ひとりアトリエの隅にゐて
深く静かに息をつくと、
ひろい大きな世界のこころが
涙のやうに私をぬらした。
やさしい強いあたたかな手が
私の肩にやんはり置かれた。
眼をあげるとロマン・ロランが
額縁の中に今もゐる。
ロマン・ロランの友の会。
それは人間の愛と尊重と
魂の自由と高さとを学ぶ。
友だち同志の集まりだつた。
ロマン・ロランは言ふやうだ。
パトリオティズムの本質を
君はまだ本気に考へないのか。
あれ程ものを読んでゐて、
君にはまだヴェリテが見えないのか。
ペルメルの上に居られないのか。
今のまじめなやうな君よりも
むしろ無頼の昔の君を愛する。
さういふ時に鳴るサイレンは
たちまち私を宮城の方角に向けた。
本能のやうにその力は強かつた。
私には二いろの詩が生まれた。
一いろは印刷され、
一色は印刷されない。
どちらも私はむきに書いた。
暗愚の魂を自らあはれみながら
やつぱり私は記録を続けた。
註 ヴェリテ 現実描写。「現実」か?
ペルメル はわからない。
ロマン・ロランの『ジャン・クリストフ』は、二回挫折し、三回目で読了した。レマルクとか、今では顧みられなくなった良書が多い。
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