彼女が指定したのは16号線沿いのコンビニで、指定の時間は
午前0時。 相模大野を過ぎた辺りにあるそのコンビニにはイートイン
のスペースがあるという。 16号線と聞いて、尚之の心の中に
浮かんだ行き先はそこからそう遠くはなかった。
尚之がその店に着いたのは指定の期間よりも少しだけ早かった。
店の中にはコンビニの店員が二人。 客は尚之がひとり。 しかし、
大通りに面しているこの店は、自分がバイトをしている雰囲気とは
全く違う。 町田の小さな駅の側にある尚之の働くコンビニのほうが
夜中の様子はもっと寂しい。 終電の終わったあとは、まるで祭りが
終わったあとの神社のようで、静まり返った住宅地へ続く車道にも
車は少なく、人の消えた廃墟のようにも感じられた。 尚之は雑誌を
手にとり、パラパラとページをめくる。 ガラスの向こうを通る大型
トラックが時折地面を揺らした。
ショートカットのその人は、ガラスの向こうで尚之をまっすぐに
見つめて歩いてきた。白いダウンジャケットにジーンズ。 首には
鮮やかなターコイズブルーのマフラーを巻いている。 両手を
ポケットに入れたまま。 彼女はガラスの向こうで尚之の前に立ち、
少しだけ笑った。 そして、店に入ってくると店内をゆっくりと見回して
から尚之に近づいてきた。 彼女をまっすぐに見つめて尚之は言った。
「お買い上げありがとうございます。」 そして、彼女は小さく噴出して
笑った。 口元を押さえる手が妙に白くて小さかった。
スクーターの横に立つ彼女が、斜めにかけたバッグの中から取り
出した黒皮の手袋をはめている。
「僕はあなたのことをなんて呼べばいいんでしょうか。」
「そうね・・・。 マコって呼んでもらおうかな。」
「まさか、魔女の子どもと書いてマコ?」
「そう・・・かもね。」
「ナオ・・・くん、だっけ。 そう呼んでいい?」
「はい。 いいです。」
「で、ナオくん、私をどこへ連れて行ってくれるの?」
「さあ、どこでしょう。 そう遠くはないですよ。 とにかく静かで、星の
きれいに見える場所ですよ。 楽しみにしていてください。」
「了解。」
「スクーター、乗ったことありますか?」
「ふつうのバイクなら・・・かなり若いときにね。」
「バイクよりは乗り心地いいと思いますよ。 ここか、この辺につかまって
適当にくつろいで乗っていたください。」
尚之はスクーターのグリップと自分のムートンのジャケットの腰の辺りを
指差して言った。
「くつろぐ・・・ね。 うん、やってみる。」
そう言って、尚之が手渡したヘルメットをかぶりながら、マコは肩を
すくめて見せた。
16号線を橋本方面へ。 しばらくはコンビニやファミレスが立ち並ぶ
にぎやかな通りが続いた。 とっくに12時をまわっているというのに、
車の通りは少なくない。 しかし、413号線に向かって左折すると
通りに車は減り、静かな住宅地にスクーターの音だけが響いた。
頬を切る風が冷たい。 最初は緊張して、力を込めて尚之のジャケットを
つかんでいたマコの手だったが、次第にリラックスした様子が背中に
感じられた。 カーブでも力が抜けている。 尚之も初めて乗せるマコ
の存在を自然に受け入れた。
左手には貯水場が見えてきた。 目的地はここからはそう遠くない。
ゆるいカーブを何度か曲がって城山ダムの鉄橋を渡った。 眼下に
広がる津久井湖は60年代に城山ダムの完成によってできた人口湖だ。
冬の湖はたっぷりの水をたたえ、鏡のような水面が広がっていた。
そして、城山公園は津久井湖の周囲を巡る公園。 駐車場は夜に
なるとしまってしまうが、管理人のいなくなったその場所に、一台の
スクーターを止めることなど容易なことだ。 尚之は、入り口に立てて
ある黒と黄色のコーンを避けて、右に広がるパーキングスペースに
ソウルフル・キス step 12 June 23, 2009 コメント(2)
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