320life

PR

プロフィール

ノマ@320life

ノマ@320life

キーワードサーチ

▼キーワード検索

カレンダー

2023.05.03
XML
テーマ: 読書(8290)

書名



爆弾 [ 呉 勝浩 ]

引用


「くだらないからさ。つまらないんだよ。世の中を壊すなんて誰でもできる。簡単すぎてあくびが出る。壊すのを、食い止めるほうが難しい。はるかに難しいんだ。難しいほうが、ゲームとしてやりがいがあるだろ?」


感想


2023年093冊目
★★★★

2023年「このミステリーがすごい!(このミス)」第1位。
いやあ、面白かった〜!
手に汗握る展開、続きはどうなるの?!と気になってどんどん読んでしまった。

ある日、酔っ払って自販機を蹴り、捕まった冴えない中年男。
彼は自分の霊感で、東京に爆弾が仕掛けられていることを予告する。

地下の取調室で刑事と男の頭脳戦が繰り広げられる。
善と悪を分かつもの。正義とは何か。虐げられたもの。下等な人間。人の生死は誰が決めるのか。

そうしていく中で刑事たちは気付く。
己の中にも巣食う、身勝手で暴力的な独善性。

安楽椅子探偵の逆というか、男と刑事はあくまで地下室から動かない。
現場を走り回る「おまわりさん」のパートと、その地下室のパートとの対比。
けれど最後にはすべてが繋がる。明かされる事件の真相。
そして驚愕の最後の一文。思わず「ひやぁっ」と声を漏らしてしまった。
こ、こわすぎる…!!!!
映画にするなら、穏やかで退屈な日常の風景をいくつも切り取って流し、最後にどこかに置かれた爆弾が映し出され「チッチッチッ」と音がして、暗転。
だな。
「下人の行方は誰も知らない」。

登場人物がそれぞれ背景まできっちり書き込まれていて、深みがあって魅力的。

この人、誰かを彷彿とさせるなあと思ったら、BBC版「SHERLOCK」のシャーロックだ。
善悪という価値観が曖昧。
(しかしこの作品は、そもそもその善悪という共通認識を疑う)
世界は退屈で、すべてに飽いていて、それでも「みんなの側」にいる危ういバランスを保つ。
彼が最後、「おれは逃げないよ。残酷からも、綺麗事からも」と言ったのは嬉しかった。


「私は危惧していると言っただろう?私はお前を愛している。それと同時に怖れてもいたのだ。心を持たないお前は、波間に浮かんだ漂流船と同じだった。だから私は思ったのだ。帆に風を、船に錨を」
というセリフを用意したのだけど、類家にもそれと同じことを思う。
彼の錨となる存在が、現れますように。
残酷を同じ鮮明さで目の当たりにし、それでも砂糖にまぶされた綺麗事を見い出してくれる。
そんな人が、類家のそばにいてくれますように。

読んでいて何度も、自分の中にある善悪の価値観を揺さぶられた。
見せかけの、うわべだけの、「あるべきもの」としての正しさ。
けれどそうではないことを、本当は知っている。
この物語にはひとり、「部外者」であり「当事者」である警察関係者ではない一般人が登場する。
彼女はたとえばサークルの飲み会が嫌で願う。
ーーー東京に爆弾が落ちればいいのに。

あるいは「みんな死んじゃえばいいのに」と願ったことは?
誰かが死んだ時、その軽重をつけたことは?
(子どもを含む○人が死亡しました)
ホームレスと子どもならどっちが死んでもいい?
犯人に報復が出来る法律が出来たとして、相手を殺さないことは、死んだ人を「そんなに愛していなかった」ことになるのでは?

犯人役のスズキは、人間の醜悪さを暴露する。
これでもか、これでもかと眼前に突きつける。

エンタメとしての小説を超えた内容で、でもエンタメとしても成立していて、映画にもドラマにも映像化されたら面白いだろうなというストーリーライン。

私達は、誰かと誰かの命を天秤にかけて、「しかたないか」を繰り返している。
「まあいいか」と「もういいや」。



「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです。
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2023.05.03 00:00:15
コメント(2) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: