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2023.01.31
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テーマ: 読書(8290)

本のタイトル・作者



わたしのペンは鳥の翼 [ アフガニスタンの女性作家たち ]

本の目次・あらすじ


第1部
話し相手(マルヤム・マフジョーバ)
八番目の娘(フェレシュタ・ガニー) 
犬は悪くない(マースーマ・コウサリー)
共通言語(ファーティマ・ハイダリー)
遅番(シャリーファ・パスン)
世界一美しい唇(エラーへ・ホセイニ―)


わたしには翼がない(バートゥール・ハイダリー)
巡り合わせ(アーティファー・モザッファリー) 
なんのための友だち?(シャリーファ・パスン)
ダーウードのD(アナヒータ・ガーリブ・ナワーズ)
夢のてっぺんから転がり落ちる(パランド)
防壁の痕跡(マースーマ・コウサリー)

第3部
冬の黒い烏(マリー・バーミヤーニー)
銀の指輪(フェレシュタ・ガニー) 
サンダル(マリーハ・ナジー)
虫(ファーティマ・サーダート)

わたしの枕は一万千八百七十六キロメートルを旅した(ファランギース・エリヤ―スィー)

第4部
アジャ(ファーティマ・ハーヴァリー)
赤いブーツ(ナイーマ・ガニー) 
花(ザイナブ・アフラーキー)

エアコンをつけてくれませんか(マルヤム・マフジョーバ)

引用



シャヘルバノは怒っていた。「それはこの国の人たちが文字を読めないからよ。知事や大臣の多くも文字が読めないわ。彼らができるのは戦うことだけ。読み書きすらできない。国民は無教養の者たちが叩く太鼓に合わせて踊っている。みんなは、タリバンは変わったと言っている。でも、本も読めないのにどうやって変われるわけ?本を読まずにどうやって変われるというの?わたしたちの親がみんな文字が読めたら、あなたみたいな女の子がひどい目に遭わずにすむのに。この場所はずっと危険なままではないはずよ。ネークバット、わたしたちの歴史はどこかできっと変わるわ」

ザイナブ・アフラーキー「花」


感想


2023年014冊目
★★★★

2023.01.16「 テヘランでロリータを読む [アーザル・ナフィーシー]
のあとに読んでみた本。

『テヘラン〜』は西洋を経てイランへ戻った著者の視点で、いわば外側というフィルターを通した「高い位置」にある視点。
そうではない話が読みたいと思った。
地面の言葉、内側の言葉、そこで語られる物語を。

なぜひとは書くのか。
なぜひとは読むのか。

この本は、紛争などに寄って疎外された作家たちを発掘する「アントールド Untold」プロジェクトに応募されてきた、アフガニスタンの女性作家たちが18人が記した23編。
アフガニスタンの主要な言語であるダリー語とパシュトー語で書かれ、それを英訳したものの、日本語訳。

物語はフィクションだけれど、事実をもとに構築されたものも多い。
結婚式での自爆テロ。少女たちが通う学校への攻撃。
血と肉片。
読んでいて辛くなるような話ばかり。
テロ、戦争、家父長制、女性蔑視。暴力。貧困。飢餓。
女性が置かれている状況は、日本だと、江戸時代から明治大正くらいの感じだろうか。
悲惨な環境、凄惨な情景。
胸を押しつぶされるような、感情の動き。

どの話も苦しくなるけれど、それでもそこに、確かな抵抗を見る。
日々を見つめ、その絶望の中にいて、明るい方を、希望を持とうとする。

「笑うな」ザーラはなんとか息をしようとする。「望みを持つのは悪いことじゃない」

パランド「夢のてっぺんから転がり落ちる」


女性が支配下に置かれた環境で声を上げることが、言葉を紡ぐことが、どれほど危険か。
後記は、この作品には重要な部分、作家紹介欄が欠けているのだと明かす。
十八人の書き手たち。
彼女たちはペンネームを使い、幾人もの手を経由して、このプロジェクトに応募する。
けれど最後の最後に、本名を出すことを選ぶ人が何人もいたそうだ。

「こんな時期にどうして書き続けるのでしょう?」と問いかけた人に、ひとりの作家は「作家ならば、書くことがすべてだから」と答えたという。
そして書かれたそれを読んでもらうことが、精神的な支援になるのだと。

わたしのペンは、鳥の翼。
書いたものを隠しながら、書き上げたものを燃やしながら、言葉は超えていく。
白い紙から、一斉に飛び立つ。
今のこの場所を離れて、遠く。
血で書いたようなその言葉が、誰かの手を経て、また誰かの手を介して、届く。
私のところまで。

「訳者あとがき」で、訳者は言う。
この物語が薔薇であるならば、言語という土を変えても、その薔薇が薔薇であることに違いはない。
私はその薔薇の美しさに心を奪われる。そっと近付いて匂いを嗅ぐ。
痛々しく喰い千切られた葉を見る。身を護る鋭利な棘を撫でる。
その花を知る。
その花を植えた人に思いを馳せる。
心を寄せて、花びらに涙を落とす。
欺瞞と傲慢を己に疑いながら。

私は何かを書く時、宛名もなく瓶に詰めた手紙を、そっと海に流すような気持ちでいる。
どこかの誰かが、それを読んでくれますように。
私がここにいると、知ってくれますように。
いつになるかわからない、それが誰に届くかもわからない。
けれど暗い海を漂うその言葉が、私の世界を守ってくれる。
そこに誰かいるのだと信じられる、かすかな灯火。

人はなぜ、物語を必要とするのだろう?
虚構の世界を現実の上に作り上げるのだろう?
なぜ人はその中へ入っていこうとするのだろう?

書くことでしか、たどり着けない場所があるから、だ。
読むことでしか、見えないものがある。
物語ることでしか、物語られることでしか、感じることが出来ない内側。
そしてそれをこそ、人は必要としているのだと思う。
物語が失われた世界は、他者の内側を思わない世界だ。

「本を読まずにどうやって変われるというの?」

これまでの関連レビュー


海にはワニがいる [ ファビオ・ジェーダ ]
エデュケーション 大学は私の人生を変えた [ タラ・ウェストーバー ]
戦場の秘密図書館 シリアに残された希望 [ マイク・トムソン ]



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最終更新日  2023.01.31 00:00:13
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