし彼らが西アジア世界に残した諸制度は確実に次の世代に受け継がれています。モンゴル=破壊者、という思い込みはそろそろ修正されねばならないと著者は事実を挙げて語ります。
ティムール帝国、オスマントルコ帝国、ムガル帝国が登場します。そして現在世界最大のムスリム人口を有するインドネシアなどのイスラム化の端緒が記されます。
『イスラーム復興はなるか』では、オスマン帝国の解体、西欧諸国によって植民地とされた諸イスラーム世界における独立運動とイスラームの復権、イランを中心としたシーア派の活動、ロシア、そしてソビエト連邦の元でのムスリムの苦闘、メッカ巡礼と周縁地域の諸事情が述べられて、イスラーム世界の現状と今後の展望が語られてこのシリーズは終わります。
現在のイラン、イラクで、「○○師」とよばれる「ウラマー」たちの影響力が、西欧の知識を身につけた知識人や政治家よりもあるのはなぜなのかを考える事は大切な事です。ウラマーとはイスラーム法を身につけた知識人です。イスラーム教では神と信徒を仲介する聖職者は存在せず、その代わりにウラマーたちが民衆の中で活動し、尊敬を集めているのです。
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