ユーカリの木陰で里の行

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2008.08.07
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カテゴリ: カテゴリ未分類
三年前の今日、ダディンのお父さんが亡くなった。

心臓発作だった。
突然死。

義父は何年も前に心臓バイパスの手術を受け、
心臓に二本バイパスを入れていたのだけれども、
その後は発作を起こすこともなく安定していた。
だから誰も予期していなかった。

だけど、私は、彼は、どこかで自分の死を知っていたんじゃないかと思う。

亡くなった一週間前が、義父の誕生日だった。

家族の何かの記念日には全員が集まるということを何より重要に思っていた。

当時私はダディンの家族に感情的確執を持っていて、
ことあるごとに召集がかかるファミリーイベントを
可能な限り避けようとしていた。
実際、その年は義母のバースデーパーティーまで初めてボイコットしたのだった。

義父は無口な人で、超電話嫌いで、
電話がかかってきても無視を決め込んで出ないほどだったから、
自分から誰かに電話をかけるなんて、ほぼあり得ないことだった。
なのに、その義父がバースデーパーティーの数日前、私に電話をかけてきたのだ。
日曜の、自分のバースデーパーティーは、自分にとってとても重要なので、
どうしても私とメェにも来て欲しい、と。


彼の子どもたち四人と、その家族が全員、義父母の家に集まった。
そうしてその一週間後に、義父は亡くなったのだった。

義父が亡くなった夜のことは今でもはっきりと覚えている。

私は三歳の娘を寝かしつけようとしていた。
いつものように娘の隣に添い寝をして、絵本を読み聞かせていた。


と、突然、彼女がマントラを唱え始めたのだった。

OM MANI PADME HUM 、と。

何度か近所のチベット仏教センターに瞑想をしに行ったとき
娘も連れて行ったことがあるから、
そのマントラは聞いたことがあるはずだけども、
メェがマントラを唱えるなんてことは、それまでなかったことだ。
訝りつつなんとなく時計を見たら、8時半近くだった。

それから間もなく玄関のドアベルが鳴り、誰か女性の声がした。
バタバタと物音がして、ドアが閉まるのを聞いた。

やっと娘を寝かしつけ、寝室から出たら、ダティンの姿がなかった。
車もなくなっていた。

留守ロクには女性の悲鳴が、
Oh my God! Oh my God! Darling, Darling!
そうしてプツンと切れた。

ただ事でないのはわかったけれども、
だけど悲鳴では、電話の主が誰なのかはわからなかった。

混乱しつつも、娘は寝ているし、車はダディンが乗っていってしまったし、
とりあえず、私は自分の一番落ち着く場所、書斎に向かった。
パソコンを立ち上げ、小説にかかった。
こういうときは自分の現実ではなく、
自分のキャラクターたちが創り上げる世界に逃げ込んでしまうに限る。

ふと、背後のドアに誰かが立った気配がした。
ドアが軋んだ。
振り返るとき、書棚に飾った家族の写真に目が行った。
ダディンとメェと、わたし。

ふいに人生は儚い、
今、家族と呼んでいる人たちと過ごせる時間も限りあり、
今大切にしなければ、あっという間に終わってしまうって、
強烈な感覚に襲われた。

そのとき、義父が亡くなったのだと悟ったのだった。
義父がそこにいるような気がしていたから。
その、部屋に誰かがいる、見られているという感覚は暫く続いていた。

真夜中近くダディンが戻って来て、義父の死を知らされた。
義父は、夕食を電子レンジに入れ、バスルームに行き、
そのまま戻ってこなかったという。
義父母は二人でTVを見ていたのだか、
三十分近く経っても戻ってこないことに気づき不審に思った義母が、
バスルームで倒れている彼を見つけたのだった。
医療関係者たちの話では、強烈な心臓発作で、即死だったそうだ。
苦しまずに逝った、というのが、
残された者たちのせめてもの救いとなった。

私たちは娘を起こし、義父母の家に向かった。
着いたときには、遠方に住む義妹の家族以外、全員が集まっていた。

義父はベッドに横たわり、安らかに、ほんとうに
眠っているみたいだった。
彼のスピリットの存在をはっきりと感じた。
私は彼に謝り、想いを伝え、
そして彼の最後の誕生日にああして電話をかけてくれたことに
心から感謝を捧げた。
あの日、行かなければ、きっと私は生涯、後悔したことだろう。

それから葬式とお別れのパーティーが終わるまで、
私は彼の存在をはっきりと感じていた。
もちろん、そう感じていたのは私だけではなかった。

あれから三年の月日が流れ、
私たちは、義父を偲んで義母が裏庭に建てた
天使の石像の蝋燭に、義父を想って、火を灯した。

その夜ディナーを終えても、暗い庭の隅、ユーカリの木の下で、
蝋燭の炎は燃えつづけていた。

アコマク








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Last updated  2008.08.09 10:39:42
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