TOHO
※以下、多数のネタバレあります。ご注意ください。
映画は、賢治と父との関係に絞って描いている。父・政次郎は、親の喜助に言わせれば、「父でありすぎる」人物である。病気になると必死で看病し、賢治の数々の奇行をも結果的には認める。賢治の妹のトシの死後は、「わしがお前の読者になる ! 」と言ってその通りに行動する。父が真宗の総代であるにも関わらず日蓮宗に走る賢治。「人造宝石を作ります」という賢治をも見守る。
政次郎は、喜助に対して「わしは、新しい時代の明治の父親だ」と言い放ち、「新しい父親」らしく生きようとする。ただ問題は政次郎自身が「新しい時代の父親」とは何なのかがよくわかっていないらしいことだ。
それでも彼は、賢治を受け入れようとする。
賢治の白いトランクの中にぎっしり詰まっている原稿を最後は出版社に持ち込んで、三巻の全集に結実させる。
賢治が生死の境をさまよっているときに来客がある。「帰ってもらいなさい」という言葉に逆らって賢治は「このままでは首くくるしかない」という農民の訴えに対して、アドバイスをするのだが、「ひょっとしたら連作障害ではないか」という言葉は「今困っている」農民には何の役にも立たない。農民が帰った直後に賢治は昏倒する。政次郎は、話の途中で割って入ろうとはしない。必死で耐えている。賢治は「待っていてくれてありがとう」とか細い声で言う。そのまま死の床に就く賢治は、「体をふいてほしい」と頼む。すぐに飛んでいこうとする政次郎に対して、妻は、「私も賢治の母です」と言って、政次郎に代わって体を拭いてやる。
命のともしびが消えそうになっている賢治に対して政次郎は、大声で「アメニモマケズ」を朗誦する。賢治は、「御父さんからほめられた」と嬉しそうにほほ笑む。
政次郎は言下にそれを否定し、いくつもの時に、わしはお前をほめた ! という。映画の最初の方で、妻が政次郎に「賢治さんは、お父さんに褒められたがっているんじゃないですか ? 」という言葉が伏線になっている。
役所広司も菅田将暉も素晴らしかった。トシの俳優さん ( 森七菜 ) もよかった。
政次郎という人物については知るところが少なく、本『銀河鉄道の父』門井慶喜 講談社文庫を買う。カバーは、まるまる映画版。
久しぶりに、 2 日間という短期間で読了。賢治も含めて周辺の人々の政次郎の人物像に対する証言、そして政次郎が賢治に対して実際に何をしてやったかという状況証拠をもとにして作者のイマジネーションを全開にして書かれた作品である。
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