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2023.03.04
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テーマ: 読書(8559)

本のタイトル・作者



目の見えない白鳥さんとアートを見にいく [ 川内 有緒 ]

本の目次・あらすじ


そこに美術館があったから
マッサージ屋とレオナルド・ダ・ヴィンチの意外な共通点
宇宙の星だって抗えないもの
ビルと飛行機、どこでもない風景
湖に見える原っぱってなんだ
鬼の目に涙は光る
荒野をゆく人々

みんなどこへ行った?
自宅発、オルセー美術館ゆき
ただ夢を見るために
白い鳥がいる湖

引用





感想


2023年045冊目
★★★★

2023.01.03「 2023年の課題図書48冊 」の29冊目に挙げていた本。
本屋大賞2022年ノンフィクション本大賞、大賞作。
面白かった。
途中、前に読んだ「 本とはたらく [ 矢萩多聞 ] 」の多聞さんが出てきて、思いがけず知り合いにばったり会ってしまったような嬉しいようなちょっと気まずいような気持ちになった。

美術館に勤める友人の紹介で、全盲の白鳥さんの美術鑑賞に同行することになったノンフィクション作家の著者。


私もはじめはそう思った。
失礼なことを言えば、「そんなことして何になるの?」とでも言って良いような。
だって見えないじゃんって。

でもこの本を読んで思う。
見えるってそもそも、何なんだろうね?


白鳥さんに作品について説明する。
説明者の数だけ、違う説明がなされる。

え?そんなふうに見えたの?私はそう思わなかったよ。
あ、ここにこんなものが描いてあるよ。これはどういう意味かなあ。

そこにある作品を巡って、対話が生まれる。
それは一人での「見る」を超えていく。
著者はそれを、白鳥さんがいることで目の解像度が上がったと話す。
白鳥さんに作品の説明をしているようでいて、本当にその作品を「見せて」もらっているのは、見えている私たちの方なのではないか。

見える人は、普段から視覚情報を取捨選択して処理している。
自分の記憶や経験が、必要なものを選び取る。
だからみんな、同じものを見ているようで、違うものを見ている。

ここらへんは、私は本の書評に似たものを感じた。
同じものを読んでいても、違う感想を抱く。違う光景を見る。
それもまた、自身の内側のフィルターに作品を通した結果。
だからこそ、己の開陳としての書評は、面白い。
白鳥さんとの美術鑑賞も、これと似た面白さがある。

白鳥さんは、研究家が語るような作品背景などではなく、素人の解説を面白がる。
それは、「わからないこと」を楽しめるからだという。

この本では、障害や優生思想についても書いてある。
その中で白鳥さんが言っていた

『できる』と『できない』はプラスとマイナスじゃないんだなって、できなくても全然いいんだよなって気がついた


というところ。
私はたぶんこれが、まだ自分の中でネックになっている。
持てる力で「頑張る」こと。そうして「能力を高めて」「誰かの役に立つ」こと。
そうして「ここにいてもいい」と認めてもらうこと。
私にとっては、それが愛されること、存在を赦されること、つまり「生きること」という認識。

これねえ、駄目なんだよね。
だって、自分が勝ち続けることは出来ないって、分かっているから。
でも負けられない。負けた自分には価値がないから。
少なくとも戦い続けなければ。頑張り続けないといけない。
疲れるな、その生き方!笑

そして裏返せば、この認識は他者に同じ「頑張り」を求める。
私がこれだけやっているのだから、お前もやるべきだ。
そのまま存在を許容されるなんてありえない。そんなことは赦されるはずがない。
有益なものを作り出せないのならば、世界の役に立たないのであれば、生きている意味はない。
お前に価値はない。
これぞまさに、能力主義と自己責任と優勢思想そのまのではなかろうか。

私は子供の頃からずーっと「赦されたい」と思っていて、その根幹はここ、なんだろう。
白鳥さんは「バックする」「そのままでいる」でもいいのだと気付いた時、視野が広がったという。
私はまだ、狭いなあ。激狭だなあ。
いつになったら、ここから出ていけるんだろう。

著者は言う。
絶えず想像すること。
すぐに忘れてしまうから、本を読んで旅をして美術作品を見て話す。
そして知識と想像力で、世界の複雑さや自分の無力さを盾にせず、壁をぶっ壊しあるがままの存在に手を伸ばす。
あまねく見る、千手観音のように。

私が本を読むのも、それだ。
私は知りたい。わからないことにワクワクしたい。
莫迦な自分に何度も打ちのめされながらでも、「わからない」を楽しみたい。

あれ、それって、「頑張る」とは違う。
優劣じゃない、他者との競争でもない、これは私と世界の戦いだ。

だとしたら、私はいつか、思えるんだろうか。
○✕を、誰かに付けられるような気がしていた場所。
優劣の天秤の片方に、自分の取り分が減らないように腐心するところから。

出来なくても全然いい。
別にそのままでええやんか。
もうじゅうぶんに、二重丸の花丸やん。

小さい子供がいると、美術館は敷居が高い場所。
けれどこの本を読んで、美術館へ出かけたくなった。
そうして一緒に見た人と、ああでもこうでもないと、話をしたい。

私に見えて、あなたに見えなかったもの。
あなたに見えて、私に見えなかったもの。



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最終更新日  2023.03.04 00:00:15
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