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2023.05.20
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書名



英語と日本人 挫折と希望の二〇〇年 (ちくま新書 1704) [ 江利川 春雄 ]

目次


第1章 「半文明人」から脱却せよ
第2章 日本人にふさわしい英語学習法を求めて
第3章 英語廃止論と戦争の逆風にめげず
第4章 だれもが英語を学べる時代に
第5章 グローバル化とAI時代の英語

感想


2023年107冊目
★★★★

この本、面白かったです。
英語学習者には、特にオススメだよ!!

英語が話せる人はみんな同じことを言っているよという話だ。
音読、暗誦、書写、暗書、復文、英作…。
忍耐、気合、反復。
反復、反復、反復だ。

私としては、ちょうど
2023.05.17  104.牧野富太郎自叙伝 [ 牧野富太郎 ]
を読んだところで、英語の話がそのあたり(幕末)から始まるので、複数並行でパラレルに話が進んでいるような面白さがありました。
なんというかこう、この本読んでいるときも、「一方その頃、牧野富太郎は…」と頭の中にアナウンスが入ると言うか。
幕末〜戦後まで生きた人の一生という、手に取れる・実感できる時間の「ものさし」があることで、英語の歴史を時代を追って説明されていっても、「一方その頃、富太郎は…」とその「ものさし」で測ることが出来て、とても良かったです。

というわけで、この本をお読みになるのであれば、抱合せで『牧野富太郎自叙伝』もどうぞ。
本の中では、ドラマ「らんまん」に登場したジョン万次郎もちらっと触れられていたし、富太郎のライバルであった矢田部氏についても英語教育の観点から記載があって、期せずして知己に会ったような嬉しさがあった。


10年の歳月にわたり、毎日、上野図書館(国立国会図書館)に通って英書を読み、用例カードを100万枚以上作成し(三浦しをん『舟を編む』を思い出す)、さあ出版という組版中に関東大震災が襲う。
印刷工場にあった組版も活字も焼失。
しかし夫人が、庭に穴を堀り、300kgもあるカードや原稿を埋めて火災から守ったのだという。

「あなたが、あんなに心血を注いで集められたものを空しく焼いてはならないと思って、みな土に埋めました」


一方その頃富太郎は、地震の揺れを堪能しようとひとり家の中に戻っていました…(笑)

「はじめに」で、著者は日本と英語の関係をこう喩える。

言い得て妙だなと思う。

はじまりは、黒船。
鎖国が終わる頃の、国の存亡をかけた十四人の「通詞」たちの猛勉強。
正確な発音も分からぬまま、学び続けた日々。
そして1848年。
利尻島に上陸したラナルド・マクドナルドは、長崎に護送され、座敷牢に入れられ、アメリカへ帰国するまでの7ヶ月間にわたり、通詞たちに英語を教えた。
日本初のネイティブ英語教師だ。
日本側の熱烈な片思いで、英語の学習は始まる。

その後、御一新が成り、1872年(明治5年)の「学制」ではすでに小学校で外国語を教えてもよいと書かれていたそうだ(ただし、教えられる人がいなかった)。
つまり、小学校の英語教育導入問題(早期英語教育問題)は、今に始まったことではない。

著者も本の中で指摘するように、日本ではある議論が勃発すると、過去の経緯をすべて御破算にして一から議論し始める。
そうじゃないだろ、と著者は言う。
前にどこまで話が進んでいたのか、その経過を確認し、その到達点から始めるべきではないのか。

さて、小学校に導入された英語はどうなったか。
1911年(明治44年)に小学校令が改正。英語は教科としての地位を失う。
結局、小学校で英語を教えることは、時間(週二時間)では中途半端になり、また教える側の力量不足の問題もあって、不要となった。

この本でハッとしたのが、

① 英語を学ぶ目的が会話中心の「生活言語」(BICS)か
② それとも読み書きなど知的な「学習言語」(CALP)か

という問いだ。

外国へ行った子どもが、現地の言葉を友人たちとの遊びなどで身につけるのは①の生活言語。使用場面に依存した言語使用で、移民の子供は概ね2年で習得する。
ただしこういった生活言語を習得し日常生活に支障がない子どもも、学校に入ると授業についていけない子が続出するのだそうだ。
それは、②の学習言語が身についていないから。
学習言語は、学校教育における意識的な学習が必要で、文字情報へ依存し、習得には5〜7年を要する。

つまり、小学校から英語を導入しよう!会話重視で「話せる英語」を!という趣旨は、①の生活言語、受験に必要とされるような読解能力は②の学習言語に分類される。

ということを知って、私は自分の英語4技能の到達目標が、

・聞く(リスニング)…映画やドラマが字幕なしで分かる
・話す(スピーキング)…短期旅行で意思疎通ができる
・読む(リーディング)…洋書を辞書を引きながら読める
・書く(ライティング)…簡潔な文で意図を伝えられる

と、「聞く・話す」と「読む・書く」が大きく乖離している理由に思い至った。
私が求めているのは、日常の「生活言語」の実生活での利用と、文字による知的な「学習言語」のレベルだ。

