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2023.10.13
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テーマ: 読書(8559)

書名



荒地の家族 [ 佐藤 厚志 ]

感想


第168回芥川賞受賞。
東日本大震災をテーマにした作品だというから、喪失と復興の物語なのだろうと思って読んだら違った。
そうなんだけど、そうではない。
喪失だけがある。
それも、なくしたもののかたちをした「穴」だけがあって、それをずっと覗き込んでいるような。

人生を一変させる大災害。
うしなわれた、たくさんの。

生きている限り、息をしている限り。

病を得、離婚をし、子どもは思春期を迎え、親は老いる。
そうして続いていく。
ぷつりと切れて繋がれた、日常の延長。

「あの災厄から」10年。
植木職人の一人親方をしている坂井祐治。
災厄の二年後に妻は病気で死に、再婚相手の妻は家を出ていった。
仕事を選ばず、ただ痛みを埋めるように働いた。
その結果、小学生の息子は最近ろくに口も聞かなくなった。
老いた母と息子、そして自分。
近所に住む幼馴染。

どこにも行けないまま、どこにも行かないまま。
「その後」をただ、生きているーーー。

高い堤防の上に立って、水平線の上に重く低く垂れ込める白い空。
海風を感じながら、閉塞感に身を悶えさせる。
終始そんな雰囲気のお話。

最後まで行ったらキュルキュル巻き戻って、また最初から。
リピート、リピート、リピート。
音が伸びる。繋ぎ目で音が飛ぶ。
同じところにある継ぎ目。
「あの日」。

仙台在住の書店員作家さんが書かれたとのこと。
これはそこにいて、ずっと見ている人じゃないと書けないんだろうなと思う。
(そう言うこと自体が物語に対する冒涜でもあるのだけど)
この人はフラットな目で見ていたんだろうな。
壊れて、なくなって、残されたものたちを。
穴を。

私もそこに立って、見たような気がする。


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最終更新日  2023.10.13 00:00:15
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