「共和党大会で顕著だったのは、いかに共和党がその本当の姿を隠し通すことに終始していたかということだ。・・ニュート・ギングリッチとディック・アーミーは合衆国の現代史上最も反動的だと私が考える議会を主導したのだ。ところが党大会になると、それらの人々の姿も、彼らが主張してきた問題も完全に消し去られた。・・かわりに舞台の中央にいたのは、コリン・パウエルのような人たちだった。彼は黒人で、妊娠中絶の権利支持、銃規制支持、アファーマティブアクション支持の穏健な共和党員だ。同じ意見を持つ共和党員は 5% もいなかった。・・・五日間、ゴールデンタイムのテレビでは共和党は、極右政党から中道政党へと姿を変えた」 p260
そして、テレビも新聞も、およそ「マスメディア」と呼ばれるものは数人、或いは数社の影響下にある。彼らは、何事かを報じる、しかしもっと自覚的に何事かを報じない。 O ・ J ・シンプソンの裁判は延々と報じても、アメリカで劇的に広がりつつある格差については報じない。
「貧困層を叩くことは今や『上手な政治』だ。ラッシュ・リンボーは、こう言った。『この国の貧困層は母豚の乳を吸う大きな子豚だ。彼らはこの国のもたらす便益をみんな持って行ってしまう、いつも人を食い物にしているんだ』」 p225
ラッシュ・リンボーは、極右の思想を振りまくラジオのトークショーのホスト。その結果何が起きるか。サンダースは、以下のような言葉を聞くこととなる。
「私は食料品店で働いているんだけど、むかつくのよ。フードスタンプを持ってきて、ステーキ肉とか、私よりいい食べ物を買っていくんだから。なんとかしてよ」
「うちの家族に医療保険をくださいと言っているんじゃないの。福祉受給者からそれを取り上げてほしいと言ってるだけ」
「アメリカの人々がどれほど政治に疎く無知であるか褒められたものではない。 1996 年 1 月の『ワシントンポスト』の世論調査によると、副大統領の名前を言えたアメリカ人は 40% だ。 66% は、地元選出の連邦議員の名前を知らず、 75% は、地元選出の二人の上院議員の名前を知らない。また回答者の 40% が連邦政府歳出の最大の項目は福祉か対外援助だと思っている。この時、要扶養児童家庭扶助の予算は 140 億ドル、連邦予算の 1% だった。対外援助はもっと少なかった」 P227
アフガニスタンを空爆していた時、アメリカの高校生の 25% しか、アフガニスタンがどこにあるか知らなかったという調査を思い出した。無知と不安につけこんで堂々と嘘がまかり通っているのだ。
「共和党の実際のイデオロギーがごく少数のきわめて特権的な人々の利益だけを代表しているとなれば、・・・どうやって働く人々と中間層に、彼ら自身の最良の利益に反して投票するように説得すればいいか。あるいは投票に行かせないようにするのか。さらに、人々が団結できる問題から意識をそらすか。・・これが、悪玉を仕立てあげる『分断』政治のすべてだ。白人と黒人とヒスパニックの対立、異性愛者と同性愛者、労働者階級と貧者と福祉受給者、男性と女性、本国生まれと移民、刑務所の外にいる人と中にいる受刑者。・・・一番大事な点だが、共和党の戦術のねらいは、働く人々が自分の問題の本当の原因に目を向けないようにすることだ」 P212~13
バーニー・サンダースは、二大政党制のアメリカにおいて、「最も長く無所属議員であった」男である。この本が最初に出版されたのは 1997 年、元題名は『アメリカ下院のはぐれ者』 (OUTSIDER IN THE HOUSE) であり、 2015 年に出版された時には『ホワイトハウスのはぐれ者』となっている。
彼は、「政治とは、国と、理想と、そしてゲームの駒にされている余裕などない人びとの運命にかかわる真剣な努力である」 (P31) と思い、それを貫いてきた。この本の読みどころは、この理想を掲げた男が、民主党大統領候補指名戦において最後までヒラリーと互角の勝負を繰り広げ、現在、民主党上院の執行部入りを果たしたかという点にある。
彼は、単なる理想主義者ではない。潔癖主義者でもない。立場と思想を越えた友人を多く作り、選挙戦術を工夫し、進歩派の結集を図る。実に柔軟で且つ原則的という稀有な政治家なのだ。
彼はいわゆる「主流」であったことはない。しかし、民主党は今回の敗北から何を学ぶべきかという時に、かれを執行部に迎え入れた。
この本の中では、主として共和党が批判の対象となっているが、民主党も厳しく批判されている。
トランプが大統領になり、サンダースが善戦した。彼は民主党建て直しのために何をするのか。再び、サンダースは、新著を出してくれるのか。楽しみである。
最後に一言蛇足を。これは、海の向こうのことではない。私たちの国で実際に起きているのだという問題意識で読むともっと思い当るところが出てくると確信する。
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