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2023.09.28
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テーマ: 読書(8220)

書名



塞王の楯 [ 今村 翔吾 ]

感想


第166回直木賞受賞作。
いやあ、これ面白かった〜!!
552頁と分厚いのだけど、後半もう一気に読んじゃった。

タイトルから、私はてっきり「中国の三国志的な時代のバトルもの?」と思っていたんです。
「人生万事塞翁が馬」と「矛盾」から来たイメージ…。違ったわ。

舞台は、戦国時代。
幼い頃、織田軍により落城した一乗谷。

源斎は、近江国を拠点に石垣造りで名を馳せた穴太(あのう)衆・飛田屋の頭。
そのなかでも「塞王」と呼ばれる稀代の石積みの名手だった。
群雄が割拠した百数十年に渡る乱世は、豊臣秀吉の天下統一により終りを迎えた。
石の声が聞こえると言い、次代の頭として石を積む匡介は、大津城の改修を請け負う。
そして太閤・秀吉が逝去し、最後の戦が始まるーーー。

つまりこれはね、戦国時代の話なんだけど、将軍とかその側近武将とかの「戦う人」が主人公になりがちな中、「石垣を積む石工」に焦点を当てた戦術もので、技術競争で、お仕事小説でもある。
そして複数の重層的な物語。

匡介と源斎の師弟関係。技術の継承と、新たな世代の新しい発想。
匡介と飛田屋の跡取りの座を競い合った玲次との、同じ業種内での職種違い(匡介は石を積む「積方」、玲次は石を運ぶ「荷方」)のライバル関係。
匡介たち石垣を作る「楯」と、戦で新たな武器となった鉄砲を作る「矛」国友衆との、切磋琢磨し技術革新が技術革新を呼びしのぎを削る、相反するが協働しているような関係。
大津城の城主であり「蛍大名」として世に侮られる高次とその配下たちの「上下下達」ではない組織体制。

匡介と同じような境遇である侍女・夏帆との恋路。

とにかく色んな軸から読めて、それが無理なく入っているからすんなり読めて、どの人も(敵方でさえ)好きになってしまう。
そして、敵って何なのかなと思う。
「矛盾」がこの作品の大きなテーマであって、石垣は楯、鉄砲は矛として戦をする。
けれどその両方が、己の仕事こそが天下泰平の世を作ると信じている。

誰もが打てる鉄砲があれば、戦はなくなるだろう。
自らが信じるもののために。

今、現に戦争をしている世界で。
あるいはミサイルが飛んでくる世界で。
最新技術の兵器が作られ、それを迎撃する兵器が作られ、お互いを牽制し合うために核を持ち合う。
何してるんやろうな。

ビルに、橋に、大砲が打ち込まれて破壊される。
その光景を、もはや無感動にニュースで眺めながら。
このビルや橋を作る時にかけた莫大なお金と時間と労力を思う。
計画して作って使っていた人たちのことを思う。
壊すのは一瞬だ。
作り直すにはまた、途方もないお金と時間と労力がかかる。
あほみたいやな。
それこそ、賽の河原積みや。

小説のラスト。
最新の大筒が、天守閣を狙う。
匡介たちは崩されるたび、次の砲撃までの間を数えながら、石垣を積み直す。
もうここのシーン、胸が熱くなった。
早く終われ、早く終われ、なんとか持ちこたえて。
鉄砲と石垣。
その先にある太平の世。
矛盾の終着点はーーー。


だが、それを是とすれば人は人でなくなる。ならば矛と楯は何のために存在するのか。人の愚かさを示し、同じ過ちを起こさせぬためではないか。


過ちを繰り返して、何度も何度も繰り返して、いつか、楯と矛が人に向かわぬ日が来るんだろうか。

第2次世界大戦中、対独のため戦争に従事したロシア女性たちの聞き書き「 戦争は女の顔をしていない [ スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ ] 」で、ある女性が言っていた。
この壊された橋は、私のお父さんが作ったのーーー。

ニュースで破壊された橋を見て思う。
その橋は、今はもう、少しも残っていないのかな。
新しく掛け直した橋は、形而上学的に言えば、今壊されている橋なのかもしれない。
そしてまた、誰かが言っているのかも。
この壊された橋は、私のお父さんが作ったの。
そうやって何度も繰り返すのか。
賽の河原を積むように。

皆、この先の世にもはや武器は必要ではなくなるだろうと信じて戦ったのだ。
わたしたちの後に生きる人は、なんて幸福なのだろうと。

けれど、最後の石は、まだ積めない。


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最終更新日  2023.09.28 00:00:11
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