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2023.09.26
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テーマ: 読書(8559)
書名


黄色い家 (単行本) [ 川上未映子 ]

感想

2023/03/17のNHKラジオ「高橋源一郎の飛ぶ教室」で紹介されていた本。
さらに御本人も登場されていた( 放送の文字起こしはこちらで読めます )。

コロナが流行り、勤めている惣菜やも閉まることになった。
そんなとき、花はネットニュースの片隅にある名前を見つける。
吉川黄美子。
2019年、二十代女性を一年三ヶ月にわたり閉じ込め暴行し、逮捕された。
花の脳裏に、二十年前の出来事が蘇る。

家を飛び出し、黄美子さんに拾われて始めたスナック「れもん」。
キャバクラで働いていた加藤蘭。両親と不仲で家を出た玉森桃子。
行き場のないみんなが集まって暮らし始めた「黄色い家」。
金払いの良い客を同伴して店に来てくれる、黄美子さんの友達・琴美さん。
どこからか携帯を調達してきてくれた、黄美子さんの友達の映水さん。
お金さえあれば。
1999年、カード詐欺を働き大金を稼いでいた三人の少女たちは、やがてーーー。

同世代の女の子たち、そして年上の女性とのシスター・フッドもの。
夏物語 [ 川上未映子 ]
に続き、読んでいてズドーンと重たくなるような話。

今回は主人公の花がいい子で、「だめ!そっち行っちゃだめだったら!」と言いたくなる。


生育環境から「資本」を得られない子どもは、どうすればよいのか。
ということを、思う。
お金。教育。経験。知識。
普通に育つと得られる多くのものを、得られないままに育つ。
そしてまた、それを与えられない。


たとえば「お金がなくて進学できない」に対して「奨学金がある」「減免措置がある」というのは、そういう制度があるということを知っていて、なおかつそこにアクセスする手段を知っていて、申込みや審査という事務手続きをこなせ、何よりそこにむけて「頑張る」ということが出来るということだ。
だから、制度があるのに使わないことを「努力が足りない」と、「自己責任だ」と言い捨てるのは、あまりにも横暴だ。

「金は権力で、貧乏は暴力だよ」ヴィヴさんは言った。


責任感が強い花は、母を、みんなを、黄美子さんを、ひとりで背負おうとする。
身体一つしかない、ちゃんとした身分証もない私が、生きていくのは、どんなに難しいか。どれほど途方もなく絶望的に思えるか。


「それは」黄美子さんがわたしの顔を見て言った。「誰に訊かれるの?(略)誰もそんなこと、訊かなくない?」
「訊かないかもしんないけど」
「じゃあ、いいじゃんか」
「え、いいの?」
「だってそんなこと、誰も訊かないよ」
「……自分が自分に、訊いてるのかもしんないけど」
「じゃあ、自分で自分に訊くの、やめればいいじゃんか」


黄美子さんは、あるところで自分に訊くのをやめたんだろう。
それは花にとって救いでもあったけれど、同時に花は自分に問うことを止められなかった。
お金だ。お金があれば、なんとかなるんだ。お金があれば。
だんだんと狂っていく花に、「ああ」と声を漏らす。

金がなくなるのではと疑心暗鬼になり、友人たちを監視下に置き始める花。
そして事件が起きる。
私はこれ以後のシーンは、花の「こうであってほしかった」という思い込みなのだと思っていた。
冒頭のシーンで、加藤蘭と花が話をしているときに、「桃子は無理」と言っていたから。
桃子はもう、この世にいないのだろうと。

家を出るとき、蘭と桃子がそれでも花を連れ出してあげようとすることに驚いた。
彼女たちの側から見た物語と、彼女たちが信じることにした物語。
花は20年後に、そうではなかった物語を思い出す。
見たかったもの、見なかったことにしたもの、でも確かに見えていたもの。
与えられない中で、与えられたもの。

ラストシーンはちょっと、出来過ぎという感じもしたけれど。


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最終更新日  2023.09.26 08:21:51
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