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2023.04.22
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テーマ: 読書(8253)

書名



語学の天才まで1億光年 [ 高野 秀行 ]

引用


要するに、私にとって言語の学習と使用はあくまで探検的活動の道具なのである。しかし、言語(語学)はひじょうに強力な道具なので、ときには「魔法の剣」のように思える。てきとうに振り回しているだけで自然に「開かずの扉(に見えるもの)」が開いてしまったりするからだ。こうなると、俄然、道具である言語自体にも興味が湧いてくる。


感想


2023年084冊目
★★★★

著者は、1966年生まれのノンフィクション作家。
ポリシーは「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをし、誰も書かない本を書く」。
これまで25の言語に挑戦した著者の語学の記録。

言語好きにはおすすめの一冊。
「どうやってその言葉を身につけるか」という過程もさることながら、その動機が面白くて引き込まれて読んだ。
読む続きが楽しみな本、ひさしぶり。

著者は何ヵ国語も話すというから、さぞ語学の天才なんだろうなと思って読んだら違った。

御本人は地道な努力が苦手な怠惰な性格で、「いかにラクして覚えるか」を追求しているというけど、熱意が桁違い。
お父様が英語の先生で、朝は米軍ラジオ局が放送するFENをかけていたそう。
NHKラジオ「基礎英語」を小学六年生になった息子に毎日聞くように言い、それは毎日1年間続いたが、中学校になりフェイドアウト。
「よく出てくる単語だけ覚えればよいのでは?!」と思いついた高野少年、英語の教科書に出てくる単語をすべて数え上げてランキングを作成。
番付を作るまでに至る。(そうしてそうこうしている間にほとんど単語を覚えてしまったそうな)

大学では消去法的にフランス語学科へ進むも、探検活動に勤しむ日々。
初めての海外はインド一人旅。
しかし騙され、パスポートからお金から何もかも身ぐるみ剥がれ、サバイバル・イングリッシュで日本へなんとか帰還する。
著者はここで、「伝えたいことがあれば言葉は伝わるのだ」と知る。

その後、コンゴ人民共和国に生息するという幻の生物ムベンベを追うために、言語を学ぶ。
植民地だったから、公用語はフランス語だ。

1時間3,000円で個人レッスンを申し込む。
しかし向こうは教えた経験などないから、雑談に終わる。
著者は考え、それをテープに録音し、次のレッスンまでにすべて書き起こしてくる。
そうしてそれを読んでもらいながら前回の録音を先生に聞いてもらい、それに対するコメントをしてもらいまたそれを録音して文字起こしして…。
で、フランス語を習得。

そして民族語のボミタバ語を学ぶ。

著者はそれからも、翻訳のバイトをしたり(やったこともないイタリア語の仕事を引き受け、まずタイトルの「il」を辞書で引くという。笑)、大学を卒業してタイで日本語教師をしたり(期末テストの持ち物:糊。漫画『東京ラブストーリー』の1回のすべてのコマをバラバラにしたコピーを用意し、「正しい順序に並べて紙に貼ること」という試験を用意)、阿片の栽培地に潜入取材するためにまた言語を学んだり…。

コンゴの言語観(言語世界)のイメージ図は面白い。
民族語(家族、親族、村)の上に共通語であるリンガラ語(市場、バス、教会)、その上に公用語であるフランス語(公官庁、学校、病院)がある。
上に行くほどフォーマルになり、教養があり社会的地位が高いことを示すピラミッド構造。
著者はこれを「ローカルの屋台、地元の中央市場、高級デパート」に例える。

日本人にこういう言語世界観ってないので興味深かった。
インドネシアで(インドネシアでは高校で第二言語として日本語を選ぶことが結構あるそうで、ひらがな・カタカナを書ける子が結構いた)、「漢字っていうのは公文書で使うのか?」と聞かれて驚いたことがある。
昔(平安時代くらい)でいうところの「漢文」「和文」の考え方…!
日本では今そういうものはなく、ミックスなんだよというと逆に向こうが驚いていた。

一方、著者がコロンビアでスペイン語について感じたのは、まったく別の世界観。
それはコストコやカルフールのような平屋の外資系巨大スーパーマーケットで、どこまで言ってもスペイン語。
小さなブースや売り場に先住民の言語がある。
だから、「外国人が〇〇語を話す」という「お、お前〇〇語を話すのか!」驚きや喜びはなく、言語で「言葉ができない相手を見下す」と言った上下関係(著者は「言語内序列」という)もない。

すごくわかりやすい喩えだなと思ったのが、著者の文字と発音のズレについての考察。
都市で言うと、それは実際の道と地図が違っているようなもの。
古い地図には最近できた道は表示されておらず、今はもう存在しない旧道が記されている。
(英語で言うとreadをリードともレッドとも読む、みたいなこと)
で、スペイン語はこのズレがほとんどない(あるいは小さい)のだそうだ。
著者はスペイン語を「平安京言語」と呼ぶ。

私は大学で中国語、韓国語、ドイツ語、フランス語を学んだ。
(本当はあとロシア語もやりたかった)
そうして、私にはどうにも西洋系の語学は向かないようだと悟った。
漢語圏の恩恵を受けられないし、私は巻き舌の発音が出来ない…。
その後、インドネシアにも滞在し、すこしインドネシア語にも触れた。
私はアジア圏の語学が好きだ。

しかしあれこれ手を出すとすべて中途半端で、中学1年生(今だと小学生?)くらいの、学びはじめの子どもくらいの言語力しか持てない。
というわけで、英語の勉強にしぼり、2021年に本格的に英語の勉強を再開した。
折よく、NHKラジオ講座「ラジオ英会話」が文法だった年度。
これまでぽやっとしていたイメージが、「文法」として毎回手に入る。
それはまるで、RPGのステージを進み、次々とアイテムをゲットするかのようだった。
(という感想をNHKに送ったら「ラジオ英会話」の2022年4月号に掲載されて嬉しかった)
著者も、自身の活動をRPGにたとえ、言語はRPGにおける「魔法」だと言う。

AIが発達し、翻訳機能の向上が著しい今、多大な労力と時間をかけて語学を学ぶ意味とは?
著者は言う。
言語には「情報を伝えるための言語」と、「親しくなるための言語」がある。
AIは前者を満たすが、後者は満たさない。
「翻訳や通訳は、ガラス越しでの会話」。
だからこそ、外国語学習は、その先に触れたいという思いがある限り、なくならない。

伝えたい、という切実な思いがあること。
知りたい、という切迫した願いがあること。
それこそが語学を学ぶ原動力になる。

インド一人旅でほぼ一文無しになった、当時の高野青年は、とにかく日本に帰りたい一心で、つたない英語を話し続けた。
そうして彼は気づく。コミュニケーションは、協同作業だ。
著者は免許を取りに教習所へ行った際に、教官から言われたことが言語にもあてはまると言う。
「言葉が通じないと心配するかもしれないけれど、他の人たちはみんなもっと上手です。ちゃんと助けてくれます」
下手な車を、上手な車がよけるように。



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最終更新日  2023.04.22 07:40:32
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