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2023.07.28
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テーマ: 読書(8290)
書名


書誌学入門ノベル! 書医あづさの手控〈クロニクル〉 [ 白戸 満喜子 ]

引用

「ライブ?」
「そう、古書は生演奏。楽曲を作った人自身が演奏するのを生で聴くのはもちろん最高だと思う。でも、その曲を好きな人がその人なりのアレンジで楽しみながら演奏しているのも聴いていてワクワクするでしょ。同じように、たとえ写しであっても、人が書いた文字が伝える魅力って、音楽と同じだと思うんだ」
「そう……、かな?」
「文字情報っていうけど、その本をどういう紙で作ろうとしたか、っていうのも情報なの。(略)音楽は一度に何人もの人が感動できるし、素晴らしい演奏にはアンコールっていう反応があるよね。書物は音楽のように同時に多くの人を感動させることはないけれど、例えば古書に手擦れがあったら、何人もの人が楽しんだ痕跡、アンコールなんだって思う。読んだ人の感動が古書自体に残るのが古書らしさなの」


感想

2023年164冊目
★★★

「書誌学入門ノベル」という言葉と、「書医」という見慣れない単語、そして初出が「日本古書通信」に掲載(2010年〜2012年)されていたというのを見て読んでみた本。
本が好きな人って、本という紙媒体も好きじゃね?(偏見)

YA(ヤングアダルト)小説かと思って手に取ったけど、どっちかというと大人向けだった。
しかしなんというか、画期的かつ斬新な試みではあるのだけど、内容(書誌学)と物語(中学生向け?)のバランスがいまいち。
小説として読むには流れが悪いというか、設定も「?」と思うところあり。
連載という発表形態もあるからか、途切れ途切れなのも気になった。
作者は、

白戸満喜子(シロトマキコ)
博士(文学)。青森県立弘前高等学校卒業。慶應義塾大学文学部国文学専攻卒業後、法政大学大学院にて日本文学(近世)を専攻。指導教授は松田修。原典・現物にこだわる研究姿勢を継承している。慶應義塾大学の無料公開オンライン講座FutureLearn「The Art of Washi Paper in Japanese Rare Books(古書から読み解く日本の文化、和本を彩る紙の世界)」で講師を勤める




本を修理する専門の「書医」(この小説の造語)の家に生まれたあづさ。
若くして世を去った兄・葵の後、家業を継ぐことを志し、目下修行中の身。
あづさと双子の妹であるさくらは、紙の素材が「色」で見える特技を持つ。
あづさとさくらは、さまざまな古書と、本に携わる人々に出会い、学んでいくーーー。

自分が専門家だとして、その普及のためにいっちょ小説にしてみっか!とあふれる愛を注ぎ込むというのは、なかなかできることじゃない。
専門家でないと書けないだろうなっていう知識。
内容(書誌学)は「ほおお」「へええ」と思うことばかり。
和本・漢籍・朝鮮本という分類があることすら知らなかった。

籠字(かごじ)は、一文字ずつ輪郭をたどって写し取られた白抜きの文字。
双鉤填墨(そうこうてんぼく)は、その中を墨で塗りつぶしたもの。
コピーがなかった時代、原本をそのまま写そうとすると、そうするしかなかったんだなあ。

(ここらへん、『本好きの下剋上』の活版印刷を始める前を思い出す)

私は大学で日本文学の授業を履修し、そのときに一通り和本についても教わった。
その時面白いなあと思ったのは、昔はすべて手で写していたから、もちろん写し間違いがあったり、展開がちょっと変えられたりしているということ。
それをまた人が写すから、どんどん元の本から離れていく。
それを辿っていく文学研究(あるいは言語研究)があるのだと知って、教科書で教わる古典=ひとつ、と思っていた現代人の私はびっくりした。


双鉤填墨は、薄葉(うすよう)の斐紙をトレーシングペーパーのように敷いて写す。
だから、写し間違いがなく、また筆致もそのままに写し取ることができる。

朱墨套印本(しゅぼくとういんぼん)というのも、そういう本があるんですねえ。
これは、中国各地の官僚から皇帝への上奏文を墨で書いてあり、皇帝の意見が朱墨で印刷されているものなのだって。
習字の先生が朱で直すような感じか。

アルノ川の洪水とヨーロッパの書物修復については、
忘れじのK 半吸血鬼は闇を食む [ 辻村七子 ]
忘れじのK はじまりの生誕節 [ 辻村七子 ]
でも確か出てきたな。

B4やA4の紙のサイズは、私世界共通なのかと思っていた。
この本の巻末にある「浅利先生の書誌学講座」(全10講)は興味深いことばかり。
え、美濃紙の大きさ(B)と半紙(A)に由来するの???
しかもこの「版本の大きさと名称」の出典が『牧野富太郎 叢書の世界』なんだけど?富太郎ここでも何してんの?笑

電車好きが、電車に乗ることを、電車の走る音を、電車の駅の音を、車両を、時刻表を、愛するように。
本を愛するものは、本の内容と同時に、作者を、そして本という形態を愛する。
電子書籍が広まっていったら、紙の本はどうなっていくのだろう。

引用部で、著者は言っていた。
読んだ人の思いが、古書には残っている。

紙の本が今よりももっと貴重だった時代。
一冊一冊を大切に大切に読み継ぎ、人から人へ渡していった時代には、もっともっと「思い」が濃厚に積み重なっていただろう。
活版印刷の後、そういうものは、薄れていった。

古本屋で手に取った本に、はがきやレシートが挟まれていることがある。
それが誰かの○周忌のお知らせだったことがある。
あるいは大学生のテストの答案だったこともある。
書き込みがあることもある。折り癖も。
私はその人が読んだことに思いをはせる。

電子はそれに代わりうるか?


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最終更新日  2023.07.28 08:22:51
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