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2023.07.27
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テーマ: 読書(8559)
書名


月と散文 [ 又吉 直樹 ]

引用


「恥ずかしい」を「アホ」という言葉で塗りつぶすと、苦しかった時間や風景が愛しさを伴った愚かさに変化する。喋ってもアホ、黙ってもアホ、踊ってもアホ、踊らなくてもアホ、ということは、なにをしていてもアホということだ。
どうしようもないことを好きなように書く。その瞬間は純度の高い阿呆になれる。それを繰り返すと、自分が阿呆の膜に覆われていく。阿呆の膜に守護されている時だけは恥ずかしいことから解放される。阿呆の膜のなかで無呼吸の自由演技を続ける。
情けない感情や暴れ出した混乱が極まり阿呆の膜が破れると、ようやく息を吸うことができる。すると、やっぱり恥ずかしくなってしまって、また阿呆の膜を紡ぎ始めるのだ。


感想

2023年163冊目
★★★

小説だと思って読んだらエッセイだった。
オフィシャルコミュニティ『月と散文』に週3回書き下ろし配信したもののまとめ。
紙媒体の原稿と違うので、長さもまちまち。
読みやすくて、「は?お笑い芸人の書いた小説なんて読めるか」というスタンスの人(アンチすぎるやろ)にもオススメのエッセイ。
そう、これはお笑いコンビ「ピース」の又吉さん(小説『火花』で第153回芥川賞を受賞)が書いたもの。

お笑い芸人らしく(というのは偏見なんだけどね。この本よりも私は三浦しをんのエッセイ読むときのほうがヤバい)読んでいて「ぶふっ」と噴き出しまうこともあり、小説とエッセイって同じ原材料で出来ているんだよな、と思う。
その作家の人の世界。その言葉。そのものの見方。感じ方。

エッセイとはいっても、起承転結を設けるから、ある意味ではつくりものの枠にはめているのだし。

散文のなかに、江戸川乱歩の『赤い部屋』という短編が紹介されていて、これが信号待ちのときに赤だけどまるで信号が変わったように振る舞うことで、ぼんやり一緒に渡った人を事故にあわせる…というくだりなのだけど、「あ、これが伊坂幸太郎の『マリアビートル』の元ネタだったんだ?!」と気付いて面白かった。

引用部はまえがき。
私は「阿呆」ときくと、つい反射的に森見登美彦氏を想起してしまう。
しかし、まあ、「阿呆」という言葉って、よいよね。
芥川龍之介『或阿呆の一生』しかり。
自虐的でありながら愛がある。
自意識過剰の自己愛。
それすら自嘲するような。
対人に使う場合でも、「あんたアホやなあ」には、愛がある。
相手を包み込んで許容するあたたかみがある。


透明で繊細な内側。
だからそれを守るために、より何重にも、そしてより高く硝子を張り巡らせることになる。
囲まれて、ようやく息をつく。
どうか、誰も、何も、これ以上、触れないで。
玻璃の内側にあるやわらかい私を壊さないで。

そのことに驚愕する。
きっとあれもまた砕けやすい硝子のだと、私には信じることが出来ない。

「阿呆」という言葉は、硝子を氷にするくらいの効果がある。
玻璃の宮殿より、阿呆の城に立てこもるほうが、よっぽどマシだ。
触れた場所から熱を得て、それは溶ける。かたちを変える。
怖くてそこから完全に出ることは出来なくても。

私も阿呆の膜を被って生きていきたいなあ。
アホやなあ私、と自分を許して、アホやなあんた、と人を許して。
或阿呆の一生。

ある種の特性がある人は、言語によるコミュニケーションが不得意で、「喋りすぎる」という特徴がある。
私もまさにそれで、喋りすぎて失言してしまう…。
最近その自分を観察していて、私の失言は「ツッコミ待ち」状態のボケなのだと気付いた。
誰も突っ込んでくれへんから滑ったみたいになって失言になってるだけで。
そして思い返してみると、高校生くらいにも同じことを親しくないクラスメイトから「ノマちゃんいっつもおもろいこと言うてるのに、スルーされてること多いよな」と言われたことがあった(「だからほんまは仲良くなりたいと思っててん」)。

文章ではセルフツッコミをできるから、私は自由に阿呆になれる。
日常生活での阿呆度は、その場に適切な発言を心がけよう…。
ツッコミ不在のボケほど辛いものはないのだから!


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最終更新日  2023.07.27 08:27:02
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