2-72 旅立ち前



智紀は突然演劇を志すことを決めた有芯に東京にいた頃の知り合いを紹介し、いろいろと支援をしてくれた。

それでも、やはり何も聞かれずにというわけにはいかなかった。

「お前、何かあったろ」

怪訝そうに聞いてくる智紀の予想通りの反応に、有芯は笑った。

「ん? 何もねぇ」

「何もねぇだって?! お前ここ何日かずっと変だぞ。すっかり小さくなっちまったお袋さん置いて一人で上京するなんて、いったいどういう心境の変化なんだ?! この嘘つきが!」

「………ま、嘘かもな」

遠くを見つめるような目でそう言った有芯を見て、智紀は大げさに驚いた顔をするとからかうような口調で言った。

「珍しいな、認めるなんて。さてはちょっと弱気になってるな?!」

「バカヤロウ。そうじゃねぇよ」

有芯はニヤリと笑い、胸ポケットからセブンスターを一本取り出した。火をつけようとして、彼は思い直しセブンスターを箱ごとゴミ箱に放った。

「健康第一! 智紀ィ、マルボロくれ」

「ふざけんな!!」

言いながらも、智紀は笑いながら有芯にマルボロを一本投げた。

有芯はそれに火をつけながら、ふと思い出したことを智紀に聞いた。

「お前さぁ………何で、俺が紺、好きだってエミに言ったりしたんだ? あいつ、もろ真に受けてたんだぜ?」

智紀はチラリと有芯を見てから、自分の煙草を取り出した。「本当のことじゃないのか?」

「別に紺が好きなわけじゃねぇよ。俺が好きなのは……ん、まぁ、何て言うか」

「……朝子先輩、か?」

智紀の口から出るわけがないと思っていた名前が出てきて、有芯の心の安定が一瞬乱れた。だが彼は何とか平静を装った。

「……はぁ?!」

「冗談だよ。何ヘンな声出してんだ?!」そう言うと智紀は煙草に火をつけた。

「……………けっ」何だ、冗談かよ……。

一服すると、智紀は有芯をじっと見つめた。

「なぁ、有芯」

「ん? ………何マジメな顔して見てんだ? 俺男に見つめられて嬉しいクチじゃねぇんだけど」

智紀はきしゃっと笑った。「いやぁ、何でも。お前って面白い奴だよな」

そう言い、なぜか周りに散らかっていた紙で紙飛行機を折り始めた智紀を見て、有芯は思った。お前の方がよっぽど変わってると思うが。

有芯は煙を吐きかけながら言った。「どこが面白いって?」

「俺のこと親友だって言ってくれてるだろ」

「ああ、そう思ってるんだもんよ」

智紀は完成した紙飛行機の先端を整え、満足そうに頷くと言った。「なのに全てを明かすわけじゃない」

「お前が明かしすぎなんだろうが。……それが悪いかよ」

「いいや悪くない。それでも、俺にはすぐにばれてしまう~」そう言うと、智紀は折りあがった飛行機を飛ばした。それは綺麗なカーブを描いて、棚の上に着地した。見ると、棚の上には他にも多数の飛行機が積もっている。

有芯は無表情で言った。「何が言いたいんだ?」

「別に。お前って案外、分かりやすいんだよな」

「気色悪いなぁ~」

後ろ頭をくしゃくしゃにする有芯に、智紀は言った。「なぁ、行くのは明日だっけ?」

「何言ってんだ、今まで何の話を聞いてたんだよ。明々後日だ、明々後日!!」

「あれ、そうか?」

「………向こうへの連絡はちゃんとしてあるんだろうなぁ?!」

「………どうだったかな?」

「………もういい! 俺が自分で連絡する!! ………いーや、面倒くせぇ。やっぱ明日にするかー」

智紀は間の抜けた欠伸を一つすると、床にあぐらをかき言った。

「いい加減だなぁ」

「どっちがだよ!!」

親友と笑い合いながら、このバカとももうしばらくは会えなくなるんだな・・・と思い、有芯は胸深く煙草の煙を吸い込んだ。




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