結局、「生活言語」の英語レベルが「学習言語」の段階に進んだら、中身のある会話が出来るかどうかは読書量に比例するのだという。
著者は、精神年齢の高さと英語力の低さのギャップをどう埋めるかが英語教育の難問だという。
これは様々なところで言われていることだが、「母語で考えられないことは、母語以外でも考えられない」のだ。
そして著者が言うように、AI時代にあっても外国語を学ぶことは、母語によって制約された思考の枠組みを相対化し、自覚的・批判的に再認識し、それを超えるために必要なのだ。
ちなみに英語が流暢に話せない日本人の原因は、「話すべき内容や主張がない」「話していることが論理的でない」といったもっと根本的な問題だと著者は指摘する。

ちなみに、小学校で「生活言語」(英会話・音声中心)を学んだ子供が、中学校に入って「学習言語」(文法・語彙)として英語を学び始めると、中学校に入ってから英語を学び始めた子との学力の差異は、1年以内に解消されるのだそうだ。
1927年(昭和2年)にも、実際にそのような教科書構成(小学校から学んできた組と中学校から学び始めた組が、中学2年からは全員同じ教科書に到達)になっていたという。

となると、日本語だけで生活できる日本という国で、外国語(学習言語)として英語を学ぶのであれば、中学校に入ってから充分、ということになる。
これから日本の英語教育はそれに逆行していく。
くっついたり別れたりを繰り返すカップルみたいに。
何度も同じ原因で喧嘩別れをするように。

この本は英語の本なので、小ネタも満載。

ほぼ独学で英語力を磨き、大阪大学教授になった柴田徹士(1910〜1999)。
10人きょうだいの長男として、家業の豆腐屋で働きながら、夜間の商業学校を卒業し、順番に上の教員試験を受けていき、ついには教授にまでなった。

当時、すべて英語で授業が行われていた札幌農学校(北海道大学)を主席で卒業した内村鑑三は、『外国語之研究』(1899年)で、現在にも通じる学習法を書いている。

1922年に英語教育改革のため、言語教育の専門家をイギリスから招こうとし、その費用(現在の1億円以上)を出したのは「船成金」で有名な、松方コレクションの松方( 美しき愚かものたちのタブロー [ 原田マハ ] )。

日本人が苦手とする「R」「L」の発音については、

light「ぬ」の口の形で「ぬライト」
right「う」の口の形で「うライト」

とすればよいと著者は言う。これ実際やってみると、全然舌の位置が違ってびっくりした。
フランス語をやったときに、「フランス語のRは、ラを言いながらハを言う」と聞いて「んなアホな」と思いつつやってみたらそれっぽい音になった驚きと同じ。
しかしどっちのRとLが「ぬ」だったか「う」だったか忘れちゃいそうだ…。

また、私も高校生のときにお世話になった英文法の参考書、桐原書店の『総合英語Forest』。
多くの高校で一括採択され、400万部を超え販売された。
しかし2013年に7版で販売中止。
その理由は、桐原書店の内紛だったという。
桐原書店を飛び出した人たちが「いいずな書店」を立ち上げ、2017年にForestの後継となる『総合英語Evergreen』を出版したとのこと。
どうりで!書店で、この見慣れないエバーグリーンってのは何やろうと思っていたのだ。

インターネット上のVR空間(メタバース)でのオンライン英会話が受講料も安く、継続率も高いというのも今どきで面白い。
私もオンライン英会話に興味はあるけれど、顔を写して…というのは面倒だし嫌だなと思っていた。
メタバース英会話、いいな。

あと、英ケンブリッジ大学出版と、その英語検定機構が協力開発した「 Write&Improve 」。
やってみたら、お題があって英文書いたらAIが添削してくれて、文章能力を相対的に評価してくれるという感じ?
解説がどこにあるのか分からなくて、私はちょっとだめだった。

ーーー英語と日本人。

遠くに外つ国の船が現れた、その日からずっと。
聞きたいこと、話してみたいことが、溢れ出た。
知りたくて、近づきたくて、必死に追いかけた。

でも、いざ付き合ってみたら、うまくいかない。
だってあなたは、わたしと、あまりに違うから。

諦めたらいいのかもしれないと、何度も思った。
土台無理な話と、いっそ匙を投げてしまえたら。

なのにどうしてこうもあなたと離れがたいのか。

限界をかくも厳しく突きつけるあなたが嫌いだ。
限界をいとも軽々と超えさせるあなたが好きだ。

どうせうまくいかないと分かっても、触れたい。
一緒にいて、あなたとなら見える景色を見たい。
そうして、あなたの目にうつるわたしを見たい。

愛憎が相半ばする、ぐずぐずのカップルのまま。
わたしばかり好きなの、と口を尖らせたくなる。
いつかこの積年の片想いは、実を結ぶのかしら。

200年過ぎてなお、繰り返し繰り返し恋をする。
咲く花は過ぐる時あれど、我が恋ふる心の裡は。



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最終更新日  2023.05.20 00:00:13
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