once 63 俺だけを愛して



ベッドに横たわり、有芯に優しく頬を撫でられながら、朝子は水滴の滴る彼の髪を指で上げた。

「待って、私たち・・・体、拭いてないし・・・有芯、泡・・・髪に」

「ん・・・?」有芯は自分の髪についている泡を払うと、朝子の唇にキスをした。

「気にしない」

言うと、有芯は朝子の顔を見つめたまま、彼女の中を指でそっとかき回した。声を上げる朝子の胸に、ゆっくりともう一方の手を重ね愛撫する。

朝子は止まらない有芯の指に息が上がり、戸惑いながら言った。「風邪、引いちゃう・・・」

有芯は動きを止めずに微笑んだ。「じゃあ風邪引かないように、熱くなろう、一緒に」

二人は見詰め合うと、ベッドサイドの柔らかな灯りの中で、濡れた身体を重ねた。有芯が自分の中にゆっくりと深くまで入って、朝子は幸せに目がくらみそうだった。

「ねぇ・・・これ・・・何回目、かな・・・?」

朝子が言うと、髪や体から水を滴らせて、有芯が言った。

「4・・・5回目くらい?」

「そんなに、少なかった・・・?」

「朝子は十回以上いったよなぁ?」

有芯はからかうつもりで言ったのに、朝子が照れ笑いをして、素直に「うん・・・」と言うものだから、彼女への愛しさと欲望が高まりどうしようもなくて、我を忘れ彼女の身体を突いた。有芯はまた「落ち着いて」と言われるかと思ったが、朝子は身体を仰け反らせ、彼の激しい動きを受け入れている。

「有芯・・・有、芯・・・」

もがく朝子の声以外何も聞こえなくなり、有芯を不意に、忘れようとしていた悲しみが襲った。

朝子を抱いている間だけは、忘れられると思ったのに。有芯は左右に頭を振った。汗と水の粒が飛び散り、同時に悲しみも薄らいだ。朝子の暖かい肉体が、自分の疲れた精神を優しく癒してくれることを願い、有芯はさらに彼女の奥深くを求め、彼女の細い腕に指を食い込ませながら彼女を愛した。

「俺だけを愛して・・・朝子・・・」

有芯のふとした呟きに、朝子は悲しく微笑んだ。

「愛してる・・・あなただけを」

有芯は嘘つきな唇を封印するかのようにキスをすると、身体を起こした。




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